話題のラノベや投稿小説を無料で読むならノベルバ

コピー使いの異世界探検記

鍵宮ファング

第226話 お前が俺で、俺がお前

 一方その頃、リュウヤ一行は鏡世界から戻る方法を探しつつ、キャシーも鏡世界にいるかもしれない、と念のために指定された部屋へ向かった。
 しかし、彼らの勘は外れ、指定された部屋の中は、もぬけのからだった。

「んだよ、居ねぇじゃんか!あーあ、来て損した」
「となると、キャシー殿は鏡の向こう側、もとい本来の世界に居る、と言うことになるでござるな」
「それにしてもこの部屋、ちっと散らばってやしないか?全く、こんな汚部屋で過ごしてたらどんどん病気になっちゃうじゃない!」

 そう言いながら、リュウヤは部屋の整頓を始めた。床に散らばった紙を束ね、積み上げられた本の塔をしっかりと棚に戻し、ぐちゃぐちゃに放置されたベッドも、ホテルのベッドメイク的技術で整えあげた。
 その動きたるや、芸術や演舞のそれと同じだった。

「あんなに散らかっとったんが、こんなに……」
「どんなもんだい!爺ちゃんに叩き込まれた基礎中の基礎、そう簡単に負けやしねぇぜ!」

 一体何と勝負をしていたのだ。歌舞伎の大見えを切るリュウヤに、おタツはアッハハと苦笑いをした。
 しかしその時、リュウヤは突然何かを感じた。隣の机、それもさっき整えた紙の束の中から、手がかりがありそうな気がしたのだ。だが、リュウヤがその感覚に「やろう」と言う前には、体が勝手に動いていた。
 
「お、お前様!?せっかく整頓した部屋を汚したら意味ないでありんしょう!」
「おいおいどうしたよ!散らかしならアタシも混ぜさせてくれよ!」

 おタツ達は止めに入った。しかし、衝動的に動くリュウヤの暴走は止まらず、床は整頓する前の方が綺麗だと思うくらい、紙で埋め尽くされた。もう止まらないのではないか。アレでもないコレでもないと投げられた紙がひらひらと舞う中、一行は思う。
 だが、そんな心配はなく、リュウヤは最後の一枚を手に取った瞬間、突然「はにゃ?俺何してたんだ?」ととぼけだした。

「リュウヤ殿、無事……でござるか?」
「ござるん?」
「……いや、俺は無事も無事。元気100倍よん?って、折角整頓した紙が散らばってんじゃねーか!」

 自分でした事を覚えていないのか、リュウヤは目や歯が飛び出る勢いで驚いた。勿論、飛び出たモノはしっかりと戻る。
 ──そういや、あの紙の束から異様な臭いを感じてから後の記憶がない。調べようとして、それで突然。
 リュウヤ自身、自分の胸に訊いてみるが、やはり振り返っても調べようと振り向いたその瞬間から、まるで記憶のフィルムを無理やり繋げたように、その“間”だけは思い出せなかった。
 だが、わかる事があるとすればただ一つ。なぜか今手に持っている紙が、大切なモノである事。ただそれだけだ。

「リュウヤ殿、疲れてるのではござらぬか?疲れが蓄積すると、自分でも気付かない、無意識状態に陥るでござるからな」
「ほらリューくん、どんぐりあげるから元気出し?」

 仲間の心配に感謝し、リュウヤは「サンキュな」と呟きながらナノのどんぐりを飲み込んだ。せんべいの要領で食べたが、木を食べているような、形容し難い味が口に広がる。きっとリス娘のナノの口には合うのだろうが、流石にリュウヤの口には合わなかった。
 だが、この形容し難いマズさのお陰で、少しは元気が出た気がする。リュウヤは気を取り直し、一発咳払いをした。

「えーっと、この紙は──」

 しかし、気の取り直しも虚しく、リュウヤの読み上げを遮るように、向かい側の部屋から派手な割れる音が響いた。振り返ると、白いマントのようなものを纏った男が、そそくさと部屋から逃げていくのが見えた。
 
「何奴!逃がしてなるものか!」
「ダーリン!アタシも行くぜ!」
「2人とも、あまり無理したらあかんからな〜」

 不審な男を目撃し、吾郎とアリーナの2人は武器を取り出して男を追いかけた。
 そして、残された3人は、向かい側に移動した。そこにはなんと、タクマ達がキャシーと出会った、本来の姫の部屋があった。それを見て、リュウヤは「あ!」と声を上げた。

「お前様、どうしたでありんすか?」
「やっべ〜間違えた!間取りも全部鏡映しって事は、こっちがホントの待ち合わせ場所だ〜!」

 リュウヤはショックを受けて跪く。しかし、その声は完全に落胆している訳ではなく、ちょっと間違えちゃったテヘペロ。的な感じで、柔らかいものだった。
 流石は和み担当、鏡世界の中でも平常運転だ。と、それより、キャシーがこの空間に居ないと分かった以上、もうこの空間に用はない。ただ、あの時逃げた黒い影が気になる。おタツは自分の頬を摘むように撫でて考えた。
 すると、リュウヤは突然「うおあーーーッ!」と大声を上げ、宙返りするおもちゃを参考にした動きで起き上がり、吾郎達の向かった方に走り去ってしまった。

「ちょ、リューくん!?どこ行くねん!」
「折角の鏡世界なんだ。どうせならド派手に楽しもうじゃあねぇかよぉ!」

 なんとも彼らしい気持ちの切り替えだ。どんな状況であれ、全てを全力で楽しむ。それが、リュウヤのいい所でもあり、悪い所でもあると言うのか。
 とにかく、リュウヤの言う通り、異世界もそうだが、それと同じくらい鏡世界も珍しい。この人っ子1人として居ないような物静かな世界を楽しむのも悪くない。そう考え、2人もリュウヤの後を追いかけた。
 すると、リュウヤはアリーナと吾郎を見つけるなり足を止めた。そして、

「あんびりーばぼー……」

 追い詰められた男の顔を見て、リュウヤに戦慄が走った。

『ったく、最悪のタイミングだ。めんどくせぇ』
「おいダーリン、この男のこと知ってんのか?」
「存ずるも何も、お主は……」

 ライオンのマスクを片手に、赤いマントに黒のタキシードを着た、絵に描いたような怪人の体。なんと、その男の顔は……
 ハルトマンの顔だったのだ。

「コピー使いの異世界探検記」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く