コピー使いの異世界探検記
第243話 悲涙に塗れた帰還
それから一日、一行は大嵐と悲しみの中、深い眠りについて大海原を航海した。24時間と言う長くも短い時間の中で、数々の感情が入り混じった。
Zへの怒り、憎しみ。ハルトマンを失った悲しみ。そして、カプリブルグが完全消滅したと言う、喪失感。もう、その日だけで気が狂いそうになり、食事も喉を通らなかった。更に、いつも調理に張り切っているリュウヤも、食事を作ろうとはしなかった。
そして、夜が明けた後、一行はハルトマンの亡骸と、眠るキャシーを連れて、メルサバへと帰還した。
「リオ、ただいまなのじゃ」
「め、メアちゃん?なんか元気そうにないけど、どうしたの?」
「本当に申し訳ない。実は……」
元気をなくした一行の代わりに、吾郎がことの経緯を全て話した。ハルトマンの死、アナザーによってカプリブルグが滅ぼされたこと、そしてZの脅威。
それを聞かされたリオは、キャシーの頬を撫で、唇を噛み締めた。しかしそれだけでなく、側近として付いていたフラッシュも、ハルトマンの死を知り、痛く悲しんでいた。
なんでも、兵士としての繋がりで、付き合いの長い友人だったらしい。それを知ったワンダ国王は、早急に彼の葬儀を執り行うこととした。
彼の亡骸が棺の中に納められてから3時間後。一行は葬儀会場の待合室で、キャシーの容態を医者に診てもらっていた。
「これは、一度に大量の魔力を消費した事による疲労ですね。魔力疲労はどの疲労よりも一番強いですから、きっと明日には目覚めるでしょう」
「そう。それで、ハルトマンの方はどうだったの?」
微かに残る希望に賭け、リオは訊いた。何かしらは、生き返らせる方法がないかと、そう信じて。
しかし、現実は無情にも、微かな希望を否定した。医者は首を横に振った。
医者が言うに、オニキスの診断と同じで、回復薬や魔法が無効化してしまう毒が体に巡っているため、手の施しようがない。そう、口から発せられた。
「ハルトマンさん、俺のせいで……」
「そんな、タクマさんのせいじゃありませんよ。あの人の死は、誰のせいでも、ないんです」
現実を受け止めきれない。心では分かっていても、体がそれを拒絶しているように、信じることができなかった。どうして、あんなに優しかったハルトマンさんが死ななきゃならなかったのか、彼がどんな悪い事をしたのだと、無情に過ぎていく時と現実を憎んだ。
憎んだ所でどうにかなるものではない。そんな事は分かっている。しかし、やり場のないこの怒りを何処にぶつければいいのか、分からなかった。
それはノエルだけでなく、全員が同じ気持ちだった。皆、俺のせい、私のせいと言い、そして奇跡が起きるかもと言った希望を打ち砕いた現実、その全てを憎んだ。
しかしその時、リュウヤが突然立ち上がった。
「どっかーん!クヨクヨタイム終了だぞおめーら!どうせ見送るなら、俺っち達皆笑顔で送ってやろうぜ?」
「りゅ、リューくん?」
「どうしたナノナノ、そんな悲しい顔してたら幸せが逃げてくぜ?」
突然何かに取り憑かれたように、リュウヤは陽気に振る舞い始めた。いつも通りと言えばいつも通りだが、彼の目は笑ってはいなかった。
あんなに、一番悲しんでいたリュウヤが、まさかあの一件で壊れてしまったんじゃないか。そんな気がして、タクマは彼の額を触る。熱はない。
「どうしたってんだよリョーマの奴、おっさんの事悲しくねぇのか?」
「何か、怖いです。リュウヤさん」
「……はぁ」
2人がコソコソと話をしている間も、リュウヤはみんなを和ませようと、腹筋を始めた。それに見かねて、今度はオニキスが、ため息混じりに立ち上がった。
そして、鬱陶しい虫を叩くように、頭をバコンと叩いた。それにより、リュウヤは地面に倒れ伏す。
「ちょっとオニキス、ウチの亭主に何してるでありんすか!」
「少しは落ち着けクソ野郎、俺はお前みたいなのが大嫌いなんだ」
「……ありがとサン、寝違え治った!」
一瞬正気に戻ったかと思えば、リュウヤは首に手をやって、目の笑っていない笑顔を見せた。だが、暴走は止まり、そっと席へと戻った。
が、もう見ていられなかったのか、オニキスはそのまま出口の方へと向かう。
「お、おい女もどき!何処に行くつもりじゃ!」
「あのイカれポンチは、認めたくないがオレの仲間だった。だから、ケジメを着けに行く」
『それは君だけじゃない、私のケジメでもあるよ。オニキス君』
部屋から出ようとしたその時、背後から声が聞こえた。しかも、それはタクマ達の背中側で、誰もその正体が分からない位置に居る。しかし、タクマ達の背後には窓しかない。
まさか、窓から!?
そう思い振り返ると、窓をゲートに、αが立っていた。
──一方、その頃。
「はぁ、はぁ。イヒ、イヒヒヒヒヒヒヒ!ついに、遂に完成しまシタ!嗚呼、本当に、本当に長かった」
色とりどりの薬品の並ぶ近未来的な実験室。その片隅で、青い薬の入った試験管を見ながらZは笑う。
その机の上には、これまで手に入れてきた素材達が並んでいる。右から不死身の果実、白粉、αの青い血、そしてリュウヤの血。
それが全て詰まったのが、この薬なのだ。
「しかし、もう後戻りはできナイ……」
歯をギシギシと軋りながら、Zはαの血が入った小瓶を見つめた。人間の赤と、人ならざる者の青が混ざった、紫色の血。Zは、念願の薬だけでは満足できないでいたのだ。
私は生まれながらの天才。念願の薬を完成させたなど、まだまだ序の口に過ぎない。もっとだ、もっと、天才たる私の名を世に示さねば。
才能を認めず、脳もないくせして頭ごなしに否定し、私を悪魔と罵った低脳な猿共に、思い知らせる時が来た。貴様らが悪魔の化学と呼んだその研究が、今爆発するのだ。これで、奴等は私に頭を向け、平伏するのだ。
その為には、唯一私を認めてくれたあのお方を裏切る必要がある。しかしコレも、あのお方の野望を完遂させる為には仕方のない事。
無能が世界を支配する時代となるのも、最早時間の問題。それまでに、私が世界を掌握し、無能な猿共に終わりのない恐怖と、私を認めようとしなかった後悔を味合わせてやるのだ。
「待っていてくだサイ、これも私が望む世界を創る為なのデス。天才が全てを掌握すル、最高の世界ヲ」
Zへの怒り、憎しみ。ハルトマンを失った悲しみ。そして、カプリブルグが完全消滅したと言う、喪失感。もう、その日だけで気が狂いそうになり、食事も喉を通らなかった。更に、いつも調理に張り切っているリュウヤも、食事を作ろうとはしなかった。
そして、夜が明けた後、一行はハルトマンの亡骸と、眠るキャシーを連れて、メルサバへと帰還した。
「リオ、ただいまなのじゃ」
「め、メアちゃん?なんか元気そうにないけど、どうしたの?」
「本当に申し訳ない。実は……」
元気をなくした一行の代わりに、吾郎がことの経緯を全て話した。ハルトマンの死、アナザーによってカプリブルグが滅ぼされたこと、そしてZの脅威。
それを聞かされたリオは、キャシーの頬を撫で、唇を噛み締めた。しかしそれだけでなく、側近として付いていたフラッシュも、ハルトマンの死を知り、痛く悲しんでいた。
なんでも、兵士としての繋がりで、付き合いの長い友人だったらしい。それを知ったワンダ国王は、早急に彼の葬儀を執り行うこととした。
彼の亡骸が棺の中に納められてから3時間後。一行は葬儀会場の待合室で、キャシーの容態を医者に診てもらっていた。
「これは、一度に大量の魔力を消費した事による疲労ですね。魔力疲労はどの疲労よりも一番強いですから、きっと明日には目覚めるでしょう」
「そう。それで、ハルトマンの方はどうだったの?」
微かに残る希望に賭け、リオは訊いた。何かしらは、生き返らせる方法がないかと、そう信じて。
しかし、現実は無情にも、微かな希望を否定した。医者は首を横に振った。
医者が言うに、オニキスの診断と同じで、回復薬や魔法が無効化してしまう毒が体に巡っているため、手の施しようがない。そう、口から発せられた。
「ハルトマンさん、俺のせいで……」
「そんな、タクマさんのせいじゃありませんよ。あの人の死は、誰のせいでも、ないんです」
現実を受け止めきれない。心では分かっていても、体がそれを拒絶しているように、信じることができなかった。どうして、あんなに優しかったハルトマンさんが死ななきゃならなかったのか、彼がどんな悪い事をしたのだと、無情に過ぎていく時と現実を憎んだ。
憎んだ所でどうにかなるものではない。そんな事は分かっている。しかし、やり場のないこの怒りを何処にぶつければいいのか、分からなかった。
それはノエルだけでなく、全員が同じ気持ちだった。皆、俺のせい、私のせいと言い、そして奇跡が起きるかもと言った希望を打ち砕いた現実、その全てを憎んだ。
しかしその時、リュウヤが突然立ち上がった。
「どっかーん!クヨクヨタイム終了だぞおめーら!どうせ見送るなら、俺っち達皆笑顔で送ってやろうぜ?」
「りゅ、リューくん?」
「どうしたナノナノ、そんな悲しい顔してたら幸せが逃げてくぜ?」
突然何かに取り憑かれたように、リュウヤは陽気に振る舞い始めた。いつも通りと言えばいつも通りだが、彼の目は笑ってはいなかった。
あんなに、一番悲しんでいたリュウヤが、まさかあの一件で壊れてしまったんじゃないか。そんな気がして、タクマは彼の額を触る。熱はない。
「どうしたってんだよリョーマの奴、おっさんの事悲しくねぇのか?」
「何か、怖いです。リュウヤさん」
「……はぁ」
2人がコソコソと話をしている間も、リュウヤはみんなを和ませようと、腹筋を始めた。それに見かねて、今度はオニキスが、ため息混じりに立ち上がった。
そして、鬱陶しい虫を叩くように、頭をバコンと叩いた。それにより、リュウヤは地面に倒れ伏す。
「ちょっとオニキス、ウチの亭主に何してるでありんすか!」
「少しは落ち着けクソ野郎、俺はお前みたいなのが大嫌いなんだ」
「……ありがとサン、寝違え治った!」
一瞬正気に戻ったかと思えば、リュウヤは首に手をやって、目の笑っていない笑顔を見せた。だが、暴走は止まり、そっと席へと戻った。
が、もう見ていられなかったのか、オニキスはそのまま出口の方へと向かう。
「お、おい女もどき!何処に行くつもりじゃ!」
「あのイカれポンチは、認めたくないがオレの仲間だった。だから、ケジメを着けに行く」
『それは君だけじゃない、私のケジメでもあるよ。オニキス君』
部屋から出ようとしたその時、背後から声が聞こえた。しかも、それはタクマ達の背中側で、誰もその正体が分からない位置に居る。しかし、タクマ達の背後には窓しかない。
まさか、窓から!?
そう思い振り返ると、窓をゲートに、αが立っていた。
──一方、その頃。
「はぁ、はぁ。イヒ、イヒヒヒヒヒヒヒ!ついに、遂に完成しまシタ!嗚呼、本当に、本当に長かった」
色とりどりの薬品の並ぶ近未来的な実験室。その片隅で、青い薬の入った試験管を見ながらZは笑う。
その机の上には、これまで手に入れてきた素材達が並んでいる。右から不死身の果実、白粉、αの青い血、そしてリュウヤの血。
それが全て詰まったのが、この薬なのだ。
「しかし、もう後戻りはできナイ……」
歯をギシギシと軋りながら、Zはαの血が入った小瓶を見つめた。人間の赤と、人ならざる者の青が混ざった、紫色の血。Zは、念願の薬だけでは満足できないでいたのだ。
私は生まれながらの天才。念願の薬を完成させたなど、まだまだ序の口に過ぎない。もっとだ、もっと、天才たる私の名を世に示さねば。
才能を認めず、脳もないくせして頭ごなしに否定し、私を悪魔と罵った低脳な猿共に、思い知らせる時が来た。貴様らが悪魔の化学と呼んだその研究が、今爆発するのだ。これで、奴等は私に頭を向け、平伏するのだ。
その為には、唯一私を認めてくれたあのお方を裏切る必要がある。しかしコレも、あのお方の野望を完遂させる為には仕方のない事。
無能が世界を支配する時代となるのも、最早時間の問題。それまでに、私が世界を掌握し、無能な猿共に終わりのない恐怖と、私を認めようとしなかった後悔を味合わせてやるのだ。
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