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コピー使いの異世界探検記

鍵宮ファング

第141話 ファンシー街の怪人

 あれからタクマは、謎の仮面を被った人物と、それについて行く女性を尾行する事にした。
 抜き足差し足と、運良く置かれている木箱の影に隠れ、その都度様子を見た。

「あの仮面……クソ、写真さえあれば拡大して見えるのに」
「写真……?」
「あぁいや、何でもない。にしてもあの仮面、やけに覗き穴の数が多いな……」

 タクマと吾郎は、仮面の人物が付けている仮面を見てそう呟く。
 遠目で見た感じ、八つの覗き穴があり、口の方に向けて、四本の牙らしい飾りが生えている。それはまるで、蜘蛛のようだった。そして、口には赤い口紅が塗られていた。
 
「口紅……とすると、あの者は女?」
「しっ、何か聞こえる」

 タクマはそっと耳を傾ける。すると、微かに話し声が聞こえてきた。

『さぁ、もう一度あの合言葉を』
「恋する乙女に花束を」

 それを聞いた瞬間、タクマと吾郎は目を合わせる。
 吾郎は、今の聴いたぞと言う代わりに、そっと頷いた。にしても、もう一度合言葉聞くとか、奥さんお絵かきですよか。
 とそう心の中で呟いていると、こちらの尾行に気付いたのか、早足で2人は逃げていくように路地裏を曲がってしまった。

「追うでござる!」
「おう!」

 タクマは急いで跡を追う。だが……

「うぎゃっ!」
「タクマ殿!……こ、これは」

 なんと、曲がった先に道はなく、ピンク色の壁が立ちはだかっていたのだ。

「な、なんじゃあこりゃあ!」
「……どうやら民家の裏でござるな」
「となれば、隠し扉とか……」

 タクマは何処かに仕掛けがないか、壁に触れて確かめてみた。だが、押しても引いても、特定と箇所を叩いても、結果は同じでただの壁だった。
 流石にこれ以上探しようはないと踏んだタクマ達は、この人物の捜索を諦めた。


 ……その頃、リュウヤ達も、思うように情報が入らず、足踏みをしていた。

「駄目だな。皆知らんとさ」
「うぅ、会ったことある人は見つけたけど、特徴も何もかも忘れてたで」
「これじゃあ探しようがないですよ……」

 ノエルはそう呟き、近くのソフトクリーム屋で買ったソフトクリームにかじり付く。
 
「ノエちゃんは、こんな時でも食べるでありんすな」
「腹が減っては何とやらですからね。もしそんなの見つけたら私がこの手で……」

 そう言い、コーンを片手に不敵な笑みを浮かべる。その様子に、リュウヤはガッハッハと笑う。
 
「じゃ、十分一休みした訳だし、タクマの見つけた情報でも聞きに行くか」
「……と、その必要はないようやで」

 ナノは立ち上がったリュウヤの隣で、路地裏から現れたタクマを指差した。
 そして、こちらに気付いたタクマは、リュウヤの方へと駆け寄った。

「タクマさん、どうでした?」
「見つけた」

 タクマの呟いた一言で、驚きのあまり一瞬沈黙した。

「ど、どこで見つけたでありんす?」

 ここで、おタツは沈黙を破り、タクマに訊く。タクマは、無言で、出てきた路地裏を指した。
 そして、それに捕捉するように「曲がっていった筈が、その先には壁しか……」と吾郎は言う。
 それを訊いたナノは、まさかと目を丸くする。

「ナノナノ、どうしたんですか?」
「きっとそれ……壁の中に入った奴や」
「何だって?で、押したり引いたり、特定の箇所を触ったりはしたのか?」

 リュウヤは、まんまタクマが行った事をそっくりそのまま訊いた。タクマはそれにゆっくりと頷いた。
 するとリュウヤは、顎に手を当て、ナノに詳しい話を訊く。

「なぁナノナノ、どうして壁の中に入ったって分かるんだ?」
「それがウチ、銃で倒れた時あったやろ?そん時、ウチ見たんや。オニキスが、路地裏広場の壁に、女の人と一緒に入っていくの」
「オニキス……でありんすか」

 その話を聞き、タクマはその日の事を振り返る。あの日、ロード兄弟が連れてきただけで誰がやったか分からなかったが、もし仮にオニキスの秘密を知る為、勝手にナノが動き出していたら……
 Z。こんな中世世界でモダンな科学なんかやっているアイツなら、秘密を知ろうとする者は女子供関係なく、それも銃で消しかねない。
 
「とすると、オニキスに直接訊くか……」
「えぇ!?お、オニキスと話をするんですか!?確かに彼なら何か知ってそうですけど、今はZの一味なんですよね?殺されたりしません?」

 ノエルは絶対にやらせまいと、馬鹿力でタクマの腕を掴む。
 そして、地味に嫌な音も鳴る。

「痛い痛い痛い痛い!」
「まあでも、オニキスの奴、やけにタクマの事気にしてる感じがするからなぁ、迷惑野郎だとしても、損はさせないと思うぜ」
「しかしリュウヤ殿、相手は死神で神出鬼没。そう易々と姿を見せる奴では……」
「大丈夫だって。もし何か行動起こしてきたら、俺らが総出で叩けばいいさ」

 リュウヤはベンチに腰掛け、伸びをしながら気楽そうに言った。
 そして、はぁ〜と一息ついた後、タクマに「そういやさ」と訊ねた。

「何?」
「メアちゃんって確か、リオ姫の所行ったんだよな?」
「その筈でありんすけど……」
「だったらよぉ、メアちゃんの持ってるコネとかで、王からも情報ゲット出来んじゃね?」

 リュウヤは思いついた事をそのままタクマに話した。

「あ!その手がある!」
「それに、タクマさんと吾郎爺は魔術師らしき人物を目撃している。その証言を基に、メルサバ軍直属の絵描きに頼めば、更に情報を得られる筈です!」

 そう言い、ノエルは目を輝かせる。
 
「おっし、そうと決まればメルサバ城にレッツらゴーやで!」

 こうして、タクマ達はメルサバ城へ向かう事となった。のだが、その様子を、誰かが見ていた。
 タクマ達の気付かない民家の上、そこで寝転ぶ男が、観察していたのだ。

「……あの野郎、何で俺がアイツらの監視をしなくちゃいけねぇんだ」

 その男と言うのは、オニキス。彼はある人物に用心棒としてスカウトされたのである。
 ただ、何も行動できないが故、退屈で死にそうになっていた。

「にしても、まだ嗅ぎ付けられないとは。今回は強敵だな、アイツらにとって」
「そうだよねー。今回のは強敵だって、α様も言ってたし」

 すると、空からアルルが現れ、オニキスの独り言に答えるように呟く。
 オニキスは面倒な彼女が現れた事にため息を吐き、呆れきった声で「何のようだ」と問うた。

「何って、オニ君がサボってないか見に来たの。で、どうなの?」
「サボってねぇ。ただ見てるだけなのが退屈すぎて死にそうってだけだ」
「だったら断れば良かったのに、何で引き受けたの?」

 アルルは、オニキスの横に寝そべり、不思議そうに訊く。
 その問いに、オニキスは面倒臭そうに「俺を恐れて殆どの最強が消えたから」と答えた。

「殆どの最強?」
「俺は自分で最強と言う奴、誰かに最強と祭り上げられてる奴以外眼中にない。そんなの「俺を倒してください」ってバカデカイ看板掲げてるようなモンだからな」
「バカデカイ看板……?」

 そう呟くと、オニキスは少し間を空けてから「あぁ」と返した。

「だが、仮に本当の最強野郎諸共、皆して看板を掲げなくなったら、俺は見逃しちまう。それも、去年のうちに有名な最強は皆狩ったから、今居るマイナーな野郎共は尚更だ」
「だから引き受けた訳ねぇ〜」

 しかし、今度は何も返さなかった。ただ、ノソノソと城へ向かっていくタクマ達を見るだけで、うんともすんとも返さない。
 それに拗ねたアルルは、ねぇねぇと、子供のように頬を突いた。

「さてと、暇だし暇つぶしにアイツらに迷惑かけてくるか」
「あ、待……」

 オニキスはアルルの腕を鬱陶しそうに払い、屋根から屋根へと伝って、飛び去ってしまった。

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