コピー使いの異世界探検記
第30話 最終修行と大群的硬いヤツ
あれからタクマは、ロード兄弟と合流し、彼らにオニキスから聴いた事について話した。
「そうか、そう来たか」
ブレイクは、ゴーレムが明日やって来ると言う事を想定していたかのように言う。
それに疑問を感じたタクマは「どうするんですか?」と訊いた。
「そんなの簡単だ、今すぐウォルに行けばいい」
「兄さんまさか、今から歩きで!?」
「馬鹿言うな兄弟。こっからウォルなんて、馬車でも半日掛かるんだぜ?そんな所歩きで行ってたら間に合うかよ。3日は軽く超える」
「確かに、妾達の時もそれくらいはかかったのぅ」
「今から馬車で行きゃ夜には着くが、こっちには秘策があんだろ?」
ブレイクはタクマにそう伝え、《ワープ》での移動を頼んだ。
タクマはそれを了承し、解禁された魔力を溜める。
「《ワープ》!」
タクマは、溜めた魔力を放ち、意気揚々とワープと唱えた。
しかし、なにも起こらなかった。
「あれ?《ワープ》!《ワープ》!嘘、発動しない」
「なんと、一体何故じゃ」
「ちょっと見せてくれて」
メイジュはタクマの頭上に手を当て、タクマの魔力を測った。
そして、頭から手を離し、メイジュは「魔力が無くなっている」と告げた。
「魔力が無い……原因は……?」
「僕の憶測だけど、恐怖で相手の魔力を奪い取る特異体質の人間、つまりオニキスと接触したからだと思う」
それを聞いて、タクマはすぐに理解した。
風の強い日でもないのに感じた背筋が凍るような風、体が竦んでしまうような威圧感、それによって自分の魔力が奪われたのだと。
そしてメイジュは、試しにメアとノエルの魔力も確認した。案の定二人とも魔力が無くなっていた。
「そんな、あの人にあんな力があったなんて」
「仕方ない、ここは馬車で行くぞ」
「それじゃあ、俺はウォル行きのチケット買ってきます」
こうして、タクマ達は馬車でウォルまで移動し、そこで夜を過ごした。
それから早朝……
【ウォルのギルド 飯屋】
「ケッ!何がタヌキじゃあの長髪キザ野郎!何気にイケメンなのが余計に腹立つ!」
メアは朝食の温泉卵を飲み込み、昨日オニキスに「タヌキ」と言われた事を引きずっているのか、目を半月状にして怒る。そして、それをノエルが宥めて止める。
そんな状態で、タクマは肉を切りつつ、昨日の出来事について考えこんでいた。
彼は何故、Zの事や、ゴーレムが今日来るって事を知っていたのだろうか……
それに、あの発言が気になる。
“何故知っている”と言う質問からの「それは言えない」。そして「これから敵同士になる」。つまりオニキスはZ側の人間になるって事か?
しかも、恐怖で魔力を奪う特異体質。アレが特に厄介になってくる。
とにかく、あんな危険人物っぽい奴と戦う事になるなら、更に強くならなくてはならない。
でも今日がゴーレムのやって来る日……
そう考え込んでいると、そこにブレイクが走り込んできた。様子がおかしい。
「どうしたのじゃ?そんなに慌てて」
メアは疲れて吐息を漏らすブレイクの肩を担ぎ、何があったか訊いた。
するとブレイクは、「スコルピオが……スコルピオの大群が……」とヒューヒューと乾いた息を吐き、うわ言を言うように何度も呟いた。
「とりあえず水を……」
一体何があったと言うのだろうか。
すると、緊急の連絡アナウンスがギルド中に流れてきた。まだ朝の7時だと言うのに、頭に響くような大きさだ。
きっと、ギルドだけではなく、ウォル全体にも響いている。
『全ギルド冒険家に告ぐ!現在キョーハイ砂漠にてスコルピオが大量発生!スコルピオが大量発生!直ちに討伐へお向かいください!』
「なんですって!?スコルピオが……」
「幼体でも硬かったアイツが大量発生!?なんて事だ……」
タクマ達は絶望した。
今日の夜にゴーレムが現れる。なのに、硬いであろうスコルピオが大群で進撃、そして恐ろしいオニキスやZの登場……
こんなのに勝てる訳がない。
そう思い膝をつこうとした所を、誰かが引っ張り上げて止めた。
「駄目じゃないか、これから本格的な最終修行をやるって言うのに、膝ついちゃ」
声の主の方を振り返ると、そこにはこんな緊急事態だと言うのに、穏やかな笑顔をしているメイジュが居た。
「そうだタクマ!最後には奥義を伝授してもらう!ウォルも救って、お前も強くなる!そうでなきゃお前は一生クソ雑魚のままだっ!!」
「ブレイクさん、大丈夫なんですか!?」
「安心しろノエル!気合があれば何とかなる!」
「ほら行くぞ、さっさとアレをやるのじゃ!」
「でも今は……」
「大丈夫だよ、寝たら魔力は復活する」
周りのやる気に、タクマも絶望してられないと感じ、キョーハイに向けて緊急の《ワープ》を唱えた。
【キョーハイ砂漠】
ーーーギシャァァァ!!
ー--ギシャァァァ!!
大量のスコルピオ達が咆哮を上げ、ウォルへと進行してゆく。
しかも、見た感じ幼体の数十倍はデカイ。
「あんれまぁ、これは大変だねぇ~」
「そんな事言うとる場合か!砂漠の主がとんでもない量押し寄せてきておるのじゃぞ!」
メアは、こちらへ近付くスコルピオを見て呑気な事を言うブレイクに突っ込んだ。
その時、そこへ多くのギルド冒険家達がやってきて、武器を構えた。
「この量だとやりがいがあるね。やっちゃおう兄さん」
「あぁ、アルゴ隊隊長のパワー、冥土の土産に教え込んでやるぜ!」
周りの熱気につられ、ロード兄弟達も武器を構える。そして、タクマ達も構える。
「やるぞテメェら!!」
むさ苦しい男の掛け声と共に、命知らずの冒険家達が走り出した。勿論タクマ一行もだ。
「俺らは奥義習得の為にこっちに行く!」
「じゃあ僕達はあっちへ行くよ」
「死ぬなよ、メイジュ」
「兄さんこそ」
ロード兄弟は、握手代わりに互いの拳をぶつけ合い、左右に分かれて走った。
「ようしタクマ!最後は剣使いなら持つべき奥義・閃の剣を覚えてもらう!」
「せんのつるぎ……?」
全速力で走りながら、ブレイクは最後の修行内容を教えた。
しかしタクマはその聞き慣れない技名に、首を捻る。
「鎧や装甲には必ずしも柔らかく、切れやすい部分である『ロウ』が存在する。閃の剣は、そのロウに対して力を発揮する奥義だ」
「ろ、ロウ?蝋燭の、蝋?」
「まぁ見てろ」
ブレイクは、近くのスコルピオに飛びかかった。
スコルピオも負けじと、ブレイクに対してハサミで応戦した。
まるでギロチンのように研ぎ澄まされたハサミ。それはティグノウスの爪を思い出すようなものだった。
そして、恐ろしい爪を持つアイツに襲われた時のトラウマ的恐怖がタクマを襲い、タクマは棒立ち状態になっていた。
するとブレイクは、そのハサミが開く瞬間を待っていたかのように笑みを浮かべ、「〈閃の剣〉!!」と叫び、ハサミの間に剣を入れた。
「ざっとこんなもんだ」
「嘘……だろ……」
タクマは驚いて声が出ない。
何故ならそう、スコルピオのハサミが綺麗に切り落とされ、片手がなくなっていたからである。
あの一瞬でこんな事ができるとは、流石は奥義。
そう関心していると、後ろの方から気配を感じた。
「危なっ!!」
タクマは飛び上がり、何とか後ろから来たスコルピオのハサミをギリギリで回避した。
そして、その瞬間にブレイクが狙っていた場所を見てみる。
(ハサミの間にY字の薄い白線がある、ここがロウだな)
タクマはそれに気付き、空中で剣を構え、Y字の白線を狙った。
だが、そっちではなくもう片方のハサミが襲いかかってきた。
しかし、ロウの位置が分かった今ならいける気がする。タクマはそう信じ、そこを縦に斬った。
手応えがある。
「やったか……?」
タクマはそこをもう一度見た。しかし、ブレイクがやった時とは違い、全然効いていない。
何故だ、今ちゃんと当てた筈。手応えもあった。なのに斬れていない……!?
何がいけなかったのか模索していると、ブレイクが「脇を締めて腹に力を入れろ!そして少々斜めにした袈裟斬りでロウを打て!」と、スコルピオを斬りながら言った。
脇を締めて腹に力を、そして袈裟斬り……
タクマは聴いた事を頭でループさせながら、もう一度ハサミが来るのを待った。
しかし、さっきロウへの攻撃が失敗したせいか、全然ハサミを開いてくれない。
「ロウを出さないなら仕方ない!自分で他のロウを見つけるまでっ!!」
タクマはスコルピオの攻撃を避けつつ、他のロウを探す事にした。
敵の足元を潜り抜け、襲い掛かる尻尾の鋭い針を避け、必死でロウを探した。
そして、尻尾の第三関節辺りに白い線があるのに気付いた。
アレだ!そう気付いた時、狙い通りスコルピオは針を固い砂の上に突き刺した。チャンス!タクマはそれに乗じて、ブレイクに教わったように脇を締め、腹に力を入れて斜めに剣を入れた。
「今度こそ……?」
タクマは自信なさげに急いで振り返った。
するとそこには、完全に斬れたスコルピオの尻尾が転がり落ちていた。
「その息だタクマ!もういっちょロウを探してぶちのめせ!」
「分かりました!」
タクマは一息ついてからまた走り出し、次なるロウを探し、そこに〈閃の剣〉を放って順調に倒した。
尻尾やハサミ、その他に沢山ある脚のロウ、首の付け根にあるロウ、それらを自分で見つけては斬っていく。
「おっ、何かコツを掴めたような気がするな……」
タクマは呟き、次から次へと現れるスコルピオをなぎ倒していった。
場所は変わって、メアとノエルは……
「くっ、やはり量で行けるほど甘くはないか……」
メアはいつも通りの投げナイフゴリ押しをやめ、習得したての《メガ・ドゥンケル》を放った。
しかしそれでも変わらず、甲羅にちょっと傷がついた程度。
「これでも食らいなさいっ!!」
そこに、ノエルは自作の毒薬瓶を投げ込んだ。
するとそこから「ジュ~!」と言う痛々しい音が聞こえ、スコルピオは泣き悶えた。
「これは甲羅を柔らかくする効果もあるのか、これなら簡単に攻撃が入るはず!行けっ、《サンダー》!!」
ノエルが投げ入れた毒薬が功を成し、メイジュの《サンダー》を食らったスコルピオは倒れた。
息はない、死んでいる。これが本当の“虫の息”……
それはそれとし、毒薬が効くと分かったメア達は、瓶を投げては魔法、投げては魔法の繰り返しで着々とスコルピオを倒して行った。
「《メガ・ドゥンケル》!」
「《フリズ》!《サンダー》!《ウォーター》!」
そして、メア達を囲っていたスコルピオは全員倒れ、彼女の最終修行は終わった。
「ここら一帯は片付いたようじゃな。よし、ブレイクの所へ加勢しに行くとするかの」
「そうですね。この毒薬で柔らかくなった甲羅に刃が通るかどうか、試したいですからね」
メアとノエルは、他の冒険家達の中で安堵の表情を浮かべ、ブレイクとタクマの向かった場所まで歩いた。
しかし、あちらも終わったのか、もう殆どの冒険家がキョーハイの停留所まで戻っていっている。
だが、何処を見てもタクマの姿がない。
剣士にしては珍しいコート姿、あるならばそれは凄い目立つはずなのに、その姿がない。
「おーい!お前らー!!」
そこに、ブレイクが手を振って向かってきた。
それに気付いたメア達も、ブレイクの方へ走る。
「兄さん!」
「メイジュッ!!」
「「タクマ見なかったか?」」
二人が同時にタクマの居場所を訊く。
勿論同じ質問に、全員「え……?」と戸惑いの声が漏れた。
「タクマ君と一緒に行った筈なのに?」
「すまない、俺がスコルピオを倒すのに夢中になってたばかりに……」
ブレイクは目をグッと瞑って謝罪した。
「良いって兄さん、そう忽然と消える訳じゃない。一緒に戦ってたならまだそう遠くまでは行っていない筈。探そう!」
「あぁ、じゃから元気を出すのじゃ。タクマはしぶとい、必ず生きておる」
メアはそう言って落ち込むブレイクを慰め、消えたタクマを探しに行く。
「そうか、そう来たか」
ブレイクは、ゴーレムが明日やって来ると言う事を想定していたかのように言う。
それに疑問を感じたタクマは「どうするんですか?」と訊いた。
「そんなの簡単だ、今すぐウォルに行けばいい」
「兄さんまさか、今から歩きで!?」
「馬鹿言うな兄弟。こっからウォルなんて、馬車でも半日掛かるんだぜ?そんな所歩きで行ってたら間に合うかよ。3日は軽く超える」
「確かに、妾達の時もそれくらいはかかったのぅ」
「今から馬車で行きゃ夜には着くが、こっちには秘策があんだろ?」
ブレイクはタクマにそう伝え、《ワープ》での移動を頼んだ。
タクマはそれを了承し、解禁された魔力を溜める。
「《ワープ》!」
タクマは、溜めた魔力を放ち、意気揚々とワープと唱えた。
しかし、なにも起こらなかった。
「あれ?《ワープ》!《ワープ》!嘘、発動しない」
「なんと、一体何故じゃ」
「ちょっと見せてくれて」
メイジュはタクマの頭上に手を当て、タクマの魔力を測った。
そして、頭から手を離し、メイジュは「魔力が無くなっている」と告げた。
「魔力が無い……原因は……?」
「僕の憶測だけど、恐怖で相手の魔力を奪い取る特異体質の人間、つまりオニキスと接触したからだと思う」
それを聞いて、タクマはすぐに理解した。
風の強い日でもないのに感じた背筋が凍るような風、体が竦んでしまうような威圧感、それによって自分の魔力が奪われたのだと。
そしてメイジュは、試しにメアとノエルの魔力も確認した。案の定二人とも魔力が無くなっていた。
「そんな、あの人にあんな力があったなんて」
「仕方ない、ここは馬車で行くぞ」
「それじゃあ、俺はウォル行きのチケット買ってきます」
こうして、タクマ達は馬車でウォルまで移動し、そこで夜を過ごした。
それから早朝……
【ウォルのギルド 飯屋】
「ケッ!何がタヌキじゃあの長髪キザ野郎!何気にイケメンなのが余計に腹立つ!」
メアは朝食の温泉卵を飲み込み、昨日オニキスに「タヌキ」と言われた事を引きずっているのか、目を半月状にして怒る。そして、それをノエルが宥めて止める。
そんな状態で、タクマは肉を切りつつ、昨日の出来事について考えこんでいた。
彼は何故、Zの事や、ゴーレムが今日来るって事を知っていたのだろうか……
それに、あの発言が気になる。
“何故知っている”と言う質問からの「それは言えない」。そして「これから敵同士になる」。つまりオニキスはZ側の人間になるって事か?
しかも、恐怖で魔力を奪う特異体質。アレが特に厄介になってくる。
とにかく、あんな危険人物っぽい奴と戦う事になるなら、更に強くならなくてはならない。
でも今日がゴーレムのやって来る日……
そう考え込んでいると、そこにブレイクが走り込んできた。様子がおかしい。
「どうしたのじゃ?そんなに慌てて」
メアは疲れて吐息を漏らすブレイクの肩を担ぎ、何があったか訊いた。
するとブレイクは、「スコルピオが……スコルピオの大群が……」とヒューヒューと乾いた息を吐き、うわ言を言うように何度も呟いた。
「とりあえず水を……」
一体何があったと言うのだろうか。
すると、緊急の連絡アナウンスがギルド中に流れてきた。まだ朝の7時だと言うのに、頭に響くような大きさだ。
きっと、ギルドだけではなく、ウォル全体にも響いている。
『全ギルド冒険家に告ぐ!現在キョーハイ砂漠にてスコルピオが大量発生!スコルピオが大量発生!直ちに討伐へお向かいください!』
「なんですって!?スコルピオが……」
「幼体でも硬かったアイツが大量発生!?なんて事だ……」
タクマ達は絶望した。
今日の夜にゴーレムが現れる。なのに、硬いであろうスコルピオが大群で進撃、そして恐ろしいオニキスやZの登場……
こんなのに勝てる訳がない。
そう思い膝をつこうとした所を、誰かが引っ張り上げて止めた。
「駄目じゃないか、これから本格的な最終修行をやるって言うのに、膝ついちゃ」
声の主の方を振り返ると、そこにはこんな緊急事態だと言うのに、穏やかな笑顔をしているメイジュが居た。
「そうだタクマ!最後には奥義を伝授してもらう!ウォルも救って、お前も強くなる!そうでなきゃお前は一生クソ雑魚のままだっ!!」
「ブレイクさん、大丈夫なんですか!?」
「安心しろノエル!気合があれば何とかなる!」
「ほら行くぞ、さっさとアレをやるのじゃ!」
「でも今は……」
「大丈夫だよ、寝たら魔力は復活する」
周りのやる気に、タクマも絶望してられないと感じ、キョーハイに向けて緊急の《ワープ》を唱えた。
【キョーハイ砂漠】
ーーーギシャァァァ!!
ー--ギシャァァァ!!
大量のスコルピオ達が咆哮を上げ、ウォルへと進行してゆく。
しかも、見た感じ幼体の数十倍はデカイ。
「あんれまぁ、これは大変だねぇ~」
「そんな事言うとる場合か!砂漠の主がとんでもない量押し寄せてきておるのじゃぞ!」
メアは、こちらへ近付くスコルピオを見て呑気な事を言うブレイクに突っ込んだ。
その時、そこへ多くのギルド冒険家達がやってきて、武器を構えた。
「この量だとやりがいがあるね。やっちゃおう兄さん」
「あぁ、アルゴ隊隊長のパワー、冥土の土産に教え込んでやるぜ!」
周りの熱気につられ、ロード兄弟達も武器を構える。そして、タクマ達も構える。
「やるぞテメェら!!」
むさ苦しい男の掛け声と共に、命知らずの冒険家達が走り出した。勿論タクマ一行もだ。
「俺らは奥義習得の為にこっちに行く!」
「じゃあ僕達はあっちへ行くよ」
「死ぬなよ、メイジュ」
「兄さんこそ」
ロード兄弟は、握手代わりに互いの拳をぶつけ合い、左右に分かれて走った。
「ようしタクマ!最後は剣使いなら持つべき奥義・閃の剣を覚えてもらう!」
「せんのつるぎ……?」
全速力で走りながら、ブレイクは最後の修行内容を教えた。
しかしタクマはその聞き慣れない技名に、首を捻る。
「鎧や装甲には必ずしも柔らかく、切れやすい部分である『ロウ』が存在する。閃の剣は、そのロウに対して力を発揮する奥義だ」
「ろ、ロウ?蝋燭の、蝋?」
「まぁ見てろ」
ブレイクは、近くのスコルピオに飛びかかった。
スコルピオも負けじと、ブレイクに対してハサミで応戦した。
まるでギロチンのように研ぎ澄まされたハサミ。それはティグノウスの爪を思い出すようなものだった。
そして、恐ろしい爪を持つアイツに襲われた時のトラウマ的恐怖がタクマを襲い、タクマは棒立ち状態になっていた。
するとブレイクは、そのハサミが開く瞬間を待っていたかのように笑みを浮かべ、「〈閃の剣〉!!」と叫び、ハサミの間に剣を入れた。
「ざっとこんなもんだ」
「嘘……だろ……」
タクマは驚いて声が出ない。
何故ならそう、スコルピオのハサミが綺麗に切り落とされ、片手がなくなっていたからである。
あの一瞬でこんな事ができるとは、流石は奥義。
そう関心していると、後ろの方から気配を感じた。
「危なっ!!」
タクマは飛び上がり、何とか後ろから来たスコルピオのハサミをギリギリで回避した。
そして、その瞬間にブレイクが狙っていた場所を見てみる。
(ハサミの間にY字の薄い白線がある、ここがロウだな)
タクマはそれに気付き、空中で剣を構え、Y字の白線を狙った。
だが、そっちではなくもう片方のハサミが襲いかかってきた。
しかし、ロウの位置が分かった今ならいける気がする。タクマはそう信じ、そこを縦に斬った。
手応えがある。
「やったか……?」
タクマはそこをもう一度見た。しかし、ブレイクがやった時とは違い、全然効いていない。
何故だ、今ちゃんと当てた筈。手応えもあった。なのに斬れていない……!?
何がいけなかったのか模索していると、ブレイクが「脇を締めて腹に力を入れろ!そして少々斜めにした袈裟斬りでロウを打て!」と、スコルピオを斬りながら言った。
脇を締めて腹に力を、そして袈裟斬り……
タクマは聴いた事を頭でループさせながら、もう一度ハサミが来るのを待った。
しかし、さっきロウへの攻撃が失敗したせいか、全然ハサミを開いてくれない。
「ロウを出さないなら仕方ない!自分で他のロウを見つけるまでっ!!」
タクマはスコルピオの攻撃を避けつつ、他のロウを探す事にした。
敵の足元を潜り抜け、襲い掛かる尻尾の鋭い針を避け、必死でロウを探した。
そして、尻尾の第三関節辺りに白い線があるのに気付いた。
アレだ!そう気付いた時、狙い通りスコルピオは針を固い砂の上に突き刺した。チャンス!タクマはそれに乗じて、ブレイクに教わったように脇を締め、腹に力を入れて斜めに剣を入れた。
「今度こそ……?」
タクマは自信なさげに急いで振り返った。
するとそこには、完全に斬れたスコルピオの尻尾が転がり落ちていた。
「その息だタクマ!もういっちょロウを探してぶちのめせ!」
「分かりました!」
タクマは一息ついてからまた走り出し、次なるロウを探し、そこに〈閃の剣〉を放って順調に倒した。
尻尾やハサミ、その他に沢山ある脚のロウ、首の付け根にあるロウ、それらを自分で見つけては斬っていく。
「おっ、何かコツを掴めたような気がするな……」
タクマは呟き、次から次へと現れるスコルピオをなぎ倒していった。
場所は変わって、メアとノエルは……
「くっ、やはり量で行けるほど甘くはないか……」
メアはいつも通りの投げナイフゴリ押しをやめ、習得したての《メガ・ドゥンケル》を放った。
しかしそれでも変わらず、甲羅にちょっと傷がついた程度。
「これでも食らいなさいっ!!」
そこに、ノエルは自作の毒薬瓶を投げ込んだ。
するとそこから「ジュ~!」と言う痛々しい音が聞こえ、スコルピオは泣き悶えた。
「これは甲羅を柔らかくする効果もあるのか、これなら簡単に攻撃が入るはず!行けっ、《サンダー》!!」
ノエルが投げ入れた毒薬が功を成し、メイジュの《サンダー》を食らったスコルピオは倒れた。
息はない、死んでいる。これが本当の“虫の息”……
それはそれとし、毒薬が効くと分かったメア達は、瓶を投げては魔法、投げては魔法の繰り返しで着々とスコルピオを倒して行った。
「《メガ・ドゥンケル》!」
「《フリズ》!《サンダー》!《ウォーター》!」
そして、メア達を囲っていたスコルピオは全員倒れ、彼女の最終修行は終わった。
「ここら一帯は片付いたようじゃな。よし、ブレイクの所へ加勢しに行くとするかの」
「そうですね。この毒薬で柔らかくなった甲羅に刃が通るかどうか、試したいですからね」
メアとノエルは、他の冒険家達の中で安堵の表情を浮かべ、ブレイクとタクマの向かった場所まで歩いた。
しかし、あちらも終わったのか、もう殆どの冒険家がキョーハイの停留所まで戻っていっている。
だが、何処を見てもタクマの姿がない。
剣士にしては珍しいコート姿、あるならばそれは凄い目立つはずなのに、その姿がない。
「おーい!お前らー!!」
そこに、ブレイクが手を振って向かってきた。
それに気付いたメア達も、ブレイクの方へ走る。
「兄さん!」
「メイジュッ!!」
「「タクマ見なかったか?」」
二人が同時にタクマの居場所を訊く。
勿論同じ質問に、全員「え……?」と戸惑いの声が漏れた。
「タクマ君と一緒に行った筈なのに?」
「すまない、俺がスコルピオを倒すのに夢中になってたばかりに……」
ブレイクは目をグッと瞑って謝罪した。
「良いって兄さん、そう忽然と消える訳じゃない。一緒に戦ってたならまだそう遠くまでは行っていない筈。探そう!」
「あぁ、じゃから元気を出すのじゃ。タクマはしぶとい、必ず生きておる」
メアはそう言って落ち込むブレイクを慰め、消えたタクマを探しに行く。
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