コピー使いの異世界探検記
第207話 優しい心
──一方その頃、オニキスはと言うと、これまでの自分と別れを告げる事を報告するため、キング一家の墓に来ていた。
怒りの爆風で蝋燭立てなんかが倒れていたが、それでもお供えした酒だけは割れる事なく寝転がっていた。まるで起こしてくれとでも言うように。
「すまねぇな。折角の酒倒しちゃって」
オニキスは両親に言いながら酒を立て直した。
「俺、また一からやり直そうと思うんだ。ずっと親父達の復讐ばかり考えてたけど、やっと分かったからさ。本当に欲しいものが」
しかし、どれだけ話しても墓は何も答えてくれない。当たり前だ。でも、今こうして話でもしてないと、泣き崩れてしまう。
それもこれも、あのバカタクマの甘すぎる懐の広さのせいだ。オニキスは歯を食いしばって涙を我慢し、何故かタクマを恨んだ。
すると、遠くの方から誰かの歌声が聞こえてきた。心地いい音色、今にも眠ってしまいそうだ。
「ったく、こんな日に呑気な野郎だぜ。確かに日の出だけどよぉ」
オニキスは、自ら引き起こした騒ぎの後でも歌える肝を持つ者を馬鹿にしながら、懐中時計を開いた。あの日ワトから貰った親友の証、2年ぶりに開けた気がする。
中には謎の“写真屋”と名乗る男が撮影してくれた二人の写真が貼られている。もう、この日には戻れない。
そう思っていた時、オニキスの耳元で誰かが『そんなことはない』と声をかけた。
「誰だ!?」
『オニキス、いい友達を持ったじゃあないか』
『あなただけを残しちゃって、辛かったでしょう?』
「う、嘘だろ……そんな……」
なんと、死んだはずの両親が目の前に立っていた。夢でも見ているのかと瞬きをするが、ちゃんとそこに両親は居た。
父のラピスと、母のエメラだ。
「父さん、母さん。もしかしてずっと……?」
『えぇ。お母さん、ガラに殺されたあの日からずっと、オニキスを見てたわ』
『本当は喧嘩が嫌いだったのに。あんなに変わってしまうとは思わなかったけどね』
「そんな、じゃあ俺は……今まで2人に……」
今まで2人に心配を掛けていた。そう言いたかったが、2度と会えない両親との再会に言葉を失い、涙で詰まってしまった。
泣くなと言い聞かせても、まるで決壊したダムのように涙が流れてしまい、止められない。
すると、その先の言葉を察した2人は、ゆっくりと首を横に振り、オニキスの名を呼んだ。
『でもお前は、どっちに転んでも優しさだけは変わらなかったじゃあないか』
「俺が……優しい?」
『負けた人に薬をあげて、来ちゃいけない所に来た子を連れ戻して、死にそうな子を助けたり。本当に悪い人なら、そんな事しないわ』
そうだ、全部覚えがある。戦った後は薬を残した。タクマがイカれ野郎のアジトに来た時は連れ戻した。そして、タヌキ娘達を助けてやった。勿論、魔力使い切ったら死ぬなんてのは嘘っぱちだが。
無意識的に迷惑としてやっていたが、まさかそれが優しさだったなんて。タクマみたいで腹が立つ。
まさか、あのバカと一緒に居たせいで蘇っちまったのだろうか。いや、そんなバカな話はない。
けど、不思議と嫌な気はしなかった。腹立ってる筈なのに、何故か腹立たしさが馬鹿馬鹿しく思える。
「父さん、母さん。俺、何か分かってきたわ。これからの在り方って言うのかな?そんなのが」
『おう、その心意気だな。ここまで来れば、もういいだろう』
ラピスが言うと、2人の体が神々しく輝き出した。そして、お迎えしますよと言うように、天への階段が現れた。
未練──オニキスの成長を見届ける──がなくなったため、行かなくてはならない。それが善き死者の特権であり、ルールでもある。それは、誰にも変えられない。
「待ってくれ!まだ、まだ話を!」
『これでお別れね。でも安心して、お母さん達はいつも、オニキスを見守ってるからね』
「お願いだ!俺を、俺を置いてかないでくれ!」
『じゃあな。お前の人生に、幸あれ』
「……あぁ、ありがとな。父さん、母さん」
どれだけ子供のように泣き喚いても旅立ちを止める事はできない。そう思いながらも何度か叫んだが、オニキスは諦めて追いかける足を止めた。
ここに留めてはいけない。ちゃんと、行くべき所へ行かせてあげる。それが、家族として、最後にしてやれる事なんだろう。
そう胸に抱き、オニキスはそっと2人に手を振った。そして、2人が消えた後、崩れるようにして泣いた。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「オニ、やっぱりここに居たんだね」
最悪だ。格好悪い所をワトに見られた。
オニキスはパッと体を動かし、ワトソンに顔を見られないよう背を向けた。ワトソンは、バレてるのに強がる姿が面白かったのか、フフッと笑った。
「……な、なにがおかしい」
「やっぱりお前、あんな事してても本質は変わんないんだなぁって」
「俺はもう変わった。あの頃の優しい俺は、もう居ない」
「そんな事はないよ。お前はお前だって、信じてたから」
「理由になってねぇぞ?」
オニキスに指摘され、ワトソンは歯切れ悪そうにぐぅと文字通りグゥの音を出す。だが、その後にまた笑みを溢し、オニキスの手を取った。そして、彼の手に何かを握らせた。
開いてみると、中から花柄の鍵が顔を表した。
「お前これ、もしかして」
「君が帰るべき場所の鍵だ。いつか来るこの日の為に、買ったんだ」
「……そうか。それは迷惑、かけたな」
オニキスは、ワトソンの肩に手を置き、間を開けてから「ありがとう」と礼を言った。
そして、背中を向けて朝日の登る方に歩いて行った。
「お、おい!どこ行くんだよ!」
「この2年間と、今日のケジメを着けに行く。お前らのお陰で、日向の道を歩けるようになったからな。その手続きだ」
そこまで言うと、オニキスは歩みを止めた。そして、ワトソンの方を振り向き、涙を流しながら「だから今度、また前みてーに酒でも飲もうや」と、優しさを取り戻した笑顔を見せた。
ワトソンも、復活した彼を見て「待ってるからな」と返答した。
怒りの爆風で蝋燭立てなんかが倒れていたが、それでもお供えした酒だけは割れる事なく寝転がっていた。まるで起こしてくれとでも言うように。
「すまねぇな。折角の酒倒しちゃって」
オニキスは両親に言いながら酒を立て直した。
「俺、また一からやり直そうと思うんだ。ずっと親父達の復讐ばかり考えてたけど、やっと分かったからさ。本当に欲しいものが」
しかし、どれだけ話しても墓は何も答えてくれない。当たり前だ。でも、今こうして話でもしてないと、泣き崩れてしまう。
それもこれも、あのバカタクマの甘すぎる懐の広さのせいだ。オニキスは歯を食いしばって涙を我慢し、何故かタクマを恨んだ。
すると、遠くの方から誰かの歌声が聞こえてきた。心地いい音色、今にも眠ってしまいそうだ。
「ったく、こんな日に呑気な野郎だぜ。確かに日の出だけどよぉ」
オニキスは、自ら引き起こした騒ぎの後でも歌える肝を持つ者を馬鹿にしながら、懐中時計を開いた。あの日ワトから貰った親友の証、2年ぶりに開けた気がする。
中には謎の“写真屋”と名乗る男が撮影してくれた二人の写真が貼られている。もう、この日には戻れない。
そう思っていた時、オニキスの耳元で誰かが『そんなことはない』と声をかけた。
「誰だ!?」
『オニキス、いい友達を持ったじゃあないか』
『あなただけを残しちゃって、辛かったでしょう?』
「う、嘘だろ……そんな……」
なんと、死んだはずの両親が目の前に立っていた。夢でも見ているのかと瞬きをするが、ちゃんとそこに両親は居た。
父のラピスと、母のエメラだ。
「父さん、母さん。もしかしてずっと……?」
『えぇ。お母さん、ガラに殺されたあの日からずっと、オニキスを見てたわ』
『本当は喧嘩が嫌いだったのに。あんなに変わってしまうとは思わなかったけどね』
「そんな、じゃあ俺は……今まで2人に……」
今まで2人に心配を掛けていた。そう言いたかったが、2度と会えない両親との再会に言葉を失い、涙で詰まってしまった。
泣くなと言い聞かせても、まるで決壊したダムのように涙が流れてしまい、止められない。
すると、その先の言葉を察した2人は、ゆっくりと首を横に振り、オニキスの名を呼んだ。
『でもお前は、どっちに転んでも優しさだけは変わらなかったじゃあないか』
「俺が……優しい?」
『負けた人に薬をあげて、来ちゃいけない所に来た子を連れ戻して、死にそうな子を助けたり。本当に悪い人なら、そんな事しないわ』
そうだ、全部覚えがある。戦った後は薬を残した。タクマがイカれ野郎のアジトに来た時は連れ戻した。そして、タヌキ娘達を助けてやった。勿論、魔力使い切ったら死ぬなんてのは嘘っぱちだが。
無意識的に迷惑としてやっていたが、まさかそれが優しさだったなんて。タクマみたいで腹が立つ。
まさか、あのバカと一緒に居たせいで蘇っちまったのだろうか。いや、そんなバカな話はない。
けど、不思議と嫌な気はしなかった。腹立ってる筈なのに、何故か腹立たしさが馬鹿馬鹿しく思える。
「父さん、母さん。俺、何か分かってきたわ。これからの在り方って言うのかな?そんなのが」
『おう、その心意気だな。ここまで来れば、もういいだろう』
ラピスが言うと、2人の体が神々しく輝き出した。そして、お迎えしますよと言うように、天への階段が現れた。
未練──オニキスの成長を見届ける──がなくなったため、行かなくてはならない。それが善き死者の特権であり、ルールでもある。それは、誰にも変えられない。
「待ってくれ!まだ、まだ話を!」
『これでお別れね。でも安心して、お母さん達はいつも、オニキスを見守ってるからね』
「お願いだ!俺を、俺を置いてかないでくれ!」
『じゃあな。お前の人生に、幸あれ』
「……あぁ、ありがとな。父さん、母さん」
どれだけ子供のように泣き喚いても旅立ちを止める事はできない。そう思いながらも何度か叫んだが、オニキスは諦めて追いかける足を止めた。
ここに留めてはいけない。ちゃんと、行くべき所へ行かせてあげる。それが、家族として、最後にしてやれる事なんだろう。
そう胸に抱き、オニキスはそっと2人に手を振った。そして、2人が消えた後、崩れるようにして泣いた。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「オニ、やっぱりここに居たんだね」
最悪だ。格好悪い所をワトに見られた。
オニキスはパッと体を動かし、ワトソンに顔を見られないよう背を向けた。ワトソンは、バレてるのに強がる姿が面白かったのか、フフッと笑った。
「……な、なにがおかしい」
「やっぱりお前、あんな事してても本質は変わんないんだなぁって」
「俺はもう変わった。あの頃の優しい俺は、もう居ない」
「そんな事はないよ。お前はお前だって、信じてたから」
「理由になってねぇぞ?」
オニキスに指摘され、ワトソンは歯切れ悪そうにぐぅと文字通りグゥの音を出す。だが、その後にまた笑みを溢し、オニキスの手を取った。そして、彼の手に何かを握らせた。
開いてみると、中から花柄の鍵が顔を表した。
「お前これ、もしかして」
「君が帰るべき場所の鍵だ。いつか来るこの日の為に、買ったんだ」
「……そうか。それは迷惑、かけたな」
オニキスは、ワトソンの肩に手を置き、間を開けてから「ありがとう」と礼を言った。
そして、背中を向けて朝日の登る方に歩いて行った。
「お、おい!どこ行くんだよ!」
「この2年間と、今日のケジメを着けに行く。お前らのお陰で、日向の道を歩けるようになったからな。その手続きだ」
そこまで言うと、オニキスは歩みを止めた。そして、ワトソンの方を振り向き、涙を流しながら「だから今度、また前みてーに酒でも飲もうや」と、優しさを取り戻した笑顔を見せた。
ワトソンも、復活した彼を見て「待ってるからな」と返答した。
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