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コピー使いの異世界探検記

鍵宮ファング

第95話 極戦!クノイチと紳士だったもの

「ホッホ、なかなかやりますね」
「この方が動きやすいものでね。負けないでありんすよ」
「成る程。なら、これはどうですか?フンッ!《フレア》!」

 バルバッドはレイピアから火球を出現させ、おタツに飛ばした。おタツはそれを身代わりに食らわせ、燃え尽きた身代わりの後ろから苦無を投げる。
 それをバルバッドは素手で掴み、投げ返した。バルバッドの手からは血が垂れている。おタツは投げ返された苦無に対応しきれず、頬から血を流す。

「くっ……」
「戦の基本はカウンターにあり、ですよ。ホッホ」

 頬から垂れる血を指で拭き取るおタツに、バルバッドは語りかける。その顔は紳士の顔からは程遠い、ゲスの顔に変わっていた。
 その顔を見て、ブレイクはうーんと唸る。

「どうしたんですか?ブレイクさん」

 ノエルは訊く。するとブレイクは「あのゲス顔、どっかで見たんだよな……」と呟くように答えた。
 その間も、バルバッドはおタツにレイピアで攻撃を仕掛ける。おタツはその攻撃を避けず、全て許す。
 黒い忍装束からも分かるくらい血が流れ、赤黒く汚れる。

「どうしたのです?もしや、もう終わりですか?ホッホ」
「これくらい血が出れば、もうわざと食らわなくてもいいでありんす」
「何?」

 そう言うとおタツは腰の巻物入れから、赤い巻物を取り、それを口に加えた。そして手を何度も合わせ、「〈忍法・分身の術〉!」と唱える。
 すると、辺りに大量のおタツが現れた。

『おっとぉぉぉ!おタツ選手が大量に増えたぞぉぉぉ!!これはルール上セーフなのでしょうかぁぁぁ!!』
『今回の戦いはルールはない。一人二人増えても、特に問題はない』

 おタツの忍術に驚いた実況は、何が起きたのか理解出来ず、混乱した。
 
「な、何だこれは……」
「クノイチは普通の忍者と違い、分身の術が上手いのでね。本物がどれか、分かるでありんすか?」
「何を、こんなもの、虱潰しでっ!」

 バルバッドはおタツの煽りに乗り、一人、また一人とレイピアで攻撃を繰り出す。しかし、何度おタツの心臓部に刺しても、それはすぐにドロンと、ヒガンバナに変わり、レイピアの先端に刺さるだけだった。
 それどころか、一向に数が減っている感じがしない。右にも左にもおタツ、まさに四面楚歌の状態。
 バルバッドは腹を立て、ついに本性を現した。

「もう紳士ごっこは終わりだ小娘!これからは本気で行かせてもらうぞ!」
「あ、あれは……」

 バルバッドは主武器だと思われていたレイピアを投げ捨て、体を変化させた。
 四肢は急激に巨大化し、鋭い爪を持ったライオンのようなものへと変化する。そして、背中からはコウモリのような羽が生え、サソリのような尻尾が生えた。

「魔王様を守る為に潜入したがもういい!ここで貴様を殺し、あのオーブを破壊してやる!」

 そう叫ぶバルバッドの顔はだんだんと変形し、人面の雄ライオンのような姿に変わった。その姿を見て、メイジュは「思い出したぞ!」と大声を出した。

「かつて、魔王に魂を売った名家の男爵が居たと言われてる。」
「かつてって、それはいつの時代の話じゃ!」
「1000年前、丁度勇者伝説の舞台となった時代だね。」

 メイジュは真剣な表情で言い、勇者伝説の第5巻を鞄から取り出し、真ん中のページを開いた。そこにはなんと、あのバルバッド男爵と瓜二つの男の絵と、今目の前に現れた魔物の絵が描かれていた。
 それを見て、ブレイクは「これだ!」と叫んだ。

「ちょっと貸してください!」
「え、あぁ」

 タクマはメイジュの持っていた勇者伝説を借り、そこに書かれている事をじっと読んでいく。
 そこには、「バルバッド男爵はかつての友に裏切られた絶望から、魔王に魂を売り、黄色のオーブの力でマンティコアへと生まれ変わった」と記載されていた。

「確かこの後、勇者あああああの必殺の蹴りで死んだ筈。けど、何でそんなのが今になって……」
「勇者伝説の中でもこのバルバッド男爵の名前は一回しか出ないマイナーな人物だからね、もしかしたらあの時倒したマンティコアは別の個体だったのかもしれない」

 そう話している間にも、観客席にはマンティコアの出現に驚き、混乱する声が聞こえてくる。
 それもそうだ。マンティコアはこの辺りでは強い魔物の一体。それも、あまり知られていないが、勇者伝説で勇者が戦った相手だ。恐れない方が難しい。

「こんなもの!」
「きゃっ!」

 飛びかかった分身達は、呆気なくマンティコアと化したバルバッドによって切り裂かれてしまった。そして、本物のおタツも巻き添えを食らい、後ろへ吹き飛ばされてしまう。

「どうだ小娘!吾輩オーブがなくとも、この一振りで貴様を蹂躙できる!」

 マンティコアの大きさはそこまで大きくないが、見た感じでは武器屋のケンと同じくらいの大きさはある。
 おタツはその巨体を見てもなお、恐れずに立ち上がった。

「貴方様が魔物言うなら、容赦はしなくていいでありんすな?」
「来るがいい!まあ、所詮小娘一匹で吾輩は倒せまいがね。ホッホ!」
「言いましたね。ならっ!」

 その答えを聞いたおタツは、辺り一面に撒菱を撒き、3人に分かれて手裏剣、苦無、忍者刀でマンティコアに立ち向かった。
 しかし、マンティコアは尻尾から 《ランディオ》の力を持ったビームを放ち、翼で苦無を吹き返し、最後に口からの炎で迎え撃ってくるおタツを退ける。

「やはりその程度か」
「うっ……」
「さあて、死ぬがいい!」

 マンティコアはおタツの髪を掴み、鋭い爪の生えた腕を大きく上に掲げる。
 その時、おタツは覚醒したかのように目を見開き、隙のできた相手の傍に飛び込み、忍者刀を突き刺した。
 しかし、マンティコアにそんな攻撃は効かず、また捕まれってしまう。

「悪足掻きもここまでだ。今度こそ死んでもらう!」
「……」
「死ねぇぇぇぇ!!」

 マンティコアの叫びと共に、ギロチンのような鋭い爪が振り下ろされる。そして、おタツはそのまま、首ごと切り落とされてしまった。
 無事を信じて戦いを見ていたタクマ達は、その瞬間を見て言葉を失う。

「おタツぅぅぅぅぅぅ!!」

 妻を殺された瞬間を見たリュウヤは、ギリギリ言葉にできる声で名を叫んだ。

「ガーハッハッハ!後はこの会場を破壊し、吾輩のオーブを奪いとるまで!」
「残念でありんすが、それはできませぬよ」

 どこからともなく、殺した筈のおタツの声が聞こえる。マンティコアは気のせいだと判断し、首を振りながら口に炎の魔力を溜めた。
 するとその瞬間、体が動かなくなった。

「な、何が起きた……」
「オーホッホッホッホ!かかりんしたぇ、ウチの忍術に」
「貴様!生きていたか!」

 なんと、実況席の方から、死んだ筈のおタツが姿を現した。その姿は血塗れだった物とは違い、怪我一つない綺麗ないつもの美しい顔をしている。

「ウチが守るはリュウヤの志。その志成すまで、死ぬ訳にはいかないでありんす!」
「くそぅ……何故動かない!」
「あの忍者刀、貴方様が姿を変化させていた時、痺れ薬を塗っていたでありんす」
「そ、そんなものいつ……!?」

 その時、マンティコアは思い出した。あの時分身を蹂躙した時に出たあの赤い花、あの花に毒成分があったのかと。あの時、花ごと木っ端微塵にした。それが仇となったのだ。
 そのトリックに気付いた顔を見て、おタツはクスクスと笑う。

「言っていたでありんしょう?裏の顔は彼岸花って。ね?」
「まさか……こんな最期だとは……」

 おタツの恐ろしい笑顔に、マンティコアは恐れ震え上がる。危険だ。この女、本気で殺そうとしている。暗殺者──アサシンの目をしている。
 マンティコアは何度も逃げようと羽を動かそうと試みる。動いた、逃げられる!
 しかし、そう思ったも束の間、ダラダラと血を首から流して倒れているおタツ?の残骸が、沢山の紙手裏剣になって羽に飛び込んできた。
 まるで障子を破るように、バリンバリンと羽を破いていく。それによって、羽は使い物にならなくなる。

「ウチの式神ならぬ“式紙”で立派な羽破られる気分はいかがでありんす?」
「この……クソ女め……」
「そんな事言っていいでありんすか?ウチ、ぷっつ〜ん来たでありんす」

 おタツは硬直しているマンティコアの大きな目玉を覗き込み、笑顔を見せる。その笑顔の中には、まさに地獄のような何かと、そこで手招きをする髭親父の姿が見えた。

「朧隠流・秘の術が壱。舜天・百花繚乱!」

 おタツは飛び上がり、分身の術を使いながら、三人のおタツと共に何度もマンティコアを斬りつけた。
 そして、最後にマンティコアの後ろに着地し、3人のおタツは苦無、手裏剣、忍者刀をしまった。そして、忍者刀からチャキンと金属音が鳴り、3人のおタツが一つになった時、マンティコアはサイコロステーキのような大きさにゴロゴロと崩れ落ちていった。

『しょ……勝者が決まりました!第8回戦優勝者はおタツ選手に決定です!!皆様!このハプニングでもなお、トリックで私達を脅威から守ってくれたおタツ選手に拍手をお送りください!!』

 騒ぎが治ったのを見て、マイクを取ったギエンは大声で実況を再開した。すると、ギエンの実況通り、会場から大きな拍手の音が鳴り響いた。
 そこに、生きている事を知って安心したリュウヤは、居ても立っても居られず、観客席から飛び降り、おタツを迎えに行った。

「やったなおタツ!あの舜天なんたらって奴、スゲェかっこよかったぜ!」
「えへへ……お前様に言われると照れるでありんすな……」

 リュウヤに褒めらた事で、おタツは嬉しさのあまり顔を赤らめる。それをおタツは、舞を披露する為の扇子を広げ、顔を隠した。それを見て、リュウヤはガッハッハと笑う。
 そして、リュウヤはおタツの肩に手をポンと乗せ、からかうようにこう言った。

「ウチが守るはリュウヤの志。って奴、かっこよかったぜ」

 ウチが守るは……あの時ついノリ的な物で口走った恥ずかしい台詞……!
 その事を思い出したおタツは、扇子で隠せないほど顔を赤くし、湯が沸いた薬缶のように頭から湯気を出した。
 そして……

「リュウヤの馬鹿〜〜〜〜〜〜〜!!」
「ぐへぇぇぇぇ!!」

 リュウヤは、おタツが何処からか取り出した「100t」とデカデカと書かれたハンマーを使い、リュウヤに天誅を与えた。


………
 一方その頃、吾郎はじっと治療室の中で切った口と舌の治療をしていた。

「《ヒール》」

 美人のお姉さん看護師は、吾郎の口の中に回復魔法を当てた。すると、だんだん痛々しかった口の中が、戦う前の綺麗な口に戻った。かさぶた的なものも切った後もない。完璧に治っている。

「はい、お終いです。次の戦いも頑張ってくださいね」
「かたじけない。」

 吾郎は律儀に頭を下げ、治療室の扉に手をかける。だがその時、カウボーイハットを顔に被せて眠っていたサイリョーが「そこのサムラーイ」と声をかけた。

「はて?拙者に何の用でござる?」
「フールって言うクソピエロ、アイツには気を付けろと、にゃん娘ちゃんに伝えとけ」
「ふぅる?と言うと、あのポヨンポヨンした、鉄球使いでござるな。」

 吾郎は真面目にサイリョーの話を聞き、顎に手を当てる。
 するとサイリョーは、いきなり服を脱ぎ、腹にできた傷跡を見せた。
 その傷は、治療した筈ではあるが、何故かまだ黒く大きな痣が出来ていた。それも、ドーナツのような綺麗な丸印で。普通、フールの攻撃を食らって痣が出来るのであれば、穴の空いてない丸にならないとおかしい。
 それに、もし仮に穴が空いた部分に鉄球のトゲが刺さった場合を考えても、1平方メートルくらいある玉に小さなトゲが付いている設計上、こんな綺麗なドーナツ型はありえない。と言うか、普通にそんな大きなトゲを腹に食らっていれば、普通死んでいる。
 そもそも、《ヒール》はダメージ回復以外に、傷口をすぐに塞ぎ、跡が残らない魔法という以上、痣が残っているのはおかしい。

「この痣は、エンジェルナースの彼女らでも、治すことはできなかった。」
「つまり、相手は拙者達には理解の出来ないような、治せない攻撃を仕掛けてくると。」
「そう言うこったな。やっぱ歳食ってるからか話をすぐ理解してくれて助かるぜ」

 サイリョーはへんっ、と口を笑わせ、また帽子を顔に被せた。
 確かに、あの状況下であれば、普通はサイリョーの勝ちが確定していた。その結果は何をしようと変えようのない結果のはずだった。
 しかし、それが何らかの力で逆転され、今に至る訳だ。やっぱり何かがおかしい。

「サイリョー殿と言ったか、一つ質問をしても良いでござるか?」
「何だ?」
「ちぇっくめいと、とやらを言った後、何故撃たなかったでござる?」

 吾郎は真面目な顔で、あの時の真相を訊ねた。分かるなら、そこから何故彼が負けたのか、相手が何故危険なのか分かるかもしれない。その期待に掛け、吾郎は訊いた。
 するとサイリョーは、はぁと大きなため息を吐きながら「時が止まったみてーに、俺のハジキが数秒間だけその場から動かなくなった」と答えた。

「時が止まった……?」
「もう思い出したくもねぇ。俺から引き止めてこんな事言うのも悪いけど、忠告はこんくらいにしとくぜ。」
「うむ。そなたの伝言、吾郎がしかと預かったでござる」

 そう言うと吾郎は、頭を下げ、ノエルの下へと向かった。今の時間帯なら、午前の部終了、昼飯時。いつもの寿司屋で皆待っているだろう。
 心の中でそう呟いてそそくさと去っていく吾郎を見てから、サイリョーはゴロンと寝返りを打ち、壁をみる。

「律儀だなぁ、あのじーさん」

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