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コピー使いの異世界探検記

鍵宮ファング

第63話 親友、二人だけの話

「ふぃ〜、食った食った」
「やっぱりリュウヤさんの作る和食は最高ですね」
「当たり前よ!あっ、人の心を掴むなら胃袋からぁ!ってな」

リュウヤは歌舞伎の見栄のようなポーズを取りながら、腕の自慢をする。
そして食べ終え、使用人達が器を下げようとした時、タクマは使用人に一言「俺達にやらせてください」と告げた。

「ですが客人に面倒は……」
「いえ、一宿一飯の恩もありますし、それにちょっとリュウヤと話がしたくって」
「丁度俺も、タクマと話てぇ事があるんだ、だから後は休んでていいぜ」
「は、はい」


【調理場】
「それで、話ってなんだ?」

リュウヤは自作石鹸で使い終わった食器を洗いながら、タクマに訊ねる。

「ちょっとさ、現代の方の事を教えて欲しいんだ」
「あぁ、確かにタクマは帰れないからなぁ」

そう理解するように言った後、リュウヤは皿を洗いながら現代の色んな事を話した。
例えば、タクマを殺した鬼瓦組の事、能面騎士クエストの事、その他世界経済やら何やらの事、それらを分かる限り全て話した。

「そっか、アイツらは逮捕されて能クエはサ終、経済も何やかんやで危うしか……」
「だからまぁ、あっちの時は止まってるようなもんだし、暫くは此処で長い旅しようかなって思っててさ」
「そうなの?」
「あぁ、こっちで鍛えて帰ってきたら、なんぼかは爺ちゃんを楽させられるからさ」

タクマとリュウヤは、またいつもの楽しい日常を楽しんでいるかのように、和気藹々と話をする。
だが、その中でタクマはふと、もう一つの疑問が思い浮かんだ。
『鹿羽根って誰だ?』
顔も声も思い出せない、覚えているのは『鹿羽根』の名前と、彼が親友であった事。ただそれだけ。

「なぁ、鹿羽根の事まだ覚えてるか?」

タクマは少し真剣な表情をしながら、そう訊ねる。
するとリュウヤは、数秒間「うーん」と唸り出した。
やっぱりおかしい、鹿羽根との記憶だけ虫に喰われたように曖昧になりつつある。
大の親友だぞ?普通、下の名前を忘れるはずがない。
なのにおかしい、出てこない。
そう思い、最後の希望であるリュウヤの方にもう一度目を向けた。

「すまない、俺もアイツの下の名前が分からねぇんだ……」

リュウヤの口から発せられた事に衝撃を受けたタクマは、目を丸く、ガクガクと震えさせながら驚いた。
そして更に、リュウヤはそれにと付け加えて、

「最近アイツと撮った写真の、アイツの顔だけが崩れてたり、クラスの奴らも名前を忘れてたりしててよぉ」

と、申し訳なさそうに、そう言った。
その証拠に、リュウヤは手を拭き、お守り代わりとして持ってきていた3人の写真を取り出して、タクマに見せる。
そこにはリュウヤの証言通り、鹿羽根の顔だけが、まるで何かで燃やした跡のように穴が空いており、顔が分からなくなっていた。

「何でこんな事が……」
「分からんけど、とにかく親友であったアイツとの写真を燃やしたりなんか、俺はしないぜ?」

リュウヤは真面目な顔で言う。
だがそれから間を開けて数秒後、リュウヤはその写真をタクマのポケットに突っ込み、「さて、シケる話はこんくらいにして、パパパッと洗おうぜ」と不穏な空気を取っ払った。
タクマもそれに乗じて「だな、やったるぞ〜」と体を伸ばし、作業の続きを始めた。


[一方その頃……]

「まさかオーブにあんな秘密があったとはね」
「私も、この事には驚きましたヨ……」

暗い屋敷の中で、αとZは共にエンヴォスが現れる映像を観ていた。
どこから撮ったものかは分からないが、飛び降りた骸骨兵士がオーブに飲み込まれ、巨大な骸骨へと変わるシーン。
そんな普通に考えれば有り得ない現象を捉えた映像、その事が好きな者からすれば興味深い物だ。

「やはりあの男に目を付けて正解だったようだ」

αはタクマ達を苦しめるエンヴォスの映像を観て、小さく笑う。

「ソイツが面白いモンか、なかなか迫力あるじゃんか」

そんな中、タクマ達が戦っている映像を観ている二人に、オニキスは影から現れながら言う。
そしてZの後ろから肩を叩き、何かを要求するように手を出す。

「協力的になってくれて嬉しいですヨ、コレは新作です」

Zは後ろを向きながら、オニキスの手に白衣から取り出した赤い注射器を渡した。
そしてオニキスは、それを乗せた瞬間、奪うように手を引き、その注射器の栓を取った。

「ご苦労、じゃあコイツはお礼だ」

オニキスはZに少しは感謝しながら代わりに白粉の入った缶を渡し、肩に薬を投与した。
するとその瞬間、オニキスは「ぐあぁぁぁ!!」と、肩を押さえながら断末魔を上げて悶えた。と思いきや、すぐ痛みは治ったのか、今度は笑い出す。

「コレで最強に近付いた訳か、面白れぇ!!」
「静かにしなさイ、今良いところなんですかラ」

Zは嬉しそうに騒ぐオニキスを叱り、もう一度エンヴォス戦の動画に目を向けた。
だが、何だか暴れたくても暴れられない、何とももどかしい顔をするオニキスを見たαは「君に良いものを見せてやろう」と、一枚の紙を出して呼ぶ。

「何だ?」
「コイツに出てみたらどうだい?」

αはそう言いながら、オニキスに持っていた紙を見せた。

「最強を決めろ、アコンダリア武闘会?と言うとあの大金持ち、ドン・チェイス8世が4年に一度開催するあの?」
「あぁ、そこならオニキス君の力を試す事も出来るだろうと思ってね」
「……悪いが賞金もカジノも興味ねぇ、断る」

オニキスは目を瞑りながら、受け取ったポスターをαに突き返し、その場から去ろうとしていた。
しかしそんなオニキスに対し、αは「まぁ待て」と呼び止める。

「今回は、私も匿名で協力していてね、こんな物を用意した」
「何?」

オニキスは、αから奪い取るようにポスターを手にし、今度は賞金・賞品の欄を睨みつけるようにして確認する。
そこには「優勝賞金・500億ゼルン、優勝賞品・更に力を得られる金のオーブ」の文字があった。

「試す形で申し訳ないが、君ならこれくらいは楽勝だろう?」
「首領サマ直々の試練って事か、成る程な」

オニキスは口をニヤつかせながら、勢いよくそのポスターを上に投げ、剣を引き抜き、残像が残るような速度でそのポスターを斬りつけた。
そして剣をしまうと同時に、そのポスターは頭上でバラバラになり、まるでオニキスの出撃を祝うように降る。

「最強を好きなだけ狩れる上にオーブ付きか、上等だ」

オニキスは自信に満ちた高笑いをし、暗い部屋の影に消えた。
しかし、何故αは大事なオーブを賞品として出したのだろうか。
Zはエンヴォスの活躍ビデオを一旦止め、αに訊ねた。

「α様、何故オーブを賞品ニ……?」
「あの国はカジノもビーチもコロシアムもある国、そこまで言ったら何か分かるね?」
「なるほど……確かにあそこなら、覚醒させられるかもしれませんネ」

何故オーブを賞品にしたかを理解したZは、黒目を大きくして、「クックァハハ」と独特な笑い声を出した。


………
……

一方その頃、タクマ達はと言うと……

「着物も嫌いではないが、やっぱり妾にはこの服が一番似合っておるのぅ」

メアは新品同様なくらいピカピカになった黒いゴスロリのような服を着て、壁に掛けられた姿鏡で自分の思うポーズを取りながら見惚れる。
それを微笑ましく見守っているタクマは、明日の旅立ちに向けて、荷物整理をしていた。
鹿羽根の顔だけが無い写真、メイジュと作った毒薬3本、赤青紫のオーブ3つ、そしてノブナガがくれたメアとノエル、そしてタクマの着物。
こうして見ると、まだ3国しか回っていないが、それでも一つ一つが意味のある旅だったと、アイテム達が教えてくれる。

「のぅタクマ、父上からの服、ボロボロじゃが、どうするのじゃ?」

メアは、アルゴ王から貰ったボロボロのコートを見ながら言う。

「ボロボロだけど、やっぱり使ってると愛着湧いてくるからさ、今の服は記念に取っとくつもりだよ」
「じゃな、そろそろ新しく武器や装備も整えておかぬとな」

二人でそんな話をしていると、何処からともなく「うぉぉぉぉぉ!!」と男達の悲鳴が聞こえてきた。
そしてそれと同時に、タクマ達の居る部屋へ数人の男がドタドタと走ってくるような足音もする。
そして「バン!」という音と友に、力強く襖が開き、そこから鼻血を垂らしたリュウヤ、吾郎、ノブナガの3人が現れた。

「ど、どうしたのじゃそれは!」
「誰かに殴られたか!?」

鼻と口を片手で押さえ続ける3人に、タクマとメアは心配そうに訊ねる。
するとリュウヤが、開いているもう片方の手でタクマの肩を掴んだ。

「なぁ、ノエちゃんって……ツいてんの?」

掠れた声で、リュウヤは訊ねる。
ツいてる?運がついている?タクマの頭に一瞬?が浮かぶ。
だがこの鼻血の量、そして「ツいてる」と言う謎に力を感じるパワーワード。
その二つの事から、タクマはすぐに何の事か理解した。

「実はだな……ヒソセレンでシュウソがな……」

流石にメアにその事は言えない、そのためタクマはこっそりと小声で3人にノエルの秘密、彼女……いや、彼が男である事を話した。

「タクマ……」

それを聞いたノブナガは、リュウヤとは逆の方の肩を掴む。
そして「そう言うのは早く言いたまえ」と、頬の辺りを真っ赤にしながら言った。
やっぱりノエルの事は事前に話さないと、後々大変な事になる。そう思ったタクマであった。

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