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コピー使いの異世界探検記

鍵宮ファング

第221話 シャルウィダンス?

「皆様、この度は遠方より遥々ご足労感謝致す。これよりカプリブルグ舞踏会の開催を宣言する」

 宴会場の奥、サージはステージ上から客を見下ろしながら、ワイングラスを掲げた。それに続いて、タクマ達もグラスを掲げた。
 吾郎とオニキス以外未成年であるためワインではなくそれっぽいブドウジュースだが、とにかくまず、ここは行動が起きるまで待つのみだ。

「それではこれより、ボールルームダンスに入ります。皆様、用意して」

 司会の男は皆にそう伝えた。しかし、初めて聞く言葉に、一行は止まる。
 すると、近くにいた貴婦人が、タクマに「シャルウィ・ダンス?」と声をかけてきた。

「お、俺でよろしければ」
「なるほど、社交ダンスって訳ね。タツ、やるか?」
「勿論。他の女に渡してたまるものですか」
「タツ姐、顔怖いで?」

 おタツは笑顔でリュウヤの手を取りつつ、リュウヤを狙っていた女に向かって蛇睨みを放つ。
 その一方、吾郎は貴婦人に囲まれ、メアはナノと手を取り合い、何故かアルプス一万尺をやっていた。いや何故知っている?
 と、そんな事はさておき、オニキスはツルツルの親父に絡まれていた。

「ねぇ君ぃ、お名前なんてーの?」
「オニキ……オニコです、わ」
「緊張してるねぇ。どれ、おじさんが君のコリを解してあげようか?」
「やめ、ぶっこ……困ります、わよ」

 やはり女装が似合い過ぎたのか、オニキスはタコのようにしつこい親父から逃げられない状態になっていた。
 しかし剣を出すことも出来ないし、仕方がない。オニキスは嫌々ながらも作り笑顔で親父の手を取った。
 それにより、ノエルが1人、取り残された。

「あら、私1人……」
「あの、じゃあ私と踊りませんか?」

 1人取り残され困っていると、1人の少女がノエルに声をかけた。水色のドレスを身に纏った、桃髪の少女だ。
 まさか彼女が例の?そう思い名前を聞こうとした。しかし、運悪くダンス開始の合図が流れ、声はかき消されてしまった。
 部屋の中に、穏やかな曲調の演奏がこだまする。令嬢のようにお淑やかなフルート、それを支える執事のようなチェロ、そして彼らに仕えるメイドのようなヴァイオリン。ダンス初心者でもなんとなくメロディが掴める優しい曲で助かった。

「ん?おい執事、アレ……」
「はいはい、なんでございましょ?」
「あの者、昨日我が城に来た薄汚い田舎者ではないか?」

 サージはタクマの姿を見て不信感を抱き、執事から双眼鏡を受け取る。その視線は、メアやノエル、最後にはオニキスの方にまで向いた。
 初めて見た時はただの田舎者だと思っていたが、アレはあくまでも仮の姿。こんな高価なドレスやスーツを着ていると言うのなら、どこかの貴族の出である事は間違いない。それに、もしかすれば旅人というのも表の話で、裏は勇者の一行なのかもしれない。
 そう考えれば考えるほど、なんだか彼らが欲しくなる。有り金を全て奪い取り、奴隷として使ってやりたい。そんな思いが沸々と上がり、ニヤケが止まらなくなる。

「まあ良い。次」

 サージは命令する。すると、命令を聞いた音楽隊は、突然曲調を早めた。突然の変更に、一同は一瞬戸惑う。中には、ついていけずに倒れる人も現れた。そこには、タクマも居た。
 だが、それを待ってましたと言わんばかりに、おタツとリュウヤは息のあった動きでノリに続いた。

「よくわかんねぇけど、乱舞使いの俺らにアドリブは付きモンってなぁ!ヨホホイ!」
「偶には洋楽、とやらも悪くないでありんすな」

 それに続いて、オニキスも相手の男を振り落とす勢いで凄まじい踊りを披露し、倒れたタクマの手を無理矢理引いた。
 しかし、不思議なことに、オニキスと激闘を繰り広げていた時の感覚が現れ、ノリに乗ることができた。まさか踊りも戦いと似ていると言うのだろうか?そう思いつつふとオニキスの顔を見てみると、彼は怒りの笑みを浮かべ、タクマを睨んでいた。

「テメェマジ覚えてろ?」
「お、おう。なんかごめん」

 タクマはオニキスのあまりの圧に、無意識に謝罪の言葉が出ていた。
 それから数分、皆が音楽にノレるようになった所で、余韻もなしに音楽が止められた。相変わらずサージ王女が何を考えているかは分からないが、次の演目に入るらしい。

「それでは皆様、これより食事の方に移らせていただく」
「おろ、これはまたいい香りがするでござる」
「踊りで腹も空いた所じゃし、良きタイミングじゃな」
「さて、私たちも食べます……あら?」

 ノエルは一緒に踊った相手の方を向くが、そこに少女の姿はなかった。きっと踊り終えたから、貴族の両親のもとへ帰ったのだろう。ノエルはそう考え、タクマと共に席に着いた。


 ──────
「α様、先日面白い奴を仕向けたと言っておりましたガ、彼の何処が面白いのですカ?」
『そうだねぇ。彼は普通の人間とは少し違う、と言ったところかな』
「少し違う?タダの怠け者にしか見えませんガ?」
『そこが良いんだよ。彼はね』
「?」

 Zはやはり頼んだ男が心配で仕方なく、αに大丈夫なのか訊く。怠惰の器といえ、怠け者に変わりはない。万一を考えれば、途中で面倒くさくなって仕事を放棄する可能性だって考えられる。ならいっそ、ちゃんと仕事のできる人間を呼ぶべきだ。
 ついでに、オーブをその辺の怠惰な奴に売り飛ばして怠惰の器にする事だって可能だ。なのにα様は何故こんな回りくどくかつリスクのある選択をしたのか。Zには理解できなかった。

『彼はどうしようもない怠け者、そんな奴に任せたのは確かにリスキーだ』
「では何故?」
『それは、私が見た中で彼が一番怠惰に近しいと睨んだからだよ。対象の念が強ければ強いほど、オーブに封じられた罪源の力を引き出せる』
「と言う事はつまり……?」
『彼は既に、タクマ君達を苦しめながら、怠惰の念を集めているよ』

 成程。頭の中がスッキリした瞬間、Zは無意識に手を叩き、笑い出した。
 流石はα様だ。天才と自負していた私が恥ずかしいくらい聡明なお方。私なんか到底足元に及ばないほど素晴らしい。
 そう思いαの背中を見ていると、αは扉を開け、そっと一歩踏み出した。その先は、何処かの屋敷の中庭に繋がっていた。

「α様、何方へ?」
『彼の様子を見てくる。信頼しているといえ、彼は怠け者だからね。しばく次いでに彼にも灸を据えてやろうかと』
「分かりまシタ。お気をつケテ」

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