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コピー使いの異世界探検記

鍵宮ファング

第211話 ペルドゥラスへの航海

 次の日、タクマ一行は早速ペルドゥラスに向かうべく、船に乗った。だが、この船に金は一銭も払ってはいない。つまりタダだ。
 それもその筈。この船は海賊船、アリーナの船だからだ。その証拠に、アリーナは舵を切り、ダーリンである吾郎は半裸サングラスで体を焼きながらトロピカルジュースを飲んでいる。
 しかし、タダの代わりなのか、何故か残りの6人は掃除をさせられていた。
 
「ぬぁー!何故妾達がこんな事をしなきゃならぬのじゃー!」
「まぁまぁメアさん。偶には掃除をするのも悪くないですよ?」
「ノエルちゃん、その可愛い服を着てからと言うものルンルンでありんすな」

 女子陣がぼやく中、ノエルはウッキウキでスカートを踊らせながらモップがけをする。丁度本物のセーラー服があったため、拝借したのだ。
 いやしかし、こうしてみると本当に可愛い。女の子にしか見えない。だが男だ。
 けど、元気が湧いてくる。

「にしてもアリちゃん、改めて見るとホントにいい船持ってんじゃあねぇの。15歳かホントに?」
「あたぼうよ!アタシは正真正銘の15歳だい!因みにこの船は掻っ払ったし、操舵免許は10歳で会得してるぜ」

 言うとアリーナは舵輪から離れ、リュウヤ達にギルドカードを見せた。そこには、小さく『船の操舵を許可する』と言った事が書き込まれていた。もしかすると彼女、相当の天才なのかもしれない。
 それにしても、ノエルの言う通り偶には掃除をするのも悪くない。天気もいいし、潮風も気持ちいいし、そろそろ昼時で和食も食べられるし、最高だ。

「タっくん、皆ー!見て見てー!」

 するとその時、ナノがモップを置いて海の方に身をより出した。何だろうかと振り返ると、そこでイルカが気持ちよさそうに並走していた。
 可愛らしくキューキュー鳴いている。ナノはそれに対しうんうん、と相槌を打っている。どうやらイルカの言葉もわかるらしい。

「おろ?ナノ殿、イルカ殿は何を話してたでござるか?」
「うんとね、これから何処行くんですか〜?やと。せやから、ペルドゥラスに行くって話しとんの」
「へぇ。こうして話し合えると、もっと可愛く思えますね」

 ノエルは言いつつ、イルカに手を振った。するとイルカも、手を振っているのかヒレをパチパチと鳴らして返した。
 しかし、イルカは突然恐怖に怯えた声を上げ、海の底に隠れてしまった。

「っ!曲者、そこに居るのは分かってんぜてゃんで……」
「貴殿は!何故ここに!」

 振り返ると、なんとそこにはαが立っていた。しかも、さっきまで寛いでいたかのように、吾郎の椅子の前に。
 更に、普段陽気なリュウヤも珍しく、αの姿を見た瞬間フリーズし、冷や汗を流していた。それはまるで、蛇に睨まれた蛙のよう。
 
『おっとこれはこれは。丁度海の上にいい船が浮かんでいたものでね。やはり君達のものだったか、リュウヤ君』
「お、お主!何奴じゃ!何をしにここへ来た!」
「動くな!動いたら、動いたらウチのハンマーでしばくで!」
『こらこら皆、そう怖い顔をするものではないよ?遊びに来た友達に嫌な顔をしてたら、友達をなくすよ?』
「う、うるさい!貴方様を友達だと思ったことなど一度もないでありんす!それに大体……」

 おタツが反論している途中、αはそっと右手を上げ、人の首を掴むように角度を変えた。すると、おタツは苦しそうに首を抑え、悶え始めた。どう言うわけか、遠隔からでも攻撃ができるようだ。
 だが、おタツが攻撃されていても、リュウヤは冷や汗を流したまま動かなかった。しかし、近付こうとしているのか、足はゆっくりと動いている。

「おタツさんを、離してください!うらぁぁぁぁぁ!!」
「ノエチビ!何してんだ!」

 ノエルは拳を固め、αに殴り込んだ。このままではおタツが殺されてしまう。
 しかし、αの半径1メートルに入った瞬間、おタツが解放され、αは軽い身のこなしで拳を避けた。激しい音と共に、床が凹む。

『おおこわいこわい。何故そんなに怒るんだい?私はちょっと遊びに来ただけと言ったろう?』
「ざけんな!親友の嫁の首絞めといて怒らねぇ奴がいるか!」
「タクマ落ち着け。彼奴、何をして来るか分からぬぞ」
『そういえば君は確か、巷で噂の男の娘アイドル・ノエちんだったか。こんな所で会えるなんて光栄だよ』

 αは先程までの攻撃的な態度と打って変わり、紳士のようにノエルの手を取った。
 対して、姫のように立ち上がったノエルは、スカートの埃をほろってタクマの後ろに隠れた。その間も、リュウヤは動かなかった。

『初めましての方々は初めまして。私はα、Zやアルルの保護者的存在だ』
「保護者ァ?んな事ぁどうでもいい、アタシは名前覚えんの嫌いだからよぉ。それより目的の方を聞かせてもらおうか」
『目的?何度言わせたら気が済むのかは知らないが、私は遊びに来たのだよ。なに、無駄な殺しは嫌いだからしないさ』

 そう答えると、αは何もない空間から剣を取り出した。聖堂騎士団の団員が使うような、白銀の剣がキラリと光る。
 どうするべきか。戦ったとしても、戦わなかったとしても、酷い目に遭う未来しか見えない。リュウヤのフリーズがその全てを物語っている。
 あのどんな相手に対してもおちゃらけた態度を取るリュウヤだ。彼がここまで恐怖心を覚えると言う事はきっと、そう言う事だろう。

『全員でかかって来たまえ。そして、私に罪源の仮面を退けし力を見せてくれ』
「……分かった」
「タクマ殿、何を!」
『そう来ると思ったよ』

 その時、タクマはαの話を飲み込んだ。

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