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コピー使いの異世界探検記

鍵宮ファング

第85話 危機!いろんな意味で危ない話

「どうだった?」

 リュウヤは近くの壁にそう語りかける。
 するとその壁から、忍者姿のおタツの手だけが現れ、OKを意味する人差し指と親指を合わせたサインを出す。

「行けるようじゃな」
「ん?俺の顔に何か付いてる?」

 じっと無言で見つめてくるメアに、タクマは訊く。するとメアは「レディを守るのがナイトの役目じゃろ?」と言い、タクマの背中を押した。

「いつ俺はナイトになったんだ」
「頼られているでござるな、タクマ殿。流石ナイト」
「吾郎爺まで……でもまぁ、悪くないかも」

 吾郎は腕を組み、メアに押されるタクマを笑う。
 それに、そろそろ周りに人が集まってきたため、タクマはフフッと笑いながら急ぎ目で向かった。


【楽屋前 通路】
「おいおい、あの看板に立ち入り禁止って書いてなかったか?」
「書いてた?」

 リュウヤは気楽そうに頭で手を組み、タクマの質問に答える。そして、さっきからずっと、メアはタクマを押しながら進む。
 するとその時、どこからともなく「んぅっ!」と大きな声が聞こえてきた。
 そこでタクマ達は一旦足を止める。

「おタツ、この近くか?」

 そう訊くと、おタツはリュウヤ達に向けて、OKサインを壁から出す。
 それにしてもさっきの変な声、アレ絶対ノエルだったな。タクマは、まさかと思いつつもゆっくり先陣を切って歩いた。
 声の発生源に近付いていく度、だんだんと声が聞こえてくる。
 そして、タクマ達は、デカデカと「アイドルの楽屋」と書かれた一つの扉の前で足を止めた。

「いや、うん。分かりやすいのぅ」
「ここまで来ると、逆に清々しいでござるな……」

 リュウヤと吾郎は、あまりにも清々しいくらいに掛札が掛けられた扉を、死んだ目で見つめる。
 だが、タクマは二人の間を抜け「何か聞こえる」と、扉に耳をつけた。

『グヘヘ、気持ちいいか?』
『ひ、ひもちいいれす……』

 なんとなくと言うか、あからさまに危険な匂いが漂う声が、扉の向こう側から聞こえる。

「のぅ、これって……」
「ヤベェぞこれ。いろんな意味で危険だ」

 そう話をしている間も、扉の向こう側では何か危ない事が続けられていた。

『さーて、次はこっちをやろうか』
『そ、そこは無理……いやぁ……』

 そろそろレッドゾーンに入りそうだ。そう思ったメアは、すぐにどうするか相談しようと、タクマの方を向く。
 タクマはメアと顔を合わせ、黙って頷いた。

「おらぁ!何さらしとんじゃワレェ!!」

 何とは言わないが、色んな意味で世界の危機を感じたタクマは、真っ先に扉を蹴り破った。そして、ノエルが何かされているであろう方向に目をやる。
 するとそこには、いきなりの来客に目を丸くして驚く、誘拐犯の親父と、ベッドで足を揉まれて気持ちよさそうに顔を赤くするノエルが居た。
 ノエルが新しく買った服は畳まれて近くに置かれており、代わりに今は白猫のように白く美しいワンピースとセーラー服を合わせたようなものを纏い、白猫の猫耳を付けている。

「な、なんでござるかコレは……」

 吾郎は石に塗れた部屋からは想像もつかないような、白く美しい空間を見て口を開ける。
 そんな中、おタツは誘拐犯の前に立ち「さぁ観念するでありんす」と、胸から苦無を取り出して見せた。

「誰か!誰かぁぁ……むぐっ」
「だまらっしゃい。貴方様の部下は、皆ウチが片付けたでありんすよ」

 おタツは男の口を力強く押さえ付け、笑顔で助けが来ない事を伝える。
 そう言えば、よく見てみたらおタツの顔に返り血のような物が付いている。通りで顔を隠して、手だけでサインを出していたのかと、タクマは納得した。

「ノエル、大丈夫か?」
「あ、メアさん丁度よかった。足揉んでください」

 無事だったのかそうではないのか、ノエルは再会したメアに足を向け、揉むように言う。勿論、何が何だか分からないメアは「え?」と声を漏らす。
 そして更に、タクマにも足を向け、無言で揉めと促す。

「何で助けに来たのに揉まなきゃ……」

 タクマは小さな文句を言いながらも、肉球のようにぷにぷになノエルの足を揉んだ。その度、ノエルはR何たらが付きそうな、気持ちよさそうな声を上げる。

「いや、マジめに色々危ないから声我慢して!」

 ヤバイ声を上げるノエルに、タクマは激しいツッコミを入れる。
 そうしていると、ついに誘拐犯の男は観念したのか、後ろに般若のような何かを浮かび上がらせるおタツに頭を下げ、何故誘拐したかの理由を話そうとした。
 だが、既にヘタレの黒服から理由を聞いたおタツは、「ノエちゃん使う言うなら、しっかりウチらに許可を取りなんし」と言う。

「おタツ殿、このお方は既に観念してるでござる。もうこの辺で……」
「そうだよおタツさん。このジャーマネ、結構悪い人じゃないんだよ?」

 ノエルと吾郎に止められ、おタツはとりあえず近くのソファに座った。


「この度は、勝手に連れてってすみません」
「もう、アイドルだかアイラブユーだか知らぬが、そう言うのはまず妾に言ってくれ」

 メアはずっしりとソファに踏ん反り返りながら、男が頭を下げた後にスーツの懐から取り出した名刺を奪うように受け取る。
 そこには「アコンダリアカジノ8代目社長 ドン・チェイス8世」と言う名前と、アホみたいにデカデカとダブルピースをする男、もといチェイスの顔写真のようなものが付いていた。

「そういやノエちゃん、チェイさんに変な事されてない?大丈夫?」
「平気ですって。むしろすっごく快適です」

 心配するリュウヤに、ノエルは幸せそうな笑顔で答える。
 すると、まさか洗脳されたのではないか、と思ったタクマがノエルの両肩に手を乗せた。

「洗脳とか、されてない?」
「されてません」
「あのおっさんは?」
「ジャーマネ」
「これ何本か分かる?」

 タクマはそう言って、ノエルの目の前で指を3本立てる。それを見てノエルは「3本です。馬鹿にしてるんですか?」と、小さく毒を吐いた。
 毒舌っぽくなってるのはまぁ置いといて、特に異常はないと判断し、タクマはホッと胸を撫で下ろす。

「今回の武闘会には歌姫のライブ目的でやって来た客も居るんです。なので、その代理として一日だけでも……」

 チェイスは膝に乗せた拳を強く握りしめ、タクマ達に頼む。
 すると吾郎はその席を立ち、ノエルの方を向いた。

「ノエル殿は、どうするでござる?」
「だな。チェイさんの事情も分かったし、変な事とかもされてないし、後はノエちゃんの心一つって所だな」

 リュウヤも立ち上がり、ノエルにそう訊く。するとノエルは、チェイスの耳元に向かって何か耳打ちをした。
 そして、それを聞いたチェイスは、何処からか取り出した黒い猫耳カチューシャを、メアの頭に付けた。

「な、何するのじゃ?」
「ふむ、これはこれで」

 チェイスの謎の行動に、メアは首を横に傾げる。すると今度は、おタツの頭に三毛猫の猫耳カチューシャを付けようとした。

「な、なんでありんす?」
「あ、駄目だなこりゃ」
「あ?」

 だが、何処につけようとしても納得が行かなかったのか、おタツはそのままスルーした。地味に素が出たおタツを、リュウヤは密かに止める。
 
「よし!そこの金髪君!君とノエルちゃんのアイドルコンビ作っちゃおう!」
「わ、妾があいどるじゃと!?」
「そののじゃキャラ!素晴らしい!早速準備に取り掛かろう!」

 興奮したチェイスは、頭に血が昇り過ぎたあまりか、何故かタクマの手を引く。だが、すぐに気付いてタクマを押し倒し、メアを衣装タンスの前に立たせた。

「イツツ……凄い勢いだな……」
「タヌキは興味ないみたいな事言ってたくせに、よく踏ん張れますな」

 おタツは腕を組みながら、嫌味混じりでチェイスに冷たい視線を向ける。
 するとチェイスは、メアに「好きな服を選んで良いぞ」と伝え、こちらに向かってきた。

「彼女と二人ならやっても良いって事になった」

 チェイスはタクマ達に、ノエルが耳打ちでしたお願いを要約して話した。
 そして、懐から「参戦状」と書かれた紙を取り出す。

「勝手に連れ去った私の方が悪かった。だからお詫び」
「上から目線なの何か腹立つけど……」
「なんやかんやでオーブを狙うチャンスが出来たしいっか」

 リュウヤとタクマは、チェイスの傲慢的な態度に苛立ちを覚えながらも、6枚の参戦状を受け取った。

「いやしかし、これを使って飛び入り参加するとなると、予定していた人数を超えてしまうのではないでござろうか」

 吾郎はチェイスに対してそう訊いた。確か、今回の武闘会の内容はトーナメントだった筈。飛び入り参加なんてして良いのだろうか。
 するとチェイスは「その事なら心配いらん」と答えた。

「ちょうど三日前、出場者だった7人が急にドクターストップされてて、人数に困ってた所なんだ」
「それは大変でありんすなぁ」

 おタツは他人事のように頷いて聞く。

「さぁさぁ、今日は歌の練習とかで忙しいからカジノで遊んできなさい」

 チェイスはタクマ達に参戦状を押し付けるようにして、楽屋から追い出した。

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