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コピー使いの異世界探検記

鍵宮ファング

第212話 戦船

「乗ったよ、αさん」
「タクマさん、分かってるでありんすか?相手は……」
「タツ、俺も、同じ気持ちだ。ホントは嫌だけどよ」

 続けて、フリーズしていたリュウヤも話に乗った。しかし、ただ完全に飲み込んだ訳ではなく、タクマは「その前に約束してくれ」と条件を突きつけた。
 その条件と言うのは、絶対に殺さない事。そして、結果はどうあれ、約束通り手合わせの礼として情報を提供する事の二つだった。
 それを聞いたαは、それを愚問だと嗤ったが、すぐに『よろしい。友達の約束は守るよ』と返答した。

『では始めようか。来い』
「う、うらぁぁぁぁぁ!!」

 αが勝負開始の合図を出すや否や、真っ先にタクマが突撃した。それに続いて、リュウヤ、ナノと出る。
 しかし、αは右腕を盾のようにしてタクマの剣を防ぎつつ、リュウヤの刀をぬらりと避け、ナノのハンマーを人差し指一つで止めた。
 その隙を狙ってメアとおタツの連携でナイフを投げるも、αは瞬間移動でその場から消え、投げられたナイフを投げ返した。だが、それは吾郎の居合斬りによって全て真っ二つになった。
 
「気をつけるでござる。彼奴、隙がない」
『どうした?君達の力はこんなものではないだろう?』
「んだとテメェ!アタシの事ナメてっといてこますぞゴラァ!」
「貴方には迷惑してるんですよこっちは!《メガ・フリズ》!」

 アリーナはワイヤーの付いたサーベルを振り回し、ノエルは氷魔法で身動きを封じようと動いた。だが、その抵抗も虚しく、炎魔法で対抗されてしまった。
 そして、『はっ』というやる気のなさそうな掛け声と共に、斬撃の混ざった風が吹き荒れた。

「っ!くそう、行くぞナノちゃん!〈剣崎流・いちょう切りの乱〉!」
「オーケイ!〈マムート・プレス〉!」

 風の斬撃に対抗すべく、リュウヤは風の力を宿した技で押し返そうと試みた。どこからともなくいちょうの葉を巻き込んだ風が巻き起こり、リュウヤを守る鎧のようにαに立ち向かった。
 だが、αの斬撃の方が一枚上手なようで、いちょうの葉が舞う風の鎧は呆気なく破壊されてしまった。しかし、それを想定していたリュウヤの計らいで、ナノのハンマーが火を噴いた。

「今だ!〈炎閃の剣〉!」
「〈秘術・皇〉!」
「〈朧隠忍法・折り鶴の舞〉!」

 ナノの攻撃を受けた所を狙い、タクマ、メア、おタツの順で一気に畳みかけた。
 それらは、ナノの攻撃によって怯んだαに全弾命中した。更に、最後におタツの爆散手裏剣が爆発し、αの姿が見えなくなった。

「や、やりました……か?」
「粋がってたくせに、口ほどにもなかったな」
「待て。まだ終わってないでござる!〈天照・陽炎の──」
『《アビ・ティール》』

 吾郎が抜刀の構えをしたその時、爆炎の中から真っ黒な糸が飛び出した。そして、それは吾郎の体を貫き、体内から赤い宝石を抜き取った。
 それを見た瞬間、リュウヤの動きがまた止まった。と思うと、今度は爆炎の中からまた声が聞こえて来た。『天照・陽炎の太刀』と。

「そうだ……コイツは……」
「そんな、あれだけ食らって生きておるじゃと!?」
「ふ、不死身なんかこのおっちゃん!」
『うーむ、それは少し違うかな?〈王手〉』

 後ろから声が聞こえる。しかし、振り返ろうとした刹那、目の前がモノクロ写真のようになり、ハサミでまばらに切り裂かれる錯覚に陥る。そして気がつくと、体が宙に舞い、全身に切れ込みを入れられたような激痛が走った。
 これこそ、吾郎の必殺技 天照。吾郎以外使えない筈なのに、何故奴が?

『これが私の特殊能力、アビ・ティールだ。相手の能力を宝石として抜き取り、力を使うことができる』
「テメェ、ダーリンによくも!〈ウェーブ・クライシス〉!」
「アリーナ!」

 吾郎を痛めつけられたアリーナは、海水をサーベルに呼び寄せ、大きな波の一撃を放った。しかし、αは吾郎の技〈雲雀の一太刀〉を用いて波を断ち切った。
 
『これもまた面白そうな技だ。《アビ・ティール》』
「ぐっ!うわぁっ!」

 アリーナの体から、青色の宝石が飛び出す。αに能力を奪われてしまったのだ。
 するとαは早速、海水を刀に呼び寄せた。

『ウェーブ・クライシス』
「くそっ!ナメてんじゃねぇぞ!〈ウェーブ……っ!?」

 しかし、アリーナがもう一度使おうとしても、何も起こらなかった。それとは対照的に、αはウェーブ・クライシスで全体に追い打ちを仕掛けた。

「そんな、アタシの技が、使えなくなってる……?」
『言ったでしょう?私は相手の技を“奪う”ことができると。勿論、それは“魔物”も例外ではない』

 言うとαは、隠し芸を披露するかのような手つきで赤い蜘蛛の糸を指から放出した。そして、その糸で崩れた木の板をぐるぐる巻にしたかと思うと、今度は指を鳴らして火をつけた。
 すると、瓦礫は爆弾同然の威力で爆発し、タクマ達を吹き飛ばした。

「キャアッ!」
「α、お前その技ってまさか……」
『色欲の罪源、ラスターの能力だ。そうだね、《エクスレッド》とでも言っておこうか』
「ったく、流石はアルルちゃんの彼氏サンだこと。赤い糸で結ばれてますってか?」
「いや、問題はそこじゃないでござる。お主、何故彼奴等の技を!?」

 吾郎は仲間達を守るように刀を構えつつ、αに訊いた。するとαは、腕の装甲の一つを剥がし、そこに埋め込まれた宝石を見せた。
 そこには、タクマ達が今所持しているオーブ──青、紫、桃、赤、黄──の5色が埋め込まれていた。更に、これから入るであろう三つの窪みもあった。

『罪源はまだ私にとっても未知の存在。それ故、研究の為に抜き取っておいたのさ。さて、次はどれを試したいかな?』
「ふざけるな!テメェが生き返らせたくせに、なんて非道いことを!」
「タっくん……」
『非道い?君からしたら非道いかもしれないが、君達に害を加えてくる相手なのだし、別に良いだろ?これも因果応報って奴だ』

 仲間を蔑ろにする態度に腹を立てたタクマに対し、αは悪びれる様子を見せずに反論した。確かに彼らも、これまでして来たことを見れば許されない。許してはならない。
 だが、そんな彼らを利用する為だけに復活させ、使い古したら即切り捨てるαの腐った精神が、どうしても許せなかった。
 その怒りから、タクマはαの首に剣を突きつけた。しかしαは、手を挙げながら『野蛮だねぇ』と呑気に返した。

「俺はアンタを許さない!部下を思いやれないお前は、絶対に!」
「よせ!よすんだタクロー!コイツはヤベェ、アンタもコピー奪われんぞ!」

 アリーナは叫ぶ。しかし、タクマには声が届かず、2人は一騎討ちを始めた。
 
『おや、おっと、これまた』
「お前にとって、罪源は何なんだ!」
『私にとって罪源、もとい部下は家族同然だ。それが死んだ時、使えそうな遺品を引き継いで使っているまで。それの何が悪い?』

 αはタクマの斬撃をのらりくらりと避けながら語る。そして、タクマの隙を突いて顔面を殴り、柵に激突した所に幹竹割を繰り出した。しかしタクマは、刃が鼻の頭に来るコンマ3秒前に柵の上で回転し、逆に回転斬りでカウンターを仕掛けた。
 しかし、更にその裏を書いていたαは、腕で剣を防ぎ、タクマに一撃を入れた。服が切り裂かれ、血が滴り落ちる。だが、傷は紙で指を切った時のように、地味に痛みを感じるのみで、重症にはなっていなかった。

「じゃあ、その家族を復活させる為なら、何も知らない人達や他国民を誑かしたり、危険に晒してもいいと言うのか!」
『生憎私は感情が欠落してしまっていてね。彼らを甦らせるには、器を使わなければならないのだよ。仕方のないことさ』
「アンタって奴は、どこまで落ちぶれた事を言えば気が済むんだ!」

 タクマは怒りの力を剣に宿し、αへ反撃の一撃を与えた。そして、打ち合いの末、もう一発鎧に損傷を与える事に成功した。
 今がチャンス!そう感じたメアは、おタツに指で合図を出し、奇襲の準備を仕掛けた。だがその時、突然タクマ以外の体に重力がかかった。その重みは、修行の際に受けた重力地震と同じだった。
 今戦っているタクマ以外は絶対に来るな。αにそう釘を打たれたような感覚に陥る。

「リュウ!皆!」
『これはなかなか利いたよ。しかし、コイツには耐えられるかな?』
「っ!来る!」

 αは体勢を肉食獣を思わせるものにした。
 側から見ればただふざけているようにしか見えない。だが、αの場合、至って真面目だ。感情がないとはとどのつまり、おふざけ等がないと言うことになる。
 そして今度は、αが先に攻撃を仕掛けて来た。

「《閃の剣》!」
『〈獰猛剣・猪突斬鉄〉』

 2人は互いに技を繰り出し、ぶつかり合った。しかし、猪のような低い姿勢の剣撃には対処出来ず、タクマは敗れてしまった。
 周囲にタクマの血液が飛び散り、吾郎の前に墜落した。

『おや、少しやりすぎた。それで、次は誰が来るのかな?』

 αは刀の血を振り払い、次の獲物を見つめた。そして、何も考えてなさそうな声で『だ、れ、に、し、よ、う、か、な』と、指を差していった。

(やめろ、頼む。もう、やめてくれ。俺たちの負けでいい。だから……)
『い、う、と、お、り。おお、次はそこの黒ドレスの少女か。君はどんな隠し芸を持って──』
「やめろーーーーーー!!」

 リュウヤが叫ぶ。すると、リュウヤの背中から、龍の腕が現れ、αに痛恨の一撃を与えた。
 その腕は、黄金色に輝いており、神々しくも感じた。しかし、気がついた頃には、その腕は消えていた。

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