第90話　炸裂！水竜と剣

『おーっとぉタクマ選手！この超攻撃にも難なく立ち上がるぅ！！』
「何なんだあの水竜！強すぎるってレベルじゃねぇぞ！」

　観客席でタクマの戦いを見守るリュウヤは、恐ろしい猛攻撃を仕掛けるオリーブを見て立ち上がる。このままではタクマが死んじまう。何故かそんな気がしてならない。
　だが、その隣で見ていたブレイクは大丈夫だ、とリュウヤに言った。

「ブレイク殿、何故タクマ殿が大丈夫だと？」
「分からねぇ。けど、アイツがあんな野郎に負ける事は決してないさ。」

　ブレイクは腕を組みながら言い、見てみろ、とタクマの方を見た。
　そこで、タクマは剣を握りしめて次の攻撃に備えていた。

「じゃが、何か嫌な予感がする……」
「嫌な予感でありんすか？」
「そんなのは感じませんが……」
「さっきタクマが何かを斬った辺りから……気のせいだと信じたいのじゃがのぅ」

【戦場】
「イテテ……何でか分からんけど骨が丈夫になってなかったらボッキボキだな」
「……ククク」
「ヒェッ」

　タクマは向こう側で不気味に笑うオリーブを見て、何処か不気味な気を感じ後退る。
　だがここで逃げては駄目だ。勝って黄色のオーブを回収するんだ。逃げちゃ駄目だ。逃げちゃ駄目だ。

「どんと来いッ！！」

　タクマは剣を強く握りしめ、オリーブの攻撃を待った。相手は魔法を主体とした相手。そしてさっきの水竜は魔法が生み出した代物の筈。ならば相手の攻撃を極力避け、コピーしたそれをお返しすれば良い。
　だが、オリーブは覚悟を決めているタクマを見てもなお、動こうとしない。むしろ、さっきからずっと、こちらを不気味な顔で見つめている。

「仕方ねぇ！なら俺から……ッ！？」

　タクマは剣をオリーブに向けて走ろうとしたが、何故かその足は動かなかった。

「な、何だ！？」

　何が起きたか分からないタクマは、そのまま視線を足に向けた。するとその視線の先では、なんと自分の左足が、白い腕に掴まれていた。
　何が起きたか分からないのに、更に訳の分からないものの登場。それによってタクマの体から、大量の冷や汗が出てくる。

「……ツカマエタ。」
「なっ……」
「……ヒヤアセ、アセッテルネ。アセダケニ。ケヘヘ」

　まるで瞬間移動しているかのように、タクマの近くへやって来たオリーブは、訳の分からない駄洒落と共に、笑いながらタクマの右耳に息を吹きかける。
　彼は多分生きている。生きていて欲しい。だが、何故かその息は、幽霊が背中を摩って背筋を凍らせるような感覚と同じように感じ取ってしまう。

「うわぁぁぁぁぁぁ！！！」

　タクマは恐怖と、彼には悪いけど気持ち悪い行動への苛立ちで、悲鳴に似た雄叫びと共に足に付いた白い腕を斬り、さらにオリーブの首に剣を入れた。
　だが、やはり手応えはあるが、そこには自分と同じ姿のぬいぐるみだけが残り、オリーブ本人は見当たらない。
　しかし今度は違う。今回は魔力の気を感じる。

「そこだぁッ！！」

　タクマは自分の人形への戸惑いを押し殺し、後ろから飛んできた水竜を避け、それをコピーした。
　もう2度目は通用しない。そんな気がしたタクマは、水竜召喚？の魔法を取っておこうと考え、もう一度オリーブの方へ走った。
　だが、今度はだんだんオリーブへ近付くにつれ、身体が重くなっていく。まるで背中に何かがのしかかっている、そんな感じで身体が重くなっていく。
　
「……オモイ？オモイヨネ」
「このっ！何故だっ！」
「……オソイヨ。ソレジャ、タオセナイ」

　タクマは、怒りに支配されないよう落ち着きながら剣を振る。だが、重くなっている体で繰り出す剣は遅く、オリーブは煽るようにギリギリで避ける。
　そこに実況のギエンは『何だこれはぁッ！！フィールドが、とんでもない量の白い何かで埋め尽くされているぅッ！！』と状況を説明した。だが、二人目の実況者であるチェイスは『何も見えないが？』と疑問に満ちた声を上げた。
　
「……トドメ。」

　オリーブはニィっと口をにやつかせ、タクマの首に闇の鎌を出現させた。
　絶体絶命。そう思った時、タクマの中で何かが閃いた。
　
「……これだ。この手だ！」
「……ハ？」
「あ！後ろでピンクの豚がお姉さんに踏まれて喜んでるッ！！」
「マジ！？ドコ！？ドコ！？」
「よし引っかかった！」

　タクマはまさかこんな子供騙しのような嘘に騙されるとは思わなかったが、その隙を突いて闇の鎌をコピーし、地面に向けて《ドラゴニック・ウォーター》を放ち、オリーブが生み出した水竜と同じものを召喚した。
　すると、地面に敷かれた魔法陣から水の竜が現れ、そのまま上空へ飛んでいく。

「ボクチャンノ、オリジナルワザガ……」
「これこそ俺のコピーだ！ヨロシク！」

　そう言いタクマは、上空へ飛ばしてくれた水竜を剣に纏わせ、更に自分の剣に闇の鎌の力を注ぎ込んだ。するとその剣に、闇の鎌と同じパーツが付いた。
　
『なんと！オリーブ選手の魔法を使ってタクマ選手、飛んだぁぁ！！』
「うっわ、よく見りゃ高すぎて足震えるなぁ……」

　タクマは、上空からフィールドを見下ろして言う。そこでは焦ったオリーブが、こちらに向けて闇の槍を何度も放つ。
　だが、焦りすぎているからか、その槍はタクマのギリギリを飛んで行く。
　
「……クソクソクソクソクソ！コウナリャ、オクノテダ！！」

　危険だと感じたオリーブは、地面に杖を突き刺し、同じ水竜を召喚した。その水竜はタクマの召喚した水竜よりも大きく、そのまま突撃すれば、吹き飛ばされてしまう。この戦いを制する為には手段を選ばない。そう言う事だろう。
　だが、タクマにもやるべき事がある。その為なら彼を倒さないといけない。

「ごめんっ！オリーブ君！」
「ブットバス！」

　タクマは剣に纏わせていた水竜を、オリーブの大きな水竜に当て、威力を少しだけ削ぎ落とした。それでもまだ、水竜の威力はそこそこ残っており、タクマの体に打ち付けられていく。
　それでもタクマは、その痛みを耐えた。そして、右から来る激流に身を任せ、左に回転する。

「痛い。痛いけど……どうせ治るならッ！！〈閃の剣・闇鎌〉！」

　タクマは重い体と敵の攻撃を利用し、鎌のようになった剣でオリーブを斬った。
　オリーブの身体は斬れていないが、オリーブはそのまま「マケ……タ」と言い残し、その場に倒れた。

『勝負ありぃぃぃ！！第2回戦目の優勝は、タクマ選手に決まったぁぁぁぁ！！』
『なかなかトリッキーな相手だったが、その攻撃を利用して反撃とは、彼も相当侮れないね』
『そうですねー。では続いて第3回戦目です！』

【観客席】
「よくやったぞタクマ！やっぱしお前はすげぇなぁ！」
「なかなかの太刀筋、見事でござる」

　ボロボロになりつつも帰ってきたタクマを見て、すぐさまリュウヤは飛び上がりながら、タクマの帰還を祝った。
　他にも、おタツにロード兄弟、メアも笑顔で出迎える。

「あれ？ノエルは？」
「ノエルちゃんなら、第4回戦目で出番があるから、もう待合室に行ったよ」
「4回戦目か。となると相手は……ウェンディーヌ？」
「誰じゃそれは。ブレイク、何か情報ないか？」
「いや、俺も聞いた事ねぇな」

　メアはブレイクの方に顔を向けて訊くが、何も知らないブレイクはそのまま目隠しをし、グーと眠ってしまった。
　こんな歓声やら何やらで暑苦しくてうるさい所でもなお寝れるとは、流石は師匠だ。

「あ、始まるでありんすよ」
「おっ、次はどんな命知らずが戦うのじゃ！？」

　メアとおタツは、次の戦いが始まる事に喜び、急いで席に着いた。

『まずは西コーナー！銃の事なら何でもござれ！ホルメアン荒野の銃を扱う店主サマ！サイリョー選手！』

　ギエンの声と共に、まさに荒野のガンマンのような姿をしたワイルドな男が現れ、上空に向けて1発銃を撃つ。

『続きまして東！ギンギンギラギラトゲットゲ！回せ回せ鉄球を回せ！モーニングスター大好き旅芸人！フール・マワススキー！勿論芸名です！』

　そして更に、東側から大きなトゲトゲの鉄球が鎖で繋がった武器を振り回す、愉快なピエロのような人物が、ヘラヘラしながら現れた。