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コピー使いの異世界探検記

鍵宮ファング

第150話 ツルギサキ作戦

(……タクマさんも来てないけど、本当に大丈夫なんでしょうか……)

 ノエルは心配になり、路地裏の周りを見回す。しかし、何処にも仲間の姿はない。
 すると、魔術師の女も、誰も来ていない事を確認した後、改めてノエルに合言葉を訊ねてきた。

「さぁ、合言葉を」
「恋する乙女に……花束を」

 ノエルは答える。すると魔術師は、ただの壁を触り、そこにかかっていた秘密のカーテンを開けた。
 それにより、隠れていた入り口が開き、魔術師とノエルはその中へ入った。

「さぁ、前の席にお掛けなさい」
「は、はい」

 ノエルは、魔術師の言った前の席に座る。そして、魔術師もノエルの向かい側に座り、水晶玉となるオーブに手をかざし始めた。
 すると、その水晶に1人のイケメン男子が映し出された。そのイケメン男子は、アイドルグループに居てもおかしくないような、タクマも羨む絵に描いたような、神が高級材料で作り出したような、パーフェクトイケメンだった。
 そのイケメン男子は、メアと話をしている。

「あなたは、この男に恋を抱いている。そうですね?」
「はい。名前はクラナノ、気になっている人です」
「そう。それで、貴方は彼にどうやってデートを誘うか、迷っている。そうですね?」
「は、はい」

 ノエルは、心を読まれているのかと思うほどに的確な質問に驚きながらも、首を縦に振って答える。
 すると魔術師は、ニヤリと笑った。そして……

『やっと見つけたわ、その恋心!これで我は復活を果たせる!』

 そう言うと魔術師は、蜘蛛のような仮面の目を赤く光らせ、不気味な呪文を唱えた。
 すると、オーブからピンク色の蜘蛛の糸のようなものが出現し、ノエルを襲った。

「きゃ、きゃあ!何するんですか!」
『貴様の恋心、復活の為に奪わせてもらう!』

 魔術師はフードを外し、リオと瓜二つの姿で近付いてきた。
 するとその時、魔術師の顔面にスリッパが飛んできた。

『ぬっ!何だこれは!』
「そこまでだ、蜘蛛女!」
「こっから先はウチらが相手やで!」

 なんと、完全に閉まっていた筈の入り口の前で、リュウヤとクラナノが決めポーズらしきものを決めていた。
 2人の姿を見たノエルは、魔術師が驚く隙を見計らい、自力で蜘蛛の糸を引きちぎって脱出した。

『馬鹿な!この糸を自力で!?』
「リュウヤ、大成功だな!」
「お手柄でありんすな、流石ウチの愛した人でありんす」
「さて魔術師殿、お主の悪事はここまででござる。乙女の純情な感情を奪った罪、今ここに、腹を切って詫びよ!」

 吾郎は抜刀の構えで魔術師に言った。
 すると、メアが「別に腹切らなくてもいいじゃろ!」とツッコミを入れた。

『貴様ら、何故この場所が分かった!そこの冴えないガキに分からぬよう、変えた筈だぞ!』
「ノエちんをそん中に入れた時点で、ウチらに居場所を教えたのと同じやで」

 クラナノ、もとい変身していたナノは、ノエルの服に付けられていた、赤く光る箱を見せながら言った。
 
「へっへーん。俺たちの作戦はこうだ」

 そう言い、リュウヤは作戦の全貌を明かした。


 ──遡る事数時間前
「まず、可愛い可愛いノエちゃんは、この辺で探索を進める。その間俺らは、カフェの客やベンチで寛ぐ人のフリをして、ノエちゃんを見守る」

 リュウヤは、リオから貰ったメルサバの地図の上に猫の人形を置き、実演させた。
 その周りには、消しゴムや能面騎士の人形が置かれている。他のタクマ達を演出させているのだ。

「それで、見つけたらどうするでござる?」
「見つけたら、今度は第二フェーズ。ナノはイケメン男子に変身して、友人役のメアとしばらく話をするフリをしてくれ」
「何故そんな事をするのじゃ?」

 メアは訊いた。確かに、何故ナノがイケメン男子に変身して、メアと話さなければならないのか、全く意図が掴めない。
 タクマも「何でだ?」と訊いた。

「相手はイカサマ占い師じゃねぇ限り、水晶に人物を映し出してどんな人なのかを見るだろうからよ。ノエちゃん追って、奴の根城の前に行ったら、そりゃバレる。だから、街の人間って体で偽映像を映し出させるワケよ」
「成る程。それで、肝心の追跡でありんすけど、まさか尾行とか……?」

 おタツは訊いた。だが、リュウヤは自信満々に「いや、違う」と否定した。

「何か他の方法があるんですか?」
「あぁ、俺達の秘密兵器がな」
「ひみつへーき?何やそれ」
「ふっふーん。タッタラタッタターッタッター!なりきりスパイセット・発信機〜!」

 某国民的アニメのようなノリで、リュウヤは100均に売っているようなスパイおもちゃを取り出した。
 虫のような発信機に、それを探知する小さなモニター付きの安いおもちゃ。
 初めて見るノエルやメアは、開封したそのおもちゃを不思議そうに見つめた。

「何やこれ、服にひっつくぞ」
「すごい!この箱の赤い奴上げたら、黒い奴の居場所が分かりました!」
「ちょっとリュウヤ、何あっちの世界のアイテム持ってきてるの!安物だけどチートだって騒がれるぞ!」
「まぁまぁ皆まで言うな、ちょっとくらい良いだろ?今回はコレしか方法ねぇしさ」

 リュウヤは、タブーアイテムを持ち込まれた事に焦るタクマの顔を満足げに拝み、そう言った。

「成る程、この箱で壁に消えたノエル殿を探すと。粋な計らいでござるな」
「しょーゆー事。じゃ、作戦決行!敵は壁の中に有りぜよ!」


 ────────────────
「しょーゆー事。って訳よ」

 タクマはリュウヤの代わりに言った。

『貴様、汚いぞ!そんな訳の分からない箱に頼りおって!』

 勿論、魔術師はキレた。それも、後ろのオーブまで蜘蛛の糸を撒き散らしながら激怒した。
 するとリュウヤは、ハッハッハと笑いながら、前に出た。
 
「確かにズルいし、こんなおもちゃはチート、反則負けだ」
「あ、自分で言うでありんすか」

 おタツにツッコまれ、リュウヤは一瞬硬直し、汗を流す。
 だがすぐに、発信機を落とし、それを踏みつけて破壊した。やはり安物であるため、爆発もショートも起こさず、プラスチックが壊れる音が少し鳴った。

「けど、戦いはちゃーんと、正々堂々とズルやチート無しのガチンコだ。コレで文句は無いか?」
「うーんと、コレは敵さんに同情です」

 ノエルは頭を下げた。すると魔術師は、オーブを手に取り、そこに力を注いだ。

『なれば仕方あるまい!コレを奪わせるくらいなら、この身体を生贄に、ワタクシは復活を遂げてみせる!』
「来るでござる!」
「さぁ、乙女の恋心、返してもらうで!」
『ワタクシは色欲のラスター。罪源の仮面にして、恋を司りし魔術師!』

 路地裏ごと周りの民家を破壊し、ピンク色の炎に包まれた魔術師、もといラスターはそう名乗った。

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