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コピー使いの異世界探検記

鍵宮ファング

第112話 武道!拳にかけられた想い

「遅いぞタクマ!一体どこほっつき歩いておったのじゃ」
「人にお使い押し付けたどの口が言うか」
「まぁまぁ、それくらいにするでござる。早くしないと次の第7回戦が始まってしまうでござるよ」

 その話を聞いた瞬間、メアは「あああああああ!」と叫んだ。そう言えば、第8回戦目はメアの出番であったな。すっかり忘れていた。
 メアはその事に気付いた瞬間「ヤバイヤバイ、急がないと!」と慌ただしく短剣と投げナイフを確認して、韋駄天走りで控え室に行こうとした。
 しかし、急ぎ過ぎた事が災いし、メアのポケットから毒薬瓶が落ちる。

「あ……」
「危ないでありんす!」

 毒薬瓶がポロリと飛び出した瞬間、おタツは目にも留まらぬ速さで毒薬瓶をキャッチした。
 あと少しでも間違っていれば、瓶が割れて大変な事になっていた。タクマ達はホッとする。

「まだ時間はありますし、ゆっくり落ち着いてください」
「ありがとうなのじゃ。じゃ、妾はゆっくり行くぞ」
「あぁ、グッドラックってな」

 そう言って、タクマは去っていくメアにグーサインを向け、その次に始まるオニキスとの戦いの健闘を祈った。

【観客席】
「えーっと、次はベリト対ラウムでありんすな」
「ベリトと言うと、虎の被り物をしていた男の父親ですよね?」
「控え室で汗だくになってた筋肉野郎でござるか……」

 吾郎は、あの時見たサメの被り物をした男の事を思い出し、顔を青ざめさせる。
 確かに今思うと、汗だく親子がドンと座っている姿は、ドン引きするレベルのインパクトがあった。流石の吾郎も、あの巨大なインパクトには耐えられなかったのだろう。
 そんな事を考えていると、西コーナーから、噂のベリトが現れた。昨日と同じように、立派なサメの被り物をしている。

『西コーナー!獣の息子の意思を背負いし大海の男!大体の相手はワンパンで仕留める!ベリト選手だぁぁぁぁ!!』
「吾郎爺が戦った虎男もそうだけど、この巨漢はそう簡単に倒せなさそうだな……」
「タロトナさんを一発で仕留めてしまいましたからね……」

 タクマとノエルは、観客の歓声に応えて右拳を、勝利した時のように高らかと上げるベリトの様子について語る。
 すると、東側から、対戦相手であるラウムが姿を現した。

『対するは東コーナー!欲の為なら巨漢だろうとぶっ潰す!貪欲パワーで鍛え上げた最強の腕で欲しいものは何でも手に入れる!ラウム選手だぁぁぁぁ!!』

 そう紹介されて現れたラウムは、ベリトと目を合わせ、人差し指を曲げて挑発した。それを見たベリトは、ニヤリと笑い、同じように挑発した。
 両者とも、既に自分の勝利を確信しているようだ。だが、どっちも勝つだなんて言うウマい話は存在しない。その事を知っている二人は、口をニヤつかせたまま真剣な目つきで互いを睨み合う。
 
「そろそろ始まるでありんすな……」
「何か、私達の方まで緊張しちゃいますね」

 ノエル達がそう話している一方で、戦場の方もまた、緊張が走っていた。

「女が相手、か。怪我しないウチに帰った方が身の為だぜ?」
「まず一戦乗り越えたってのに、今更帰る馬鹿が居るかい?それに、アタシは別に帰る必要ないんよねぇ」
「ぬかしおるな。ならば我が大海の力を持ってして葬ってやろうぞ!」

 ベリトが大声でそう叫んだ瞬間、ゴングが鳴った。それと同時に、両者は待ってましたと言わんばかりの勢いで拳を構えながら走り出した。
 そして、まずは一発、ベリトとラウムの拳と拳が激突した。それによって生じた風は、辺りに砂嵐を巻き起こす。
 すると、真っ先に拳を戻したラウムが、そこにキックやパンチなどの連撃を繰り出した。
 それに対し、ベリトは水の魔力を纏った拳《ウォーター・フィスト》を用い、それに対抗する。
 
『ラウム選手は軽やかな女体を生かした連撃!それに対してベリト選手は、大海の拳による一撃!今回の戦いも手に汗握る接戦だぁ!』

 まるで、とある女児向けアニメの戦闘シーンを彷彿とさせるような戦い。どちらも盛り上がらない筈のない接戦を繰り広げる。
 すると、ラウムの連撃が功を成し、ベリトが一瞬だけダウンした。しかし、ダウンした際に生じた油断を突かれ、ラウムは大海拳の餌食になってしまった。

「ぐぁぁぁぁぁぁぁ!」

 男勝りな女の断末魔が、この会場の中に響く。それでもベリトは、平気な顔で顔面に拳を叩き込む。
 それと同じように、会場でも、女を平気で殴る男へのブーイングや、ベリトのファインプレーを称賛する歓声が上がる。
 
(オニキス、アイツは何で俺にあんな事を教えたんだ……?)
『チェイスって言う胡散臭いデブ、アイツ何か隠してるぜ』

 タクマの中に、ついさっきのビジョンが浮かび上がる。
 具体的に何をどう隠しているのか、そこまで教えてはくれなかったが、確かに出所不明のオーブや、猿でも分かるような超が付くほどの大金500億ゼルンのような、謎が渦巻いている。いや、逆にこんな大金とオーブの動くイベントに謎がない訳がない。
 
「……」

 タクマは今行われている戦いを見ながら、じっと考えた。ああでもない、こうでもないと、自分の中で考察を立てようと努力する。
 するとその時、実況がベリトの様子を見て『おーっとぉ!!』と叫び出した。

『優勢だったベリトの動きが、急に止まったぞぉ!一体何が起きたのだぁ!』
「本当でありんす、全く攻撃しない」
「何で攻撃しないんですか?ここで一発ボコっとやれば確実に勝利ですよ?」

 ノエルやおタツだけでなく、あたかもラウムの復活を待つように攻撃をやめたベリトに、観客達は「何だ何だ?」「何やってんだ!殺せ!」と、声を飛ばす。
 だが、それでもベリトは攻撃をしなかった。ただ拳を構えるだけ。
 すると、攻撃が止んだ事を確認したラウムが起き上がり、待ち構えていたベリトに反撃した。

「似ておる……何処かあの時と……」
「吾郎爺?」
「彼の息子、ベレトは頂点に立つ為に戦っていた。もしそれが親の意思なのであれば、彼もまた相手が倒れるまで殴っていた筈。」
「じゃあつまり、ベリトはあえて相手を生かしたと……?」

 そう話していると、ラウムの放った回し蹴りがベリトの首に当たった事により、勝負が決まった。
 そして、実況のギエンは『勝負ありぃぃぃぃ!勝者はラウム選手に決まりました!油断大敵!それでは次が最終戦でございます!』と、何事もなかったかのように実況した。
 おかしい、やっぱり何かおかしい。

「タクマさん、コレってやっぱり……」
「吾郎爺の考えが正しければ、この戦いは……」

「八百長試合かもしれない」

 タクマがそう言った瞬間、3人の間に戦慄が走った。

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