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コピー使いの異世界探検記

鍵宮ファング

第96話 休憩!和食屋、駆ける

「へいお待ち!ハマチに中トロ、タコ足えんがわ、いくら軍艦でぃ!」

 頭に鉢巻きを巻いたリュウヤは、昼飯時にやって来た観客達に、自慢の極上寿司を左からリズム良く言いながら振る舞っていた。最初は皆生魚を食べることに抵抗を抱いていたが、醤油を付けて一口食べた瞬間、その抵抗は吹き飛んでいった。
 酢飯は程よい酸っぱさがあり、魚も新鮮同様の味、そしてシャリは舌で潰すだけで、解けるように崩れる。
 
「タイショー!おかわり頼む!」
「へいよぉ!じゃんじゃん作ったらぁ!!」

 おかわり、そう言われて嬉しかったのか、リュウヤはいつも以上のフルパワーで動き、大量の寿司を作り出す。
 それを客はバクバクと食べていく。偶に湯呑みのお茶を飲んでリフレッシュし、ガリで味をリセットし、何度も口に運ぶ。

「ふぃー、んじゃあお代はここ置いとくな、タイショー」
「はいよ!毎度あり!」
「リュウヤの奴、エキサイトしてんなぁ」
「そうじゃのぅ。」
「まあ、楽しそうで何よりですね。あ、辛口のやつ一口ください」

 タクマは向かい側にあるカレー屋で辛口のカレーを食べながら、リュウヤの頑張りを見る。
 そんな時、治療室から帰ってきた吾郎がカレー屋にやって来た。

「吾郎爺、傷良くなった?」
「お陰様で、バッチリでござる」

 吾郎はニヒヒと白い歯を見せるように笑い、左肩のコブをに力を込める。あのビーチでギャル達に筋肉を褒められた事から、こう言った感じの事をするのが好きになったようだ。ナウなヤングというのは恐ろしい。

「それはそうと、ノエル殿に預かった伝言を伝えたい。もしもの事もある、タクマ殿、メア殿も聞いて欲しいでござる」
「伝言?一体誰から?」
「サイリョー殿でござる」
「サイリョーと言うと、あの道化師と戦っていたハジキ使いじゃったな」

 メアはあの時の戦いを思い出し、懐かしそうにうなずく。
 それにタクマは「いや、まだついさっきの話だからね!」とツッコミを入れた。
 吾郎は二人のコント的な行動を笑った後、「えー、こほん」と咳払いをした。

「フールには気をつけろ、奴には普通ではない何かがある」
「何!?」

 タクマはあの道化師、フールの事を思い出した。確かにあの時、サイリョーが勝ってないとおかしかった、と。
 
「それって、私の次の対戦相手じゃないですか!」
「しかし、今何処にフールが居るか分からない以上、妾達は何も出来ぬぞ?」
「ノエル、大丈夫か?」

 タクマは驚くノエルの目を見て、そう訊く。ノエルを殺させない為なら、棄権なり何なりしてもいい。だが、それを決めるのはノエルの意思。
 するとノエルは、大きく指でVを作り「大丈V!って感じです!」と、大きく言った。

「こう言うとるし、ノエルは大丈夫じゃろ」
「だな。応援してるぞ、ノエル」
「はい!どんとお任せを!

 タクマはノエルの覚悟した目を見て、グーサインでその覚悟に応える。だが、すぐにその後ろで、黒服の男とチェイスが何か怪しい話をしているのを目撃した。
 
「おいどうなってんだ!何で魔物とか、招いてない筈の選手が出てんだ!」
「知りませんって!バルバッドの件はまぁ想定外だから分かりようがありませんでしたが、あの少女は……」

 一体何の話なのだろうか。タクマは首を傾げながら、カレーを平らげた。

「ねぇリュウヤ、あれ……」
「ん?」

 リュウヤは、剣崎の屋台をじっと見つめる少女達に目を向ける。見た感じ貧しい格好をしており、猫耳や犬耳など、人と似て非なるもののようだ。あえて言うのであれば、獣人だろう。
 こちらを見ている、つまりそれはお腹が空いている。リュウヤはそう思い、少女達のためにサーモン握りを作り、それを少女達に持って行った。

「……くれるの?」
「遠慮すんなって。兄ちゃんの奢りだ!」
「……あり……がとう。」

 少女達は鮭を持って、逃げてしまった。
 ぞろぞろと逃げていく獣人の娘達を見て、「ありゃりゃ、嫌われちまったかな」と頭を掻いた。


 それから昼休憩は終了し、午後の部が始まろうとしていた。
 午後の部の内容は、第10回戦にリュウヤ、13回戦目にメアとなっている。

「うぅ……緊張してきたのじゃ……」
「何言ってんだメア。お前ちんちくりんだから、素早さで何とかなグフゥ!!」

 からかいながらも応援したブレイクは、メアの怒りのエルボーを腹に食らい、横に倒れる。
 そうしている間に、午後の部第9回戦が終わった。
 対戦相手はサレオス対ガープ。優勝はサレオスとの事である。特に見所はなかった為、割愛となったようだ。別に面倒だったから省いた訳じゃないからね!(本当に)

 そしてついに、第10回戦。西コーナーからリュウヤが登場した。

『西コーナー!またまた大和から大参戦!刀と頭脳で気楽に戦う!因みに食事処で寿司を提供してるから良かったら寄ってね。とのこと!戦う料理人!リュウヤ選手だぁぁぁ!!』
「リュウヤ〜〜〜!こっちに手を振って〜〜〜」

 登場したリュウヤに、おタツは手を大きく振る。リュウヤはその様子を戦場の方から見て「楽しそうで何よりだ」と呟きながら、ゆっくり手を振り返した。
 振り返された事に気付いたおタツは、顔を真っ赤にして、顔の周りにハートを出現させた。全く、この幸運者共め。末長く幸せになれコノヤロー。嫉妬するにもしきれないタクマは、心の中で呟きながら、東側の対戦相手の方を見た。

『続いて東!本の事なら私にお任せ!古代近代皆召喚!スーパーサモナー・サブナック選手ゥゥゥゥゥ!!』
「ほぉ、これはこれは面白そうなお相手ザンス」
「召喚士かぁ。どんな相手が助っ人に来るか楽しみだねぇ」

 リュウヤはピョンピョン飛び跳ね、全身をほぐしながら言う。サブナックはその様子を見て(あのガキ、この戦いをナメているな)と思いつつも準備運動を見守った。
 そして、リュウヤは刀を抜き、竹刀を持つようにして構える。

「ではミーも、構えさせていただくザンス」

 サブナックはニヤリと笑い、髑髏のような宝玉の付いた杖を構えた。
 そして、ゴングが鳴ったと同時に、両者は一旦後ろに後退する。ぶつかり合えば、まだ慣れていない刀では押し負ける危険性があった。なら一旦距離を取るべし。
 すると、後退したサブナックは、地面に魔法陣を出現させた。

「魔獣よ、我が魔力に応じ来たれ!《サモン・スコール》!」
「来た来た。やったるぜ!」

 リュウヤは左手で髪の毛を整え、召喚される魔物を待った。すると、サブナックが作り出した魔法陣から、腹ぺこ狼が5匹姿を現した。
 その姿は5匹とも同じ黒い身体に、髭やたてがみのような白いツンツンとした体毛が生えている。見た感じ凄い歯ブラシっぽい見た目をしているが、その目は黄色のままで黒目がない。つまり、人間で言う白目に似た状態となっている。
 絶対にお前を食い殺す。犬語は分からないが、少なくともそんな事を言っているようなのだけは分かる。

「待て!なんて言っても聞かねぇか」
──グルルルル

 5匹のスコールはヨダレを垂らしながら、リュウヤを囲んだ。そして、リュウヤがしっかりと刀を構え直したと同時に、5匹で襲いかかってきた。
 リュウヤはそれを、目の前から飛んできたスコールの首を跳ねて道を作り、そこから避ける。
 簡単ではあったが、まずは一匹。そう思ったも束の間、後ろを振り向くと、そこには顔が血塗れになったスコール達が居た。
 その奥、今さっき倒したスコールの方を見ると、それは骨だけになっていた。リュウヤの身代わりとなって共食いされたのだろう。戦犯は自分だけど、流石にやりすぎたな。ごめん、ワンコちゃん。

(待てよ?もし仮にあの時そのままやられてたら、俺は骨にされていた!?)

 考えただけでも恐ろしい。リュウヤはさっきまで無かった恐怖が何故かこみ上げたせいで、刀を持ちながら逃げ回った。

「無理無理無理無理無理!エンヴォスとか倒したけどやっぱ怖い!」
「フンっ。どんな奴も骨にだけはなりたくはないザンスか。情けない。」

 召喚獣に任せ、自分は何もしていないサブナックは、ただ静かに影の中で魔力補充としてパンの耳を頬張る。
 しかし、リュウヤもただ逃げ回っているだけではなかった。
 方向を変えると同時に、飛びかかってきたスコールに攻撃を与えたのだ。今度はコンボが決まり、3連撃を相手に与えてられた。
 そして最後、リュウヤは一旦刀を戻した。そして……

「〈剣崎流・三枚卸〉!」

 後ろの柱を蹴り、スコールの目の辺りに刀を入れた。そして更に、着地した場所から方向転換し、更に尻の辺りに刀を入れる。
 チャキン。と刀を鞘に戻す音が鳴ったと同時に、最後のスコールは言葉通り三枚おろしのように三つに分かれてしまった。

「どんなもんだい!」
「ほぉ、これはなかなか。ではこれはどうザンス?」

 そう言うとサブナックはまた地面に魔法陣を出現させ、呪文を唱えた。

「我が魔力に応じ来たれ!《サモン・ケンタウロス》!」
「ケンタ……フライドチキン食いてぇな……」

 何を言っているか分からないが、リュウヤは気楽そうに呟く。
 すると、その魔法陣から、上半身におっさんの乗った牛の魔物が現れた。誰もがイメージしたケンタウロスのようだ。

「成る程、狼肉の次は牛肉って訳か。なら有り難く、牛丼にしてやるよ!」

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