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コピー使いの異世界探検記

鍵宮ファング

第104話 告白!猫娘の告白、リス娘と翁

『それでは西コーナー!どんな相手も一刀両断!鉄の拳もつまらぬ物もスパッと斬る!吾郎選手だぁぁぁぁ!!』

 タクマ、メア、おタツの3人が病室でノエルの目覚めを待っている時、実況の声が響いた。やはり、治療室からでも状況が分かるようなのか、やかましい大音量だ。
 次の対戦は吾郎対ナノ。彼女もまた、相手が棄権したなど、謎が多いライバルである。
 その為、ナノの調査には吾郎とリュウヤが、ノエルには残りの3人が着いた。

「……」
「おタツさん……」

 おタツは、傷一つない式紙をじっと見つめていた。本当なら、ここにノエルが受けた傷が付いていた筈。
 何故ノエルは……
 タクマもそう考えていた時、ノエルが目を覚ました。

「うぅ……」
「ノエル!ちょっとすまんが、まず腹を見せてくれ」
「……えぇっ!?」

 いきなりの発言に、ノエルは驚いた。だが、すぐに腹を見ようとした理由を理解し、ノエルは服を上げた。
 するとそこには、吾郎が言っていた物と同じ、丸の痣が付いていた。式紙を使わなかったから、当然の事である。

「ノエルちゃん、どうしてコレを使わなかったでありんす!」
「おタツさん、落ち着いて。何か訳が……」
「いいえ、あれだけ吾郎爺に言われたでありんしょう!落ち着いてられますか!」

 おタツは真面目な形相で、おタツに顔を近づけた。
 すると、ノエルは「……ごめんなさい」と謝った。更に、メアも「ごめん!」と謝った。

「やっぱり……私の為に誰かの一年は……」
「実はじゃな……」

 まだ本調子ではないのか、うまく話せないノエルの代わりに、メアが何故ノエルが式紙を使わなかったのか、その経緯を説明した。


【数時間前 待機室】
 それはタクマがソーマと激闘を繰り広げていた時の事。

「何じゃノエル、こんな所に呼び出し追って」
「いきなり呼んですみません。ちょっとお願いがありまして……」

 そう言うとノエルは、白猫を模したスカートから式紙を取り出し、ノエルに手渡した。
 しかし、メアはその式紙を受け取る事を拒んだ。

「何を言っておる!これさえあればお主は傷付かずに、フールの何が危険なのか分かるのじゃぞ!」
「確かに、これをメアさんに渡してしまえば、私には痣が出来ます」
「なら尚更お主が持っておかないと……」
「けど、私の傷一つの為におタツさんの一年が引き換えになるなんて、そんなのおかしいです!割りに合ってない」
「ノエル……」

 ノエルは俯き、泣きそうになりながらもその気持ちを伝えた。確かに自分は可愛いってナルシスト的な自覚はあるし、顔や体に傷がついてしまえば折角のものが台無しになってしまう。
 けど、だからって誰かの寿命を犠牲になんか出来るわけがない。
 それに、おタツさんだって自分の寿命を捧げる覚悟を決めていた。だから、この行動はその覚悟を踏みにじる結果になる。
 ノエルはその葛藤の末、メアの手の中に式紙を詰め込んだ。

「これ……後で怒られますね。おタツさんに」
「……はぁ。お主、姿は女でもそう言った所は男じゃな」
「え……?」
「安心せい。勝っても負けても、然るべき時までこの事は黙っておくし、怒られたら妾も一緒に謝る。約束じゃ」

 メアは無邪気な笑顔を見せ、ノエルに小指を差し出した。ずっと昔、母親が教えてくれた気がする、約束のまじない。
 ノエルはメアの小指に、自分の小指を巻き付け、指切りをした。


【治療室】
 そして、その話を聞いたタクマは「成る程な」と全てを理解して頷いた。
 おタツも、ノエルを守る事ができなかった事を悔やみながらも、彼なりの優しさ、彼なりの覚悟を理解し、怒るのをやめた。

「おタツさん、結果として覚悟を踏みにじる形にはなってしまいました。本当に、ごめんなさい」
「妾からも謝る。同じく、おタツには悪い事をした。ごめん」

 おタツは頷いた後でも、ずっと俯いたままだった。だが、二人の誠実な謝罪をする姿を見て、おタツは笑顔で「いいえ、もういいでありんす」と二人に言った。

「確かに、ウチの命が少し削れるなんて聞いたら、躊躇うのが普通でありんすからね」
「おタツさん、じゃあノエルとメアの事は……」
「でも、本当にこれで良かったんでありんすか?もしかしたらその傷、二度と……」
「はい。私の体、犠牲にはなりましたが、タクマさんや他の選手達への被害が収まるのなら、私はこれでいいと思ってます」
「ようし!これでピリピリした話はおしまいじゃ!ナノとやらの事は彼奴らに任せるとして、代わりにおやつでも買いに行こう」

 手をパンと叩いたメアは、今辺りを漂っていた、ピリピリとした気を払い飛ばし、タクマの腕を引っ張る。
 しかし、ノエルはまだ体が痛むらしく、動こうにも動けなかった。

「ノエル、あんまり無理はしないようにな」
「ほらタクマ、早くしないと街のガキ共に全部買われるぞ!」
「ちょ、引っ張るなって!服破れる!しかもガキって……」

 タクマはメアに引っ張られるがまま、治療室を後にした。
 そして、残ったおタツとノエルはそんな二人を見てクスクスと笑う。やっぱりあの二人、何だかんだ言って仲いいな、と。


【会場】
 一方、大体ノエルが目を覚ました時と同時刻くらい。機材トラブル的なもので紹介が省かれてしまったが、ナノと呼ばれる選手が現れた。
 その姿は幼い獣人のよう。何の動物なのかは分からないが、小さく尖った耳、大きくクルリと巻いた尻尾など、どことなくリスに似ている。肌は褐色で、動きやすいようになのか、スカート付きのスクール水着のような物を着用している。更に、彼女は背中に巨大なハンマーを背負っていた。

「こんな小さな子を殺伐とした戦場に駆り立てるとは、親は何を考えている……」

 吾郎は彼女を見つめ、そう呟く。しかし、そう言おうと、彼女の戦うと言う意思は消えなかった。親のエゴだろうが何だろうが、彼女には「どんな相手でも叩きのめす」と言う意思は確かにある。

「ウチのこと、ただのガキやと思うたら大間違いやで」
「成る程、手加減なし、とな?」
「そうやで。本気でこいねん!」

 するとナノは、背中のハンマーを取り、ブンブンと振り回した。小さい体ながらも、筋肉のある男でも持ち上げるだけで苦労しそうな物を振り回す様は、まさに女戦士そのものだった。

(本来なら、殺さない程度に刀を振って対抗する所だろう。しかし、例え人斬りの思想を抱いた拙者でも、流石にこんなに幼い子、まして女子を斬るなんて真似は出来ぬ)

 ハンマーを刀で防ぐ程度なら怪我をさせずに済むかもしれない。しかし、それでは勝つ事もままならない。ならば、彼女の事をあえて失神させる。
 吾郎は鞘に手をかけ、ナノの動きを読み取り、どう言った形で怪我一つ付けずに倒すか考えた。
 しかし、そうこうしている間に、巨大ハンマーは吾郎に殴りかかろうとしていた。

「くっ……考える余裕すら無い……」
「まだまだっ!」
『なんと!ここでナノ選手の大技!ダルマ落としが炸裂ぅ!吾郎選手、避け切れるかっ!』

 まだ始まったばかりにも関わらず、ナノはハンマーを力強く振り回した。その速さは凄まじく、まるでダルマ落としをしているかのようだった。
 吾郎はその動きを瞬時に見切り、ただ避ける事に専念した。彼女を傷つけられない。その思いから、刀を絶対に抜かないと決めた行動である。
 しかし、それでもナノは、吾郎に1発当てる気でいるのか、避けた先を予測してハンマーを横に振った。

「致し方なし……」

 流石にこれは避けられない。避けたとしても、老いぼれの体にはキツい物だ。そう思った吾郎は、仕方なく鞘にしまった状態の刀でそのハンマーを防いだ。
 だが、遠心力が掛かり、吾郎は叩き飛ばされてしまった。

「この力……結構応えるでござるな……」
「ぼちぼち諦めたらどうや?ウチにもやらんならんの事があるからさ」
「……悪いがそれは、友との約束を破る事になるからできぬ」

 吾郎は立ち上がり、急いでナノの後ろに回った。攻撃する速さも凄いし威力も並ではない。だが、とにかく攻めなければ何も結果は生まれない。吾郎は自らの身を捨てる勢いで、ナノに迫った。
 するとその瞬間、腹部に鋭い何かが刺さる。

「うっ……これは……」

 吾郎はその刺さった物を抜いた。それは、動物の持つ針、ハリネズミやヤマアラシのような、人間の爪と同じような感触のある物だった。
 よく見ると、背を向けていた筈のナノの背中には、小さいが、吾郎に刺さった針と何処か似ている物が付いていた。
 だがナノはリス獣人。獣人と言うワードを初めて聞いた吾郎でも、流石にリス娘から違う動物の針が現れるのはおかしいと感じていた。となれば、後から付ける装備式武器。

「ほんなら降参するまで戦い続けるまでや!」
「むぅ、逆に相手に火を付ける羽目になってしまったか。」

 吾郎は降りかかってくるハンマーを避けつつ、次にどのような攻撃を仕掛けるか考えた。
 正面からは雨のように重たいハンマーの攻撃が、背中に回っても針が、そして左右から行こうとしても、横回転の攻撃が繰り出される。

「ならば、あまり使いたくないが……」

 吾郎は苦しい顔をしつつも、ついに刀を抜いた。それと同時に、ハンマーが頭上から降ってくる。それは、象の足のように一瞬見えた。
 だが、それでも吾郎は恐れる事なく刀を振った。

「〈天照・陽炎の太刀〉!」
「何をこのくらいっ!そこやぁぁぁぁぁ!!」

 気配だけを頼りに、ナノはハンマーを後ろ側に振り下ろした。そこに吾郎、あの爺さんの気配がある。
 だが、地面に振り下ろされたと思った瞬間、何故かハンマーが軽くなった。いきなり軽くなった拍子に、ナノは体勢を崩しそうになる。

「な、何や!何が起こったんや!」

 振り向くが、特にハンマーには異常が見られない。ただ数センチずれた所に、吾郎が背を向けて立っていた。少し外したとはいえ、今は油断している。卑怯な手ではあるが、狙うなら今。
 ナノは吾郎の安否など考えないように心を鬼にして、ダルマ落としのように、吾郎目掛けてハンマーに力を溜めた。そして、全身を回転させ、吾郎目掛けてハンマーを振り回した。

「まだ終わらぬ。〈王手〉ッ!」

 その刹那、何故か時が遅くなった。実際に吾郎が時を遅くした訳ではない。何故かは分からないが、急に遅くなる。
 その遅さは、まるで走馬灯を見るための時間や、神に祈る間を与えられたような、そんな遅さだった。
 するとその時、目に映る景色が、ハサミで無造作に切られた写真のようにバラバラと崩れ落ちて行った。だが、体にはそんな感覚は来ない。
 そして、崩れ落ち、目の前が真っ暗になったと思った瞬間、時は正常に動き出した。

「な、何や今の……っ!?」
「すまない。倒す為には、お主のソレを壊すしかなかった」

 気付いた瞬間、ハンマーのヘッドの部分が、バラバラと、それこそさっき見えた謎の現象のように、崩れ落ちてしまった。
 
「そんな……」
「覚悟っ!」

 吾郎は少女の隙を突き、後ろに回り込んだ。動揺のせいか、背中の針は飛んでこない。
 その様子を観客側から見ていたリュウヤも、その正々堂々と戦っている様を見て「やったれ吾郎爺!」とエキサイトしていた。
 だが、吾郎は何故か、ナノの首に手刀を当てる事なく、そのまま転んでしまった。
 更に、そこへナノはハンマーの持ち手だった物を投げ捨て、吾郎の顔面に何度も拳を入れた。とんでもない、ありえない逆転劇。そしてそこで吾郎はナノの腕を何度も優しく叩き、ギブアップする事を伝えた。

『なんと!確定しました!吾郎選手の棄権により、ナノ選手が勝利いたしました!よってナノ選手は第三ステージ、準々決勝進出です!』
「嘘だろ……吾郎爺……」

 まだ今のところタクマと言う希望、自分とおタツ、メアの戦いだってまだ残っている。しかし、吾郎が負けたと言う事実にショックを受けたリュウヤは、目を丸くして顔を青ざめさせてしまった。
 だがその時、リュウヤは吾郎の様子を見て、もう一度目を凝らして吾郎をよく観察した。

「吾郎爺……いや、ごめんだけど……」

 リュウヤは、吾郎が何故負けたのか、その様子を見て理解した。

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