コピー使いの異世界探検記
第235話 α放つ、死神恐れし秘めたる力
『おやおや。これはまた随分とこざっぱりした部屋だね。しかし、隠れんぼには不向きなようだが?』
「いいや、隠れんぼなんて幼稚な遊びをするつもりはねぇ。何もないくらいが、丁度いいんでなぁ!」
逃げ込んだ個室、そこは無駄に作られたが故に機能していない、ただの空き部屋だった。動く度に埃が舞い、蜘蛛の巣が揺れる。だが、これくらい不気味じゃなけりゃ味気がない。
オニキスは再度剣に血を与え、αに斬りかかった。αも、次のフェーズに移行しようと暗闇からハンマーを取り出して、オニキスを殴りつけた。
隙を突かれたオニキスは投げ飛ばされ、向かいの壁を突き破る。
「ペッ。広くするサービス付きたぁ、気が利くなぁα!《クリムゾン・ストライク》!」
『地面には樹木の力。〈巨人の判決・ケースグリーン〉』
主人の血を吸った赤黒い剣は、周りの瓦礫をかき集めて鈍器へと姿を変えた。それに対抗するように、αも自然の力を槌に宿した。
両者がぶつかり合い、風圧で塵が吹き上がる。しかし、地面の力では樹木に勝てず、オニキスは瓦礫の中から生えたツルに手足を取られてしまった。
この男、抜け目がない。まるで考えを読んでいるように、その場その場の最適解ばかりを選んできやがる。
くそっ。こんな時に、オーブの力さえあればこんな鎧男1人容易く……ん?オーブの力?
『私としては、ここで参って欲しいのだが、まだやるかな?』
「当たりめぇだ。テメェが最強だってんなら、最強狩りとして狩らなきゃいけねぇからなぁ!」
『その手足を縛られた状態でかい?君の体のためにも、やめるべきだ』
「今更気休めか?悪いがそんなの、いらねぇよ!《クリムゾン・ニトロバースト》!」
その瞬間、αは気付いた。拘束したツルが、オニキスの血で染まっていた事に。しかし、それに気付いた頃には遅く、オニキスの血に火が灯り、ツルは爆発するように燃え上がった。
なんとオニキスは、αが無駄話をするだろうと見越し、わざと血を流したのである。しかもそれは、剣に吸わせるために流す特別な血。
オニキスは戦闘で得られる最高の快楽で血を昂らせ、あえて高温にした。そして、ラスターが使っていた爆破性がある糸をイメージし、自身の赤血球を爆発させたのである。
両手が熱い。やりすぎて火傷しちまったようだ。だがこれで更に、戦いやすくなった。
「まだまだ行くぜ!《クリムゾン・スラッシュ》!」
『なっ、しまった』
αはオニキスの斬撃に対応できず、胴体に彼の斬撃を受けてしまった。甘く見たが故の、苦い一撃。傷跡から機械のコードらしきものが顔を出し、バチバチと火花をあげる。だが、ただのロボットの傷跡とは違い、人間の血の臭いも漂う。
それを見て、オニキスは一瞬ゾッとする。機械関係については、Zの研究対象でもあったため異文明の工学である事くらいは知っているが、交わる筈のない人間と機械の臭いが、この男から漂ってくるなど、考えられないからだ。
「テメェ、前々から気になってたから訊くが、何者だ?」
『……何者でもあり、何者でもない。それがα、始祖の存在だよ』
「シソだぁ?悪いがソイツは風味が口に合わなくて嫌いだ!どらぁ……っ!」
『やはり、君は相変わらずだ。敢えて受けたが、この程度で勝った気になるとは。甘い、はぁ!』
剣を掴まれ、オニキスの顔面に鉄の拳がめり込んだ。その瞬間、鼻の血管がプツンと切れる音が響き、真っ赤な放物線と共に、オニキスは瓦礫の海へと再び放り投げられる。
折角トカゲとタヌキが選んだドレスも、猫娘の施したメイクも、気が付けば鼻血と砂埃で台無しになっている。しかし、元々俺は最強を狩り続けた一匹狼、お淑やかなレディを演じるなんて、初めから無理だったのだ。
「くっ、クハハハハハ!笑っちまうぜ!もうここまで滅茶苦茶にされたんだ。今更何気にすんだ?」
『おや?』
「ここからはマジもマジ、大本気だ。本気にテメェをぶっ殺す!」
吹っ切れた。今更血も、敵の圧も知ったことじゃあない。脳細胞の沸騰?したけりゃ勝手にしてればいい。
《クリムゾン》、出力最大!失ったオーブの力だって、クリムゾンならいくらでもカバーできる。だったら、身体中の血全てを捧げてやるよ。それくらい、この鎧野郎とのケジメ合戦には価値がある!
「行くぜゴラァ!《クリムゾン・カッター》!」
『これしきの事、《フリズ・ハンドレットスピア》』
次の余興の移行のため、αは武器を槍に持ち替え、冷気を纏った特殊技で翻弄した。しかしオニキスも負けておらず、湧き上がる力をふんだんに使い、数百発の突きを弾き返した。
そして、剣と槍の奏でる金属音が響き合った後、αの槍が押し負けて折れてしまった。オニキスの力と鋼と相性の悪い氷魔法が災いし、速攻でダメになったようだ。
『これはいけない。ぬおっ!』
「死にざらせ!《クリムゾン・ブラッドファング》!」
『ぬああああ!!』
オニキスはαとの距離を極限まで詰め、血で作り出した2対の牙と共に激しい一撃を与えた。それによりαは初めて、断末魔を挙げ、今度は彼が壁を突き破った。
また一段と広くなったその部屋は、元々メイドが使っていた部屋だったのか、ベッドや布団、メイド服が散乱していた。いや、αの影響で今ばら撒かれたのだろう。
「くそっ。流石に少し本気を出しすぎたな」
頭がクラクラする。一応戻せるだけの血は戻したが、まだ気分が優れない。オニキスは壁に寄りかかりながら体の調子を整える。
勝ち星を奪い取ったとはいえ、こんな滅茶苦茶になった屋敷の汚い部屋が死に場所なんて、最悪な最期だ。どうせならもっと、ここよりマシな場所を選んで死にたい。
そんな事を考えながら、オニキスは余り余った回復薬を必死で飲む。飲み切れずに口から溢れて行くが、傷口に入っても効果は同じなら別にいい。
「そう言や、今って何時だ?畜生、こんな事なら懐中時計くらい買えば良かった」
『そうだねぇ、今は丁度11時40分。夜明けにはまだ早い時間帯だよ』
「っ!」
独り言に応える不穏な声と共に、ガチャガチャと鎧の音が鳴り響く。この音、嫌な予感しかしない。言わずもがな、アイツだ。
オニキスはゆっくりと顔を上げ、そしてその顔を見て唖然としながら、ポーションの瓶を落とした。
なんと、αは生きていたのだ。人間の赤い血と人ならざる青い血の二色を流しながら、彼は目の前に立っていた。
「いいや、隠れんぼなんて幼稚な遊びをするつもりはねぇ。何もないくらいが、丁度いいんでなぁ!」
逃げ込んだ個室、そこは無駄に作られたが故に機能していない、ただの空き部屋だった。動く度に埃が舞い、蜘蛛の巣が揺れる。だが、これくらい不気味じゃなけりゃ味気がない。
オニキスは再度剣に血を与え、αに斬りかかった。αも、次のフェーズに移行しようと暗闇からハンマーを取り出して、オニキスを殴りつけた。
隙を突かれたオニキスは投げ飛ばされ、向かいの壁を突き破る。
「ペッ。広くするサービス付きたぁ、気が利くなぁα!《クリムゾン・ストライク》!」
『地面には樹木の力。〈巨人の判決・ケースグリーン〉』
主人の血を吸った赤黒い剣は、周りの瓦礫をかき集めて鈍器へと姿を変えた。それに対抗するように、αも自然の力を槌に宿した。
両者がぶつかり合い、風圧で塵が吹き上がる。しかし、地面の力では樹木に勝てず、オニキスは瓦礫の中から生えたツルに手足を取られてしまった。
この男、抜け目がない。まるで考えを読んでいるように、その場その場の最適解ばかりを選んできやがる。
くそっ。こんな時に、オーブの力さえあればこんな鎧男1人容易く……ん?オーブの力?
『私としては、ここで参って欲しいのだが、まだやるかな?』
「当たりめぇだ。テメェが最強だってんなら、最強狩りとして狩らなきゃいけねぇからなぁ!」
『その手足を縛られた状態でかい?君の体のためにも、やめるべきだ』
「今更気休めか?悪いがそんなの、いらねぇよ!《クリムゾン・ニトロバースト》!」
その瞬間、αは気付いた。拘束したツルが、オニキスの血で染まっていた事に。しかし、それに気付いた頃には遅く、オニキスの血に火が灯り、ツルは爆発するように燃え上がった。
なんとオニキスは、αが無駄話をするだろうと見越し、わざと血を流したのである。しかもそれは、剣に吸わせるために流す特別な血。
オニキスは戦闘で得られる最高の快楽で血を昂らせ、あえて高温にした。そして、ラスターが使っていた爆破性がある糸をイメージし、自身の赤血球を爆発させたのである。
両手が熱い。やりすぎて火傷しちまったようだ。だがこれで更に、戦いやすくなった。
「まだまだ行くぜ!《クリムゾン・スラッシュ》!」
『なっ、しまった』
αはオニキスの斬撃に対応できず、胴体に彼の斬撃を受けてしまった。甘く見たが故の、苦い一撃。傷跡から機械のコードらしきものが顔を出し、バチバチと火花をあげる。だが、ただのロボットの傷跡とは違い、人間の血の臭いも漂う。
それを見て、オニキスは一瞬ゾッとする。機械関係については、Zの研究対象でもあったため異文明の工学である事くらいは知っているが、交わる筈のない人間と機械の臭いが、この男から漂ってくるなど、考えられないからだ。
「テメェ、前々から気になってたから訊くが、何者だ?」
『……何者でもあり、何者でもない。それがα、始祖の存在だよ』
「シソだぁ?悪いがソイツは風味が口に合わなくて嫌いだ!どらぁ……っ!」
『やはり、君は相変わらずだ。敢えて受けたが、この程度で勝った気になるとは。甘い、はぁ!』
剣を掴まれ、オニキスの顔面に鉄の拳がめり込んだ。その瞬間、鼻の血管がプツンと切れる音が響き、真っ赤な放物線と共に、オニキスは瓦礫の海へと再び放り投げられる。
折角トカゲとタヌキが選んだドレスも、猫娘の施したメイクも、気が付けば鼻血と砂埃で台無しになっている。しかし、元々俺は最強を狩り続けた一匹狼、お淑やかなレディを演じるなんて、初めから無理だったのだ。
「くっ、クハハハハハ!笑っちまうぜ!もうここまで滅茶苦茶にされたんだ。今更何気にすんだ?」
『おや?』
「ここからはマジもマジ、大本気だ。本気にテメェをぶっ殺す!」
吹っ切れた。今更血も、敵の圧も知ったことじゃあない。脳細胞の沸騰?したけりゃ勝手にしてればいい。
《クリムゾン》、出力最大!失ったオーブの力だって、クリムゾンならいくらでもカバーできる。だったら、身体中の血全てを捧げてやるよ。それくらい、この鎧野郎とのケジメ合戦には価値がある!
「行くぜゴラァ!《クリムゾン・カッター》!」
『これしきの事、《フリズ・ハンドレットスピア》』
次の余興の移行のため、αは武器を槍に持ち替え、冷気を纏った特殊技で翻弄した。しかしオニキスも負けておらず、湧き上がる力をふんだんに使い、数百発の突きを弾き返した。
そして、剣と槍の奏でる金属音が響き合った後、αの槍が押し負けて折れてしまった。オニキスの力と鋼と相性の悪い氷魔法が災いし、速攻でダメになったようだ。
『これはいけない。ぬおっ!』
「死にざらせ!《クリムゾン・ブラッドファング》!」
『ぬああああ!!』
オニキスはαとの距離を極限まで詰め、血で作り出した2対の牙と共に激しい一撃を与えた。それによりαは初めて、断末魔を挙げ、今度は彼が壁を突き破った。
また一段と広くなったその部屋は、元々メイドが使っていた部屋だったのか、ベッドや布団、メイド服が散乱していた。いや、αの影響で今ばら撒かれたのだろう。
「くそっ。流石に少し本気を出しすぎたな」
頭がクラクラする。一応戻せるだけの血は戻したが、まだ気分が優れない。オニキスは壁に寄りかかりながら体の調子を整える。
勝ち星を奪い取ったとはいえ、こんな滅茶苦茶になった屋敷の汚い部屋が死に場所なんて、最悪な最期だ。どうせならもっと、ここよりマシな場所を選んで死にたい。
そんな事を考えながら、オニキスは余り余った回復薬を必死で飲む。飲み切れずに口から溢れて行くが、傷口に入っても効果は同じなら別にいい。
「そう言や、今って何時だ?畜生、こんな事なら懐中時計くらい買えば良かった」
『そうだねぇ、今は丁度11時40分。夜明けにはまだ早い時間帯だよ』
「っ!」
独り言に応える不穏な声と共に、ガチャガチャと鎧の音が鳴り響く。この音、嫌な予感しかしない。言わずもがな、アイツだ。
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