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コピー使いの異世界探検記

鍵宮ファング

第215話 入城、カプリの城

 もう時期が秋に映ったのか、街はオレンジ色に変わった葉を持った木々でいっぱいになっていた。夏に来るとより一層最高なのだろうが、秋の港もこれはこれで悪くない。

「へぇ、ここがカプリブルグでありんすか。なんだかアコンダリアとは違う潮風が効いてて気持ちいいでありんすな」
「偶にはビーチじゃない方の海も悪くないかも。それに、ノエルのセーラー服がもうね」

 タクマは体を伸ばしつつ、カプリの潮風を体に染み込ませた。更に、ノエルのセーラー服姿がフランスを彷彿とさせるような世界にマッチしすぎていて、つい胸が熱くなりそうになる。
 出会ってからもう数ヶ月も経っているし、誰よりも先に男であるとCOされたとは言え、女の子にしか見えなくて辛い。しかも、彼の可愛さは自他共に認めているためか、露骨なあざとさも可愛く見えてしまう。
 と考えていると、突然鼻から血が垂れてきた。

「タクローおま、さてはノエチビの可愛さに惚れたな?」
「違っ、これはその……」
「良いんですよ?ほら、私とデートにヨーソロー、しちゃいましょ?」

 するとノエルは、タクマの腕に抱きつき、甘えた猫のように顔をスリスリと擦り付けた。しかし、気が立っていたノエルは、「それは後にせい」とメアに激しいチョップを落とされ、タクマから剥がれ落ちた。

「ちょっと、何するんですか!私のタクマさんを奪う気ですか?」
「第一お主のじゃない。それに、まず国に来たら、招いてくれた国王に挨拶するのが常識じゃろうが」
「そういえば。しかし、こんな平和そうな国なのに、何故キャシー殿は“助けて”と手紙を送ったのでござろうか」

 吾郎はリオから預かったキャシー姫の手紙を見ながら呟く。
 確かに、こんな細工をしてまで伝えるなんて事は普通あり得ない。仮に助けを求めるにしても、普通炙らないと隠れメッセージの出ないカードを送るくらいなら、夜逃げなり何なりでメルサバに行った方がよっぽど早い。
 しかしこうして送るという事は、きっと城内で出ることすらできない状況下に陥っているという事になる。

「カプリブルグの王様ねぇ、またゴルド皇帝みてーな高圧的な人じゃなけりゃあいいけど……ん?」

 リュウヤはゴルドで出会った例の皇帝を思い出し、震える演技をした。そしてその時、同時に店の裏の方に向かう貧相な服を着た何かを見た気がした。
 だが、リュウヤはきっとαの一件で変なもんを見てるんだと心に聞かせ、タクマと共に城へ向かった。

【カプリ城】
「止まれ、何用でここへ来た」
「えっと、俺……じゃなくて、私達はカプリブルグ舞踏会に招かれましたタクマと申します」
「タクマ?おい、知ってるか?」
「確か国王会談の際、アルゴ様やワンダ様が絶賛していたといって、サージ王女が試しに招くと言った男とその仲間の名だ」

 タクマは名乗り、証拠の招待状を見せた。
 すると、2人の兵士はタクマに背を向けて舞踏会出席表を取り出して確認をした。勿論、リストの中にはタクマ一行の名がしっかりと書かれている。
 しかし、本人とイメージが納得行かないのか、都会の美男美女集団の脳内イメージと目の前に立っている一行を何度も見つめる。

「なに見とん?ウチらの顔に、なんかついとるんか?」
「そうですよ。言いたいことがあるならはっきりと言ってください」

 なかなか入場の許可を下ろさず見つめる兵士たちに痺れを切らしたナノとノエルは、肩車をして接近した。
 するとしばらくして、兵士は「くれぐれも失礼のないようにな」と釘を刺し、門を開けた。

 ────一方その頃、αはと言うと……
『やはりリュウヤ君、彼はなかなかに面白い特性を持っている。興味深いよ、実に興味深い』

 真っ暗なアジト内の書庫、そこでαはカンテラを片手に古い本を探していた。それは、リュウヤがあの時召喚した謎の黄金の腕が何なのかを知るため。
 すると、偶然同じようにアジトの書庫内を歩いていたアルルと出会った。彼女も目的は違うが、書庫で本を探していたようだ。

「あ、α様だ!こんな所でどーしたの?」
『ちょっとね、昔懐かしい文献でも漁ろうかなと。アルルこそ、どうしてここに?』
「このレグルスって恋愛小説の最新刊探してるんだけど、なかなか見つかんないの」

 アルルは言い、小説の上巻を見せた。その表紙には、かつてラスターを蘇らせた少女ユリアの絵が描かれていた。
 そう、この作品はメルサバで上映されていた歌劇の脚本をノベライズ化した作品なのである。話を聞くに、ふとラスターと少女の事を思い出したために漁りに来たらしい。

『私の記憶が正しければ、この作品は残念ながら地震の際に原稿が消失してしまって下巻がないんだ』
「そんな〜、コレの結末見た事ないから楽しみにしてたのに〜」
『そう拗ねるな。代わりに今度、君が好きそうな本を買ってあげるから』
「ホント!?α様だーいすき!」

 αの優しさに触れたアルルは、拗ねて膨れた顔から一変し、硬い鎧の腕に抱きついた。相変わらず温もりを感じない鉄の腕だが、アルルはそれが好きで離さなかった。
 
『お、あったあった。殆ど掠れて読めないけど、きっとコレかもしれない』
「コ………ソ…………ン?なんも読めないよ?」
『それでいいんだよ。きっとここに、例の答えがあるかもしれないからね』

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