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コピー使いの異世界探検記

鍵宮ファング

第236話 無駄な約束

「スロウド、お前は絶対に許さない」
『バカな奴め!そんなにちっぽけな花が好きか!ならばこの拳で、貴様の血肉を養分に変えてくれる!』
「タクマさん、危ない!」

 スロウドはイバラの拳を固め、タクマに向けて一発撃ち放った。巨体からは考えられぬ勢いで飛び出したその拳は、風圧だけで土を抉り返す程の威力を持っていた。
 しかし、よく見てみると、タクマの立っていた場所には代わりに吾郎が立っており、刀身を盾として拳を防いでいた。風圧による影響で、セバスチャンのスーツは破け、鍛え上げられた強靭な上半身が露わになっている。

「残念でござるが、タクマ殿なら既に」
「行くでタっくん!〈ナノナノ大砲〉!どっ、かーん!」
「はあああああ!!」

 小僧、いつの間に。
 背後から来るものを押し除けるように振り返ると、タクマが攻撃を仕掛けに来ているのが見えた。あの短時間でここまでの距離の移動など、あり得ない。
 いや、まさかコイツ、雷と一体化し一時的に素早さを上げた?だとしても、あの一瞬でここまで行けるはずがない。とにかく、何か手を打たなければ危険だ。

『小癪な真似を!こうしてくれる!』
「はっ!やっ!《雷閃の剣・極》!」

 スロウドはタクマの動きを封じようと、あえて右腕のイバラをほどき、体に絡み付かせようと操った。しかしタクマは、足や腕に絡もうとするイバラを、足場代わりに蹴っては斬り蹴っては斬りを繰り返し、脇に当たる部位にロウを見つけ、そこに開放した雷の剣を放った。
 剣は落雷の如き速さで貫通し、イバラの右腕は黒焦げになって抜け落ちていく。しかしその時、焼き切られたイバラがタクマの足に絡みついた。

「タクマさん!このっ、《フリズ・スピア》!」
「はぁっ!〈雲雀の一太刀・八連〉!」

 ノエルは、タクマの残した傷跡を修復させまいと氷の槍を投げ、蠢く焦げ跡を凍らせた。吾郎も、少しでもイバラを減らそうと、雲雀の羽ばたきのような剣技で斬り払った。
 しかし、どれだけ深い傷を付けても、スロウドは苦しむどころか、むしろ余裕そうに笑っていた。

「ダメだみんな!コイツの体、何も効いてない!」
『そうさ。この体はただの仮初の体。どれだけ傷付こうと、俺様の体ではない。つまり、テメェらのこの行動は全て、無駄ってワケだ』
「ちゃうわ!そんなこと、やってみな分からんやろ!〈だるま──」
『図に乗るな!〈ローゼン・ビュート〉!』

 ナノの攻撃よりも先に、スロウドはイバラの鞭を足元から大量に生やし、庭一帯を薙ぎ払った。タクマは、その鞭によって薙ぎ倒される仲間を、逆さまになりながら見るしかなかった。
 だが、逃げ出そうと行動しようにも、体が麻痺して身動き一つ取ることができなかった。そう、あの時コピーした雷の力が強大すぎたせいで、体がついて行かなかったのである。
 あの異常な素早さも、瞬間移動並みの反射神経も、全ては雷の性質を生かして出せた技。だが、それと同時に、剣から逆流してくる電流に押し殺されそうにもなった。あれがテラ、最上級魔法。コピーすれば何でも使えると思ったが、力量以上は無理なようだ。お陰で今、こんな事になっている。いや、流石にこれは自業自得だが。

「ノエル!ナノ!吾郎爺!この野郎、よくも!」
『せいぜい自分の無力さに絶望するといい』

 足首に絡み付いたイバラは、タクマを絶望の底へと突き落とすように、強く締め付ける。引き剥がそうとしても、体に溜まった疲労と頭に上った血のせいで力が出ず、イバラも獲物を確実に捉えた蛇のように強く、離れなかった。そして、イバラの締め付けが痛いと感じた頃には、折れる音と共に、脳が壊れそうな激痛が走った。
 そう、骨を折られたのだ。無抵抗な状態にされたばかりに、右脚を砕かれたのである。我慢したかったが、痛さと悔しさが相まって、タクマは涙を流しながら叫んだ。

「ぃあああああああ!!」
「っ!タクマ、殿……」
『何だ?泣いてるのか?男のくせに情けない、殺すのも面倒になってきたぜ』

 言うとスロウドは、タクマを解放した。しかし、スロウドの全長は約10メートル前後。とどのつまり、約3階分の家の屋根から突き落とされたのと同じ状態にあった。脚を折られたショックで身動き一つ取れないタクマにとっては、落下死まっしぐらである。
 今の所、他の仲間も負傷が大きく、誰かに頼ることもできない。何かないのか、何か、骨が折れていたとしても、死の危機から逃れる方法は。考えろ、でないと死ぬぞ。死んだら、オニキスとの約束を破る事になるぞ。
 タクマは深く目を瞑り、自分に向けて何度も叫んだ。もうこの際、骨の二本や三本も惜しくない。覚悟を決めろ。痛みを、超えろ!

「ぬぉあああああ!!」

 タクマは無理矢理体を回転させ、脚から落ちていくように体を調整した。そして、剣を杖の代わりに持ち、勢いよく地面に着いた。
 しかし、その衝撃が折れた脚に伝って、ヒビの入るような感覚と共に声帯が潰れそうになる激痛が走った。

「タクマさん!大丈夫……じゃあ、ないですよね」
「いや。これくらい、武闘会の傷と比べたらどうって事……あだだだだ!」
「無茶は禁物でござる。ほれ、拙者の手を」
「でもあの車のおっちゃん、強すぎる。どないすりゃええねん」
『チッ、雑魚どもめ。無能な女一匹守る為に、団結するってか?笑わせる!はぁっ!』

 タクマのもとに集まった事をいいことに、スロウドは何発もの雷を撃ち落とした。下手な鉄砲数打ちゃ当たるの精神か、耳が壊れる程の轟音が響き、体に電流が走る。
 まるで、雷の檻に閉じ込められてしまったようだ。このままでは草木諸共黒焦げだ。体を冷やそうにも、フリズやウォーターは電気を伝うから還って危険だし、かといって地球に体の電気を流そうにもキリがない。

「皆、頑張るでござる。奴の動きを読み、その隙をねらうでござる」
「そう言ったって、あれだけ回転してたら……きゃあっ!」
「ノエちん!ノエちんしっかりして!あかん、雷が掠ったみたいや」
『安心しろ、俺様は優しいからな。お仲間さんも纏めて殺してくれる!』
「ふざけるな!《コピーメガ・サンダー》!」

 何が優しいだ、ふざけた口を。
 タクマは気絶したノエルの杖を拝借し、コピーした雷を放った。しかし、放った瞬間対価が生じ、タクマも同じく電流を受け、一瞬目の前が真っ暗になる。
 だが、タクマの放った雷は本来とは逆の動きで上へと登り、スロウドの顔──本体──にダメージを与えた。

「タクマ殿、なんて無茶を……」
『約束など、そんないい加減なものを戦いの理由に使うからこうなる。わざわざ無駄な事ばかりして、見てて悲しくなるぜ』

 今更ダメージを与えられた所で、形勢逆転など出来るはずがない。威勢の良かった小僧も今では力を使い切って戦闘不能、同じく白ドレスの小娘も、俺様の雷に撃たれて戦闘不能。残るはチビ獣人と老いぼれだけ。それも、老ぼれは倒れた2人を担いでいるから、攻撃なんてまず無理な話だ。
 つまり、最後の相手はチビ獣人一匹。俺様の姿にビビってやがるし、第一弱そうだ。こりゃあ勝ちは決まり、2000年ぶりの勝利記念に、老ぼれの前で小娘の肉を喰ろうてくれる。

「む、無駄やない!ウチだって、ウチだって、れっきとしたハンマー使いなんや!よよ、弱くなんて、ない!」
『テメェも小僧に感化されたって所か?くだらん幻想に浸ってんじゃあねぇ!』
「ドロン葉!大鷲!」

 ナノは頭に葉っぱを乗せ、ハンマーを背負った巨大な大鷲へと姿を変え、スロウドに襲いかかった。力強い豪脚で両肩を鷲掴みし、食い殺す勢いで頭部を啄む。
 だが、イバラは逆にナノの脚を縛りとり、動きを封じてしまった。そして、口から弱めの雷魔法を放ち、ナノの体に電流を流した。伝ってイバラの体にも電気が流れた気がするが、痛みはないため特に気にすることはない。

「ピィィィー!!」
『隠し芸大会もこれで終わりだ!』

 好機を掴んだスロウドは、早速ダウンしたナノの両脚を掴み、大きく振りかぶった。仲間の所に叩きつけ、仲間で仲間を潰すつもりだ。
 しかしその時、持っていたはずの脚が、突然ポンと音を立てて消えた。

『な、何だ!?』
「これで終わりやないで!高く行けばいくほど、ウチの技は強くなる!〈マムート・プレス〉!」

 そう、ナノはわざと、スロウドよりも高い場所に行きつつ攻撃もできる方法を取ったのである。そのまま高く行っても、手の内がバレてしまえば全てが崩れる。それを敢えて攻撃して返り討ちに遭うと言ったシナリオを作れば、勝手に相手が追記した都合のいいシナリオを破壊して隙を作ることができるのだ。
 その結果、ナノのハンマーは脳天に直撃し、車輪にヒビが入った。

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