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コピー使いの異世界探検記

鍵宮ファング

第213話 秘めたる腕

「リュウヤさん、今のって……」
「もう俺らの負けでいい。だから、これ以上タクマや、皆を巻きまねぇでくれないか?」
「今更言うのもどうかと思うのは承知の上。しかしここはどうか、頼むでござる」

 リュウヤはタクマの肩を担ぎつつ、αに頼み出た。続いて、吾郎も頭を下げてお願いした。
 吾郎の言う通り、あの爆撃でメア達はダメージを負った。少ないとはいえ、大海原のど真ん中で深い傷を負ってしまうのは死も同然、もうその時点で7人は負けた事になる。それに、いくら治癒力の高いリュウヤも、彼の恐怖を知っている以上まともには戦えない。
 守る為なら自分の命を差し出したって構わない。吾郎はその覚悟を胸に秘めていた。

『……オーケイ。メルサバでやり合った仲に免じて、この辺にしておこう』
「めるさば?まさかリュウヤ、お主らあの時戦っておったのか!?」
「何で言わなかったんですか?」
「ごめん、話は後でする。だから今は許してちょんまげ」

 こんな状況であっても、リュウヤはブレずに笑顔でギャグを飛ばす。しかし、誰も笑わなかった。むしろ逆、笑えなかった。

「そんでアンファ、約束覚えてるよな?」
『忘れるはずはない。君達の質問に答える、だったね。何がいい?次の罪源の能力かい?それとも残りのオーブの在処かい?』

 αは訊く。色んな例を出していると言う事は、きっと何を訊いても良いという事なのかもしれない。
 そう思い、タクマは掠れた声をひり出して訊いた。

「α……アンタが、“魔王”なのか?」

 その瞬間、一行に戦慄が走った。
 だが、よく考えてみればそう思う点もある。行方不明だったオーブの出所は全てα経由だった。とどのつまり、オーブは全てαが持っていた事となる。残りの三つはまだ分からないが、在処を知っているという事はきっと、そういう事なのだろう。
 そもそもの話、彼がオーブを集めていた理由だ。もし彼がオーブを8つ集めていたとすれば、彼の力で魔王が封印されている筈。しかし、例の少年が「魔王が封印された」と口にした事は一度もない。罪源は予想外だったが、オーブを集める理由が魔王封印以外考えられない今、集めた意図が全く掴めない。
 
『フフフ、アーッハッハッハッハッハ!』
「な、何がおかしいでありんすか!」
「早よ質問に答えろ!」
『……どうだった?少しは魔王の風貌を出せたかな?』

 突然笑い出したかと思うと、αは何事もなかったかのように素に戻り、先程の笑い声の感想を訊ねた。しかし、誰も良いとも悪いとも言わなかった。言わずもがな、全く関係のない話なのだから、仕方がない。
 すると、滑った事に気付いたαは、ううんと咳払いをし、『答えはNOだ』とやっと返答した。

『確かに、こんな身なりでこれ程までの力を持っていれば、魔王と間違うのも無理はない。しかし、残念ながら私は魔王ではない。まして、魔王を封印した事もない。とどのつまり、君達の目標である魔王はまだ生きている』
「魔王が、生きてるじゃと?」
『あぁ。ただ、その居場所までは知らないがね。私はZ達の総統だが、全知全能のデウスではないのでね』

 そう言うとαは、時空を割いてワープゲートを作り出した。そして、そこからタクマ一行の新しい服や、舞踏会に相応しい正装を取り出した。どれも新品のようだ。
 
「おっちゃん、何のつもりや?」
『手合わせをした礼だ。遠慮しなくて良い。それと……』
「まだ何かあるって言うんですか?」
『コイツも渡しておこう。ついでにコレも、私には必要ない。楽しかったぞ』

 最後に、αは赤と青の宝玉をリュウヤに渡し、奪った宝石も投げ返した。すると、奪われた能力達は持ち主の体の中に入り込んだ。

(それにしても、あの光の腕。あの腕は一体何だったのだ?実に興味深いよ、リュウヤ君)

 残った疑問をお土産に、αはゲートの奥に消えた。すると、不思議なことに穴が開いていた床や壁が戦闘前の状態に戻った。勿論、タクマの吹き出した血痕も、綺麗さっぱり消えていた。


 ──それから数時間後。

「どうして話さなかったのじゃ!重大な情報じゃろうが!」
「メア、きっとリュウヤにも事情があったんだ。落ち着いて」
「落ち着いてられるか!大体、リュウヤから奴の情報を聞いていれば今頃──」
「いや、変わんねぇよ」

 言い合っていると、アリーナは2人の間に入って意見を呟いた。

「アイツからはマジにヤベェ臭いがした。血とか鉄の錆びた臭いなんて生易しいもんじゃあねぇ、情も心もねぇ、無惨かつ残虐な臭いだった。きっとありゃ、手加減してたんだ」
「手加減してアレって事は、本気を出したら私達は……」

 ノエルは震えた声で訊いた。アリーナはその問いに対し、黙って頷いた。きっと骨も遺さずに殺される。そう言いたかったが、それよりも恐ろしい事をされるような気がして、口にするのも怖かったのだ。
 現に、吾郎の天照を食らった時点で、体をバラバラに引き裂かれていてもおかしくなかった。それくらい、αは強い。強かった。

「それでリューくん、何で言えなかったん?」
「怖かった。教えたら、また襲われちまうってーか、ずっとアイツに監視されてる気がして……ごめん!」
「ウチも、同じ気持ちだったでありんす」
「右に同じく。本当に、申し訳ない」

 3人は深く頭を下げる。一度戦った事があるからこそ、トラウマになってしまったのだろう。あのリュウヤが、おちゃらける余裕を失くす程となれば、相当だろう。
 奴に付けられた傷が、今も痛む。これはトラウマになる気持ちも分かる。

「そうじゃったのか。気持ちを汲んでやれなくてごめんなのじゃ」
「別に、リョーマ達が悪い訳じゃない。だから、そんな気にすんなって」
「それに、こうしてドレスを持ってきてくれたと言う事は、きっとカプリブルグにオーブがある筈です!」

 メア達は、リュウヤ達を励ました。すると、さっきまで落ち込んでいたリュウヤは、突然「おうし!落ち込みタイム終了ー!」と立ち上がった。
 そして、鉢巻を頭に巻き、桶や屋台を引っ張り出し、寿司作りの準備を済ませた。あまりの立ち直りの速さに、吾郎とおタツも驚く。
 だが、リュウヤは軽々しく謝った訳ではない。しっかりと自分の非を認めているし、反省もしている。リュウヤがそう言う奴だと言う事は、もう誰もが知っているから、怒ろうとする人は誰もいなかった。

「よし、じゃあ皆!船上寿司パ始めんぞ!」
「わーい!お寿司お寿司ー!ウチサバ食いたい〜!」
「やれやれ、2人は本当に仲良しこよしじゃな」

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