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コピー使いの異世界探検記

鍵宮ファング

第187話 今を生きる若者に

【数分前】

「おタツさん、アリーナ、ちょっと避けてて」

 タクマは2人に警告し、死にかけているノエルの前に屈んだ。
 そして、耳元に手を当て、一瞬躊躇いの固唾を飲み込んでから覚悟を決めた。

「おい【自主規制】、そんな所で寝てっと【自主規制】な【自主規制】の奴で【自主規制】するぞ」

 コンプラ的に、流石にここで書く事は出来ないが、タクマは彼に対しての禁句を交えつつ、思いつく限りの禁止用語でノエルを罵倒した。
 これも作戦のうちといえ、彼を傷つけるのには変わりない。タクマはそれを承知した上で、禁句を唱えた。
 するとその時、ノエルが勢いよく開眼し、タクマに痛々しい一撃を与えた。そして、アッパーでタクマを上空へと押し上げ、一緒に飛び立った。

「ぐはっ!ぶえっ!ふごっ!ギバッ!」
「誰が【自主規制】じゃ!ぶち転がすぞゴミムシ!」

 上空に居るにも関わらず、ノエルは瀕死の重傷をものともせずにタクマを殴った。しかも、空気を殴って滞空し続け、タクマの顔面にラッシュをくらわせた。
 やっぱりこうなったか。タクマはノエルの拳を喰らいながら、空の景色を眺めた。
 魔界城みたいな悍ましい建造物を載せた空島、爆弾か何かを投下されてグチャグチャになった街だったもの、虫のようにうじゃうじゃと蠢く魔物の軍勢。なんとも言えない、地獄のような世界がそこにはあった。
 しかし今となっては関係ない。このままでは自分が死んでしまう。危機を感じたタクマは、ノエルの腕を掴み、待ったをかけた。

「待ってノエル、いっぺん話聞いておくれ」
「あ?」

 ノエルはドスの効いた声で訊く。

「これ全部、アイツが言ってた」

 タクマは悪びれる様子もなく、ブラストに全ての罪をなすりつけた。
 そして、その言葉を信じたノエルは、タクマの首を掴み、そのままブラストの方へと急降下した。

「──と、言う訳」
「おま、もしかして闇深い?」
「いや違っ、これは作戦の一種で……反省はしてるけども」
「だとしても、それはないでありんすよ」
「ごめんなさい」

 おタツに圧をかけられたタクマは、自然と頭を下げた。
 その間も、ブラストはノエルの猛攻を受けている。しかも、船に打ち付けられ、一緒に船も崩れる。

「もう、アイツ一人でいいんじゃね?」
「でもこのままやってると、ウチらも酷い目に逢うでありんす」
「とにかく、早めに──」

 タクマの話を遮るように、ブラストが目の前に投げつけられた。だが、それでもまだブラストはピンピンしており、銃を構えた。

「チッ、まだ生きてやがるか」
「しゃーねぇ!親父、ちっと我慢してくれよな」
 
 そう言うと、アリーナはマントから剣を取り、ブラストに斬りかかった。
 そして、続いてタクマ、おタツ、ノエルと飛び込んだ。
 まず、アリーナがブラストに一撃を当てる。続けておタツとタクマが同時に斬り上げ、ノエルがアッパーでかち上げた。

「よし、ノエル!踏み台一丁!」
「どんと来い!」

 タクマは言い、ノエルはそれに応えて両手を組んだ。そして、足を掛けると同時に打ち上げられ、ブラストと対峙した。

『まだだ!我はまだやれるのだ!《ギガ・ウィンド》!』

 ブラストは吹き荒れる風を集め、魔法として放った。しかしタクマは、閃の剣で風の切れ目を裂き、逆にギガ・ウィンドをコピーした。
 
『くそっ!これでもか!《メガ・サンダー》!』
「それも効かない!《コピー・ギガウィンド》!」

 タクマは魔法を放った反動を利用して雷を避けつつ、指を鳴らしてコピーした。ブラストは、返された風によって吹き飛ばされ、落下していく。
 そして、タクマはコピーした雷の力を剣に注ぎ込み、折れた刃の部分に雷の刃を生やして補強し、ブラストの上から剣を振り下ろした。

「《超・雷閃の剣》!」
『ぐわぁっ!!』
「アリーナ、行くでありんすよ!」
「うっせぇ!言われなくても行くっての!」

 二人は一瞬睨み合い、ノエルの踏み台に乗ってブラストの所へ飛んだ。
 
「はぁぁぁぁ!!」
「どりゃぁぁぁ!!」

 目にも留まらぬ息ピッタリの剣技で大ダメージを与え、最後におタツの放った爆散手裏剣が爆発し、痛恨の一撃を与えた。
 そして、一緒に落下しようとしたその時、アリーナは同じ位置まで落ちてきたタクマの方に蹴りを入れた。

「わわっ!おま、何す──」
「トドメに決まってん、だろーがー!」

 なんとアリーナは、タクマの剣を壁代わりに使い、ロケットのようにブラストの方へブーストした。

「来い水!〈ウェーブ・クライシス〉!」
『ぐおぁぁぁぁぁぁぁ!!』

 アリーナは逆立つ波のようにトゲトゲした動きでブラストを斬った。
 それにより、ブラストの身体は上半身と下半身に分かれ、3人は船の上に降り立つ。

「おやすみなさい、お父さん」
『フッ、なかなかやるではないか……流石は……我がむす──』

 アリーナの呟きに応えるように、ブラストは言葉を遺して消滅した。遺体すらも残らず、心臓のように真っ赤な宝石──ンゴチガの魂──と一緒に黒い影となって消えた。
 既に死んでいるから、遺体として残らないのは当然。そんなことは知っている。だが、ブラストの最期の言葉のどこか悲しそうな声に、胸が締め付けられた。
 
「どっ、かーん!」

 胸に手を当てた時、アリーナがいきなり尻を蹴り上げた。
 
「アイッター!おい、何してくれてんだ!」
「ぬゎぁ〜に、アンタが悲しそうにしてんだい!普通ここはアタシが泣く所だろうがよぉ!」
「あだだだだ!まだ体力有り余ってんのかよ……」

 アリーナはタクマの背中に乗り込み、頭をグリグリした。
 しかしその目は、やはり何処か哀しげな目をしていた。辛くなさそうにしてるけど、やっぱり……
 するとその時、船が大きく揺れ出した。

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