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コピー使いの異世界探検記

鍵宮ファング

第238話 無駄を超えた先

『ぐぁぁ、なんて事だ。崩れる、俺様の顔が崩れる!』

 一気にヒビの入ったスロウドは、頭を押さえながらもがき苦しむ。その間にも、パキパキと頭の車輪のヒビのは大きく伝染していき、ドカンと爆発四散した。周囲には破片が飛び散り、顔の仮面だけが綺麗にコロンと落ちた。
 
「はぁ、はぁ。やった、んか?」
「イバラの巨人も機能が停止しているでござる。しかしこの死に様……」

 確かにスロウドは崩壊した。雷様の鼓を模した車輪も、今はイバラの巨人を祀るように周囲に散らばり、巨人の養分になろうとしている。
 だが、何かが引っかかる。敵は2人いるとはいえ、倒れたのであれば何かアクションの一つはある筈。吾郎はそう睨みながら、そっと戦場から撤退した。
 仮に生き残っていたとしても、今なら撤退は可能。そう考えた。しかしその時、突然仮面がガタガタと揺れ始め、巨人の胸部に当たる位置に張り付いた。

「っ!皆さん、避けて!」
 
 危機を感じたキャシーは、柱から飛び出して叫んだ。しかし、気付くのが遅かった。

『フハハハハ!この程度で俺様が死ぬと思ったか!詰めの甘い奴等め!』
「しまった!復活が早すぎる!ぐぁぁっ!」
「いやぁ!離して!離してっ!」

 なんと、巨人の体が新たな体となり、地面から新たに生えたイバラが吾郎達を締め付けた。
 更に、巨人の体は仮面の魔力を吸って大きくなり、大きな緑の繭へと変貌を遂げ、急速に開花した。仮面は綺麗に真っ二つに割れ、芳しいバラの香りと共に真っ赤なベールが剥がされる。
 その間にも、イバラはイカの触手のように次々と発達し、バラの庭は一瞬にしてイバラ巨人の住処となってしまった。

『これだ、これこそ俺様の“美”を保ちつつ、世界を蝕む最強の体!まさか花の中にあるとは思わなかったが、テメェらのお陰で良いものが手に入ったぜ』
「ぐっ、貴殿!その姿……」
「あ……あ……」

 なんと、完全に花の開いた巨大な薔薇の中心部には、赤半裸の美しい男の姿があった。きっとあの姿こそが、スロウド本来の姿なのだろう。
 しかし、能力はそのままに、イバラの巨人はドシドシと捉えた吾郎達に接近する。その恐怖に、キャシーは動けなくなってしまう。

「そんな、ウチらはもう……」
『守ろうと必死だったバラに殺される気分、さぞ屈辱だろうなぁ!ハッハッハッハッハ!』
「ぐぁぁ!ナノ殿、せめてナノ殿だけでも、逃げるでござる……!がぁっ!」

 逃げようにも、胴体に絡み付いたイバラの棘が体に刺さり、メシメシと骨が悲鳴をあげる。幸い、持っていた武器が第二の背骨として持ち堪えてくれているが、全ての力をイバラに移した彼なら、それも時間の問題。
 まさに、万事休すの状態だった。

(ダメ、このままじゃ皆が死んじゃう。私の事を信じて、助けてくれたのに。見殺しにするの?でも、足が動かない。怖くて、動けない)

 その間、キャシーは助けに出るかどうか、必死に悩んでいた。助けてくれた皆を見殺しにしたくない、でも怖くて足が動かない。攻撃をしたくても、魔法は分からない。それに、折角怪我をさせずに連れて行こうと必死だったのに、勝手に出て行って怪我してもいいのかと、激しく葛藤していた。
 だが、スロウドは勿論、彼女の結論が出るまで待とうとはしない。目の前にある獲物を殺しに、ドスドスと歩くだけ。

『無駄な足掻きをどうもありがとう』
「無駄……無駄……」

 無駄、スロウドがそう言い放った瞬間、キャシーの中に過去の映像が映し出された。
 ──その記憶は先月、ビナーと出会った頃の記憶だった。

『嫌だ?キャシー、お前は今そう言ったね?』
「でもお母様、こんなのって酷すぎます。第一、我々は奴隷がいなくても……」
『聞き分けのない子だね!私はこの国の王だ、私が一番偉いんだよ!』

 サージは娘の口答えに激昂し、キャシーの前にワイングラスを投げつけた。その様子に、隣の執事はいつもの癇癪起こしが始まったと、ひっそりため息を吐く。
 しかも、反対していたキャシーも、彼女の怒声とグラスの割れる音に恐怖心を覚え、動けなくなってしまった。

『フン、良いこと?そんな“無駄”口叩いてる暇があったら、さっさと私達に手を貸しな。お前は私のモノなんだから』

 ──そうだ。私は昔から、この言葉に縛られていた。今まで、やる事なす事全てを“無駄”と一蹴されて、何もできなかった。初めてできた友達も、そうして出禁を言い渡された。
 でも今は、違う!私は、私なんだ!

「たぁぁぁぁぁぁ!!」
『あん?これは姫様、自分から巻かれにくるとは、手間が省けたぜ』
「無駄かどうかは、私が決める!私の道は、私がこの足で決める!自由になれるなら、私は!」

 勇気を振り絞り、キャシーはスロウドのイバラにしがみついた。しかし、不思議なことに、キャシーを巻き取ろうとしても、イバラは動かなかった。それどころか、太っていくように、全てのイバラが太く、そして短いモノへと成長した。それにより、4人に巻き付いていたイバラは解け、地面に開放される。

「きゃんっ。な、なんやこれ!」
「キャシー殿の、力でござるか?」
『貴様、何をしている!くそっ、離れろ、離れやがれ!』
「離れない!私のバラが悪さをするなら、こんなものもういらない!枯れてしまえ!《テラ・ヒール》!」

 なんと、キャシーは覚醒した回復魔法 《テラ・ヒール》をスロウドの中に直接撃ち込んだ。普通ならただ対象を回復させるだけの魔法だが、この場合は違った。
 撃ち込んだところから凄まじい量の栄養素が送られ、イバラ巨人の体が段々と褐色に染まっていく。

『ぐぁぁ!や、やめろ!それ以上俺様に体力を与えるな!折角手に入れた美しき体が、枯れてしまう!』

 しかしキャシーは、魔法を止めなかった。自分が大切に育てたバラも、みんなを助けるためなら枯らす。その覚悟が、彼女に根性を与えているからだ。
 すると、余分に力を得てしまったイバラから、大量のバラが咲き、イバラごとバコンと大爆発した。
 周囲にバラの香りが漂い、アロマエキスのような液体の雨が降り注いだ。

「キャシー殿!こ、これは……」
「はぁ、はぁ。やってやりました。後は、お願いします」
「はっ、じぃじ大変や!タっくんが、ノエちんも!」
「うーん、あれ?私、寝ちゃってました!?」

 キャシーは吾郎の胸の中で言い残し、気絶した。魔力枯渇によるものである事は、魔法と無縁の吾郎でもすぐに分かった。
 しかし、そんな彼女と入れ替わるように、今度はタクマ達が起き上がる。しかも、タクマに至っては、初めから折れていないかのように、足で立っていた。

「吾郎爺、迷惑かけてごめん」
「なんてこと。それより、足は?」
「まだ砕けたまんまだけど、何か全然痛くない」
『くそう!よくも、よくも俺様の新たな体をこんなにしてくれたな!』
「うわっ、何あの人。半裸じゃないですか」

 状況を把握しようと頑張っていたノエルは、早速目に入った真のスロウドを見てドン引きした。それにつられて見てみると、そこには先程までの美しい男の姿はなく、その姿の見る影も残さないヨボヨボな老人が立ち尽くしていた。
 しかし対照的に、タクマ達は戦闘前の状態に戻っていた。このアロマエキスのような液体の中に、彼女が限界まで注ぎ続けた回復魔法の魔力が残っていたようだ。しかもそれは、スロウドのような悪しき者には通用しない、神聖な回復薬となっていた。

「何はともあれ、キャッシーの為に、トドメと行くで!」
「んだな。反撃開始だ!」
『諦めの悪い奴等め!我が全ての魔力を持って焼き滅ぼしてくれる!《テラ・サンダー》!!』
「同じ技、二度も食らうほど三流ではないでござる!たぁっ!」

 スロウドが雷魔法を放ったと同時に、吾郎は自分の刀を地面に突き立て、タクマ達を無理矢理遠ざけた。
 すると、吾郎の狙い通り刀が避雷針代わりとなり、スロウドの究極雷魔法は失敗に終わった。

「さて、チャチャっと終わらせて、パーティーの続きと行きましてよ!」

 ノエルの掛け声が庭に響くと、残りの3人は「応ッ!」と声を上げ、連携に入った。

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