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コピー使いの異世界探検記

鍵宮ファング

第118話 逆運!風来のシオンと和食屋見習い

「ターックマ、見舞いに来てやったぞ」
「メアか。まーっきの、みたいに言うなよ」

 カットスイカの乗った皿を持って、看護室の扉からメアが顔を出す。オニキスにワンパンされたというのに、結構ピンピンしている。
 タクマは彼女の様子を見て、ホッと一息つく。あの時の魔法が効いたのだろうか。多分、回復薬を使ってないから効いたのだろう。

「ほれ、リュウヤが切ってくれたスイカじゃ。」
「サンキューメア。そういや、リュウヤはどうしたんだ?」

 タクマは、スイカを種ごと飲み込んでから訊く。するとメアは、種ごと飲み込む事に驚きつつも、「おタツとナノの戦いが、おタツの不戦勝で潰れたから、リュウヤとシオンの戦いに出ておる」と答えた。
 そう言えば、カーテンがされていて分からないが、隣のベッドにはナノちゃんが寝ている。

「なあ、メア」
「何じゃ?」
「あっと……大丈夫か?傷」

 ナノの事について話そうと思ったが、何処かで何かが引き留めているせいで全く違う質問を投げかけてしまった。
 何をやっているんだ。ナノの事をしっかり伝えないといけない筈なのに……
 だが、メアは不思議そうな顔をしつつも、「何とか、傷も塞がって元気満タンじゃ!」と答えてくれた。

「タクマも、さっさと治して、やる事があるんじゃないのか?」
「うん。この戦いに勝つ以外にも、ね。」

 言って、タクマは腕を回す。だが、重力に逆らって腕を上げたせいか、ズキリと激痛が走った。

「あだーっ!」
「もう、言ってる側から無茶する。このバカタクマ」
「はい、すみません」


 ──それはそれとして、戦場。
 ここでリュウヤは、今か今かと扉が開くのを待っていた。わざとではあったが、負けた吾郎の意思を胸に、そしてナノの意思を胸に。シオンを倒し、その先に待ち構えているであろうラウムとオニキスを倒す。
 そして、一度でもいいから、親友とガチのバトルをしてみたい。
 ただの料理好きな一般人だった、かつての自分なら絶対思わないであろう事を、今思う。

「変なの。異世界に関わってから、いい意味でも悪い意味でも変わったもんだな」

 リュウヤは呟く。すると、ついに実況がアナウンスで、第3回戦の開戦を告げた。

『まずは西コーナー!どんな相手だろうと諦める事なく突き進む!秘境の侍!リュウヤ選手だぁぁぁぁ!!』
「よっしゃ。今日も一日気張っていくぞいっと」

 体を伸ばして、何処か不調がないか確認する。昨日あれだけ斬られた事だし、流石に何もない筈がないだろう。未だに魔法の概念が信じられないリュウヤは、じっくりと身体の不調を調べる。
 だが、特に不調はなかった。異世界の魔法、恐るべし。
 そんな風に考えていると、向かい側から、何処か涼しそうな薄いピンク色のローブを纏った、水色髪の魔法使いらしき少女が現れた。右手には、緑色に輝く宝珠のようなものが付いた杖を持っている。

『対するは東コーナー!どんな強敵も運の力でなぎ倒す!期待の彗星!シオン選手だぁぁぁぁ!!』
「イッチニ、サンシッと。アレが巷で噂のさむらぁいって言う子ね。ドキドキしちゃうって感じ」

 まるでサービスをするかのように、シオンは肌を見せる。それを見た観客達は、シオンの姿に燃え上がった。
 
「マジか、女の子相手か……」

 一瞬、リュウヤは刀を抜くかどうか躊躇った。しかし、ここまで来て今更何を躊躇う事があるか。これもナノの果たせなかった目的を代わりに果たしてあげるため。リュウヤは覚悟を決め、鞘から刀を抜いた。

「ねぇねぇ、リュウヤ君だっけ。お互い正々堂々と、握手しようよ。ね?」

 刀を抜いて構えた状態というにも関わらず、シオンは物珍しいリュウヤと仲良くなりたいのか、手を差し出した。
 リュウヤは、彼女の美しい笑顔に釣られ、仕方なくではあるが、しっかりと握手を交わす。
 そして、握手が終わった後、唐突にゴングが鳴り響いた。この瞬間から、彼女は友達であろうと何であろうと敵となった。その事を脳にしっかりと叩き込んだリュウヤは、シオンの腹に向けて刀を振った。

「甘いって感じ?《ウィンド・シールド》!」
「うわっ、また盾か!けど、甘いかどうかは、味見しねぇと分からねぇだろがい!」

 そう言い返し、リュウヤは見えない盾を破壊しては、シオンに攻撃を加えた。シオンの方も、風の刃や風の盾、風の波動などを用いてリュウヤに対抗する。
 それはまさしく、風を相手に修行をするサムライのようだった。かろうじて見ることはできるが、しっかり見ないとほぼ「無」と同等の存在である風。それを斬る度に、ブン!と風切音が鳴る。

「なかなかやるみたいじゃ〜ん?けど、アタイの 《ウィンド》ってさ、これだけじゃないんだよね〜」
「これだけじゃない?OK、なら見せてくれよ、シオンちゃん」
「ほい来た、ノってくれてありがとねリュウヤ君!」

 そう言うと、シオンは自らの親指を切り、血を流した。すると、その血が風魔法に混じり、赤黒い旋風が現れる。
 そして、その旋風を、シオンは 《ブラッディ・ウィンド》と叫び、リュウヤに向けて放った。

「血入り魔法か、痛そうな事しちゃってまぁ」

 穏やかな口調で言うリュウヤだが、体は真面目に、ウィンドを一刀両断する。
 しかし、斬った時にチクリと何かが刺さるような小さい痛みを感じた。何だろうか、リュウヤはそう思いつつも、シオンに攻め入る。
 だが、シオンはその攻撃を想定してたかのように、そこに銃を放った。

「わぶっ!おまっ、魔法使いが銃は反則だろぉ」
「何言ってんの。拳でボコボコにしちゃうような僧侶ちゃんが居るって言うのに、銃使うのが居ない訳ないでしょ」
「あっ、確かに……って違う違う!」

 ノエルの事を言っているのだろう。そう思ったリュウヤは、納得する。だが、銃相手と言う事にすぐ素に戻る。
 すると、チッと舌打ちをするような音が聞こえ、また銃弾が放たれた。
 リュウヤは、腹に食らった痛みを耐えつつ、飛んでくる弾丸を斬った。今ならスローに見える。そのため、いとも容易く斬る事ができる。

「銃弾を斬っちゃうとは、なかなかやるねぇ〜」
「運も実力のうちだけど、良いことばかりじゃあないって事よ。」
「へぇ、でもそう言うのって、減らず口っていうんだよ〜?」

 シオンはクスクスと笑い、わざとリュウヤから的を外し、弾丸を二発放った。更に、適当に辺りへ風魔法を放ち、周りに小さな竜巻を発生させた。

「ほら早く来て。もっと楽しみたい〜って感じ」
「言われなくても、痛くないように楽しませるぜ!」

 リュウヤはこの戦いを愉しみ、躊躇う事なく刀を振った。だが、止めの一撃を繰り出そうとした時、シオンが目の前に手を出した。その瞬間、全身が痺れ、体勢を崩したリュウヤはコケてしまった。

『おーっとぉ!ここでシオン選手の強運発動!リュウヤ選手、まさかの転倒で攻撃権を奪われる〜ッ!』
「実は運なんかじゃないって感じなのよね〜、ウフッ」
「運じゃない……?まさかっ!」

 転けた状態で、リュウヤはあの時の謎を思い出す。謎のチクチクとした痛み。アレに原因があったのではないかと。
 すると、それに気付いたのか、シオンはフフフと笑いつつ、リュウヤの頭に銃を突きつけた。

「私の特異体質は血なの。相手に一滴でも飲ませたり体内に入れたりする事で、痺れさせられるのよ」
「やはりそう言う事か、通りでおかしいなと思ったんだ。」
「足掻くのはもうやめなさい。何処にも逃げられないわ」
「いや、まだ終わりじゃないぜ、シオちゃん」

 痺れて動けない状態でもなお、リュウヤはまだ諦めていない事を呟く。
 一体こんな状態からどう挽回するのか、シオンは疑問に思うが、ただのハッタリだろうとして、聞かないフリをした。
 だがその時、辺りが黄緑色に光り輝いた。

「うっ!」

 あまりの眩しさに、シオンはあらぬ方向に銃を発射してしまう。
 しかし、目を開けた時、そこにリュウヤの姿はなかった。あったのは、葉のない木だけだった。

「俺の自然系の力を忘れてもらっちゃあ困るぜ」
「なっ、その実は……」
「適当に痺れを治す薬草作ろうと思ったんだけど、運がいいみてーだな」

 そう言い、リュウヤは木に成った柿のようなものを食べる。すると不思議なことに、さっきまで痺れて変な感覚が残っていた体が、みるみるうちに回復していった。
 間一髪の起死回生は成功した。そう思った時、胸の辺りで何かが突き抜ける痛みを感じた。そして、その鋭い痛みにやられたリュウヤは高い木から落下してしまった。

「っ……何だ今の……」
「言い忘れてたけど、私の銃は、誰かに当たるまで跳ね返る特殊弾丸なのよ」
「そうか、だからあの時……」

 あの時、わざと外して撃ったのかと。しかし、そう言おうとした時、リュウヤは強い風の力によって、遠くの壁に投げ飛ばされてしまった。御託はここまで、と言う事らしい。

「さて、そろそろ決着と行こうじゃない。もう待ったはなしよ?」
「……ああ、女の子だからって、手加減はしないぜ」

 リュウヤは覚悟を決め、本気でやる意思のもと、刀を強く握りしめた。シオンも、本気になったリュウヤの事を歓迎するように、銃と風魔法を同時に放った。
 それらはじりじりと近付いてくるリュウヤを何度も痛めつける。それでもリュウヤは、出来る限りの銃弾や魔法を削りながら、魔法と銃を放ちながら逃げ続けるシオンを追った。

「な、何であんなに食らっといて死なないのよ!アンタおかしいって感じ!」
「痛みとかに関しては我慢強いのが、俺の取り柄だからなぁ!」

 そう叫び、リュウヤは放たれる弾丸を斬り、ついでに二連撃目で、シオンの銃も斬った。

「こうなったら、《ギガ・ウィンド》!」
 
 シオンがそう唱えた時、目の前に大きな魔法陣が現れ、そこから想像を絶する竜巻が姿を見せた。そしてそれは、会場にいる人の持つ飲み物やゴミなどを吸い取った。更に、戦いに没頭していたリュウヤも、そのまま竜巻に飲み込まれてしまった。
 その瞬間、シオンは勝ちを確信した。生身の人間を殺す程の力を持つ竜巻に飲み込まれたからである。例え痛みに耐える事しか取り柄がなかろうと、最上級前の強魔法の前では、銃弾を何発も食らった人間など帰ってくる筈がない。

『勝負ありぃぃぃぃ!なんとなんと!またしても強運で敵を倒したのは、シオン選手だぁぁぁぁ!!』

 会場に、シオンの勝利を称える歓声が響く。シオンも、勝利した事に安堵し、ひっそりと座り込む。
 だがその時、どこからともなく声が聞こえてきた。

「おいおい、まだ終わりとはならねぇぜっての」
「だ、誰!?」

 謎の声に驚いたシオンは、辺りを見回す。だが、そこには何もない。ただ、竜巻があるだけ。

「……竜巻?まさか!」
「よっこら〜!ショウイチッ!」

 なんと、竜巻の中から、やられた筈のリュウヤが飛び出してきた。
 そして、古いネタを呟きつつ、シオンの前で刀を振った。
 しかし、それはシオンを斬る事はなく、顔面スレスレの所で止められていた。

「何で生きてるのよ……」
「運良く水溜りみたいなのに入れてな。大和行ってきた」

 リュウヤは、まるで当たり前の事を口にするように、そう話した。
 シオンは、そんな彼の行動に驚きつつも、ハハハっと冗談を聞いているかのように笑って両手を上げた。

「ホント、やな感じ。降参よ、リュウヤ君」
『なんとなんと、なんとぉ!まさかまさかの大逆転!竜巻に入っていたリュウヤ選手の復帰により、シオン選手がお手上げだぁぁぁ!よって真の勝者は、リュウヤ選手に決定だぁぁぁぁ!!』
「「「リュ・ウ・ヤ!リュ・ウ・ヤ!」」」
「おめでと、秘境のお侍サン」
「お侍はやめてくれ。俺はただの、何処にでもいる和食屋見習いだ」

 気楽に言って、リュウヤは自らの足で戦場を後にした。

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