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コピー使いの異世界探検記

鍵宮ファング

第69話 日本刀対猪突猛進

岩石猪、姿はその名前の通り、全身を岩で覆っている。そして目は赤い宝石のように真っ赤な目をしており、牙も尖った岩で出来ている。まさに岩石だけを使って作られた、本物のゴーレムのような猪だ。
そんなあまりにも硬そうな見た目をしている猪を、リュウヤは追いかける。

「待てぇい!大人しく豚汁の材料になりやがれぇっ!!」

リュウヤは刀を抜き、突進してくる岩石猪をそろりと回避しながら斬りつける。
すると、斬りつけた所の岩がゴロリと落ちた。
しかしそんな攻撃は効かないのか、岩石猪はそのままリュウヤ目掛けて突進してくる。

「お前様、ここはウチに任せてくださいまし」
「オーケイ、頼んだ!」

リュウヤとおタツは位置を変え、弱点と思しき場所に爆裂手裏剣を投げつける。
しかし、爆発してもちょっと小さな石ころが落ちるだけで、猪の勢いは落ちなかった。むしろ身軽になった分、勢いが増した気がしなくもない。
だが全ての攻撃が無意味だった訳ではないようだ。
その証拠に、岩石猪の右側から出ている牙にヒビが入っている。
その事に真っ先に気付いた吾郎は、「ここは拙者にお任せあれ!」と満月をバックに飛び上がった。

「〈月光・打兎(だっと)ノ一太刀〉」

吾郎は、まるで月の上で餅をつく兎のように刀を振り下ろす。
するとその牙は、ぽとりと地面に落ちた。
しかし牙を斬った事が逆鱗を触れる事に繋がったのか、岩石猪は叫び声に似た鳴き声を上げる。
すると、その声を聞き付けた残り4体の岩石猪がリュウヤの周りを囲むように現れた。

「まだ仕留めてもないのに新手が……!?」
「キリがないでありんすな」

リュウヤ、おタツ、吾郎の三人は互いに互いの背中を預けるようにして武器を構える。
そして相手も、前足を何度も動かして突進の準備をする。

「……来る!」

吾郎の小さな合図と共に、岩石猪が囲んだ円の中心目掛けて突進してきた。
リュウヤ達は、逆に岩石猪の方向に突っ込む。
そして、ぶつかる直前に、リュウヤ達は残像を残して回避した。

(怒り狂った猪は曲がれない筈!)

しかし、リュウヤの期待は外れ、猪は急カーブでリュウヤ達の背中に回った。

「何!?」
「やはり普通の猪とは違うようでござる!」

リュウヤは考えてもいなかった事態に焦りつつも、剣を抜いて出来るだけの反撃を与える。
だが、咄嗟の判断が遅かったせいで、リュウヤは腰に岩石猪の尖った牙を食らってしまった。

「うっ……」
「リュウヤ殿!」

血の臭いに気付いた吾郎は、突進してくる猪を避けてリュウヤの方へと駆け寄った。
しかしリュウヤは「来るな」と言うように右手を出す。

「お陰で見つけたぜ、弱点っぽい所を!」

リュウヤは血の流れ出る所を押さえながら立ち上がる。
そしてもう一度刀を構え、牙の折れた岩石猪に突っ込んだ。

「牙の真ん中、俺の考えが正しければそこは頭蓋骨に直結してる筈!」

激突と同時に、リュウヤはピンポイントで牙に刀を突き刺す。
するとそこに、刃が何の抵抗もなく刺さった。
そして、リュウヤはそこから斜めに刀を走らせ、岩石猪の顔を脳ごと切り裂く。
それにより、その猪は血を流して倒れた。

「何か思いつきでやったら出来ちまったな……」
「お前様!油断は禁物でありんすっ!!」

顔面にかかった血を拭くリュウヤに突進する別の岩石猪に、おタツは爆散手裏剣を投げつけながら警告する。
それを聞いたリュウヤは血の事を後にして横に回転し、岩石猪の突進を避けた。
しかし、一体倒した所でまだ4体居る。リュウヤ達はそろそろ限界へと近付いていた。

「やはり人の肉とは勝手が違う、刀が弾かれるでござる……」
「双星乱舞も使えねぇ、こんな時アイツは……アイツは……」

リュウヤは、自分達が大和にいた間、色々な敵と渡り歩いてきたタクマが、こんな時どのようにするのか、エンヴォスとの戦いを基に考えた。
剣の動きは刀と訳が違うから別、とすれば根気か……?
いや違う、アイツは 《コピー》とか言う面白い魔法を使ってた。そうだ、魔法だ!
リュウヤはその事に行き着き、更に作戦までもが頭に浮かんだ。

「おタツ、術は何を使える?」
「えーっと、火、水、風、土、氷の五つの巻物があるでありんす」

リュウヤとおタツは、後ろから追ってくる岩石猪から逃げながら、今所持している巻物を確認する。
(あった、氷!)
リュウヤの考えはこうだ。
例え急カーブする猪だとしても、流石の氷の床じゃあそんな芸当は使えない。
それを利用して氷の術で地面を凍らせ、今度こそ失敗した衝突による同士討ちを狙う。
リュウヤはその事をおタツに説明した。

「成る程、ウチに任せるでありんす!」
「あぁ、俺は一方の猪野郎を引き付ける!」

そう言いリュウヤはおタツと離れ、一方の猪を引き付けた。
そして一回回り、リュウヤとおタツは両方向から共に走る。
そして両者がぶつかるまであと5メートルを切った時、おタツは巻物の筒を口に咥えながら両手を特殊な形に合わせた。

「氷結の術!」

どう言った原理かは不明だが、おタツは巻物を加えているにも関わらず、いつもの声で術使う。
すると、おタツが走った後にスケートリンクのようなツルツルの道ができた。

「でかしたぞおタツ!」
「ですがまだ、終わりではないでありんす!」

二人はその場から離れるように飛び上がる。
そして、飛び上がった後、おタツはおまけに2匹の岩石猪の顔面に手裏剣を突き刺した。
リュウヤの狙い通り、岩石猪はリュウヤ達が目の前から消えた事が分かっていても、氷の床のせいで止まる事が出来ず、未だに走り続けている。

「お前様、ちょいと伏せてくださいまし」

一緒に地面へと降り立ったおタツは、すぐにリュウヤの頭を押さえつけ、共に伏せる。
一体これから何が起こるのか、リュウヤはあの時見た手裏剣を思い出して察した。
すると、その後ろの方で、止まれなかった猪達が勢いよく衝突する音が聞こえた。
ゴツっと鈍い音、そして何かが刺さる音がする。
そして、おまけにドン!と爆発音のようなものが鳴り、辺りに血の臭いがする飴が降り注いだ。
そう、あの時おタツがおまけに投げた手裏剣、それは爆散手裏剣だったのだ。

「こりゃあ、お子様には見せられないなぁ」
「とにかく肉の採取は、見えない場所でやるでありんすね」

二人は頭をずっと伏せながら話す。


一方その頃、吾郎は残り2匹の討伐に手を焼いていた。
どれだけ斬っても、岩の鎧が邪魔をしてなかなかダメージを与えられない。

「やはり人の肉とは勝手が違いすぎでござる……」

吾郎は、右へ左へと体をくねらせて突進を回避する。そして、それと同時に刀が入りそうな場所も探した。
だが、いくら避けて観察しても、弱点らしき場所はない。
そこで吾郎は、リュウヤのやった牙から切り裂く方法を取ろうと、刀を構えた。
目の前から2匹の猪が飛んでくる。

「ここぞ、風神の一太刀!」

吾郎は、飛んでくる猪に恐れる事なく、まるで風を司る神の如き速さで猪の牙を斬りとった。
牙さえなくなれば、後はそこから引き裂けばいい。

「突!」

吾郎は牙を失ってもなお襲い掛かる猪に刀を突き刺し、斜め下に刀を押し飛ばした。
そしてもう一度、2体目の猪にも同じ攻撃を繰り出した。

「吾郎爺、無事か」
「こちらはもう終わったでありんす」
「お陰様で、拙者も難なく勝てたでござる」

血塗れになった三人は、互いに勝った事を報告しながら笑った。
和気藹々としている中、言いにくい話ではあるが、こちら側から見れば怖いの二文字以外語る言葉がない。

「そういえば、タクマさんは大丈夫ですかねぇ?」

いつの間にかクノイチ姿から、いつもの着物姿に戻っていたおタツはリュウヤに訊ねる。
そして訊かれたリュウヤは、すっかり忘れていた事を思い出したように「あ!」と大声を出した。

「爆発音鳴ってたけどまさか……」
「とにかく行くでござる!」

三人は急いで爆発音が鳴っていた場所まで向かった。


【林の中】
「無事に勝てたようじゃな」
「あぁ、それよりタクマは……」

飛び込んですぐメアに会ったリュウヤは、すぐにタクマの安否を訊ねようとした。
だが、足元に倒れていたタクマを見て、言葉を止める。

「おい!しっかりしろ!一体誰がこんな事を……」

タクマを抱き抱えてリュウヤは耳元で叫ぶ。
タクマがこうなる一部始終を見ていたメアは、いやいやお前のせいじゃぞ、と言いたかったが、流石に言わなかった。
その代わり、「白い腕の爆発魔法でこうなった」と嘘を教える。

「何だって!?」
「それでその白い腕は、今どこに居るでありんすか?」
「それなら私達が倒しました」

真っ先に武器を構えて敵討ちに出ようとしたおタツに、落ち着いたノエルは言う。

「それより、この者を早く教会に連れて行かねば」

近くに倒れていたミイラと思える人を後ろに背負いながら、メアは歩こうとした。
だが、干からびているとはいえ十分な重さがあり、メアは倒れかける。

「おっと、あまり無茶してはいけないでござるよ」
「とりあえず馬車出してコイツら積むか」

倒れそうになるメアを受け止めた吾郎達は、冷静に馬車を出現させ、その中に倒れたタクマと謎のミイラを積んだのだった。

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