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コピー使いの異世界探検記

鍵宮ファング

第153話 双生の思いと花鳥風月の守人

 ────ドゴーン!!
 タクマ達が戦っている場所から遠く離れた場所で発生した爆発音は、メルサバ中に響き渡った。
 幸い、爆発は炎が上空に上るだけだったため、近くの民家の窓ガラスを割る程度の被害に収まった。
 そして、その遠くで戦っていたリュウヤ達も、その爆発音を聞いていた。

「今のは何でござるか!?」
「あの方向、タクマさんの戦っている場所でありんすよ!」
「なんだって!?くそっ、こんな時に……」

 リュウヤは、楽しそうに襲いかかってくるアルルを刀で相手にしながら、タクマの無事を祈った。
 しかし、タクマの無事を祈った事で隙が生じてしまい、アルルのレイピアを食らってしまった。

「もう、折角私も楽しんでたのに、私より爆発が気になる訳?」
「イテテ、今のは効いたなぁ。確かにアイツらも大事だけど……」
「お前様、カッコつけてるとやられるでありんすよ」

 おタツは、カッコつけながら刀を構え直すリュウヤの頭にチョップを放ち、アルルに苦無を投げつけた。
 しかしアルルは、体操選手のような身のこなしで、おタツの苦無を避けてしまった。ハイレグ衣装も相まって、本物の体操選手と見間違えてしまいそうになる。

「隙ありっ!」
「おっと危ない。もー、可愛い子の隙突くなんて、お爺ちゃんの意地悪っ!」
「何!?拙者の刀を見抜いた……!?」

 隙を突いた筈の吾郎の刀も、アルルの翼によって防がれてしまう。こんにゃくのように、どんなものもスパスパと斬っていた刀でさえも斬れない翼。それこそまさに、鉄壁。
 リュウヤはその様子を見て戸惑う。
 一体何処を狙えば、アルルを殺さずに倒せるのか、と。

「吾郎爺!ここはウチが!」
「もー、そんなの見切れるって言ってるでしょ?」
「今だ!〈剣崎流奥儀・串カツ壱式〉!」

 アルルは、おタツの放った手裏剣の穴の中にレイピアを刺し、それを地面に捨てた。
 そして、捨てて油断している隙に、リュウヤは具材を串に刺す要領で、アルルの脇腹に刀突きを放った。しかし、それを予測していた尻尾が、リュウヤの刀を飲み込んでしまう。

「なっ……!?」
「まずい!リュウヤ殿、すぐに刀から手を離すでござる!ー
「んもー、しつこいわねぇ。これでも喰らいなさい!」

 すると、アルルの尻尾がブルブルと震え出し、水を吹き出した。その水の威力は凄まじく、避けきれなかったリュウヤと、巻き添えを食らった吾郎は、水の大砲によって民家の壁に打ち飛ばされてしまった。
 しかも、運の悪い事に、リュウヤの刀が、水圧で持ち主の所に帰ろうとしていた。

「お前様!」
「ウフフッ、勝ったわね」
「……ぐぁっ!」
「リュウヤ殿!」

 しかし、2人の祈りの声は届かず、長篠一文字は、持ち主であるリュウヤの腹に刺さってしまった。
 腹からドバドバと血が流れ、リュウヤは見る見るうちに活力を無くしていく。目は光を失い虚になり、引き抜こうとかけていた手も、だらんと垂れてしまう。

「リュウヤ殿ーーー!!」
「お前様!しっかり!そんなの嫌でありんす!」

 おタツと吾郎は、急いでリュウヤの所へと向かおうとした。
 しかし、その目の前に、アルルが立ちはだかる。それも、蛇のようなハート型の尻尾を携えて。

「退け小娘、今この時、貴殿と戦う暇はない!」
「何言ってるの?アンタ達を止めるのがアタシの役目だから、行かせる訳ないじゃん」
「もう我慢ならぬ!〈天照・陽炎の太刀〉!」

 アルルの態度に堪忍袋の緒が切れた吾郎は、リュウヤを助ける為にも、一番速い天照を発動した。
 しかし、陽炎のように、よく見ないと絶対に見えないような剣技を、アルルは最も容易く封じ込め、吾郎を張り倒した。そして、吾郎の頭を踏みつけた。

「ぐっ!」
「やっぱり老ぼれってのは弱いんだね〜。女の子に負ける気分って、どんな気分〜?」
「あなたと言う人は!この外道!爆散手裏剣!」
「キャハハ、そんなやわな攻撃じゃ倒せないわよ〜ん。べろべろばー」

 爆散手裏剣を使って倒そうと試みるおタツに対し、アルルはいたずらっ子のように舌を出してからかう。
 するとその時、吾郎が掠れた声でおタツの名を呼んだ。

「拙者は、リュウヤ殿とおタツ殿を守る為に同行した。だからおタツ殿、ここは拙者に預けてくれぬか……?」
「でも吾郎爺、頭から血が……きゃっ!」
「何、お爺ちゃん?もしかして、やられたりない?」
「拙者のようなジジィより、愛する妻に助けられた方が、リュウヤ殿も嬉しかろう。気にせず助けに行くでござる」

 蹴り飛ばされたおタツは、満月を描くように刀を構える吾郎の姿と、その背中に写る月ような静かな覚悟を信じ、頷いた。
 そして、アルルからの攻撃を振り切り、民家の壁に刺さったリュウヤのもとへ向かった。

「湧いた、湧いてきたぞ。血が、力が、新たな技が!」
「お前様!お前様!」
「お……タツ……」
「いいわ。お爺ちゃんの命は不味くて敵わないけど、そんなに食べられたいなら食べてあげる」

 アルルは、立ち尽くす吾郎に対して露骨に嫌そうな顔をしつつも、やりやすい双剣をワープホールから取り出し、新技に備えた。
 そして、吾郎の首を目掛けて突進した。

「死んじゃえ!〈ギロチン〉!」
「月夜の大神よ、我が影に隠れし罪を今此処に表したまえ」

 吾郎は、一度刀を鞘にしまい、そして鞘ごと引き抜いた。
 歌舞伎役者のように刀を横に構え、右手を鞘、左手を枝に添えてアルルの剣がクビに来るまで待った。

「〈月詠・月明の太刀〉!」

 そう言うと、吾郎は刀を引き抜き、アルルの持つ剣を真っ二つに斬った。

「えっ」
「〈花〉!」
「このっ!次はコイツでっ!」

 アルルは、さっきまで弱かった老人が急に強くなり出した事に恐れ、急いで次の武器──槍をワープホールから出現させた。
 だが、それもまたすぐに斬り刻まれ、鉄の塊に姿を変えてしまった。

「〈鳥〉!」
「い、いや……」

 このままではやられてしまう。そう思ったアルルは、羽を広げ、逃げようとした。
 しかしその時、旋風の如く現れた吾郎によって羽を貫かれ、転落してしまった。
 その間、おタツはリュウヤから刀を抜いた。しかし、リュウヤは力が入っていない倒れ方をして、その場に寝転んでしまう。

「〈風〉!」

 アルルはまた、改めてレイピアを取り出した。しかし、風のような速さで動く吾郎により、持ち手だけにされてしまった。
 そして、吾郎はそのままアルルの横を通り過ぎた後、刀を鞘にそっとしまう。

「〈月〉」

 チャキン と納刀する音が鳴った時、一瞬メルサバを照らす月が強く発光し、倒れたリュウヤにスポットライトを当てる。
 すると、倒れていたリュウヤが、月明かりの力で復活したように立ち上がり、刀を構えた。

「な、何が起きてるの!?」
「死んだと思った?ごめん、俺はそう簡単に死なない男だから死なねぇよ」
「嘘だっ!そんなのが貫通したら、普通死ぬわよ!」
「ウチらにとっては、こんなのかすり傷でありんす」

 リュウヤとおタツは、さっきまでのシリアス展開が嘘だと思うほど、元気にグータッチをした。
 そして、何が何だか分からず混乱しているアルルは、ふと吾郎の方を見た。
 すると吾郎は、真っ白な歯を見せ、ニッカリとに笑った。

「拙者達の力は、人を殺める為のものにあらず。何かを護る為、誰かを喜ばせる為の太刀」
「何でこんな事に……アタシ帰る!」

 アルルは、闇の力を使いワープホールを作り出そうとした。しかし、作れたワープホールはすぐに光りを放ち、消滅してしまった。
 

「〈月〉は一時的に悪しき者の力を封じる剣技。残念ながら、帰り道は作れぬ」
「行こうぜタツ」
「えぇ、お前様」
「そんな……私が負けるなんて……」

 アルルは、絶望の表情で、武器を構えるリュウヤとおタツを見た。
 リュウヤとおタツは、そんなアルル目掛けて、技の準備に入った。リュウヤは剣に雷の力を纏わせ、おタツは忍者刀を逆手に持ち変える。

「「〈長篠の舞・双星電撃乱舞〉!!」」

 リュウヤとおタツの攻撃は決まり、アルルは気絶してしまう。
 
「いぇーい!吾郎爺、ありがとな」
「吾郎爺が居なかったら、ウチはリュウヤの事助けられなかったでありんす」
「いやはや、そんなに褒められると照れるでござるよ」

 吾郎は顔を真っ赤にして頭を掻いた。
 だがその時、どこからともなくゆっくりとした拍手が鳴り響いてきた。
 パン パン パン まるで、黒幕が現れる前兆のような、不気味な拍手。

「何奴!」
「タツ、俺の後ろに隠れろ」
「背中は、守るでありんす」
『まさか、アルルを倒してしまうとは。やはり君達は、私の想像を遥かに超える力が、あるのかもしれないね』

 優しい機械音声は、暗闇の影から聞こえて来る。その時、気配を察知したおタツが、気配の方向に爆散手裏剣を投げた。
 するとそれは、何かに当たった事で爆発した。そして、いる事を確認したおタツは、苦無を投げた。
 しかし、その苦無だけは、空中で留まってしまった。

『苦無に、爆発する手裏剣か。投げナイフとはまた違った技が見れそうだね』
「そんな、ウチの苦無が……」
「貴殿、何者!」
『おや、初対面であった事、忘れていた』
「俺は剣崎龍弥!さすらい和食屋を営む者だ!」
『ツルギサキ……ワショク……?成る程、覚えておくよ。私は……』

 すると、その声の主が、ゆっくりと煙の中から現れた。その男の正体は、魔王のような禍々しい鎧に身を包んだ男、αだった。

『私の名はα。父親ではないが、アルルの保護者といった所かな』

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