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コピー使いの異世界探検記

鍵宮ファング

第123話 準決勝!クノイチの策略

『皆様、長らくお待たせいたしました!明日開催される大舞台、アコンダリア武闘会決勝戦へと勝ち進む命知らずを決める祭典!準決勝戦を開催いたします!』
「おう、やっと始まったようじゃな」
「タクマさんとおタツさんの戦いかぁ。どんな試合になるか楽しみです」

 メアとノエルは、タクマとおタツの戦いがよく見えるように、西と東の扉がよく見える位地に来ていた。
 更にそこへ、3人の飲み物と、フランクフルトなどを持って、吾郎がやって来た。

「メア殿、ノエル殿。何も飲まず食わずと言うのは女子の体には良くないでござる。コレは拙者が“かじの”で大勝ちした奢りでござる」
「吾郎さん、カジノをするのもいいですけど、ほどほどにしてくださいよ?」

 ノエルは、飲み物とフランクフルトを受け取り、ニッシッシと愉快に笑う吾郎に忠告した。まあ、カジノを楽しめるのはアコンダリアだけではあるが、ここを出る間にボロ負けして有り金も身包みも剥がされたら、たまったものではない。
 そう思っていると、また客人の影がやってきた。

「おぉ、間に合った間に合った。俺の弟子の晴れ舞台を見逃す所だった」
「ぶ、ブレイク!お主どこ行ってたのじゃ!?」
「やぁメアちゃん、吾郎さん、ノエちん」

 なんとそれは、ロード兄弟だった。久しぶりの登場に、メアは驚く。
 その反応を見て、ブレイクはハッハッハ!と大笑いする。

「いや〜、備えあればって思って持ってきてた握り飯が傷んでて、腹下した」
「ブレイクさん……熱血漢ではあるんですけど、やっぱり何処か抜けてますよね……」
「そうか?ま、それも個性だし、俺はなーんも気にしねぇぜ」

 そう言うとブレイクは、「傷み飯が怖くて、アルゴ一が名乗れるかぁ!ってな」と、小声で呟いた。
 
「それよりお主ら、そろそろ始まるぞ」
「これはいけない。早く見ないと」
『まずは西コーナー!コピーの力でこの舞台まで上り詰めた、謎多きダークホース!今回はどんな戦いを見せてくれるのだろうか!タクマ選手!!』

 名を呼ばれたタクマは、東の門から現れる。そして、タクマの姿が見えたその時、歓声が飛び交った。
 これを見た感じ、コピー使いと言う事から、普通では見られない戦いを拝めるため、結構人気があるようだ。

『対するは東!大和の御庭は我が御庭!彼岸の忍術で敵を穿つ!異国の忍び、おタツ選手!!』
「まさか、ウチとタクマさんが戦うことになるとは、予想すらしていなかったでありんす」
「いつかメンバーの誰かと剣を交えるとは思ってたけど、まさか1番目がおタツさんだとは。本気出せるかなぁ」

 まだ和装姿のおタツを前に、タクマは自分が仲間相手に本気を出せるかどうかの不安を見せた。
 するとおタツは、お淑やかに裾で口を隠して笑った後、タクマの足元に苦無を投げつけた。

「うわっ!な、何するんです!」
「リュウヤ曰く、どうせ楽しむなら、仲間相手でも全力でやろうぜ、との事なので」

 そう言うと、おタツはいつもの忍び装束に身を包み、忍者刀を構えた。
 それを見たタクマも、剣を構える。リュウヤが全力でやれと言うのなら、例え相手が親友の奥さんだろうと、覚悟を決めなければならない。
 そう言い聞かせ、タクマはおタツを睨むようにして見る。この時点で気が引けるが、変に八百長を疑われるくらいなら、全力の方がやりやすい。

「わかりました。じゃあ俺も、全力で相手さしてもらいます!」
「えぇ、どんと来るでありんす」

 おタツは容赦なく、それもタクマが暗殺対象であるかの如く、ゴングが鳴るコンマ1秒よりも前に動き出す。
 その速度は韋駄天のように速く、気が付いた頃にはもう既にタクマの目の前に居た。しかし、タクマも成長していない訳ではなかった。己の勘に身を委ね、感覚でおタツの忍者刀を防いだ。

「なかなか、強くなったようでありんすな」
「おかげさんでな。はぁっ!」
「けど、まだ甘いでありんす」

 剣を振り上げたと思ったら、なんと振り上げた剣の上に、おタツが立っていた。さすが忍者、動きが俊敏かつ身軽だからか、そんな事にも気付かない。
 そこにおタツは、指シャボン玉をやるように、炎を吐き出した。

「熱っ!熱っ!やったな〜、《コピー》!」
「ウチの忍術をコピーするとは、けど、そう簡単にやられるほど、ウチは甘々ではありんせん」

 そう言うと今度は、地面に手をつき水を発生させた。それと同時に、運悪くタクマはコピーした火炎の術、もとい 《コピー・フレア》を放ってしまった。もちろん、属性関係的に不利だったフレアは負け、タクマは水浸しになる。
 しかし、今度はそれを利用し、タクマは水流の術をコピーした。ただ、すぐに使うのではなく、一旦コピーした水の能力を保持する事にした。

「まだまだ行くでありんすよ!」
「望む所!」

 すると、おタツの第二撃が開始された。相変わらず目にも留まらぬ速さで動いているせいで、なかなか攻撃する隙を伺えない。しかし、微かにではあるが、此方にだけ吹いてくる風が、次はどこから来るのかを教えてくれる。
 色んな敵と渡り歩いて来て培った能力なのだろう。タクマは自ら目を閉じ、ただ感覚にだけ頼った。すると、見えた。
 いや、正確には“感じた”が正しいのだが、おタツの輪郭を描く影のような線画らしきものが、閉じた瞼の裏に映し出される。

「はぁっ!そこだっ!せぃっ!」

 とにかく何もしないと言うのは命取りとなる。タクマは己の信じて剣を振る。すると、その三撃全てに、鉄がぶつかるような感触があった。そう、おタツの猛攻を防いだのである。

「さっきよりも強い。こうなれば、あまり使いたく無かったのでありんすけどね……」

 来る。次はどんな動きをするのだろうか。タクマは身構える。するとその時、1時と11時の方向に気配を感じた。
 
(1時と11時の方向!?)

 気配が二つ、一体何が起きたと言うのか。タクマは確認するがてら後ろを振り向き、目を開いた。しかし、そこには感じた気配の持ち主はいなかった。
 するとその時、背中を何者かに斬られそうになる気がした。咄嗟にタクマは、適当に剣を縦に振る、縦回転斬りで反撃した。
 
「きゃぁぁぁ!」
「はっ!」

 なんと、そこにはおタツが突撃してきていた。それも、刀がザックリと入ったのか、額から大量の血を流している。
 まずい、殺してしまった。タクマの顔がだんだんと青くなる。

「おタツさん!おタツさん!」
「タクマ……さん……」

 剣を置き、おタツに駆け寄る。取り返しのつかない事をした。やりすぎた。どうしたらいいと言うのだ。
 とにかく血を止めないと。そう思い立ったタクマは、あまりの焦りように、そのままおタツの頭を掴み、その傷口を無理矢理繋ぎ直すようにして押し込んだ。
 するとその時、弱っていたおタツが、その腕を掴んできた。

「ザンネン、偽物でありんす」
「えっ?」

 弱っていたおタツがそう言った瞬間、なんとおタツの体が爆発した。剣を置いてしまった事で防ぐ事のできなかったタクマは、爆風を食らって飛ばされてしまう。
 更に、飛ばされた先に待っていた本物のおタツに、腹に膝蹴りを入れられる。

「んぐぅっ!」
「感覚だけで忍者を退けるなんて、100年は早いでありんすよ」
「そうか、爆散手裏剣を仕込んだ分身を使ったのか……」
「ごめんなさいね。でも、騙すのもウチら忍びのやり方でありんすから」

 腹を押さえるタクマに、おタツは可愛らしく舌をチョロっと出して笑う。本気で心配していたと言うのに、なんと言う悪女だ。
 ただ、何処か憎めない。むしろさっきの膝蹴りはご褒美。
 いやいやそんな事は置いといて、まず一番大事なのは感覚だけには頼れないと言う点だ。
 しかし、その対処法を考える暇を与える事なく、タクマに向けて苦無が飛んできた。

「待ったはなし。ここからは本気も本気、マジで相手をするでありんす」
「くっ、弱ったなぁ」

 タクマは追い込まれた状態でもなお、諦める事なく避け続けた。飛んでくる苦無を避け、壁に貼り付けられる爆散手裏剣の爆風を利用し、また更に攻撃を避ける。
 するとそこに、おタツは巻物を取り出し、親指から流した血を元に分身を作った。そしてその分身は、タクマをやっつける為だけに、タクマを襲う。

「「「覚悟!」」」
「できてらぁ!」

 もう相手が偽物だと分かっているのなら、斬っても問題はない。そう判断したタクマは、閃の剣で分身おタツの首を撥ねた。勿論、分身だから首が取れた瞬間、その分身は彼岸花へと姿を変える。

「くっ、こうなればあの手を!雷の術!」

 そう叫び、おタツが地面に手をついたその時、なんとタクマの足元から天に向けて、雷が飛び上がった。
 普通逆だろと言いたかったが、まさかの現れ方に驚きを隠せず、何も言えなくなる。

「ぐがが……」
「さて、そろそろ止めと行くでありんすよ」
「……こ……コピー!」

 身体が痺れて動かない。しかし、それでもやらなければやられる。負けてない以上、諦めるなんて選択肢を選ぶのはまだ早い。
 タクマは体を無理矢理動かし、サンダーをコピーした。
 そして、飛び込んでくるおタツの気配を辿りつつ、剣にコピーした水の魔力を注ぎ込む。

「《ウォーター・ソード》!」
「甘い!」

 忍者刀と剣がぶつかり合う。そして、水を纏ったタクマの剣は、忍者刀とぶつかる度に水を飛ばす。
 次第に、辺りの土が水浸しになり、水溜りまでできる。

「終わりでありんす」
「まだまだ!」

 その時、タクマとおタツは互いに後ろへ距離を取る。するとタクマは、その瞬間、足に魔力を溜め込み、それを地面へと流した。

「《コピー・サンダー》!」
「なっ!まだまだ!」

 自分もろとも、水浸しにした地面に雷魔法を放つ。それにより、おタツもタクマも痺れる。しかし、地面に電気を吸い取られているせいか、そこまで効力はなかった。
 もう目の前には忍者刀を構えたおタツが飛び込んでくる。仕方がない。タクマは剣を上へと投げた。
 そして、感覚を信じ、おタツの腕を掴んだ。

「えっ」

 更に、おタツに背負い投げをお見舞いし、奪い取った忍者刀をおタツの首に突き付けた。
 完全に無意識の、ただ感覚に身を委ねただけの技。それが決まったのだ。タクマ自身も信じられていない様子だった。

「……参りました」
『勝負ありぃぃぃぃぃぃ!!おタツ選手のお手上げにより、タクマ選手の勝利が決定しました!皆様、このダークホースに喝采を!』

 実況が言った瞬間、会場が拍手喝采に包まれた。

「そのまま、スパッと行っても良かったのに」
「俺にはできませんよ、そんな事」

 手を差し伸べながら、タクマとおタツは言う。するとおタツは、そんなタクマを見てフフッと笑い、「カッコつけちゃって」と言った。
 華々しく帰ろうとしていたタクマは、その言葉が背中に刺さり、派手にコケる。確かに今のは否定できないけど、やっぱり刺さるものは刺さる。

「おタツさん、もうやめて。おれのライフほぼない……」
「あら、それはお許しなんしね」

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