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コピー使いの異世界探検記

鍵宮ファング

第67話 悩みを溶かす肉じゃが

【マイ馬車 内部】
タクマ達は早速、ノブナガから貰った馬車札を使ってガルキュイ平原へと向かっていた。
そこでタクマ達は各々出撃の準備をする。
剣のホコリを拭き取ったり、新品の短剣をどんな感じで持つか模索したり、刀に打粉を入れた棒でポンポンしたり……
そんな中、タクマは何か悩んでいる様子のノエルに注目が行った。

「どうしたノエル、そんな不満そうな顔して」
「べ、別に何でも……ない、ですけど?」

隣に移動してきたタクマに対し、ノエルは顔を逸らす。
しかしタクマは、それでも「悩み抱え込んでたらなかなか解決できないぞ?」と言い、ノエルの悩みを聞き出そうとした。

「まぁタクマさんだけなら良いですけど、その……」
「何だ?言ってごらん」
「オリジナルの魔法とか、使ってみたいなぁって思いまして」

ノエルはゆっくりと口を開き、タクマに耳打ちした。
それを聞いて、タクマも「なるほどな」と肯く。
するとノエルは「ですが」と話を続けた。

「ですが、どうやったら新しい技を使えるのか、よく分からなくて」

タクマはその事についても「そうか」と相槌を打つ。いや、コピーした魔法を改変なしで使う事しかできないタクマからすれば、相槌を打つしかできなかった。
けど、それで「そうか」だけで終わったら「何故訊いた」って話になる。
だからタクマは考えた。どうすれば、オリジナルの魔法を撃てるのか。

「それなら、自分のイメージを信じたらいいんじゃないかな」
「イメージ、ですか?」
「あぁ、イメージだ」

タクマは、なんとなく頭に浮かんだ事をノエルにアドバイスとして伝えた。

「例えばノエルなら氷魔法だろ?だとすれば、その氷をエンヴォスが使ってた骨の槍みたいに「氷の槍」としてイメージしてみるんだ」
「なるほど、氷の槍ですか……」
「まぁ後はノエルの気持ち一つって所だから、お互い頑張ろうぜ」

タクマはノエルの肩を二回くらい叩きながら、笑顔でもう一度「頑張ろうぜ」と心から呟く。
そして、その元気を分けてもらったノエルは、その悩みが吹き飛んだかのように「はい!」と、笑顔で返した。
するとその時、リュウヤが大きなお盆を持って馬車に入ってきた。

「ヤギと蛇の肉を使った肉じゃが出来たぜ〜」
「リュウヤお主、いつの間に夕食を作っておったのじゃ!?」

調理場なんてない筈なのに、出来立てホヤホヤの肉じゃがを持ってきたリュウヤを見て、ウトウトしていたメアは驚いて目を覚ます。
するとその様子を見て、後ろにいたおタツがクスリと笑う。

「この後ろに、ノブナガ殿から貰った調理屋台を付けたんだ。見るか?」

リュウヤは馬車の空いてる席に肉じゃがの盆を置き、馬とは逆の方向に付いている扉を親指で指した。
その事に興味を持って「どれどれ」と吾郎はその扉を開けてみる。
するとそこには、まるで電車を連結するかのように、小さな調理場が付いている車両があった。

「コンロもシンクもあるじゃねぇか、どうなってんだこりゃ……」
「まぁノブナガ殿の文字化け能力で大体の物が揃うみたいだ、流石は日本史の顔だよなぁ」

リュウヤは調理車と言うべき場所をキラキラした目で設備を見て回るタクマを、扉の上に指をかけて見つめる。
こんな事前にもあった気もしなくはないが、懐かしい気になる。

「さてと、とりあえず食おうぜ。折角の新感覚肉じゃがが冷めちまう」

そう言われ、タクマは「あぁ」と頷きながら調理車を出た。
そして各々お盆からスプーンやフォーク、箸を取り、肉じゃがの入った皿を前に手を合わせる。

「いただきます」

6人は食材に感謝するように言い、肉じゃがを口に入れた。
味は比較的シンプルで、メインの肉として使っている蛇肉は、まるで鶏肉のようなサッパリとした味と食感がする。
そして、もう一つ入っているキメラのヤギ肉は、羊肉のような味がしていて柔らかく、クセになりそうな味がした。
その肉だけでなく、特殊な煮汁を極限まで吸った異世界産じゃがいもが、クセの強い肉を中和して味をリセットさせる。
つまり何を言いたいのかと言うと、めちゃくちゃ美味い!それだけ!

「これが肉じゃがですか、凄く美味しいです!」
「この芋だけでなく、他の野菜も出しゃばらずにいい味を出しているでござる」
「これはまた、お爺様の和食屋で売れそうでありんすな」
「いやいや、あっちじゃ蛇もヤギも食べる人居ないから難しいぜ」


それからタクマ達が夕食を済ませてすぐの事。馬車が止まった。
目的地であるガルキュイ平原へとたどり着いたのだ。

「よし、張り切ってやりますかっと」

リュウヤは腕をぐっと伸ばしながら言う。やる気満々のようだ。

「ウチらは準備万端でありんすよ、御前様」
「白い腕は俺とメア、ノエルの3人でやる」
「じゃあ拙者達は、岩石猪討伐に専念するでござる」

そうパッと作戦を伝えたタクマは、馬車の扉を開けて平原へと出る。
そして全員出たのを確認し、札に戻った馬車を拾う。

「じゃあまた後でな!」
「あぁ、お互い生きて帰るぞ」

タクマとリュウヤは、お互いに拳をぶつけ合い、別々の方向へと走って行った。



………
……
一方その頃、とある何処かの研究室。

「違う!こんなものではダメでス!」

なかなか上手くいかない研究に腹を立てたのか、Dr.Zは床に失敗作の薬を投げ捨てる。
するとその衝撃で試験官が割れ、中の禍々しい色をした薬品が飛び散った。

「果実もあって白粉もある。なのに何故……」

頭に血が昇りすぎてクラっとしたZは、近くの壁にもたれかかりながら呟く。
すると何処からか、カツン、カツン、と足音が聞こえてきた。

「ド派手な音がするものだから何事かと思えば、悩んでいるみたいだね。ドクター」

いつものように穏やかではあるが、その中に恐ろしい闇を抱えた声と共に、αが現れた。
そして、床に散乱した試験官だったものや、化学式資料などを見てその全てを察する。

「君が何の為に研究を続けるのかは訊かないけど、相当思い悩んでいるみたいだね」
「はい、何をどうしても上手い具合に特殊薬が出来なくテ……」

Zは、自分の代わりに黙々と薬品に濡れた化学式の資料達を集めてくれるαに対して打ち明ける。
その悩みに対してαは「おやまぁ、それは困ったね」と、穏やかな口調で言った。

「そんな事だろうと思って、今日は君にプレゼントを持ってきたんだ」

仮面の奥でも笑っている、そんな感じの優しい声で、αは白い長方形の箱をZに渡す。
そしてその箱を開けると、中には綺麗な緑色をした葉が入っていた。

「こ……これは一体……」
「薬草だよ、それも特別な効力を持ったね」
「くれぐれも無理はしないようにね、ドクター」

そう言って、αは資料を机の上でトントンと叩いて整え、地上への階段を登って行った。

「α様……ここまで寛容で穏やかな方だが、あの仮面の奥には何が隠されているのでしょうカ……」

Zはプレゼントとして受け取った葉を見つめながら、その葉の成分解析に移った。

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