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コピー使いの異世界探検記

鍵宮ファング

第92話 激突!色々と危ない禁句

「やってくれたわね。それじゃあアタシ、本気出しちゃう!」

 そう言うとウェンディーヌは、全身に力を溜め、筋肉を大きくしていった。
 フンっ!と言う力強い声と共に、通常でも十分太かった腕は、丸太のように太く、ピチピチの服からでもまぁまぁ分かる六つに割れた胸板も、大きく、そして硬くなる。
 だがそれでも、顔面凶器であるせいか、誰も覚醒ウェンディーヌの姿を見ようとはしなかった。ただ化け物が、もっと化け物になった程度の話。むしろそんな状況でも、諦めずにノエルを応援するオタク達の熱が勝っている。

「キー!アタシが本気出したってのに何なのよあの態度!ムカつくわねー!!」
「筋肉がどうこうなんて、私にとっては関係ありません!凍らせてやるにゃ!」
「生意気なメスネコめ!分からせてあげるわっ!!」
「望む所!」

 ノエルとウェンディーヌは、同時に地面を蹴り、一発のパンチを繰り出した。
 ノエルは丸太のように大きな拳をスルリと避け、更に攻撃を仕掛ける。だが、ウェンディーヌはその攻撃してくる細い腕に狙いを定め、更に攻撃を仕掛けた。その動きは、まさにあの奇妙な漫画のよう。

「オラオラオラオラオラオラオラオラァ!!」
「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄!無駄ですっ!!」
『おぉぉぉぉ!!何という凄まじい殴り合いだぁぁぁぁぁ!まるで沢山の腕と腕が殴り合っているように見えるぞぉぉぉ!!』

 殴っては引いて、殴っては引いての繰り返し。それでは拉致が開かなかったのか、今度は両者とも、後ろへ後退した。

「なかなかの才能ね。けど、これだけじゃ終わらないわよっ!」
「次は魔法勝負ですか。燃えるぜ!って感じです」

 ノエルは杖を取り出し、ウェンディーヌと共に構える。両者とも右へ左へとゆっくり横歩きし、攻撃の機会を伺う。
 そして、このタイミングが正解だったのかは分からないが、ノエルは待っていても仕方がないと、ウェンディーヌに向けて 《ウォーター》を放った。ウェンディーヌはそれをたかが知れている威力の魔法だと判断し、わざと命中させた。

「お水なんて怖くないわ!」
「へぇ、じゃあこんなのはどうですかっ!《フリズ》!」

 次にノエルは、《フリズ》を自分の足に向けて放ち、靴をスケートシューズのようにし、素早くこちらへ近付いた。
 そして、ブレードを使い、ノエルはウェンディーヌに新たな一撃を与えた。が、それでもウェンディーヌはびくともせず、ニヤニヤと笑っている。

「遊びはお終いよニャンコちゃん!」
「うわわわわわ!逃げろ〜!!」

 ノエルは急いで靴の氷を解除し、スタコラとウェンディーヌの近くから離れていった。ウェンディーヌはそれでも倒れず、また《ランディオ》でノエルの立つ地面を宙に上がらせた。

「こうなれば!《フリズ・スピア》!」
「無駄よ!同じ攻撃は喰らわないわ!」

 ウェンディーヌはニヤリと笑い、ノエルが打ち出した氷の槍を掴んだ。しかし、ノエルはその様子を見て、驚きはしなかった。むしろ狙っていたのだ。
 ノエルはウェンディーヌが氷の槍を空に掲げた瞬間に、《サンダー》を放った。
 すると、避雷針の代わりとなった氷の槍に、雷が何発も落下した。しかも、辺りに散らばった水により、ウェンディーヌは大ダメージを食らった。
 辺りには大きな歓声が響き渡るが、実況の声は聞こえない。ノエルの雷でイカれてしまったようだ。ウェンディーヌの魔力が切れたのか、ノエルを持ち上げていた岩が元の位置に戻る。

「よし、やりましたか?」

 ノエルは、ウェンディーヌが居た場所に上がった土煙の方を見てそう言う。
 しかし、そう思ったも束の間、凄い速さで何かがノエルを突き上げた。

「いやぁぁぁ!離してください!」
「捕まえたわ。さぁて、この分の仕返しをたっぷりと……っ!?」

 ウェンディーヌは大ダメージを食らったにも関わらず、ニヤニヤしながらノエルの右足を、ウサギの耳を掴むようにして握る。
 だが、逆さまにしたせいでめくれたスカートの中身を見て、ウェンディーヌは驚いた。

「あ……あなた……そうだったの……!?」
「嫌だぁ!掘られたくないぃぃ!!」
「あなた……私と同じだったの!?」

 この発言により、会場の空気がサーっと凍る。とは言っても、殆どはどう言う意味か理解できず、頭上に?を浮かばせる。
 おタツやリュウヤも、何のことか分からず、首を傾げる。
 だが、タクマだけは「あ……」と冷や汗を掻いた。何故なら、この場の中で唯一彼に対する禁句を知っている、いや、知らされたのはタクマだけだからである。

「テメェ、今なんつった?」
「へ?だから、アタシとおな……」

 ウェンディーヌがそう発言しようとした瞬間、ノエルの恐ろしいキックが繰り出され、ウェンディーヌはノエルの足を離してしまった。更に、その隙を突かれ、顔面に強蹴が飛びかかる。

「な、何よいきなり!痛いじゃない!」
「いいか……よく聞けクソカマ野郎」

 ノエルは目を赤く光らせ、黒いオーラを纏いながら杖を引き抜いた。
 その間、危機を感じたウェンディーヌは《ランディオ》で作り出した石を何度も投げ飛ばした。しかし、覚醒したノエルはその石が遅く見えるのか、首を右や左に傾けて避ける。

「ひ、ひぃぃぃ……」
「男の娘ってのはなぁ!《自主規制》が付いてて尚且つ!俺のように女の子と殆ど変わらねぇ姿をしてる子の事だぁ!」

 激昂したノエルは、ウェンディーヌよりも速く攻撃を繰り出し、ウェンディーヌを痛めつける。ウェンディーヌも反撃をしようとするが、怒りに満ちたノエルの動きについて行けず、何度も拳や脚を許してしまう。

「テメェみたいな顔面凶器のラフレシアクソカマ野郎とは月とスッポンにもならねぇくらい差があるわダボカスがぁ!!」
「あびびぃぃ!!」
「とにかく全世界のノエちんファンに謝れやゴミクソがぁぁぁぁ!!」
「いやぁぁぁぁん!!」

 ノエルはウェンディーヌの襟を掴み、地面に何度も叩き付け、小さい体ながらも首を強く締め付け、ブンブンと振り回す。
 最後に、観客席の柱の方へ投げつけた。そこで危険を感じたギエンは、強制的にゴングを鳴らして『勝者は……』と言おうとした。だが、まだ腹を立てているノエルは「うるせぇ!!」とガチギレし、巨大な氷の槍を司会席にぶち込んだ。

「あーあ。怒らせちゃったなぁ」

 タクマは一部の場所で阿鼻叫喚の大合唱になっている中で、リュウヤの淹れたお茶を優雅に飲む。

「まだ終わってねぇぞラフレシア野郎!もし次男の娘の事オカマと同じ扱いにしたら、問答無用で《自主規制》して《自主規制》からの《自主規制》、そんでもって《自主規制》の間に紙セットしてシュッとやって、《自主規制》ちょん切ってやるから覚悟しろよ?」
「あい……」
「分かったか。けどまだ腹立つから許さん」
「そんなぁぁぁぁ!!」

 ノエルは可愛らしい笑顔でウェンディーヌの顔面を掴むと、それをおもいっきりフィールドの中央に投げ飛ばした。
 そして更に、杖を地面に刺し、水の魔力を溜める。

「私の必殺技!パート1です!」
「へ……まさか……」

 ウェンディーヌは、投げ飛ばされた場所がゴゴゴゴゴと動いた瞬間に、何処だったのかを思い出した。
 そう、この場所は、ついさっきウェンディーヌが《ランディオ》で開けた穴の場所。だが、そんな事に気付いた所で何も変わらない。ウェンディーヌは、地面から勢いよく吹き上がった水の柱によって吹き飛ばされてしまった。

「ヤな感じだっよ〜〜〜〜ん!!」
「おととい来やがれダボクソ!!」

 ノエルは、吹き飛んでいくウェンディーヌに漢らしい言葉を吐き付ける。
 そして、キラーン!と輝かしい音が鳴った後、ノエルはハッ!と我を取り戻す。水の柱はもうなくなり、観客席にザーザーと雨が降り注ぐ。そんな中、ファン達はノエルの勇しすぎて引いてしまう強さに言葉を失っていた。

「あ……」

 ノエルは周りの目を見て、冷や汗を掻く。

「……ニャン!」

 とにかくノエルは、あざとい猫ポーズで観客達にサービスをした。何もしないよりはマシだが、気まずい。
 そう思っていた時だった。
 
「イェェェェェェェイ!!ノエちんが勝ったぞぉぉぉぉ!!」
「流石はバトルアイドル!最強だぁぁぁぁ!!」
『な、なんと!ノエル選手の大勝利だぁぁぁぁ!!』

 少し間は空いたが、ノエルの勝利を観客達が祝う。そして、勝利のお祝いなのか、観客席から紙テープのようなものが沢山投げられる。
 それを見て、ノエルは泣きそうになりながらも、地面に突き刺さった杖を抜き『豚共〜!応援ありがと〜!!』と、ファン達に感謝をした。
 一方その頃、タクマ達は騒がしくなっている中で、震えていた。

「なぁタクマ、ノエちゃんってあの事言うとキレるの……?」
「キレるよ。やり過ぎたら多分殺されるから、あんな風に」
「女の子って、やっぱ怖いな」
「お互い、大変だね」

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