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コピー使いの異世界探検記

鍵宮ファング

第205話 本当の死神

 そうだった。コイツは人の能力をパクる力を持っていたんだった。しかも、クリムゾンも使えた事を。怒りですっかり忘れちまったようだ。
 だがコイツは馬鹿なのか?オレと向かい合ってクリムゾンを使うなんざぁ、自殺に等しいぞ。なのに使った。やはりワトの野郎との約束が大事らしい。

「オニキス、目を覚ましてくれ!」
「うるせぇ!オレはとうの昔から目を覚ましている!そして全てを恨む決断をした!」
「お願いだ、お前はそんな奴じゃなかっただろ!」

 タクマは赤黒く染まった剣を振り、オニキスに問いかけた。
 今更それが何だと言うんだ?昔のオレは昔のオレ、そんなものは昨日が終わる日に死んだ。信じられるのは昨日のオレでも誰でもない、今この時を生きるオレと強さだけだ。

「オマエの方こそ、みんな救えるなんて正義ヅラしてる心をへし折ってやるよ!」
「違う!確かに正義ヅラかもしれないけど、それでも俺は助ける!アンタも、助けてやる!」
「減らず口を叩きやがって!最強を超えた俺に、勝てるものか!」

 腹立たしい。ワトの野郎と居たって事はオレが正義を嫌ってる事くらい聞いたはずだ。なのに、なのに何故オレの前でそんな事が言える!
 腹が立つ、腹が立つ、腹が立つ!俺を怒らせるな!

「最強?」
「そうだ!オレは最強狩りから生まれ変わった!このクソみてぇな国をぶっ壊す、復讐の死神になぁ!」
「だったら、だったらッ!」
「だったら何だァ!!」
「そんなおもちゃに、魂、売ってんじゃあ、ねぇーーーーッ!!」

 なんと、タクマは無意識のうちに《クリムゾン・クロー》を発動し、オニキスを斬り上げた。更に、一瞬だけ赤黒かったクリムゾンが白金色に変わった気がした。
 コイツ、いつの間に《クリムゾン・クロー》を?確かにクリムゾンは今も使っている。だが、クローは1発も撃っていない。まさか、あの一瞬で技を覚えたのか?
 いや、そんな筈はない。このオレがクリムゾンをモノにした時は異常レベルで覚えたが、αが言うに、普通は血を使う為、マスターする前に死ぬから使い手は現れないと聞いた。こんな真似以外取り柄のない奴に瞬間習得なんかできっこない。

「……テメェ、なかなかやってくれんじゃあねぇか」
『もう、やめにしてくれ』

 とその時、脳内に直接誰かの声が聞こえてきた。聞き覚えはある。だがタクマでもなければ、ワトソンでもない。
 ッ!?何だ、誰だ!オレの脳内に語りかけてくる奴は!
 オニキスは混乱しながらもタクマと戦った。すると、タクマの後ろを、白い服を着た男が横切っていくのが見えた。

「貴様か!オレに語りかけるのは!」
『お前はそんなもの望んじゃいないんだろ?』
「黙れ!オレが望むのはこの国の滅亡のみ!それ以外眼中にないッ!」

 何故だ?何故こんなに必死になっちまう。まるでイカれた宗教を布教する野郎と喧嘩をしている気分だ。オレは、本能のままに戦っているだけなのに。
 
『オニキス、自分の心に聞け。復讐が、君の望みなのかい?本当に、望むものなのかい?』
「うるせぇ!いきなり現れて好き勝手言いやがって!戦いの邪魔をするなァ!」

 オニキスは姿を現さない謎の人物に怒りを募らせながら、タクマを攻撃した。タクマも、突然様子がおかしくなったオニキスを心配しつつ、剣を振った。
 だが、その間にも刻一刻とクリムゾンの使用限界が来ていた。これ以上剣に血を与えてしまえば、出血多量で死ぬ。しかし解除すれば、今まで溜め込んだ力を失う事にもなり、不利になってしまう。

『俺の事はお前が1番知っている筈だ。思い出せ、今の君は偽物だ』
「違う!オレは、オレこそが本物だ!本物の、死神だ!」
「うっ!オニキス、どうしちまったんだ!」

 何なんだよさっきから。自分の胸に聞けだ偽物だ好き勝手言いやがって。腹立たしい。
 誰だろうと、今のこの闘いを邪魔する野郎は許さねぇ。だが、裏を返せばコイツの野次のお陰で俺は強くなれている。簡単にこんな雑魚を殺してやれる。
 ……そう言えば、どうして俺はこんな雑魚を気にしていたんだ?強くもねぇただのイキったクソガキなのに、何故かコイツが羨ましく思っちまう。

『思い出したかい?大して強くもない彼を気に入っていた理由を』
「オレはこんな奴好きでも何でもねぇ!こんな奴、こんな奴……ッ!?」
『素直じゃないね、相変わらず』

 力強く目を見開いた瞬間、タクマの姿が突然短髪の男に変化した。黒髪という点では同じだが、顔も服装も全く違う。なのに、見覚えがある。
 
「そうだ!お前は、オレがあの日殺したオレだ!オレの、心だ!」
『そう、俺は君だ。かつての、心優しい青年だった君だ』
「ふざけるな!今更現れやがって!この世界は正直者が損をする!だったらテメェのような優しさはいらねぇ!さっさとオレの目の前から消えろ!消え失せてくれ!」

 オニキスは、邪魔な自分を消し去ろうと、剣を振った。その頃、タクマはその剣を防ぎながら、何度も問いかけた。しかし、かつての自分は消えない。タクマの声も届いていなかった。
 
『違うよ。君が優しかったから、少しだけ残った心がこうして体を持てたんだ』
「オレが優しいだと?ふざけるな!そんな筈はない!オレは迷惑な存在だ!」
『「本当に迷惑な奴なら、薬を置いたりなんてしない!」』
「それに、俺の事を助けたりも!」

 そうだ、オレはどうして相手に薬を与えていたんだ?倒せばそれでよし、後は死のうが何してようが勝手にしろと思っていたのに、いつも奴等の隣には薬の瓶が置いてあった。
 自分の声と一緒に聞こえたタクマの声を聞いたオニキスは、攻撃する手が一瞬止めた。

「オニキス、覚悟!〈閃の剣〉!」
『素直になれ、オニキス』

 その隙を狙い、タクマは赤黒く染まった閃の剣を魔剣に放った。すると、魔剣のロウからヒビが入り、大きな音を立てて爆発した。

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