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コピー使いの異世界探検記

鍵宮ファング

第230話 覚醒のスパイス

『こうして、俺様は食堂に忍び込んで呪いをかけ、お前らからやる気を奪いつつ、警備を薄くしたってワケさ』
「あのおばちゃん、やっぱ悪い人だったんやな……」
「全くだ。自分の娘をなんだと思ってやがる!」

 アリーナは、実の娘を道具としか見ていないサージに腹を立て、壁を強く叩いた。そしてナノも、悪い人なんかじゃないと信じていたのか、裏切られたショックで言葉を失っていた。
 しかしそれと対照的に、リュウヤは笑って「いいの?」とビナーに訊いた。

『何がだ?』
「嘘嫌い言ってたけどさ、1から10まで話しちゃって、回し者にバキュン!とかされちゃうかもなのに、いいの?」
「あっ、言われてみれば。けど、これが全部本当かなんて……」

 おタツは注意深く睨みつける。するとビナーはため息を吐きながら、信じたくないなら信じなくて良いが、俺は一つも嘘を吐いちゃいねぇよ、と言葉で返した。
 そう言うと、続けて吾郎が「何故そんなに正直になろうと?」と訊いた。

『お前らってさ、人を騙すために嘘ついた事あるか?』
「嘘なら幼い頃、一度だけ経験があるでござる」
「ウチも、昔一回言うたわ」
「あり?アリちゃんは、何でそっぽ向いてる〜の?」
「う、うるせぇ!アタシは嘘なんて一度も……」
『嘘だな?まあ、人の過去に興味ないし良いけどよ。その嘘って、矛盾した所を指摘されるよな』

 ビナーはテクテクと迷いなく廊下を進みながら、5人に語りかけるように話す。
 その間、海賊だからか、過去に何度も嘘を吐いてきたであろうアリーナは後ろめたそうに俯きながら、彼の話を聞く。

『嘘ってのは、最初はちっぽけな種なんだ。んで、矛盾を指摘されたら、その矛盾を正当化する為に、また嘘をつく。そしてまた生まれた矛盾を指摘され、また嘘を吐く。そしたら、どうなると思う?リスのチビ、答えてみろ』
「えっ、えーっと……嘘が嘘に包まれて、大きくなる?」
『そう。嘘は段々と雪だるまのように段々大きくなって、自分で自分の首を締める事になる。そして、完全に正当化出来なくなるまで追い詰められた瞬間、首をスパッと斬られて、今までの信頼も何もかも、失っちまう』

 突然ナノに振りつつ、ビナーは嘘をつくとどうなるかを親切に教えた。
 そして最後に、それだけじゃあねぇ、と付け加えつつ、目的地であろう扉を開いた。その瞬間、美味しそうな匂いが漂ってきた。

『俺様とアイツは運命共同体でもあるし、俺様の存在がバレちまったら、さっき言ったようにアイツの信頼もガタ落ちになる。それが面倒だから、俺様は嘘が嫌いなんだ』

 そう締めくくり、ビナーは一行に、着いたぞ、と言って厨房に入るよう促した。相変わらず暗くて何も見えないが、奥から出来立ての美味しそうな香りが漂ってくるため、そこが本当にキッチンである事は明白だった。
 すると、それを見たリュウヤは目を輝かせ、早速設備を物色し始めた。しかし、何も見えないため、早速と籠手に紅色の宝玉をはめ込み、刀に炎を纏わせた。そう、松明の代わりに火を灯したのである。

「どうだ明るくなったろう」
「おお!それって鎧のにぃにから貰った?」
『鎧の、やっぱお前らも知ってんだな』
「はい。けど、強過ぎてウチらには刃が立たなかったでありんす」

 おタツは残念そうに言う。するとビナーは、彼女の言葉にうんうんと頷き、だよな、と共感した。

「だよな?おっちゃん、戦った事あるん?」
「けどオッサン、戦う力はねぇんだよな?」
『いや、力は無くとも、人の強さを身図る事は出来る。勿論何度か会ったことあるが、あんなに人知を超えた力を持ったのは見た事ねぇな。まさに、神をも超える、そんな勢い──』

 バタン!
 突然、ビナーの口を封じるかの如き勢いで扉が閉まった。更に、リュウヤの付けていた炎が吹き消された蝋燭のように消え、周囲が真っ暗になった。
 
「な、何でござるか!?」
『ま、まさか……いやあり得ない。だって、鏡に入る能力を持つのは、選ばれた奴のみ……』
「おやっさん、どうしたってんだよ!」
「ウフフ、“選ばれた奴のみ”ですって?嘘が嫌いなくせに」

 暗闇の中、何処からともなく色気付いた声が聞こえてくる。そして、その声と共に、ヨダレが止まらなくなりそうなほどの甘い香りが漂ってきた。
 
「んだこの香水臭ぇの、折角の飯の匂いが台無しだぞ!」
「この匂い、あかん!ネェネが来た!」
「ねぇねだって!?それ──」

 しかしその時、謎の女の声で『ミラーゲート』と声が聞こえ、リュウヤ達は調理台の中に引き込まれてしまった。

【正常の世界】
「貴殿、そこに誰がおるのかッ!」
「あら、誰かと思えばいつぞやのサムライ君達じゃない。露出狂の海賊とちっちゃい子まで連れて、やっぱりアナタにもアレの欲はあるみたいね」
「誰が露出狂だ!好き勝手言ってっと炙るぞコラ!」
「……なにしに来たよ、アルルちゃん」

 リュウヤが訊くと、暗がりの奥の女、もといアルルは「ご名答」と言い、魚の載った皿とフォークを持って現れた。
 そして、ビナーの顔を見た途端、まぁ!、とわざとフォークを落とし、空いた手を口の前に出して大袈裟に驚いた。

『テメ、あん時の……』
「ずーっと顔隠してて誰か分からなかったけど、怠惰の器ってアナタだったの?い・が・い〜」
「いけませぬ!ビナーさんに指一本でも触れたら、ウチの苦無が飛びますえ!」
「きゃー怖ーい……なーんてネ。《クロック》」

 おタツの圧に圧倒されたフリをして、アルルは指輪を光らせた。するとその瞬間、アルルは忽然と姿を消した。
 と思った矢先、リュウヤの後頭部に細く鋭い脚が直撃した。

「リューくん!」
「やっぱり、α様からのプレゼントは毎度いいもの揃いだわ。お陰で、あの日の屈辱晴らせちゃった」
『坊主!おいサキュバステメェ、俺に用があんなら周り巻き込んでんじゃあねぇ!』
「巻き込むな、ですって?笑わせないでよね、アナタの存在そのものが、皆に迷惑をかけているのに、気付いてなかった?」

 アルルはアフフフフ、と手の甲で口を隠しながら、ビナーを馬鹿にした。そして、その隙に再度クロックを発動し、今度はベルフェルの背後に現れた。
 
「お主何を!」
「こうするのよ、えいっ」

 吾郎が止めに入るも、遅かった。なんとアルルは、いつの間にか奪い取っていたオレンジのオーブを彼の背中にぶち込んだ。すると、周囲に凄まじい風が吹き荒れ、キッチンの中で嵐を巻き起こした。
 ビナーは、オーブから溢れ出る魔力に耐え切れず、もがき苦しんでいる。

「そ、そんな……おやっさん!」
「アルル、よくもやったでありんすな!」
「無駄よ。もうあのおじさんは助からないわ。せいぜい、受け取ったのにも関わらずワタシから守り通せなかったおマヌケな自分を恨んで、自己嫌悪に浸ってれば良いわ」
「許さへんで、ウチの堪忍袋の尾、もうブチ切れたわ!」

 許せない。いや、許してなるものか。そんな感情が一行の心の中に込み上げ、遂にナノがハンマーの重い一撃を繰り出した。
 しかしアルルはまた《クロック》を発動し、ナノの一撃を回避した。そして、いきなり失礼ね、とナノに蹴りを繰り出そうとした。だが、ビナーに寄り添っていたリュウヤは、その脚を掴んだ。

「巻き込んでる俺ちゃんが言うのもアレだけど、それはダメ」
「お前様、何を!」
「ちょっと、離しなさいよ!分からないの!」

 何故か激昂したアルルは、しつこく纏わりついてくるリュウヤの顔を何度も蹴りつけた。ヒールが顔を傷つけ、赤く腫れ上がる。
 それでもリュウヤは脚を掴み続けた。
 すると、運が良いのか悪いのか、扉が勢いよく開き、そこからタクマ達が転がり込んできた。
 そう、リュウヤはもしかしたらタクマが来る、と言う低確率に賭け、ナノを守りながらアルルを引き留めたのである。

「りゅ、リュウヤ!?それに、えっ!」
「ハルトマンさん!ハルトマンさんじゃないですか!」
「お前、さてはハメたわね!」

 アルルはすぐに気付き、リュウヤを睨みつける。しかし対照的に、リュウヤはニッと笑って、遅いぞお前ら、とタクマ達に言った。
 だが、アルルもただ食わされてばかりと言うわけではなかった。彼女は再会を喜ぶリュウヤの顔面をヒールの先で蹴り飛ばし、羽根を展開した。サキュバスというだけあって、コウモリのようで、ラバーのように艶やかな羽根をしている。

「そんな、ビナーさん……」
「キャシー、ダメじゃ。もう彼奴は……」
「アフフフフ、まあいいわ。やる事は全部済んでるし、せいぜい怠惰の罪源と、“おままごと”でもしてなさい」

 そう吐き捨て、彼女は姿を消した。そして、消えたと同時に、ビナーもまた、オーブの中に眠る罪源に取り込まれてしまった。

『ぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!』

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