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コピー使いの異世界探検記

鍵宮ファング

第94話 紳士!彼岸花の忍び

 タクマ達が怪我を治して帰ってくると、もう既に第7回戦目が終了していた。対戦相手はライ対フラッシュ。共に槍使いとの事。そして、その勝者はフラッシュの勝利で終わっていた。
 そして次は、待ちに待った午前試合最後──第8回戦の開戦だ。

『それでは午前の部最終試合、第8回戦目の開戦です!まずは西コーナー!立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花!しかし、裏の姿は彼岸花!忍ぶどころか暴れちゃう!おタツ選手だぁぁぁ!!』
「おぉ来た来た、頑張れマイハニーー!!」

 リュウヤは大声でおタツの事をハニーと叫び、大きく手を振った。それに気付いたおタツは、フフフと口を隠すようにして笑った後、白い手で手を振り返した。
 その後、東のコーナーから、恰幅の良い黒スーツの紳士が現れる。腰にはダルタニャンの三銃士を思わせるようなレイピアを下げ、無駄に長いシルクハット、そして某配管工兄弟の兄の方みたいな特徴的なヒゲ。

『東コーナー!ホルメアン王国親衛隊長!「兄弟居る?」と訊かれて早30年!一人っ子のスーパー紳士!バルバッド男爵!』
「ホーホッホッホッホ!ルネッサンス、我っ参っス!お初にお目にかかりますマドモアゼル」

 バルバッド男爵と呼ばれたその男は、すぐにおタツの方へ近付き、おタツの前で帽子を取りながら礼儀の正しい礼をした。
 何が何だか分からないおタツは、「え、は、はぁ」と声を漏らしつつも、こちらもお辞儀を返す。

「本当ならこの戦い、貴方に勝ちを与えたいのですがねぇ。それが、どうにも譲れないのですよ」
「勿論、ウチだって覚悟してリュウヤと共にここまで来た身。手加減無用、所謂千ぱぁせんと、とやらで来るでありんす」
「ホッホォ〜。その目、嘘偽りは無いようですねぇ〜。それでは、お言葉に甘えて……いざっ!」
「尋常に!」
「勝負です!」「勝負でありんす!」

 互いに武器を構えた二人は、ゴングが鳴り響いたと共にぶつかり合った。バルバッドは勿論、腰に下げたレイピアを使い、おタツに攻撃を仕掛けた。それをおタツは、するりと避ける。
 しかし、それでも相手の攻撃が早すぎるせいで、おタツは忍者刀を相手の懐に入れられない。

「なかなかの動き、やりますね。」
「そりゃどうも」
「ですが、まだこの程度では終わりではないでしょう?ホッホ」
「おやまぁ。貴方も、まだ何か隠しているじゃないでありんすか?」

 おタツはバルバッドの攻撃を忍者刀で防ぎながら、バルバッドにそう問う。すると、バルバッドは笑い、レイピアから風魔法を放った。
 それに気付かなかったおタツは、そのまま風の刃に吹き飛ばされ、バラバラに引き裂かれてしまう。

「うわぁぁぁぁ!!死んじまったぞありゃあ!」
「ちょっと落ち着いてってば兄さん。恥ずかしいよ」

 観客席でその一部始終を見ていたブレイクは叫び声を上げ、それをメイジュに絞められる。
 
「ホッホ、殺すつもりはありませんでしたが、仕方ないですね。」

 バルバッドは辺りに散らばったおタツだった物を見て、ゆっくりとレイピアをしまおうとした。だが、よく見るとその残骸が安っぽい布に包まれた藁である事に気付き、レイピアをしまう手を止める。

(あれはよく見なくても藁の塊。何故アレを彼女の肉と勘違いしたのだ?)
「そこっ!」

 バルバッドは一瞬戸惑ったが、後ろから飛来して来る気配を感じ取り、すぐさまレイピアで飛んでくる物を貫いた。
 レイピアの先を見ると、そこにはX字の鉄の何か──手裏剣が付いていた。

「これは一体……」
「爆散」

 何処からともなく聞こえた女の声が、バルバッドの耳元を通過する。一体何が起きているのだ?まだ昼でもないと言うのに、まるで真夜中の何も見えない森の中を彷徨っているような感覚に陥る。
 そうしていると、いきなり手裏剣が爆発した。

「ゲホッゲホッ!何だこれは」
「爆散手裏剣。ウチの愛用品でありんす」
「そこですね!」

 また後ろに気配。それに勘付いたバルバッドはもう一度気配のある所にレイピアで攻撃した。今度は手応えがある。やったぞ。と思ったが、残念ながらそこには「スカ」と達筆で書かれた半紙が刺さっていただけだった。

「お化けごっこもこれでお終い、ここからは忍もぉど、と言う物でやらせてもらうでありんす」
「な、いつの間にその壁に!」

 何処からか聞こえる声の方向に顔を向けると、そこには先程の美しい着物姿のおタツではなく、黒く艶かしいスーツを着た、ポニーテールクノイチに変身したおタツが立っていた。

「隠れ身の術、貴方の妖術と似て非なる存在でありんす」
「ヨウジュツ?よく分からないが、ここからが本番のようですね。ホッホ」

 流石は秘境の女、面白い。そう心の中で呟いて、バルバッドは再びレイピアを構える。
 おタツも苦無や手裏剣を取り出し、第二フェーズの準備へと入った。
 そして、本気の戦いに出たおタツは、先制を取り、苦無を投げる。


………
 一方その頃、αの屋敷。ここでは第3の仲間アルルがやって来た事を祝し、αとアルルは無駄に長いテーブルの上でアルルの食事を見ていた。
 後ろには男達の残骸が転がっている。勿論、その中には吾郎の強運にやられた、あの時の男も居る。

『美味しいかい?』
「うん!こんなに沢山、それも人前で食べたの初めて!α様だーい好き!」
『それは良かったよ』

 αはいつもの優しさのある声で「フフッ」と笑い、アルルの食べっぷりをただじっと見つめる。それが不満だったのか、アルルは「α様は食べないの?」と訊いた。
 αの席には銀のパックに入ったゼリー状の何かと、数十粒の薬が一つ置かれているだけで、アルルから見て美味しそうな物はない。
 
『私は昔、自分に呪いをかけてね。こんなマズイ物を必ず飲まないといけない体になったんだ』

 αは悲しくではなく、むしろ面白い話をするようにそう答えた。だが不思議だ。
 何故自分のマイナスとなると知っているのに、自分に呪いをかけたのだろうか。
 好奇心旺盛なアルルは「α様……」と声に出す。が、αは右手を出し、言葉を止めた。

『これは、私へのけじめとしてやったまで。何も心配する事はないよ』
「そう……だったら、いいけど」

 アルルはこれ以上の詮索はいけないと感じ、食事に集中した。気絶した男の首にかじり付き、そこから生命力を吸う。
 そして、生命力がなくなり死んでしまった男は、アルルに軽々しく持ち上げられ、残骸の落ちている場所に投げられた。
 そこにαは、超能力で次の男をテーブルの上に乗せる。

『ところでアルル、君は私達の計画に協力してくれるのかい?』
「うん、いいよ。」

 アルルは即答し、男の首にかじり付く。そして、すぐに口を離し「けど条件がある!」と言った。

『条件?どんなだい』

 αは彼女に優しくするように、優しい声で訊いた。するとアルルは「ヘルメット取って」と答えた。
 それを聞き、αは一瞬硬直する。

「会ってからずーっと、素顔見せてくんないじゃん。だから、本当の顔見せて」
『それが望みかい?』
「見せてくれたら、私は何でも言うこと聞くよ」
『それなら……』

 そう言うと、αは恐ろしい造形の鎧に手を付け、ゆっくりと頭を外し、仮面の奥に隠された正体を見せた。それを見たアルルは、その姿に驚いたのか、息を飲む。
 
「これが私の素顔だ。最近鏡も見てないからね、どんなだったか教えてくれ」
「なんと言うか……その……」

 鎧を被り直すαの質問に、アルルは返答出来ずに困っていた。それを見たαは「まぁ、私の顔を見てどうと聞かれても、困るか」と言い、ガントレットに付けられたリモコンのような物を操作する。
 ピッ、と言う小さな音と共に、テーブルの中央にアコンダリアトーナメントの中継が流れた。そこではクノイチ姿のおタツと、バルバッドが戦いを繰り広げていた。

『頑張っているみたいで安心だよ。』

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