第47話　穿て五剣、骸骨襲撃

「きゃぁぁぁ！！妖よぉぉ！！」

　平和だったはずの城下町に、国民達の悲鳴が響き渡る。
外へ出てみると、あの時竹林で戦った骸骨兵士達の軍勢が攻め込んできていた。
タクマは周りの状態に驚き、メア達の居所を探す為に走らせた足を止めた。

「どうなってやがる……」
「どうやら妖が結界を破ってきたようだな」

タクマの後を追ってきたノブナガが、冷静な声で言う。
すると、ノブナガとタクマを見つけた骸骨兵士が、こちらに5体の仲間を引き連れて襲いかかってきた。

「……ふむ、話している暇もなさそうだな」
「ですね、俺も戦います！」
「元気な奴だな、猿を思い出すわい」

タクマとノブナガはちょっとした会話を交わし、共に骸骨兵士の集団に突撃した。

「はぁっ！！」
「フッ！」

タクマはまず、相手の動きを読む為に、三体の攻撃を避けながら甲冑に剣を振った。
ノブナガも綺麗な刀で、骸骨兵士と剣を交える。
しかし、隙を突いたとしても、やはり骸骨兵士の装甲は硬く、なかなか傷が付かない。
一体何処を狙えと言うのだ、そう思いながらもタクマは敵の刀を避けた。
だが、タクマは相手の連携にハマってしまった。
避けた先で構えていた骸骨兵士の剣が、タクマの胸部を斬った。

「あぁぁぁっ！！」

今までに感じたことのない、斬られる痛みが身体中に巡り、タクマは自然と悲鳴を上げた。
その痛みによって、不思議と自分の血が地面にぽたりぽたりと落ちる音が敏感に伝わる。

「タクマ！大丈夫かっ！！」

痛々しい悲鳴に心配したノブナガは、今戦っている骸骨兵士を蹴り飛ばし、タクマに駆け寄った。
タクマは胸を押さえながら「まだやれます……！！」と、痛みを押し切って答えた。
そこからタクマは、本気で地面を蹴り、その痛みを上回る気力で斬撃を与えた。
すると、さっきまで全然歯が立たなかった骸骨兵士の鎧に、小さくはあるが傷ができた。
力が上がっている、まさか底力か？

「まだまだぁっ！！」

そして、タクマはその調子で骸骨兵士に攻撃を加えた。
何故か、今なら相手の動きが遅く見える気がする。

（見えた、この一本道っ！！）

骸骨兵士の動きから、真っ直ぐ民家の壁までの一本道が見えた。
タクマはそこからその一本道を駆け抜け、民家の壁を蹴った。

「これなら、〈閃の剣・一文字〉！！」

タクマは技名を叫びながら民家の壁を蹴って方向転換し、横に骸骨兵士にできた傷を斬った。
すると、その傷から骸骨兵士の鎧にヒビが入り、ついに三体の鎧が剥がれ落ちた。
そして、鎧を剥がされた事に危機感を感じたのか、骸骨兵士は《ストロン》で仲間の骸骨兵士の攻撃力を上げた。

「こいつを待ってたぜ！《コピー》！」

タクマは久々にコピーを唱え、相手のストロンをコピーし、《コピー・ストロン》を早速発動した。
発動した右手から赤い霧が現れ、それらがノブナガとタクマの剣に集まる。
そして、骸骨兵士の剣のように、こちらの武器も赤く光り出す。

「力が湧く……今こそが開眼の時だな」

ノブナガはそう言って、刀を鞘に一度戻し、抜刀術の体制に入った。
目の前から、三体の骸骨兵士が突撃してくるが、それでもノブナガは攻撃できる時を待った。

「天下五剣の名の下に、敵を穿て！〈鬼丸国綱〉！！」

ノブナガは唱え、すごい速さで骸骨兵士を貫いた。
そして、剣を鞘に戻した音が鳴った後、骸骨兵士は鎧ごと上半身と下半身の二つに分かれ、消滅した。

「よし、俺もさっさと決めるか！」

タクマも剣を持って、丸腰の骸骨兵士に攻撃を仕掛けた。

「〈閃の剣・三日月〉！！」

なんとなくそれっぽい名を叫び、タクマは今なら柔いロウ、すなわち骸骨兵士達の背骨に向けて、半回転斬りを与えた。
すると、こちらの方も真っ二つになり、ここの処理は完了した。

「ふぃ～、やっと終わったな」
「そうですね、とにかくメア達の方も……」

タクマがそう言ってメア達のもとへ行こうとした時、倒した筈の骸骨兵士のドクロがゆっくりと音を立てはじめた。
まさか敵を呼ぶのか……？
そう思っていると、ドクロは『オ……オヤカタ……』と不気味な声で喋った。

『オヤカタ……ドウシテ……ワタシ　ハ……』
「……殺せ、〈圧切長谷部〉」

ノブナガはなんの躊躇いもなく、抜いた刀で骸骨兵士のドクロを真っ二つに斬った。
そして、だんだんと骸骨兵士の残骸は、全て塵のように消え去ってしまった。

親方？一体、誰の事だろうか……
ノブナガ様？いや、そんな筈はない。そんな筈は……

「……ワシは帰る」

ノブナガは怒っているかのような声のトーンでタクマに言い残し、城への一本道を歩き、帰っていった。
そして、その時のノブナガ様は、何故だか恐く見えた。

【大和城下町　東部】

「はぁ……はぁ……タクマさん達はまだなんですか！？」
「奴の事じゃ、どこかで別の兵士と戦っておる筈じゃ！奴は必ず来る！」

メアとノエルは、タクマ達が来る事を信じて、少しでもダメージを稼ごうと武器を振っていた。
しかし、装甲が硬すぎて、投げナイフもノエルの拳も効かなかった。
それに、骸骨兵士の刀は既に《ストロン》の効果が発動しており、赤く輝く。
けどもしここで撤退すれば、死人が出る。

「こうなれば、今度は……」

ノエルは拳での特攻をやめ、背中の杖を取り出した。

「一か八か、《フリズ》！！」

唱えると同時に、杖から氷の弾が発射される。
そしてそれは、骸骨兵士の脚に当たった。
しかし、骸骨兵士は凍った脚のまま歩き出した。
しかも、フリズのお返しに、攻撃力の上がった剣をノエル達に向けて横に振った。

「ノエル！！」

メアはノエルを押し倒し、自分も伏せた。

「イテテ……ありがとうございます、メアさん」
「気をつけい、アレを食らっておれば今頃……」

メアは攻撃された後の街を見るように言った。
ノエルがそれを見てみると、ちょうどノエルの右側にあった蕎麦屋が真っ二つになって崩れ落ちていた。
刀の長さや、店の材質的にも、普通であれば切るなんて不可能な筈なのに……
これが《ストロン》で強化された力？
ノエルは力の恐怖に怯え、もう何も言えなくなっていた。

「……許しません！！」

ノエルは怒った。しかし、怒りに任せて突撃しようとするノエルの前にメアは手を伸ばした。

「そんな血塗れの手では無理じゃ、妾に任せい！」
「でも……」
「いいから、早うタクマを連れてまいれ！！」

メアはノエルに伝え、近くに落ちていた蕎麦屋の包丁を手にした。

短剣は使ったことはないが、適正武器ならば行ける筈じゃ！
敵は一体、妾1人でも何とかやれる！

メアは自分に言い聞かせ、骸骨兵士の首目掛けて包丁を入れた。
すると、当たりどころが良かったのか、スパッと首が落ちた。そして包丁も鉄の部分が落ちた。

「あぁ、折れちゃった……」

やべぇと言った顔をしながらメアが包丁を無理矢理戻そうとした時、倒したはずの骸骨兵士の体が立ち上がった。
もう包丁もない、投げナイフは通用しない。
骸骨兵士はメアに向けて刀を構える。
さっきまで動いてたのに、想定外の事が起きたせいか、足がすくんで動けない。
駄目だ、殺される……
と、その時だった。
ばたりと、骸骨兵士の身体が倒れた。

「……何じゃ？」

メアは目を開けて、目の前を見た。
そこには、背中に大きな傷を付けて倒れた骸骨兵士の亡骸、そしてその後ろに黒のタイツのような物を履いた誰かの足。
それらが見えた。

「お主……一体……」

メアは顔を上げて、助けてくれた誰かの顔を見ようとした。
だが、瞬きをしたと同時に、目の前にあった人型が消えてしまった。

「メアが一人で……！？メア、メア！！」
「メアさん！！」

どこかから声が聞こえる、タクマとノエルの声だ。
メアは声を聞いて立ち上がろうとしたが、体に力が入らず、目の前に倒れてしまった。

「メア！しっかり……」

タクマがメアを抱えて何か言っているようだが、ハッキリと聞こえない。
ただ口をパクパクしているだけのようだ。
それよりも、何故だか眠くなってきた。
ちょっと、仮眠でも取ろうかのぅ