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コピー使いの異世界探検記

鍵宮ファング

第53話 玉の取引と、戦う理由

「それなら、くれてやらなくもない」
「ほ、本当ですか!?」

タクマはまさかの答えに驚きつつも、喜びながら立ち上がろうとする。
だが、立ち上がろうとした瞬間、ノブナガに手を前に出され「待った」と指示を出された。

「しかしそれだけでコイツはやれない、条件がある」
「……ですよね、アハハ」

先走った事を反省しながらタクマは座布団に戻る。
そして、ノブナガは袖の方から少し大きめな箱を取り出した。
横真ん中と左側から数センチある場所に金箔の線が引かれた、真っ赤な箱。
まさか、この中にオーブがあるのか?

「それで……条件と言うのは何でしょう……?」

タクマは固唾を飲み込んで、ノブナガに訊く。
しかしノブナガは何も答えない。考えているのか?
この部屋に時計はない筈なのに、緊張のせいかカチ、カチ、と秒針を刻む幻聴が聞こえてきた。ヤバイ、疲れているようだ。
そして、ノブナガは遂に口を開き、タクマにその条件を教えた。

「お主はその玉を使って、何をするのだね?それを教えてくれ」
「え……?それだけですか?」
「良いから教えてくれ。何も知らずにポンと渡して変な事されたら、たまらんからな」

玉を使って……?
そんなのは決まっている、神って名乗ってた変な少年が言うには「この玉は魔王を倒すために必要だ」と。

「魔王を倒す為に、その玉を使います」

タクマは真剣な表情でノブナガの問いに答える。

「ほぉ、魔王を倒す、か。」
「ならばもう一つ訊ねるが、もしその魔王を倒さなかった場合、世界はどうなる?」
「……もし魔王を倒さなかったら、倒さなかったら……」

駄目だ、そういや神様から倒さなかったらどうなるか全然聞いてないぞ。
どうなるんだ?人類滅亡?魔族だけの蔓延る世界の誕生?それとも、その魔王の考える理想郷設立か?
ダメだ、目的のもの字すら聞かされてない以上答えられない。
適当はこけない以上、正直に答えるしかない!

「……分かりません」

何も言えなくなり、タクマは痛みに耐えるような顔で小さく答える。

「分からんのなら、何故その魔王を倒す必要があるのだ?別に人畜無害ならばそれで良いじゃないか」
「けど、魔王を倒せるのは俺しか……」
「何を言うか。メアやノエル、それにリュウヤ、他にも居るお主の知人。そいつらに頼めば良い話ではないか」

そう言われてみれば確かにそうだ、魔王の目的も何もわからない。
それに魔王討伐だって、俺じゃなくてもできる。
魔王と言ってたけど、目的が分からない以上勝手に「悪」とは決め付けられないよな。
じゃあこのまま無視するか?

「どうした、お主の頑張りはここで終いか?」

ノブナガは悩みに悩むタクマにささやく。

いや違う、俺はずっと小さな素性すらない魔王を倒す為に戦ってきたんだ。
そしてもしここで諦めたら、メアにノエル、武器屋のケンさんにフィルアンカップル、ロード兄弟にビーグ、そして今ここに居るおタツさんに吾郎、再開したリュウヤとの冒険して、仲良くなったあの日の全てが、なかった事になっちゃう!
そうか、分かったぞ!これだ!

タクマは答えに辿り着く。
そして辿り着いた瞬間、死にはしないけど、走馬灯のように、今までの思い出のワンシーンが繋がったフィルムのような何かがタクマを包み込む。

「それでどうするのだね?タクマ。お前はその魔王と対峙した時、まずは何を出すのだね?」

はっと気がつくと、タクマは元の大和城に帰ってきた事に気付いた。
そして、ノブナガの問いに対し、タクマやゆっくりと口を開けて答える。

「手です。」

タクマはハッキリと、そう答えた。

「手?」
「はい、魔王だって一概には悪じゃない。そして分からないなら、こんなふうに話をして分かり合う。そして何があろうと、手は最後まで伸ばす!これが俺のやりたい事です!」
「ほぉ、なるほどな」

タクマは辿り着いた答えを話し終えた瞬間、全身に絡まった緊張の糸が解け、一瞬ふらつく。
そして、その答えを聞いたノブナガは「ププっ」と笑いを堪え始めた。

「ハーハハハハハハ!!手って!魔王に手って!お主皆に『かっこつけ』とは言われぬか?」
「え、まぁ確かによく……」

ノブナガは笑いを堪えきれず、転げ回りながら大笑いした。
そして、笑いすぎてヒーヒー言いながら涙を拭き、タクマに手を差し出した。

「魔王だろうと何だろうとまずは手を差し出す、それがお主の考える正解ならワシは応援する。だからまずはこの第六天魔王たるワシに、手を差し出すのだ。」
「はい、ノブナガ……いや、第六天魔王様」

そうして、タクマとノブナガは握手を交わした。

「さてと、それじゃあ約束通り、お主に玉を進呈しよう」

そう言うとノブナガは、目の前にある赤い箱をゆっくりと開ける。
まるでちょっとでも雑に扱えばすぐ壊れる物を扱うように、そーっと開ける。
そしてじわじわと開いていく度、不思議と身体がビリビリとした気に囚われる。

「さぁ受け取れ、ワシの大切な宝玉だ!」

その掛け声と同時に、箱が開き、中に入っている綺麗な玉が姿を現した。
いや、現したのだが……

よく見るとそれは、綺麗な玉は玉でも、なんと“お手玉”だった。

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