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コピー使いの異世界探検記

鍵宮ファング

第126話 真夜中!最強狩りの謎

「ったく、何処に落とした……」

 オニキスは、寝静まったアコンダリアの街中を探し回る。ある筈のものが、何処にもない。
 昨日の場所、一昨日の場所、それよりも前の場所。オニキスは必死で探した。
 しかし、何処にも探し物は無かった。

 ……それと同時刻、トイレから出たタクマは、近くの洗面台で手を洗う。
 ほぼ真っ暗な空間のトイレだから結構怖かったが、催した者は仕方ない。そんな気持ちで向かってみたが、結構怖くはないものだった。

「自分で言うのもアレだけど、肝が強くなったな」

 そう言って水を止め、近くにかけられたタオルで手を拭く。
 すると、そのすぐそばにある窓から、誰かが何かを探している様子が見えた。

「あれ?こんな時間に誰だろ」

 タクマは、こっそりと外へ向かった。


「こんな街中じゃあ、もうあきらめるしかないか」

 オニキスは、無情に見下す月を見上げて呟く。するとその時、宿屋の扉が開く音が聞こえた。
 
「まずい、人が来る」

 そう言うと、オニキスは近くの裏路地に身を隠した。
 まさかこんな時間に出てくるとは思わなかった。トイレを探しているのだろうか。いや、中に設置されてるから有り得ないか。
 自問自答を繰り返す。ただ今は、それしかできない。もし見つかって兵士でも呼ばれれば、面倒だ。
 アイツが秘密を知られそうになった程度で、銃とか言うモダンなアイテムを使ったせいで、コソ泥みたいな真似をしなければならなくなった。

「だがまぁ、その分賞金跳ね上がるしいいか」
「ニャー」

 裏路地に背を預けていると、運悪くそこに猫がやって来た。またしても、この前出会った黒猫だ。
 特にあげられる餌もないのに、懲りない奴だ。なんて思っていると、誰かがこちらに近付いてくる足音が聞こえてきた。
 仕方がない。殺さない程度に伸すしかない。
 オニキスは、右手に力を溜め、すぐに時空を歪める能力を使う準備をした。

「止まれ。大人しくしろ」
「うわぁっ!な、何!」

 両者とも暗闇の中に居る為、最初は見えなかったが、じわじわと目が慣れてきた頃に、二人はもう一度相手を見た。
 するとそこには、タクマが手を上げて立っていた。

「あれ?オニキス……」
「なんだタクマか」

 オニキスは、警戒して損したと、ため息を吐く。それに対してタクマは、嫌味を言うように「俺で悪ぅございました」と、返した。
 それにしても、タクマはあのタヌキ娘一派の中でも面倒な存在だ。確かに伸び代があるから気に入ってはいるが、好奇心旺盛なのか、出会うとすぐに質問を投げてくる。
 
「あっ、そうだ丁度いい」
「何だ?勝負は明日のお楽しみだぞ?」
「違う違う。コレ、何かは分からないけど、アンタのだろうから返そうと思ってたんだ」

 タクマは、態度を改め、鞄から黒い袋を取り出した。それを見たオニキスは、「あった!」とつい大声を出してしまう。そして、奪い取るようにしてそれを受け取った。
 何が入っているのか気になるが、ノエルが言うに幸せが逃げてしまっては意味がないらしい。だから我慢した。
 
「礼は言わんが、特別に今回はお前の質問に何個か答えてやろう」

 大事な物を返してもらったと言うのにらオニキスは偉そうな口調でタクマに言った。ただ、何故かオニキスは背中を向ける。
 何でだろうか。まあ、とにかく彼の目的を聞けるのなら、今はそれで十分だ。

「じゃあ訊くけど、何で賞金首になろうとしたんだよ。こうやって大会みたいなので狩っても同じじゃないか」
「それはだなぁ、賞金首になった方がやり易いからだ」
「やり易い……?」

 タクマはオニキスの言う答えに首を傾げる。
 理解していない様子に、オニキスはイラっとしながらも、その訳を話してくれた。

「大会なんてのは、年に一度やるかやらないか。現にこのアコンダリア武闘会も四年に一度。そんなのを待つよりは、悪行を重ねて首に金を掛けまくった方が、より金目当ての最強と戦える。そして、ソイツを倒せば、また金が上がって、狙う奴等が増えるって寸法だ」
「成る程。けどどうして、そこまでして最強を狩ろうとするんだよ」

 そう訊いた瞬間、オニキスは一瞬でも黙り込んだ。これは訊いてはいけない質問、もしくは答えられない質問だったのだろうか。
 しかし、オニキスは特に嫌と言う意思を見せる事なく、ゆっくりと答えた。

「俺が真の最強となる為の修行みたいなモンだ。然るべき日の為のな」
「然るべき日……?」
「おっと、ここから先は駄目だ。他の質問をしろ」

 そう言われ、タクマは仕方なく次の質問を考えた。そして「お前、本当は優しいだろ」と言った。

「俺が優しいだと?馬鹿を言うな。俺は死神、300万ゼルンの賞金首だ。優しい奴がそんな物騒な者になってたまるか」
「いや。だって、普通ならわざわざ薬置いて帰ったり、回復呪文の書とか置いてかないだろ」
「はぁ。お前はやっぱりまだまだだな。」

 オニキスは、深くため息を吐き、両手を肩ごと上げて馬鹿にした。
 
「俺は人殺しはしない。それに、最強を名乗っていた奴等を生かしておいた方が、修行をやり直して帰ってきたりしてやりがいがあるからだ。決して優しさなんかじゃない。最も、そんな情は当の昔に捨てた」

 オニキスは言う。ただ、その目は、どこか悲しそうにも見えた。そしてそのまま、足元に居た猫を抱き抱え、首の付け根を撫でる。
 猫は居心地が良いのか、ゴロゴロと喉を鳴らして喜ぶ。

「じゃあ、俺はもう帰る。明日の試合、楽しみにしてるぞ」
「ま、待ってくれよ!」
「あ?まだ訊きたいことがあるのか?」

 うんざりとした表情を見せたオニキスに、タクマはすぐさまポケットから汚れた手紙を取り出した。
 ラブレターとかではないようだが、人に対して汚い手紙を寄越すとは。そう思いつつも、オニキスは汚物を摘むように受け取った。
 そこには、ガルキュイでハルトマンから預かったオニキスの予告状が書かれていた。

「まさかとは思うけど、コレお前が書いた奴じゃねぇよな」
「違うな。俺のせいにしようったって、コレは馬鹿にしてるようにしか見えん」

 そう言うとオニキスは、猫を肩に乗せてから、手紙を目の前でビリビリに破り捨てた。そして、これでもかと言わんばかりに残骸を踏みつけた。
 タクマは、その様子に「あー」と声を溢す事しかできなかった。

「俺の字はもっと綺麗だ。文字習ったばかりのガキみたいな字と一緒にするな」

 そう言い残し、オニキスは猫をタクマに渡して闇の中へと消え去った。

「アイツ、謎が多いな。なー、ナゴ助」

 タクマは、猫の顎を撫でながら優しく言った。
 すると猫は、真顔でタクマの手に噛み付いてきた。

「痛ったぁ!……あー、何で俺ニャンコちゃんに嫌われるんだろ。猫娘のノエルには好かれてるのに」

 猫に嫌われた事に肩を落とし、タクマはノコノコと宿屋へと戻った。

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