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コピー使いの異世界探検記

鍵宮ファング

第204話 禁忌の守人

「リュウヤ殿!しっかりするでござる!」
「畜生、どうして分かっていたのだ!」
『愚か者が!我はオニキスと言う小僧から怒りの力を貰い受けて復活した身!故に奴の記憶を閲覧する事も可能なのだ!』

 マドラーは、浅はかな作戦を抱いていたリュウヤを嘲笑うように大声で言った。耳が痛くなる。
 とは言え、よく考えてみればエンヴォスの時も、黒銀の記憶をネタに煽っていたっけか。初戦闘の時みたいな境遇だからか、久しぶりに思い出した。
 それに、一回オニキスと戦って耐久力化け物な事知られてたっけか。そりゃあ記憶覗いて即終了だわな。容姿も服くらいしか変わらないし、バレて当然だ。

「許しません!リュウヤさんの仇、絶対に取らせていただきます!」
「ダメだ……オレはまだ……」

 ──あれ?体を動かしているつもりなのに、視界が空を見たまま動かねぇ。首も動かないし、ただノエちゃんの声だけが聞こえてくる。まずい、ここまで来たら死ぬ危険性のある領域だ。流石に腹に穴開けられたら、死ぬに決まってるよなぁ。
 もう苦しむのも無駄だ。そう思ったリュウヤは、最後くらい笑おうと気楽に空を眺め、刻一刻と迫る死までの制限時間を待った。
 するとその時、空の上で返り討ちに遭ったノエルが飛ばされてきた。

「そんな、パンチ力も強いなんて……グハァッ!」

 今度はデンジさんの声だ。血の焦げた臭いからして、赤い槍にやられてしまったのだろう。
 ノエルもデンジもやられてしまった。その様はまさに、惨状と呼ぶに相応しかった。

『さて老いぼれ、残るは貴様のみ!貴様を再起不能にし、4匹纏めて焼き殺してやる!』
「吾朗殿……私の事はいい……だから、ノエルちゃんとリュウヤ君を連れて、逃げてくれ!」

 デンジは負傷した箇所を抑え、吾朗に伝える。
 しかし吾朗は、時が止まったかのように、刀を構えたまま動かなかった。

『フン、恐怖で動く事もままならないか!ならば貴様は俺様の慈悲をくれてやる!特別に一瞬で殺すという名の慈悲だがなぁ!』

 マドラーは勝利の女神の微笑みを勝ち取った喜びを叫び、錬金術で作り出した槍を放った。
 だが、その時。キンッ!と綺麗な金属音が響き、槍が崩れ落ちた。

『な、何ッ!?』
「……これは友を奪われた怒りと悲しみから手にしてしまった、言わば禁忌の力。あれ以来、二度と使わないように、二度と友を悲しませまいと封印して生きてきた」
『貴様、さてはまだまだ隠し芸を持っていたようだなぁ!腹立たしい、御託は──』
「黙れッ!短気なナマハゲ風情がッ!」

 吾朗はマドラーに向かって喝を入れた。しかも、普通の喝とは違い、叫んだ瞬間に感じた事のない衝撃波が走った。
 すると吾朗は、ゆっくりと眼帯に手を伸ばし、ブチリと気持ちのいい音を鳴らして引き千切った。

「だが今は、友を守る為、約束を果たす為に使う!それ故、拙者は今一度、人斬り喜羽丸に戻るッ!」

 開眼した吾朗の片目は、日食のように白目と黒目の色が逆転していた。その珍しい目の色に、神秘的な気持ちと共に恐怖を覚えた。
 とその時、ポツリポツリと雨が降り注いできた。まるで吾朗の睨みに恐怖を覚えて泣くように、記録を大きく上回るような量の雨が降る。
 天気も見たことのない深緑色に染まっており、終末の刻が迫っているのかと錯覚するほど、悍ましかった。

『だが分かる、分かるぞ!貴様は友を傷付けられ怒りを抱いているッ!それ即ち、俺様に力を与えると言う事ッ!そう、無駄なのだッ!』
「怒ってはおらぬ。ただ単に、貴殿のそのむかっ腹が立つ口調が気に食わぬだけよ!」
『ほざけ!老人如きに何ができるかッ!』

 マドラーは錬金術で瓦礫を棍棒に変え、吾朗を殴った。しかし、それが吾朗の頭に当たったと思った瞬間、真っ二つに分かれた。おまけに、断面は鏡のようにツルツルで、マドラーの仮面が写されていた。
 
『な、何故だ!コイツは確実に怒りに満ちているッ!なのに、何故ッ!我が棍棒が敵わないのだッ!』
「貴殿の動きはトロい」
『ぬかすなッ!ぶっ殺すぞ!』
「無駄だ。無駄無駄。巨体故、手に取るように分かる」

 焦りを感じたマドラーは、半分になった棍棒を槍に作り替え、何度も突き刺した。
 だが、刺さりそうになる刹那、吾朗は陽炎のように目の前から消え、刺した位置の隣から現れる。
 ──おかしい。この俺様が何故弱そうな老いぼれ1匹に焦っているのだ。雨のせいで溶岩を固められて火炎技が使えない今、錬金術で頑張る以外に道はない。だが、早急に決着を着けなければ、着けなければ……

「さて、これだけ有れば仏への祈りも済んだ事だろう。友に与えた痛み、拙者の覚悟と共に身を持って味わうが良い」
『そんなものはいらぬ!《ランディオ・マウンテン》!大地よ、俺様を守れ!』

 マドラーは吾朗の必殺を絶対に食らわないよう、防御に徹した。両足を力強く踏み込み、重い物を持ち上げるように力を込めると、周りの地面が抉り取られ、マドラーを守る大きな山に変化した。しかも、雨に濡れた事で溶岩が固まり、普通の山よりも強固なものとなった。
 ──これではどう足掻こうと俺様を倒す事はできまい。アンフェアになるが、この要塞の中から奴を串刺しにしてやれば、まだ勝機はある!そうだ、勝てば良いのだ!例え汚かろうと、勝った者こそが正義なのだ!
 例え危険生物だとしても所詮は老いぼれ。威圧感や強さがあっても、疲れ果てた状態で殺す事は赤子の手を捻るのと同じくらい容易い。マドラーは山の中で黙り込み、疲れ果てる時を待とうとした。

「吾朗殿、この状態では攻撃が届きませぬぞ!」
「いや、ここは……信じる……!吾朗爺!」
「……《伊邪那美・蜃気楼の太刀》」

 絶体絶命な状況の中、リュウヤは瓦礫を支えに立ち上がり、吾朗を応援した。
 すると吾朗は、応援に呼応するかのように納刀し、ドシリと一歩、力強く踏み込んだ。すると、半径2メートル内に散らばった瓦礫が蜃気楼に乗って昇り始めた。

『眠ったな馬鹿め!焼け死ね、《ランディオ・ランス》!』

 マドラーは吾朗の隙を狙い、山の一部を槍に変えて攻撃した。一撃必殺、この一撃に全てを賭けた。
 こんな時に寝るなど、馬鹿にも程がある。マドラーは要塞に篭りながら、ニヤリと笑った。とその時、吾朗が開眼した。

「今ッ!《死突・軻遇突智》!」

 なんと、吾朗は突き上げで槍の先を崩しつつ上に乗り、足音を置き去りにする速度で山の中央へと走った。そして、再度納刀し、回転しながら山を斬った。
 山は薄くなった壁から刀が入り、スッパリと呆気なく飛んで行った。更に、太刀の纏っていた蜃気楼が風の刃となり、マドラーの仮面に傷を付けた。

「《黎明》ッ!」
『な、何だとォォォォッ!?』
「まだ終わらぬ。《獄門・伊弉諾一閃》!」

 そう唱えると、吾朗は足元から昇る黒い気に乗って上空へと飛び上がり、刀に禁断の力を集めた。鋒から棟区にかけて黒鉄色に染まり、雲から美しくも恐ろしい女神の姿が現れたような気がした。

『こうなれば最後だ!貴様だけでも、殺してくれるッ!』

 後のなくなったマドラーは、相討ち覚悟で魔法陣を描き、《テラ・フレア》を放った。まるで波動砲のように飛び上がるそれは、冷まそうとする雨を蒸発させ、遠くに居ても感じる煉獄の熱風を放っていた。
 例えこれを食いながら倒したとしても、吾朗はきっと生きて帰らないだろう。
 
「吾朗爺ー!頑張ってくれーッ!!」
「……《堕天》!」
 
 吾朗も、相討ちで死ぬつもりだった。禁忌の力を解放した今、暴走してまた大事な友を傷付けるかもしれなかったから。だから、マドラーのテラ・フレアによって焼き殺されるつもりでいた。
 しかし、リュウヤの必死の叫びを聞き、生きたいと言う気持ちが込み上げた。あんなにボロボロで、叫びでもしたら死が近くなる状況だと言うのに叫んだ。それつまり、吾朗に絶対生きてて欲しいというメッセージ。
 確かにもう、この世にかつての友は居ない。しかし、生い先短いジジィとして、孫のように可愛い友と共に居てやるのが罪滅ぼしというのなら……

「生憎だが、今ここで死ぬわけには行かぬ!」

 吾朗は予定に無かったが、空気を蹴って位置を変え、確実にマドラーの脳天に攻撃を与えられるように重力を利用した。
 真っ黒な炎を添えて落下するその様は、まさに凶星だった。
 そして、マドラーの脳天に刀が刺さった時、マドラーの動きが止まった。テラ・フレアも飛び出すのをやめ、その場に土砂降りの音がこだました。

『あ……あが……』
「起きるでござる、せめて奴の最期くらい皆で見ようではないか」
「はにゃ?ここ、天国ですか?」

 サッと頭から飛び降りた吾朗は、気絶していたノエルを叩き起こし、おんぶしてあげた。リュウヤとデンジには見せたが、ノエルにとってこの目はショッキングだから、見せないように、わざとおんぶした。
 温かい。殺しをした時に温かさを失った手の中に、命の尊い温かさが蘇る。

「やったのですか……?」
『ゆ……許さぬぞ……こんな屈辱……絶対に……!』
「何だこりゃ、奴にヒビが!」

 マドラーは頭を押さえながら倒れ込み、吾朗達に手を伸ばした。しかし、遅れて全身にヒビが入り、頭上で銅像のように固まってしまった。
 そして、脳内にあったコアと共に爆散し、再度オーブの中へと封印された。

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