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コピー使いの異世界探検記

鍵宮ファング

第178話 不信

「はぁ、はぁ、やったか?俺たち、やったのか?」
「影はもうないので、勝ったと思いますけど……」
「まだ気配が消えないでござる。これは一体」

 リュウヤ達は心配になり、一旦辺りを見回す。しかし、何も見当たらない。
 体には傷がちゃんとあるし、影にしては斬った感触もあった。しかも、手の中に鈍い感触が残っている。
 
「うぐっ!急に肩が!」
「お前様、しっかり!」

 ──何だ急に!どうしちまったんだ俺の体!耐えろ、耐えねぇと心配されちまう!周りを不安に……
 リュウヤは急に肩を抑えながら倒れ込んでしまった。タクマの剣を受けた肩、いつもなら笑って済ませられるくらい軽減されるのに、今回は痛い。まるで危険な何かが身体を侵食していくような感覚がして、気味が悪い。
 
「リュ、リュウヤさん!痛いかもしれませんけど、《ヒール》!」
「そんな馬鹿な、回復魔法を使っているにも関わらず回復しないでござる!」
「そんな、今は例の種で薬草は作れないし、どうすれば良いのでありんす?」

 3人はどうするのが正解なのか分からず、混乱した。
 するとその時、洞窟の奥の岩が崩れ落ち、その奥からミコトが現れた。

  ︎
「ふぃー、終わったのじゃ〜!」
「こらメア、女の子がこんな洞窟の上で寝ない」
「まあまあええやんか。見せられへん所はウチが隠したるて」

 ナノは言いながらメアの前に座り、勝利の余韻に浸った。完全に気が抜けている。でも今回は、影とはいえ仲間とやり合ったようなもの、精神的に来るものもある。
 タクマは何も言わず、一緒に座り込んだ。
 するとその時、奥の岩が崩れ落ち、そこからレンブが手を振りながらやってきた。

「おーい!大丈夫かー!」
「あ、レンブおじさん!ウチらは無事やでー!」

 ナノは飛び上がり、大きく手を振った。

  ︎
「楽静涼寝眠休心緑香和!」

 ミコトが経のようなものを読むと、リュウヤの肩から黒い影が浮かび上がり、目の前で消滅した。

「これで痛みは消えたはずだ」
「リュウヤさん、肩の具合はどうですか?」
「うーん…… お!おぉ!来た来たぁ!これよこれ!」

 元気を取り戻したリュウヤは、さっきまでの激痛が嘘のように飛び上がり、肩をグルグルと振り回した。そして、回しすぎて肩から血が噴射し、また倒れてしまった。

「ああもう、すぐ調子に乗るでありんすから……」
「師範殿、今すぐに血を拭き取るでござる」
「いやいい!折角のハンカチに血が付いたら汚れてしまう。それに、あったかいお湯で洗うと固まって取れなくなるぞ?」

 ミコトは血の付着した手を引き、変に笑う。

「はい、巻き終わりましたよ」
「めんごめんご、ミコっさんも綺麗な手に俺の鮮血付けちまって申し訳ございません」
「いやいいよ、私はなんともない。私は……」

  ︎

「大丈夫でしたか、レンブさん」
「そいつはこっちの台詞や。そんな怪我して、無事なんか?」
「安心せい、妾は幾度も痛い目を見てきた。こんな切り傷打撲傷の一つや二つ、何ともないのじゃ」

 メアはハハッと笑いながらオニキスに付けられた傷跡を見せた。あと少しでその跡は無くなるように見えるが、やはり見ているだけで痛々しい。
 ナノはその傷を興味深そうに見て、おぉと声を漏らす。

「メアメアもタっくんも、アコンダリアの時は頑張っとったもんな。そうそう聞いてよおじさん!実はタっくん、あの大会に優勝したんやで!」
「とは言っても、ギリギリだったし、相手の棄権のお陰なんだけどね」
「何を言うておる、タクマ。何はともあれ、あの女もどき相手に勝ったのじゃ。謙遜してないで少しは胸を張れ胸を!」

 言うと、メアに強く背中を叩かれ、無理やり胸を張らされた。そして、レンブはと言うと、武闘会で優勝した事実に、口をあんぐりと開けて驚いていた。
 しかしその時、松明の下に出来た影が伸び、倒したはずのリュウヤ達が復活した。
 そして、リュウヤ達の方でも、タクマの影が復活した。

  ︎
「嘘だろオイ、何度でも甦るってか?」
「何度も甦るなんて、どうすれば良いのでありんす?」
『我は影がある限り何度でも復活する』
『どう足掻こうと、我らは倒せない。諦めろ』
「いや、諦めるなんて選択肢はないでござるよ」

 言うと吾郎は、後ろで影を警戒していたミコトに刀を突き刺した。

  ︎
「メアメア、ナイフ貸して」
「いいけど、妾のナイフ一つではどうにも……」

 メアは首を傾げつつも、ナノに投げナイフを渡した。するとナノは、躊躇う事なくレンブの心臓に突き刺した。
 レンブの口から真っ赤な血が垂れる。

「ナノ!今自分が何やったのか、分かってるのか!」
「恩人を殺すなんて、一体どうしたと言うのじゃ!」
「タっくん、メアメア。よく考えれば分かる事やで」

  ︎
「ご、吾郎爺!どうしてそんな事を……」
「いや待てノエちゃん、吾郎爺があんだけ慕ってた師範を殺す筈がない。何か理由あんだろ、吾郎爺?」

 訊くと吾郎は、涙を流しながらゆっくりと訳を話した。

「先程、リュウヤ殿の血が付着した時、不自然に隠したでござるな?」
「そ、それとミコトさんを殺すのが、どう関係するんです?」
「フフ、気付かれてしまったようだね。そうだよ、この影達の元締めは私だ」

 ミコトは悲しそうに声を震えさせながら応え、リュウヤの血が付いた手を見せた。その腕は、硫酸によって溶かされたように、そこだけ影のように黒ずんでいた。

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