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コピー使いの異世界探検記

鍵宮ファング

第234話 風 is this?

『そんな大剣ごときに、私が叩き落とせるものか!《ギガ・ウィンドスラッシュ》!』
「食らうかよ、どっせい!よっこいしょー!」

 狙いがこちらに向いても、アリーナはむしろそれを待っていたかのように笑い、軽々と大剣を振り回した。それも、アケイドの放つ風の刃などものともせず、じりじりと近付いていく。
 そして、剣の重さに身を委ねては振り、委ねては振りの大技をかまし、切った大見栄通りにアケイドをバラバラに分断した。

「あれま、かまいたちバラバラ殺イタチ事件」
「もうアリーナ、そんな技があるなら早く言うでありんす!」
「それにしても、彼奴も罪源の割には呆気ない最期じゃのぅ。こんなに血を垂らして……」

 腕も胴体も、そして首も、全てがバラバラ。更に、モザイク処理でもしないといけないくらいに首から垂れる血を見て、一同は死んだだろうなと考えた。
 尻尾が着脱可能でも、流石にあんな一撃を食らえば生きられまい。
 しかし、そんな余韻に浸っている所、突然風が暴れ出した。

「この風圧、避けるでありんす!」
『愚かだ!この私が、あの程度で負けるはずがなかろうに!』
「ば、バラバラ死体が動いた!うわぁ!」

 真っ先に気付き、おタツとメアは短剣と忍者刀で突然動き出したアケイドの体を防いだ。しかし、残りの二人は風に吹かれ、屋根の端に追いやられてしまった。
 そして、リュウヤは運悪く足を滑らせてしまい、端に手を掛けなければならない状況に陥ってしまった。
 だが、助けに行こうにも、5つに分離したアケイドの体は、誰一人として逃がさないよう、両腕と体が立ちはだかり、残った二人には尻尾と顔が見下している。体毛は針となり、顔からは、研ぎ澄まされた鋼が如し歯が顔をのぞかせていた。

「やいお主!敵はこっちじゃぞ!」
『貴方達をなぶるには、こうした方が手っ取り早い。私は面倒な物は真っ先に終わらせ、残り時間をゆっくり過ごすタイプですので』
「お前様、必ず助けるでありんすからな!」
「安心しなタツ、俺はそう簡単にゃ、死なねえよ」

 リュウヤ救出の頼みのツテはアリーナしか居ない。そして、ウチらが助けに行くには、この鎌と胴体をどうにかしないといけない。しかし彼奴の動き、バラバラになった事で体積が減り、完全体よりも素早くなっている。メアちゃんと一緒に、対処できるだろうか。
 あーダメダメ!ウチが弱気になってどうするの。メアちゃんの強さは、一緒に大和の結界を張った時から、ウチが一番知っているでありんす。相手じゃなく、まずは味方の動きと息を感じる。そして、メアちゃんにも感じ取れるよう、ウチも分かりやすい息で動きつつ、相手のペースに合わせる。
 
「メアちゃん、いくでありんすよ!」
「妾を誰じゃと思うておる。あんな鎌、妾の敵でないわい!」
「やっぱり、ウチの思った通りでありんすな」

 一応確認を取りつつ、おタツは忍者刀を構える。そして、彼女の期待に応えるよう、メアも探検を2本逆手に持ち、力強く構えた。その姿たるや、まさしくクノイチの構え。異国初の友達というのもあり、板についてきた彼女の忍び姿を見て心が緩む。
 そうだ。ここで勝って、終わったら女子会を楽しむのもいいかもしれない。そんなことを考えつつ、立ちはだかる胴体に飛びかかった。

「はっ!よっ!爆散手裏剣!」
「そいっ!せいはっ!〈フレア・ナイフ〉!」

 2人は息のあった動きで、飛び交う毛の針を避け、2振りの鎌を避けつつ攻撃を当てた。思ったより素早く動いているが、風の力がメアのフレアを強化させ、轟々と燃え上がる。更に、おタツの爆散手裏剣による爆風も広がり、逆に自身を苦しめている。
 かまいたち、風使いが故の不便さがあるようだ。しかし、体の主であろうアケイドは叫ぶ事はなく、炎の中から鎌が飛び出してきた。

「きゃっ!くぅ、小癪な真似をしおる」
「嘘、効いてない?」
『バカめ!其奴らは我が傀儡に過ぎぬ。故に、我が死すまで動き続けるのです!』
「そんな、じゃあウチらは……」
「彼奴らを倒すことが出来ぬとな!?」

 アケイドが死ぬまで動き続ける。それつまり、どれだけ攻撃を与えようと死なない、最強の敵。ただ必死で逃げ続けなければならない。
 となれば、さっきまでの攻撃が無駄だと言うことだ。ショッキングな事実に、膝がつきそうになる。

「馬鹿野郎お前ら!こんなのデタラメに過ぎねぇだろうが!」
「アリーナ、貴方……!」
『出鱈目?いいえこれは事実です。我が本体はこの体、その胴体は単なる鋼の塊なのですよ!』
「鋼の、塊?ハッ!」
「おらリョーマも!そんな所で油売ってねぇで上がってこいよ!」

 アリーナはサーベルでアケイドの顔と交戦しながら、されるがままの2人に喝を入れた。そして、嘲笑うアケイドの発言を聞き、メアの中に閃きが走った。
 きっとこれならやれる。そして、リュウヤ救出にも、一役買えるやもしれない。
 メアは頬を力強く両手で叩き、キッとした鋭い表情で鎌を睨んだ。

「タツ、炎の巻物の在庫、まだあるかの?」
「えっ、あと3枚でありんすが」
「それで良い。妾が合図を出した時、それを使うのじゃ!」

 第二ラウンドの開始だと言わんばかりに、メアとおタツは再び走り出した。しかしアケイドは無意味だと鼻で笑い、念力で鎌達を動かした。
 再度鎌や鋼の毛が飛び交い、それらが嵐を生み出す。まさに、殺人風。それでも2人は互いを信じ、殺人風の中に飛び込んだ。

「くっ!いっ、まだまだ!」
「タツ、メアちゃん、ふぬぉぉぉぉ!!」
『わざわざ自分から死にに行くとは。実に愚かですね』
「だぁって見てろクソニャンコ!アイツらはあんな所で死ぬタマじゃねぇっての!《ウェーブ・クライシス》!」

 2人が飛び込んでいくのを見て、リュウヤも復帰の為のアップを始めた。そして、リュウヤのアップを邪魔させないため、アリーナは2本のサーベルを取り出し、顔と尻尾に大技を喰らわせる。
 
「タツ!今じゃ!」
「はいよ!《朧隠流・大火遁の術》!」
「《フレア・ナイフスコール》!」

 2人が炎魔法──忍術──を放ったその瞬間、風の煽りで炎が更に燃え上がり、鋼鉄が荒れ回る竜巻は、一瞬にして煉獄の竜へと姿を変えてしまった。最早、中に閉じ込められたが最後、出る頃には骨すらも焼けて灰と帰す新手の牢獄。
 それが彼女達の覚悟だとしても、こんな最期、認められない。認めてなるものか!
 
『フハハハハ!無駄な事を、これこそ俗に言う「犬死に」という奴か!愉快なものを見させてくれるわ!』
「へぇ、犬死に、ねぇ」

 アケイドが笑った時、ピンチ寸前だったリュウヤの動きが止まり、渇いた笑いが聞こえてきた。
 するとその刹那、目にも留まらぬ速さで銀色の光が走り、アケイドの牙が折れた。

『ぐわぁ!な、何が起きている!む?』
「生憎だが、それは違うぜイタチ野郎!何故ならSO!2人はまだ、死んじゃあねぇからだ!」
「リョーマお前、無事だったのか!?」
「無事も何も、最近溜まってるからさ。むしろ発散したい頃だったのよ」
『ナメた口を叩きおる!なれば教えてあげましょう、貴方の無力さを!《テラ・ウィンド》!』

 復帰したリュウヤを前に、アケイドは尻尾の毛が混じった風魔法を放った。食らえば一瞬にして全身串刺し、身体バラバラになりかねない、ハリケーン。危険を感じたアリーナは、一瞬リュウヤを引き連れようと動きつつ、魔法の及ばないアケイドの頭の下に避難した。
 だが、リュウヤは逃げる事なく、慣れた手つきでガントレットの宝玉を緑色に変え、刀に風の力を宿した。

『死ぬが良い!』
「ごめん無理!〈剣崎流奥義・カザグルマ〉!」
「リョーマ!」

 しかしその刹那、放たれた筈の風魔法が2つに又割れし、リュウヤに怯えてはけていくように流れて行った。毛の飛んでいく方向が、風の行き先を物語る。まさに、火を見るよりも明らか。
 だが、アケイドには納得の行かない事のようで、何故だ何故だと無い手で頭を抱えるように空中をオドオドと動き回る。

『貴様、一体何をしたと言うのです!こんなのありえない!汚いぞ!』
「何って、簡単な事さ。俺ちゃんの余り余った力全てを、テメェの吹かす風力に合わせて、風の刃を放った。たったそれだけさ」
『しかし良いのかね?貴様の余裕も、最早ここまで』
「ギャアアアア!おいコラ尻尾、離しやがれ!」
「あっ!アリちゃん!」
『お互い力の回復が必要なようだが、結果論としては私が有利。じきに私の鎌と胴体も戻り、一つになる。そこでここは一つ、取り引きと行こうではないか』

 なんと、リュウヤの過失により、アリーナが捕らえられてしまった。まだ傍では煉獄の竜巻がグルグルと大回転している。更に、リュウヤも相殺する為に力を使い切ってしまい、本気での戦闘はほぼ不可能に近い状態になった。
 たしかにイタチ野郎の言う通り、火炎竜の牢獄からパーツが全部帰ってきたら、巨大怪獣vs俺ちゃんの短編映画の上映開始だ。けど、そこらの刀使える料理人1人が、怪獣一匹相手に勝てるはずが無い。
 生憎俺ちゃんは、ウルトラ何とかじゃあねぇ。ツノも無けりゃ、父も母も普通の人間、ナンバー6どころか1人っ子。そもそも何一つ当たるわけがねぇ。やっぱりここは、コイツの取り引きとやらに乗ってみるしか無いな。
 リュウヤは鞘に刀を戻し、ゆっくりと両手を上げた。

「イタチの兄ちゃん、取り引きって何すんだい?面白そうだし付き合うぜ?」
「リョーマ、何やってんだ!こんな奴の取り引き、絶対インチキ……ぐっ!」
『黙りなさい。さもなくば、我が毛を針に変え、貴様を串刺しにするぞ。っと、君のお仲間の声が耳障りだったもので、少し締め付けを強くさせてもらった』
「なぁ、話聞くって言ってるんだからさ、早く要件言ってくんね?」

 両手を挙げ、仲間を人質に取られていると言うにも関わらず、リュウヤは平気な口調でふざけるように言った。
 どうせコイツの事、ロクな要件じゃないのは明白だ。さて、鬼が出るか蛇が出るか。赤鬼が出るか黒鬼様が出るか。気になる所だ。

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