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コピー使いの異世界探検記

鍵宮ファング

第129話 決着!男と男の覚悟の剣

「オーブは俺のものだぁ!」
「くっ……」

 赤黒い斬撃は、もう目の前に迫ってきている。もうダメだ、耐えられない。
 でも、諦めるな。諦めたら、そこで全て終わる。
 そう心に言い聞かせ、一か八か、タクマは立ち上がった。

「《コピー》!」
「無駄だぁ!」

 オニキスが叫んだその瞬間、三本の赤黒い斬撃は一つの大きな爪となり、タクマに襲いかかってきた。
 コピーできたかどうかなんて調べる時間はない。そう判断したタクマは、無意識に、剣で爪を防いだ。
 
「ま、マジかよタクマ……」
「タクマ殿……」

 絶望的だ。そう思った観客、そしてリュウヤ達は、目を下に向けてしまう。しかし、様子がおかしかった。そのすぐ後、実況が騒ぎ出したのだ。

『な、なんて事だぁ!オニキスの必殺技を、タクマ選手!受け止めたぁぁぁ!!』
「諦めて……たまるもんかぁ!」
「往生際の悪い!だが、そうでなきゃ面白くねぇ!」

 タクマは、全身を使い、襲いかかってきた爪を跳ね返した。

「今だ!《コピー・クリムゾン》!」
「無駄だ!俺のクリムゾンは貴様に仕えまい!」

 最初は、特技だから使えないと思っていた。しかし、ふと天に掲げた腕を見ると、そこから、赤黒いものが噴出していた。
 勿論、想像すらしてなかったタクマは、自分の力に驚く。

「な、なんじゃこりゃ……」
「俺のクリムゾンは……いや、あり得ない」

 そしてクリムゾンは、タクマの持つ剣と同じ姿をした物に変わり、タクマは、二本の剣を手にした。
 
「面白い!じゃあ俺もやらせてもらおう!」

 オニキスは、タクマがクリムゾンを使った事を面白がり、黒い剣で自らの腕を斬る。そして、そこから流れた血で、クリムゾンを発動させた。するとその剣は、タクマの持つ赤黒い剣と同じような色に変わった。

「どらぁっ!!」
「はぁっ!!」

 オニキスとタクマは、また勢いよく鍔迫り合いを行う。両者とも強く、何度打ち合っても、動かなかった。だが、オニキスが時空を歪める力を使った事で、タクマは鍔迫り合いに負けてしまった。
 
「ぐあぁっ!」

 だが、まだ戦える気力は残っている。そう思い、剣を構え直す。しかしその時、タクマの体に異変が生じた。
 何故だ、フラフラする。クリムゾンで作られた剣を使う度、ジワジワと、血を抜かれているような痛みが走る。ただ、対価を無視した事による痛みとは何処か違う。
 このクリムゾン、己の血を消費する、諸刃の剣だと言うのだろうか。しかも、さっきまで満タンだった筈の元気が失われ、腹が減り始める。

「例えコピーできたとしても、未熟なお前には耐えられまい!」
「くそっ。これ以上はダメだ……」

 確かに、この力を使えば、オニキスと互角の勝負が出来る。だが、使いこなせない自分が使い続けていれば、自分を殺す事になりかねない。
 そのため、タクマは仕方なく、赤黒い剣を捨てた。すると、その剣は血に戻り、辺りを赤く染め上げた。ただ、止めてもなお、手の平から垂れる血は止まらなかった。まだジンジンする。

「さぁ、そろそろ終わりにしてやろうじゃあねぇか!」
「いや、まだ終わらせるには早すぎる!」
「まだ足掻くか、諦めの悪い奴め!」

 オニキスは、無言でクリムゾン・クローを放った。それをタクマは、何処から来るのかを読み取り、避けながら距離を詰める。幸い、クリムゾン・クローを使うのにはある程度の血、距離、時間を要する。それさえ避ければ、反撃のチャンスを作ることが可能となる。
 しかし、オニキスの剣が赤黒く染まった今は、斬撃が速すぎて避ける事が難しい。

「ぐぁっ!!」
 
 タクマは避けきれず、斬撃を食らい、後ろへと飛ばされてしまった。それにより、ドバドバと血が流れる。
 まずい。これ以上血を流せば、最悪の場合死ぬ。
 だがその時、一瞬ではあるが、頭の中に緑色に光る石のビジョンが見えた。走馬灯だろうか、何処かで見た気がすると、空中に居る刹那に思う。
 すると、その答えを教えるかのように、ポケットから風弾石が一つ飛び出した。そうだ、この風を使えば……!

「《ウィンド》!」
「……!?」

 何だ今のは。まるで、竜巻に巻き込まれた落ち葉の如き速さ。いや、アイツの魔法はコピーしか使えない筈。あのモノマネ野郎が、自分の魔法を使うことはできない。
 なのにおかしい。頬から、血が流れている。
 オニキスは、何が起きたのか理解できずに居た。だが、表に出す事はなく、堂々と剣を構え続ける。

「あと3個……なら、一つはここで!」

 そう言ったタクマは、風弾石から風の力を貰い、それを剣に流し込んだ。
 すると、ボロボロになりつつあった剣が、一時的ではあるが、風の刃を纏い復活した。
 そう、タクマは、メイジュとブレイクが使っていた、ウィンドをバネ代わりにして飛び上がる技を応用し、一撃だけでも攻撃速度を上げるために使ったのだ。

「チッ、魔法石か。出し惜しみやがって!だが、俺の爪の前では何の効果もない!」
「そんなの、やってみるまで分からねぇ!」

 タクマとオニキスは、ぶつかり合いながら叫んだ。そして、目にも止まらぬ速さで、何度も剣を交えた。
 タクマは風の力を使い素早く、オニキスは素早くかつ力強く。どちらも退かない攻防戦を戦い抜く。

「今だ!〈閃の剣〉!」

 そして、ついに隙を見つけたタクマは、オニキスの左脇腹に狙いを定め、閃の剣を放った。しかし、剣はオニキスによって、上から叩きつけられ、止められてしまう。だが、風の刃が、タクマの剣から離れると同時に、狙っていた脇腹に斬撃を与えた。

「これで終わりかぁ!はぁっ!」
「ぐはぁっ!!」

 やったか。そう言う隙すらなく、タクマはオニキスの一撃を食らい、2メートル先まで飛ばされてしまう。
 それでもタクマは、体に無理をさせつつも立ち上がった。しかし、剣が重すぎるせいで、剣なしで立ち上がってしまった。
 
「死ぬ気か?まぁいい、今度こそ止めだ!」
「くっ……!」

 剣がないなら、もうどうにでもなれ。拳で、腕で戦え。対価なんて気にするな。戦え。
 タクマは、腕に力を溜め、防御の体制に入った。

(相手は必ずあの技を繰り出す。けど、見た感じオニキスも限界を迎えてそうだ。この一撃さえ耐えれば、勝てる!)
(無駄だ。どんなに足掻こうと、殺さないように手加減はするが、俺のクリムゾン・クローを食らえばアイツは暫く眠る重傷を負う。それをアイツ、防ぐつもりか?)
「まぁいい!〈クリムゾン・クロー〉」

 オニキスは、技を出す体制を取った。
 もうこの一撃しか発動できない。これ以上使えば、空腹と失血によって逆に無様なやられ方をする羽目になる。
 しかし、それでもタクマは諦めようとはしなかった。襲いかかってくる爪に向かって走り出し、両手で挟んだ。

「ば、馬鹿な!俺のとっておきを……!?」
「ぐぐっ……」

 タクマは押されていた。地面に足がめり込むほど、赤黒い爪に押されていた。それでも、己の歯を噛み砕く勢いで歯を食いしばり、絶対に無理かもしれない斬撃を止める。
 痛い。掌が焼けるように痛い。今にも魂が刈り取られそうになる。それでも、タクマは防いだ。
 そして、勢いが弱まった頃を見て、タクマはわざと斬撃を右腕に食らった。

「はぁ……はぁ……」

 意識が朦朧とする。だがそれでも、タクマは傷口を残った力で押さえつけ、無駄に流れる血を止めようとした。
 だが、止まらない。切ってはいけないと所が切れてしまったのか、全く止まる気配がない。

「約束を果たすまでは……死ねないんだ……だから……俺は……」

 タクマは、朦朧とする意識の中、死なないために意識を保ち、立ち続けた。
 
「もういい。今のお前を倒した所で、弱いものいじめにしかならん。さっさと退場……っ!?」

 その時、オニキスはタクマの目の前で心臓がある部分を押さえ、その場に倒れ込んでしまった。
 虚ろな目をして、今にも死にそうな程口をぱくぱくとさせ、苦しんでいた。何だか視界に白い霧が掛かっているが、そんな状態でも、はっきりと分かった。

「クソッ、こんな時に……」

 痛みに耐えられなくなったオニキスは、倒れた状態でタクマの足に何かを刺し、薬のようなものを注入した。すると、タクマの体がみるみるうちに回復していった。
 とは言っても、気絶しそうな事に変わりはなかった。

「今日の所はテメェに勝利の美酒を飲ませてやる。だが覚えとけ、俺はお前らにとって、大迷惑な存在だ。存分に困らせてやる」

 オニキスはそう言い残し、タクマの目の前で煙玉を使い、姿を消してしまった。

『た、ただいまこちらの実況席に謎の紙が降りてきました。えーっと、「ここで首を取られるわけにはいかないから帰る オニキス」?』

 実況は、オニキスが残したであろう手紙を、ゆっくりと読んだ。やはり弱っているからか、ミミズが這っているような文字で書かれていたのだろう。

『と、とにかく!オニキス選手の棄権と言う事で、タクマ選手の大・大・大逆転勝利となりましたぁ!!』
「やった……勝ったんだ……けど……けど……」

 タクマは、喜んで腕を上げようとした。しかし、腕は上がらず、タクマは倒れてしまった。
 声も出ない。意識が完全に途切れてしまうようだ。

(勝ったけど、ちゃんと、しっかりと勝ってはいない。もっと、ゴーレム倒す時以上に、強くならないと……)

 心の中でそう呟きつつ、タクマは目を閉じた。

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