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コピー使いの異世界探検記

鍵宮ファング

第159話 1時の別れ

【メルサバ 門】
「もう行ってしまうのね、メアちゃん」
「うむ。こうしている間にも、アルルとその愉快な仲間達が、何処かで暴れるかもしれないからのぅ」
「けど、タクマさんのワープでいつでも帰れるから、暇があったらまた遊びに来ます」
「おぉ、あのワープを!アコンダリアの時からすごい奴だと睨んでいたが、まさかそんな隠し芸も持っていたとは!ハッハッハ!」
「アンタ、それ絶対思ってなかったでしょ」

 リオが言うと、フラッシュは「バレましたかぁ!」と大笑いした。そして、リオ特製のハリセンで激しく頭を叩かれた。
 そして、タクマ達もフフッと笑った。

「何だかんだ言ってるけど、リオさんとフラッシュさんって仲良いですよね」
「そう?でも、タクマに言われたら嫌な気しないわね。何か不思議」
「タクマの発言はお世辞も嫌味もゼロだからな。ま、そのせいで偶に余計な事言ったりするんだけどな」
「言われてみれば、私のせいでお金なくなった時も、私の事責めませんでしたし……って、リュウヤさんいつの間に!」

 しれっと話に入ってきていることに気付いたノエルは、猫のようにビクリと飛び跳ねた。リュウヤはそれを狙ってたのか、ニシシとイタズラ好きな子供のように笑い「いい顔イタダキ!」とVサインをした。
 すると、後ろから現れたおタツにスリッパで叩かれ、リュウヤはしゃがみ込んだ。

「もう、暇があればすぐイタズラして。それに怪我もまだ治ってないんだから、少しは大人しくしなんし」
「せやでリューくん。無駄に出血したら、蚊にあげる血がなくなるやないの」
「俺の血は不味いから、蚊は寄って来ない。だからセーフだぜ」

 リュウヤはドヤ顔を決め、自信満々に親指を立てる。しかし、それはリオに「いや自慢になってないわよ!」とツッコミを入れられ、タクマ達は笑った。
 その時のリオの表情は、初めて会った時の無表情な顔ではなく、本気で笑っている顔をしていた。メアとの再開、そして共にラスターを討った事で、表情が豊かになったのだろう。
 なんと言うか、初めて会う人でも、別れる時には少しは変わるんだと実感する。

「あれ?そういえばリュウヤ、吾郎爺はどこじゃ?」
「そういえば見かけませんね。どこです?」
「じぃじなら荷物積むのに疲れて、今馬車の中で寝てるで」
「パパ達からのお礼の事ね。多かったでしょ、何かごめんなさい」
「いえいえ、折角の御恩は断れないでありんす」
「大丈夫大丈夫、アレくらい7人全員で食えば一月でなくなるさ」

 ぐいっと背伸びをしながら、リュウヤは自信満々に言った。

「そうだタクマ君、次は何処に行くつもりなんだい?」
「次は、ここからヴェルハラの南西端にあるゴルド帝国に行こうと考えてます」
「ゴルド帝国?確か、そこから北に行くと、今は魔物の巣窟になったクロフル監獄があったわね」
「けど、ウチら皆で行けば楽勝や!リオリオも一緒に行く?」
「こらナノナノ、無茶言っちゃいけませんよ」
「気持ちは嬉しいけど、私も私で、国を守らなきゃいけないから」

 誘われたリオは、ナノの頭を撫でながら言う。
 そして、タクマ達は話を終え、馬車の方へと向かった。

「それじゃあ、また来るから元気にしておるのじゃぞ?」
「じゃ、俺たちはもう行きます。色々、ありがとうございました」
「待って」

 するとその時リオがメアの手を掴み引き留めた。
 そして、首につけていた鉄のアクセサリーを取り、それをメアに渡した。

「これは何じゃ?」
「ネクロ族の力を引き出すネックレスよ。私が持ってても仕方ないからあげる」
「おーい、そろそろ行こうぜ〜!」
「あ、はーい!それじゃあ元気でな」
「行ってらっしゃい」

 
 ────一方その頃、ヴェルハラ大陸近くの海で、あるお尋ね者が航海を続けていた。
 
「つまんないねぇ。こんだけお宝ゲットしたのに、なーんか満足できないんだよなぁ」

 青髪の女は、後ろにクルリと跳ねたボブ髪を靡かせつつ舵を切る。
 彼女の名はアリーナ、オニキスと肩を並べる自称・大女海賊である。
 背中に「ヨロシク」と書かれたマントを羽織り、お土産屋で買ったような星形サングラスを掛けたその姿は、まさに海賊だ。……と思う。

「仲間が彼氏見つけて居なくなってからもう一ヶ月か。あー、アタシも彼氏欲しい〜!!」
「なら、私と踊りますカ?」
「踊ってくれるなら、踊りたいもんだね……ん?」

 不穏な気配を感じたアリーナは、銃を構えた。しかし振り向いた刹那、銃を持った腕を撃ち抜かれてしまった。

「な、誰だアンタ!こんな大海原の中、どうやってアタシの船入ったんだい!」
「残念ながラ、それは企業秘密ですヨ。それに、私はアナタに良い仕事を持ってきた、言わばアナタのスポンサーデス」
「スポンサーだかスパイザーだか知らないけど、知らない人について行くなってママに教わらなかったのかい?それに、そもそもアンタみたいな怪しい人に手を貸すか?」

 アリーナは、何処からともなく現れたZを笑い、サーベルで首を狙う。
 しかし、Zはメスで対抗し、サーベルの真ん中に穴を開ける。そして不気味な笑い声を上げた。
 だが、特に手を出すといった訳ではなく、引き抜いたメスをその場に捨てる。

「まあまあ、勿論タダではありまセン」
「ま、何事もまずはカネがきゃ始まらないもんな。で、お代は何だい?」
「今用意できるものなら、何でも用意しまショウ」

 Zは先程までの粗相を詫びるように、腕を前に出すお辞儀をした。
 しかしケースも何も持っていないため、アリーナはサングラスを外して冷ややかな目で見つめる。

「ならそうだねぇ。何でもって言うなら、前金として300万ゼルン、出してもらうぜ」
「承知しまシタ」

 アリーナの要望を聞いたZは、右腕を挙げて指を鳴らした。
 すると、真っ黒なホールが空を割いて現れ、そこから一つのケースが落ちてきた。
 アリーナがそれを拾い中を確認してみると、アリーナが要望した通り、中には300万ゼルンキッチリの金貨が入っていた。

「おほ〜、アンタ凄いねぇ」
「コレで満足ですカ?」
「あぁ、気に入った。アンタの持ってきた仕事っての、このアタシ、大海賊アリーナ様が引き受けてやるぜ」

 アリーナは自慢のハイヒールをガツンと鳴らし、偉そうに笑った。
 Zは偉そうな態度に腹を立てたが、怒りで震える腕を必死で抑え、「契約完了ですネ」と言う。
 そして、Zはスマホのような板を操作し、その中に入っているタクマ達の写真を見せた。そこには、タクマ達7人がハッキリと写っていた。

「へぇ、イケてるけどアタシのタイプじゃあないなぁ」
「アナタには、彼の鞄を奪って欲しいのデス。丁度彼らはこの海域付近のゴルド帝国に行くらしいので、簡単な話でショウ?」
「成る程。物盗りは大海賊の十八番だい、アタシに任せな!」
「それデハ、吉報をお待ちしておりまス」

 そう言い残し、Zは船内の扉をくぐり抜け、奥に広がる城のような空間へと消えてしまった。
 そして、Zの残した300万ゼルンの入ったケースと、その光景を呆然と眺めるアリーナだけが残された。

「オーッホッホッホ、こりゃあいい!最高につまるぜ!そうと決まれば、ロロネール号、発進だぜ!」

 アリーナは帽子を押さえて笑い、リボンを付けた骸骨の絵が描かれた帆を広げ、ゴルド帝国へと舵を切った。

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