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コピー使いの異世界探検記

鍵宮ファング

第203話 白銀と雨

『おぉ〜ぉい、可愛い可愛い野ウサギちゃんよォ〜〜ォ?何処に隠れたのかなぁ〜?』

 グリスは気持ちの悪い猫撫で声を出しながら、黄金化した街──仮にC地区──の中をグルグルと探し回る。流石に姿を晦ましたといえ、何処に隠れているのかという目星は着いているようだ。いや、あんな一瞬で遠くに逃げるなんて、忍でも無理に等しい。せいぜい隠れ身の術でその場を乗り切る程度だ。
 だが、それじゃあダメだ。この場合、適当に酸性の血を振り撒かれたら、バレるだけでなく、そのまま骨も残さず溶かされる。陽気に言っているが、奴は非常に怒っている。その状態では、本当に何をしてくるか分からない。
 その頃、メア達は二手に分かれて民家の中に隠れ、そこで次の作戦を立てていた。

「ど、どうするのじゃ?アレ食らってもピンピンしてたぞ」
「アタシの御眼鏡に敵う兵器だったってーのに、こりゃお手上げかもしんねぇぜ」

 アリーナは銃弾を補充しつつ笑った。いや、笑うしかなかった。
 例のロケットランチャーは、ハクラジュ帰りの武器商人から盗んだもの。しかも、後から聞くにドラゴンもイチコロの一撃必殺兵器だと分かった。勿論、その性能の分値段は高価、そして使えるのは一度きり。
 そんな自慢の最終兵器を喰らってもなお、気持ち悪い猫撫で声を出せるとなれば、もう打つ手がないに等しい。

「でも、忘れんな?アタシは全ての武器を使えるオールマイティー女海賊!モダンなコイツでぶっ殺してやるよ!」
「あっ!待てアリーナ!単独行動してはならぬ!」

 しかし、アリーナはメアの話を聞き流し、一人で勝手に出て行ってしまった。
 そして、こっそりとグリスの後ろ側に回り、影に隠れながら後をつけた。しかし、コアとなるオーブは見当たらなかった。

「……匂うぜ。頃合いだ!」
『ンゥ?見つけたぞ女海賊!やっとお出ましって訳か!』
「あぁ!生憎アタシも賊だからねぇ、アンタをとっととぶっ殺してここら一帯の金全部貰ってくつもりだ!」
『減らず口を!コイツはぜーんぶオレっちのモンだ!』
「独り占めか、強欲らしい」

 アリーナは呟くと、二丁の拳銃を迷う事なく発砲した。最大6発のリボルバー式、計12発がグリスの前脚に命中する。
 そしてついに、グリスの骨が顔を出し始めた。だが、その分血が噴き出し、足元に大きな窪みを作る。

『もう終わりかい?じゃあ、遠慮せずに君から食べてやろうか!』
「できるもんなら、やってみな!」

 そう言うと、アリーナは自慢のマントを靡かせ、靴のブースターを上げる。そして、風のようにグリスから逃げた。
 
『逃げたって無駄だよォ〜〜〜〜ォン!』
「お前らー!頼んだぜーッ!」

 グリスはアリーナに夢中で、隠れているメア達に目もくれず、呑気に尻尾を見せつけながら奥に消えていく。
 アリーナ、お主は一体何を考えておるのじゃ?メアは顔を出しつつ、疑問を抱く。
 するとその時、ポツリと鼻頭に水が落ちてきた。雨だ。今にも降り出しそうだと薄々思っていたが、こんな時に降るとは思わなかった。

「メアちゃん、大丈夫でありんすか?」
「うむ。彼奴は勝手に出て行ってしまったがの」
「でも、アリリンは不器用なだけでしっかり残してくれとるで」

 アリーナの勝手な行動に頭を抱えていた時、ナノは無邪気な笑顔を向けて言った。
 勿論、何のことか分からない二人は、首を傾げる。だが、グリスとアリーナが戦ったついさっきの事を思い出し、「「成程!」」と手を叩いた。やはり、何かをする上で、最年長のコツと最年少の思い付きは1番大切ということらしい。

 ──それから数分後、アリーナが元のC地区に帰ってきた。バテてはいるが、しっかりと距離を取っている。
 しかし、辺りにはメア達の姿がない。だが、アリーナはその事を待っていたかのようにニヤリと笑い、大きくジャンプした。

「ここまでおいで、クソキツネ〜!」
『もう逃げらんねぇぜ?いっただきまーす!』

 グリスはヨダレを滝のように流し、アリーナ目掛けて直進した。
 だがその時、不思議なことが起こった。なんと、黄金の地面が突然抜け落ち、グリスは落とし穴にハマった。そして、落ちた音を聞きつけたメア達が、屋根の上から顔を出した。

「まんまと引っかかったでありんすな!化け狐!」
「アリーナ、ナイスな囮じゃったぞー!」
『有り得ねぇ、有り得ねぇぜこんな事!短時間で鋼鉄をも超える硬さの黄金に大穴を開けるなんて……ッ!!』
「アンタってバカなんだな。アタシも大概だけど、今の天候どうよ?」

 アリーナはハマって動けなくなっているグリスの仮面に銃を撃ちながら、もう片方の手で空を指した。
 誰が何と言おうと、今の天気は雨だ。晴れでも曇りでもなく、雨だ。

「アンタの血、物溶かす力あるんよな?」
『ま、まさかッ!』
「そう、お主がアリーナに撃たれた時作った凹みじゃ!そこに雨が降って、溜まった硫酸と一緒に穴を広げたのじゃよ!」

 メアの言う通りだが、説明しよう!
 まず、アリーナは雨が降ると言う事を事前に感知し、銃でグリスを攻撃してあえて惹きつけた。それにより、グリスの足元に硫酸の血で凹みができる。
 次に、グリスが居なくなった所を見計らい、追いかける際に生じた血溜まりをメアの《フレア》で、金を溶かしながら穴へと誘導して大きくしていった。例え鋼鉄よりも硬くとも、金は熱に弱く、簡単に溶けてしまう。
 最後に、民家からかき集めた家具をナノのハンマーで砕き、余計な穴ぼこを《フレア》で溶接して埋める。そして、大和の流派で伝わる隠れ身風呂敷を穴に敷けば、落とし穴の完成と言う訳だ。
 自分の血であるためそうすぐに溶ける事はないが、硫酸の沼に溺れれば、例え罪源の仮面だろうと逃れる事は不可能に近い。

「行くぜお前ら!飛び道具を用意しろ!」
「オーケーやで!」
「苦無、準備万端!」
「妾のナイフが火を吹くのじゃ!」
『そうはさせねぇぜ!《ゴールデン・ビュート》!』

 グリスは硫酸風呂に溺れながらも、周囲の金を触手のように動かし攻撃した。しかし、金は火炎ナイフと爆散手裏剣によって変形させられ、すぐヘナヘナになってしまった。
 その間、ナノとアリーナは首裏を狙って攻撃を続けた。血が良く動き回るためか、ドバドバと溢れ出る。お陰で穴も、大きく、そして深くなり、一層グリスは溺れていく。

『クソ!クソクソクソクソクソ!オレっちはただ、2000年のヨリを戻すために、目に写るもの全部を欲しただけなのに!』
「生憎じゃが、お主にはまた狭苦しいオーブに戻ってもらうのじゃ」
「この世界はみんなの物。アンタみたいな欲張りに渡すには惜しいってもんやで!」

 ナノは自分よりも小さな子を叱るような口調でグリスに言う。
 そして、4人は互いの力を掛け合わせ、グリスにトドメを刺しに走った。

「霞より舞うは桜花の如し」
「黄泉から昇るは不死鳥の如し」
「鋭き鎌は疾風の如し」
「輝く弾丸は満月の如し」

 おタツは桜花のような美しい動きで、メアは黄泉から舞い戻る不死鳥のように、ナノは鎌鼬の疾風のように、そしてアリーナは退魔の力を持つ満月のような銀の弾丸を、四人同時に撃ち込んだ。
 すると、それらは4方向からグリスの喉に直進し、奥にあったコアに命中した。

『嘘だ!待ってくれ!せめて、せめて女1匹だけでも……』
「「「「《舜天・花鳥風月》」」」」
「アンタには、退魔の弾丸がお似合いだぜ」
『ぎゃああああああーッ!!』

 コアの消失により力を失ったグリスは、オブラートの溶けた薬のように呆気なく溶けていく。自慢の爪を持っていた腕は、硫酸風呂から顔を出す度に肉がなくなり、骨を見せる。
 そして、ペストマスクを残して沈んだ時、硫酸風呂ごとオーブに再吸収され、封印された。

「さて、一丁あがりでありんすな」
「って、そんな事してる場合ではないぞ!タクマの所に行かなくては!」

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