コピー使いの異世界探検記
第29話 懐かしの味と緊急的事態
【アルゴ国 城下町】
「さて、今日は本格的にやった訳だし、本日の修行はまずここまでだ!」
「僕たちは一旦部下たちに挨拶してくるから、先に食事でも済ませておいで」
ロード兄弟はそう言い残し、アルゴ城へと向かって行く。
「じゃあ俺達も飯食いに行くか」と、タクマは一声掛けて歩きだした。
それにしても、メアの幽霊屋敷探索だとか、ティグノウス騒動だとかであんまり見ることができなかったけど、よく見てみると本当に迷ってしまいそうなくらい色んな建物がある。
見慣れた宿屋やカード工房、ギルドにケンさんの装備屋。
その他にも市街地やフリーマーケットをやっていたバザールなど、日本では絶対に見ることのできない物ばかり。タクマは改めて感動した。
「やっぱり、アルゴもアルゴで、ウチと違って良いですね〜」
「そうじゃろう、そうじゃろう。とはいえ妾も、引きこもってばかりじゃったから、実質何も知らぬのじゃがな」
「まぁどっちにしろ、暫く帰らないかもしれないんだ。存分に見て休むとしよう」
そうして、タクマ達はまだ見ぬ東の居住区へと足を運ぶ事にした。
【アルゴ国 東の居住区】
そこは中心地と比べるとそこまで派手と言うわけではないが、まるでスペインなどのヨーロッパの国に来たかのような景色が広がっており、皆仲良さそうに世間話などをしている。
まさにこの国こそ「平和の国」と言うに相応しいだろう。
すると辺りから、これまたいい香りがしてきた。
「なんですかね、初めてなのに懐かしい匂いがします」
「デジャヴかの?タクマなら何か知っておるじゃろ?」
そう言われ、タクマももう一度嗅ぐ。
すると、何だか味噌汁のような香りがしてきた。
剣崎でよく飲んでいた定食の味噌汁のような香りである。
「どうじゃ?」とメアが訊く。
「これは味噌汁の香りだな」
「味噌汁……?スープみたいな名前ですが……」
ノエルは首を傾げながら言う。
それにタクマは「スープで間違いない」と答えた。
すると、今度はおじさんの声で「ミソ・シール!ミソ・シールはいかが〜?」と聞こえてきた。
味噌汁と発音が全然違う、嫌いと言うわけではないが何だミソ・シールとは!
地味に違うのが余計に気になる。
「まぁ面白いものがあるんだ、これに……ってメア?ノエル?」
タクマは後ろを振り向いて言うが、既にメアとノエルの姿はなく、代わりに二人を象った点線が置いてある。
これは見てすぐに分かる。アイツらが勝手に行きやがったのだ。タクマは急いで二人を追った。
「おうタクマ、やっと来たか」
「早くしないと、ミソ・シールなくなっちゃうみたいですよ」
二人は何食わぬ顔で味噌汁を飲んでいた。
それも、美味しそうにゴクゴクと。
「みそしるだから。てかお代はどうしたんだ?」
「タダで貰えました。お昼代が浮いて良かったですね〜」
ノエルはメアと一緒に「「ね〜」」と、声を揃えて言った。知らぬ間に仲良くなっている。
タクマはそれにホッとした後、その味噌汁を配っているおじさんの所へ向かった。
「ラッキーだねぇ坊主!コイツが今年最後のミソ・シールだ!持ってきな!」
顔を合わせてすぐ、おじさんは味噌汁の入った容器を渡した。
タクマはあまりの速さに驚きつつも、それを受け取り戻ろうとする。
すると、そのおじさんは「待て、坊主」とタクマを呼び止めた。
やっぱり金払わないと駄目か、そう思いつつ戻ると、おじさんはタクマの耳に顔を近づけ、小さな声で
「坊主、アンタがタクマだな?」
と訊いてきた。
タクマは、初対面であるにも関わらず名前を言われた事に驚き、「は、はい……」と答えた。
すると、「そうか」と言った後に、おじさんは手紙のような一通の黒い封筒をタクマに手渡した。
見るからに不気味な手紙、見てるだけでも背筋が凍る。何故黒なんだ、趣味の悪い。
そう思いながら、タクマは「な、何ですかこれ……」と、おじさんに訊いた。
「早朝に来た黒フードの兄ちゃんが『白コートで黒髪の“タクマ”って奴にコイツを渡せ』って、俺のとこにコイツ置いて帰ってったんだ。まぁ変な奴だったが、折角の手紙だし、読んでやってくれ」
「は、はい……ありがとうございます」
タクマは礼を言い、メア達の元へ戻った。
「何の話じゃ?あのおっさんと何か話をしておったが」
「さぁ、この不気味な手紙渡されただけだ」
タクマは貰った手紙をテーブルに置き、味噌汁を口に入れた。
すると、口の中に高級味噌のような塩の味が広がった。
濃い訳ではなく、かと言って薄くもない最高の味。剣崎の定食に付いてくる味噌汁とよく似たもの、タクマは久しく味わった味噌の味に涙を流した。
「タクマさん?確かに美味しいですけど、泣くほどですか……?」
「俺からしたら、それくらい美味ぇよ」
「まぁそれはそれとして、この手紙には何が書かれておるのじゃ?」
メアは懐かしい味に涙を流すタクマを無視し、勝手に気味の悪い封筒を開け、手紙を一人で読んだ。
そして、一通り目を通した後、メアは「何じゃと……」と目を丸くしながらその手紙を落とした。
「どうしたと……!?」
ノエルはメアを心配し、落とした手紙に目を通した。そしてその内容に驚いたノエルは、タクマに手紙を見せた。
『俺は今朝の重力を帯びた地震、ウォルのゴーレムについて知っている者だ。話が聞きたくば、アルゴのギルド裏に来い。話はそこでする』
手紙にはそう書かれていた。差出人は不明、まさに最初から最後まで、気味の悪い手紙だ。
「どうするのじゃタクマ?ゴーレムについて知っておるとは言え、何処からどう見ても怪しいぞ」
「そうですよ、もしかしたらゴーレム事件の黒幕が、追ってるタクマさんを殺す為に張った罠に違いありません!」
タクマは二人の言葉を聞き、どうするか考えつつ、味噌汁を飲んだ。
そしてタクマは、無くなっていた筈のお金が、猫の背に括り付けられて帰ってきた事、そして黒いフードの男の事を思い出した。
「いや、もしかしたらウォルの猫と同じ人かもしれない。二人に巻き添えを食らわせない為にも、俺が一人で行く」
タクマは覚悟を決めた目で、二人にそう言った。
しかし、そう言った後にノエルがタクマの手を握る。
「どうした?」とタクマが訊くと、ノエルは首を横に振った。
「タクマさんについて行くと決めた以上、タクマさんを一人で行かせる訳には行きません」
「自己犠牲も良いが、父上が認めたのじゃ。主に死なれたら父上に合わせる顔がない」
それを聴いて、タクマは少し間を置いた後「分かった。その代わり、何かあった時は俺の背中を頼む」と二人に言い、景気付けに味噌汁を飲み干し、ギルド裏へ向かった。
【ギルド裏】
「ここだよな、手紙の場所って……」
「そのはずですが……」
タクマ達はギルド裏に行き、その手紙の主を探した。
しかし、黒い封筒を差し出すような、暗い感じの人物は居ない。するとその時、どこからともなく低い鼻歌が聞こえてきた。
「何奴!?」
メアの声と共に後ろを振り返ると、ゴーレムと戦った時に現れた剣士がそこに立っていた。
真昼間だと言うのに、フードの中は夜の暗闇のように真っ暗で、その男の顔は見えない。見えるのはその中から出ている長い髪だけだった。
それに、さっきから背筋を凍らせるような、恐ろしい風を感じる。幽霊が取り憑いているような感じに似ているが、どこか違う。
「約束通り来てくれたか、タクマ」
「あ、アンタか?この気味悪い手紙送ったのは」
タクマはその男の恐ろしさに耐えながら、手紙について訊く。
すると、その男は笑い出した。
笑い声は不気味ではあるものの、Zのような狡猾で独特な笑い方とは違う。
タクマはそれについて、ひとまず安心した。
するとその問いに対し、男は「いかにも」と答える。
「俺がお前宛に手紙を送った、オニキス・キング。最強狩りの死神だ」
名乗ったオニキスは、纏っていた黒いフードを取り、その素顔をタクマ達に見せた。
背丈は高く、190くらいはあり、髪型は長髪で片目の隠れた黒、そして常にしかめっ面をしているような目。
おまけに顔立ちも良く、長い髪型を活かせばノエルといい勝負をするくらいだろうか……
いやまさか、そんなことをするようには思えない。
そして、ノエルはその名を聞いて、鞄からウォルで手に入れたお尋ね者の紙を出して見比べた。
「他にも居たか。お前らはそうだな、狸娘と猫娘って所だな」
「ね、ネコ……?」
「タヌキ……!?」
動物に例えられた二人は、いきなりの発言に驚いた。するとその瞬間、ノエルの目元が真っ黒な影に覆われた。
マズイ、これは非常にマズイ。メアに関しては猫と例えられた事で何か喜んでるけど、ノエルは危ない。
奴が暴れたら、間違いなく大変な事になる。
「な、何をするつもりだ!」
タクマは、動物で例えられた二人を庇うようにして立つ。
しかし、ノエルはそんな事を気にせず、タクマを押し除け、オニキスの方へ走っていってしまった。
「あの……」
「なんだ、お前」
ヤバイヤバイヤバイ、これは狙われちゃったに違いない!
タクマは急いでノエルの元へ向かった。
だが間に合わない。このままでは……
そう思っていると、ノエルは小さな声で「……ください」と言った。
「サインください……」
「あ?」
「サインくださいっ!!」
そういえばそうだった、ノエルはオニキスをダークヒーローとして憧れを持っていた存在。
その事を思い出した瞬間、メアとタクマはずっこけた。
「それくらいなら良いが、どこに書いて欲しいんだ?猫娘」
「それならぁ〜、私のこの鞄に書いてください〜」
しかもオニキスまで乗り気!ノエルも何か色っぽい声出してるし……
しかしメアの方はと言うと、自分が猫ではなくタヌキである事に驚いて、固まっていた。
そして、3、2、1。とどこからかカウントダウンが聞こえ、0になった瞬間、メアは「うがー!」と大声を上げ怒り出してしまった。
「何故妾がタヌキなのじゃ!?どこからどう見てもそんな感じじゃないじゃろ〜!!」
「メア!落ち着いて!タヌキでもい──」
「うっさいうっさい!」
「ハスカップ!」
タクマは殴られた。
「そう言われても、この小娘は猫っぽく見えた。んでお前はタヌキっぽく見えたんだ、仕方ない」
「まぁまぁメアさん、タヌキだって可愛いんだし良いじゃないですか」
サインを貰って上機嫌なノエルは、メアの背中を摩って慰める。
メアは、ノエルに「可愛い」と言われた事で満足したのか、笑顔が戻った。しかし、オニキスにだけは睨み付ける。
良かった良かった、とタクマが思っていた時、オニキスは剣を引き抜いて地面に叩きつけた。
「と言うか俺は、こんなしょうもない茶番をする為にお前らを呼んだんじゃねぇ!単刀直入に言うと、ゴーレム事件や今朝の地震の元締はDr.Zって言うイカレ野郎だ」
「Dr.Z……!?何故その名を……」
「それは言えない。だが、奴は地震が起きた後『明日の夜、紅月が出た時にショーを初めまス』と言っていたぜ」
それを聴き、タクマは目を丸くした。
明日、レベルアップしていないと言う訳ではないが幾ら何でも早すぎる。
休む暇がない。どうしたら良いのだろうか……
タクマはそれを訊くためにオニキスの方を向いたが、彼は「これから先はお前らと敵同士になる、強くなる答えくらいは聴いて探せ」と言い残し、影のように消えていった。
「それにしても明日の夜、今日中に強くならないと」
「のんびりしてられないですね」
タクマとノエルは、空気の晴れた裏路地の中、決意した。ただ一人、メアだけを除いて……
「うがー!逃げるなー!」
「さて、今日は本格的にやった訳だし、本日の修行はまずここまでだ!」
「僕たちは一旦部下たちに挨拶してくるから、先に食事でも済ませておいで」
ロード兄弟はそう言い残し、アルゴ城へと向かって行く。
「じゃあ俺達も飯食いに行くか」と、タクマは一声掛けて歩きだした。
それにしても、メアの幽霊屋敷探索だとか、ティグノウス騒動だとかであんまり見ることができなかったけど、よく見てみると本当に迷ってしまいそうなくらい色んな建物がある。
見慣れた宿屋やカード工房、ギルドにケンさんの装備屋。
その他にも市街地やフリーマーケットをやっていたバザールなど、日本では絶対に見ることのできない物ばかり。タクマは改めて感動した。
「やっぱり、アルゴもアルゴで、ウチと違って良いですね〜」
「そうじゃろう、そうじゃろう。とはいえ妾も、引きこもってばかりじゃったから、実質何も知らぬのじゃがな」
「まぁどっちにしろ、暫く帰らないかもしれないんだ。存分に見て休むとしよう」
そうして、タクマ達はまだ見ぬ東の居住区へと足を運ぶ事にした。
【アルゴ国 東の居住区】
そこは中心地と比べるとそこまで派手と言うわけではないが、まるでスペインなどのヨーロッパの国に来たかのような景色が広がっており、皆仲良さそうに世間話などをしている。
まさにこの国こそ「平和の国」と言うに相応しいだろう。
すると辺りから、これまたいい香りがしてきた。
「なんですかね、初めてなのに懐かしい匂いがします」
「デジャヴかの?タクマなら何か知っておるじゃろ?」
そう言われ、タクマももう一度嗅ぐ。
すると、何だか味噌汁のような香りがしてきた。
剣崎でよく飲んでいた定食の味噌汁のような香りである。
「どうじゃ?」とメアが訊く。
「これは味噌汁の香りだな」
「味噌汁……?スープみたいな名前ですが……」
ノエルは首を傾げながら言う。
それにタクマは「スープで間違いない」と答えた。
すると、今度はおじさんの声で「ミソ・シール!ミソ・シールはいかが〜?」と聞こえてきた。
味噌汁と発音が全然違う、嫌いと言うわけではないが何だミソ・シールとは!
地味に違うのが余計に気になる。
「まぁ面白いものがあるんだ、これに……ってメア?ノエル?」
タクマは後ろを振り向いて言うが、既にメアとノエルの姿はなく、代わりに二人を象った点線が置いてある。
これは見てすぐに分かる。アイツらが勝手に行きやがったのだ。タクマは急いで二人を追った。
「おうタクマ、やっと来たか」
「早くしないと、ミソ・シールなくなっちゃうみたいですよ」
二人は何食わぬ顔で味噌汁を飲んでいた。
それも、美味しそうにゴクゴクと。
「みそしるだから。てかお代はどうしたんだ?」
「タダで貰えました。お昼代が浮いて良かったですね〜」
ノエルはメアと一緒に「「ね〜」」と、声を揃えて言った。知らぬ間に仲良くなっている。
タクマはそれにホッとした後、その味噌汁を配っているおじさんの所へ向かった。
「ラッキーだねぇ坊主!コイツが今年最後のミソ・シールだ!持ってきな!」
顔を合わせてすぐ、おじさんは味噌汁の入った容器を渡した。
タクマはあまりの速さに驚きつつも、それを受け取り戻ろうとする。
すると、そのおじさんは「待て、坊主」とタクマを呼び止めた。
やっぱり金払わないと駄目か、そう思いつつ戻ると、おじさんはタクマの耳に顔を近づけ、小さな声で
「坊主、アンタがタクマだな?」
と訊いてきた。
タクマは、初対面であるにも関わらず名前を言われた事に驚き、「は、はい……」と答えた。
すると、「そうか」と言った後に、おじさんは手紙のような一通の黒い封筒をタクマに手渡した。
見るからに不気味な手紙、見てるだけでも背筋が凍る。何故黒なんだ、趣味の悪い。
そう思いながら、タクマは「な、何ですかこれ……」と、おじさんに訊いた。
「早朝に来た黒フードの兄ちゃんが『白コートで黒髪の“タクマ”って奴にコイツを渡せ』って、俺のとこにコイツ置いて帰ってったんだ。まぁ変な奴だったが、折角の手紙だし、読んでやってくれ」
「は、はい……ありがとうございます」
タクマは礼を言い、メア達の元へ戻った。
「何の話じゃ?あのおっさんと何か話をしておったが」
「さぁ、この不気味な手紙渡されただけだ」
タクマは貰った手紙をテーブルに置き、味噌汁を口に入れた。
すると、口の中に高級味噌のような塩の味が広がった。
濃い訳ではなく、かと言って薄くもない最高の味。剣崎の定食に付いてくる味噌汁とよく似たもの、タクマは久しく味わった味噌の味に涙を流した。
「タクマさん?確かに美味しいですけど、泣くほどですか……?」
「俺からしたら、それくらい美味ぇよ」
「まぁそれはそれとして、この手紙には何が書かれておるのじゃ?」
メアは懐かしい味に涙を流すタクマを無視し、勝手に気味の悪い封筒を開け、手紙を一人で読んだ。
そして、一通り目を通した後、メアは「何じゃと……」と目を丸くしながらその手紙を落とした。
「どうしたと……!?」
ノエルはメアを心配し、落とした手紙に目を通した。そしてその内容に驚いたノエルは、タクマに手紙を見せた。
『俺は今朝の重力を帯びた地震、ウォルのゴーレムについて知っている者だ。話が聞きたくば、アルゴのギルド裏に来い。話はそこでする』
手紙にはそう書かれていた。差出人は不明、まさに最初から最後まで、気味の悪い手紙だ。
「どうするのじゃタクマ?ゴーレムについて知っておるとは言え、何処からどう見ても怪しいぞ」
「そうですよ、もしかしたらゴーレム事件の黒幕が、追ってるタクマさんを殺す為に張った罠に違いありません!」
タクマは二人の言葉を聞き、どうするか考えつつ、味噌汁を飲んだ。
そしてタクマは、無くなっていた筈のお金が、猫の背に括り付けられて帰ってきた事、そして黒いフードの男の事を思い出した。
「いや、もしかしたらウォルの猫と同じ人かもしれない。二人に巻き添えを食らわせない為にも、俺が一人で行く」
タクマは覚悟を決めた目で、二人にそう言った。
しかし、そう言った後にノエルがタクマの手を握る。
「どうした?」とタクマが訊くと、ノエルは首を横に振った。
「タクマさんについて行くと決めた以上、タクマさんを一人で行かせる訳には行きません」
「自己犠牲も良いが、父上が認めたのじゃ。主に死なれたら父上に合わせる顔がない」
それを聴いて、タクマは少し間を置いた後「分かった。その代わり、何かあった時は俺の背中を頼む」と二人に言い、景気付けに味噌汁を飲み干し、ギルド裏へ向かった。
【ギルド裏】
「ここだよな、手紙の場所って……」
「そのはずですが……」
タクマ達はギルド裏に行き、その手紙の主を探した。
しかし、黒い封筒を差し出すような、暗い感じの人物は居ない。するとその時、どこからともなく低い鼻歌が聞こえてきた。
「何奴!?」
メアの声と共に後ろを振り返ると、ゴーレムと戦った時に現れた剣士がそこに立っていた。
真昼間だと言うのに、フードの中は夜の暗闇のように真っ暗で、その男の顔は見えない。見えるのはその中から出ている長い髪だけだった。
それに、さっきから背筋を凍らせるような、恐ろしい風を感じる。幽霊が取り憑いているような感じに似ているが、どこか違う。
「約束通り来てくれたか、タクマ」
「あ、アンタか?この気味悪い手紙送ったのは」
タクマはその男の恐ろしさに耐えながら、手紙について訊く。
すると、その男は笑い出した。
笑い声は不気味ではあるものの、Zのような狡猾で独特な笑い方とは違う。
タクマはそれについて、ひとまず安心した。
するとその問いに対し、男は「いかにも」と答える。
「俺がお前宛に手紙を送った、オニキス・キング。最強狩りの死神だ」
名乗ったオニキスは、纏っていた黒いフードを取り、その素顔をタクマ達に見せた。
背丈は高く、190くらいはあり、髪型は長髪で片目の隠れた黒、そして常にしかめっ面をしているような目。
おまけに顔立ちも良く、長い髪型を活かせばノエルといい勝負をするくらいだろうか……
いやまさか、そんなことをするようには思えない。
そして、ノエルはその名を聞いて、鞄からウォルで手に入れたお尋ね者の紙を出して見比べた。
「他にも居たか。お前らはそうだな、狸娘と猫娘って所だな」
「ね、ネコ……?」
「タヌキ……!?」
動物に例えられた二人は、いきなりの発言に驚いた。するとその瞬間、ノエルの目元が真っ黒な影に覆われた。
マズイ、これは非常にマズイ。メアに関しては猫と例えられた事で何か喜んでるけど、ノエルは危ない。
奴が暴れたら、間違いなく大変な事になる。
「な、何をするつもりだ!」
タクマは、動物で例えられた二人を庇うようにして立つ。
しかし、ノエルはそんな事を気にせず、タクマを押し除け、オニキスの方へ走っていってしまった。
「あの……」
「なんだ、お前」
ヤバイヤバイヤバイ、これは狙われちゃったに違いない!
タクマは急いでノエルの元へ向かった。
だが間に合わない。このままでは……
そう思っていると、ノエルは小さな声で「……ください」と言った。
「サインください……」
「あ?」
「サインくださいっ!!」
そういえばそうだった、ノエルはオニキスをダークヒーローとして憧れを持っていた存在。
その事を思い出した瞬間、メアとタクマはずっこけた。
「それくらいなら良いが、どこに書いて欲しいんだ?猫娘」
「それならぁ〜、私のこの鞄に書いてください〜」
しかもオニキスまで乗り気!ノエルも何か色っぽい声出してるし……
しかしメアの方はと言うと、自分が猫ではなくタヌキである事に驚いて、固まっていた。
そして、3、2、1。とどこからかカウントダウンが聞こえ、0になった瞬間、メアは「うがー!」と大声を上げ怒り出してしまった。
「何故妾がタヌキなのじゃ!?どこからどう見てもそんな感じじゃないじゃろ〜!!」
「メア!落ち着いて!タヌキでもい──」
「うっさいうっさい!」
「ハスカップ!」
タクマは殴られた。
「そう言われても、この小娘は猫っぽく見えた。んでお前はタヌキっぽく見えたんだ、仕方ない」
「まぁまぁメアさん、タヌキだって可愛いんだし良いじゃないですか」
サインを貰って上機嫌なノエルは、メアの背中を摩って慰める。
メアは、ノエルに「可愛い」と言われた事で満足したのか、笑顔が戻った。しかし、オニキスにだけは睨み付ける。
良かった良かった、とタクマが思っていた時、オニキスは剣を引き抜いて地面に叩きつけた。
「と言うか俺は、こんなしょうもない茶番をする為にお前らを呼んだんじゃねぇ!単刀直入に言うと、ゴーレム事件や今朝の地震の元締はDr.Zって言うイカレ野郎だ」
「Dr.Z……!?何故その名を……」
「それは言えない。だが、奴は地震が起きた後『明日の夜、紅月が出た時にショーを初めまス』と言っていたぜ」
それを聴き、タクマは目を丸くした。
明日、レベルアップしていないと言う訳ではないが幾ら何でも早すぎる。
休む暇がない。どうしたら良いのだろうか……
タクマはそれを訊くためにオニキスの方を向いたが、彼は「これから先はお前らと敵同士になる、強くなる答えくらいは聴いて探せ」と言い残し、影のように消えていった。
「それにしても明日の夜、今日中に強くならないと」
「のんびりしてられないですね」
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「うがー!逃げるなー!」
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