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コピー使いの異世界探検記

鍵宮ファング

第21話 王の霊と無慈悲的黒のヒーロー……?

【アルゴ国】
「君が来ると信じていたよ、タクマ君」

 アルゴ国入り口前で待っていたアルゴ王は、ワープで戻ってきたタクマの方へ近付き、手を差し出す。
 タクマはその手を握り返し、挨拶代わりの握手を交わした。

「それはそうと、後ろの少年は新たな仲間かな?」
「私はノエル・ショコラ……って、どうして私が男の娘だって!?」

 ノエルは間を置いた後、秒で見破られた事に驚いた。
 すると王は、笑いながらノエルにも手を差し出した。

「冗談で言ったのに、まさか当たっているとはね。やっぱりタクマ君は魔法だけでなく、パーティも面白いのだね」

 ノエルは苦笑いしながらも、王と握手を交わす。
 そうして、王は「ふぅ」と一息ついてから、停まっている高級そうな大きい馬車へ乗るよう促した。

「ヴァルガンナ事件やそれと関係する話は馬車の中で話す、ノエル君も乗りたまえ」

 そうして、タクマ達は言われた通り馬車へと乗り込んだ。

【馬車の中】
 内装は赤い布を使われたソファのような座席、全体的に白い壁、金メッキのラインと、いつもクエスト用に使っている馬車とは全然違う。
 乗った事はないが、まるで短いリムジンに乗っているような感覚だ。

「それじゃあ、ヴァルガンナについて君達に話すよ」
「一体、そのヴァルガンナで何があったんですか?」

 タクマは、深刻そうな顔をする王に訊いた。
 すると王は、腹を括ったのか、ゆっくりと話し始めた。

「手紙にも記した通り、ヴァルガンナが滅ぼされた。そこでだ、その犯人の証拠となるものがついさっき届いたのだよ」
「のぅパパ、その話は何処から聞いたのじゃ?」

 メアは訊く。

「あの惨状の中、生き残った奴隷が教えてくれた。とにかく、この絵を見て欲しい」

 そう言いながら、王は一つの絵をタクマ達に出して見せた。
 その絵には、黒い鎧を纏った男が描かれており、その四肢とその男の足元に一つづつメモ書きが記されていた。
 右腕には「同時使用する事が出来ない筈の炎魔法と大地魔法、しかも最上級の物を同時に発動させる右腕」
 左腕には「触れた物全てを塵にする破壊の左腕(人間には効かない)」
 右脚には「どう言う原理かは分からないが、風の大砲を持つ右脚」
 左脚には「空中浮遊、超脚力の左脚。蹴られた者は目に見えぬ速さで吹き飛んで行った」
 そして、足元には
 ・速さは、まるで伝説の技 ワープの派生技であるテレポートを利用しているかのように速い。
 ・理由は分からないが、誰彼構わず殺していた訳ではない。
 ……と書かれていた。

「それで、その聞き込みをした奴隷って言うのは、誰なんですか?王様」
「ヴァルガンナで強制労働させられていた青年だよ。今は国王会談で、新たに建国されたハクラジュでとりあえずではあるが引き取ってもらい、今は平和に暮らしているそうだ」

 その事を聞いている時、タクマはふと2人に目を向ける。
 すると、ノエルはその絵の横に家から持ってきたオニキスの手配書を並べてうーんと唸っていた。

「それは、最強狩りの死神と名乗るオニキスではないか」
「顔は隠れているから定かではありませんが、もしかしたらって」

 すると、それを見ていたアルゴ王もうーんと唸り出した。
 確かに、そんなにオニキスを知っている訳ではないが「最強」を名乗る者を倒す理由が分からない事や、正体不明と言う点から、何か嫌な予感がする。

「それも全て、メアの力で、殺された王の霊から聞くのが確かだ」
「じゃな。話を聞くなら実際に見ただろう人に訊く方が良いからな」

 そう話していると、突然馬車が止まった。

「着いたようだな」

【ヴァルガンナ 跡地】
 タクマ達が降りた先に広がっていた光景は、無惨なものだった。
 立派だった教会の十字架は半分崩れ落ち、民家や店は、屋根などが根こそぎ焼き払われていた。
 更に、城だと思われるものなどは、まるで戦争で全てを根こそぎ消されたような程、滅茶苦茶にされていた。
 しかも、辺りから木の焦げた臭いが漂う。

「こんなのを……一人で全部やったと言うのか……?」
「これは酷い、そこら辺に国民の霊が沢山おる……」

 メアのその言葉を聞いて、ノエルは背筋を凍らせてタクマの腕にしがみつく。
 そしてよく見ると、足が凄くガクガクしているのが見えた。

「ノエルにはハゲオッさんの霊が抱きついておるな」

 メアがノエルの後ろを指した瞬間、ノエルは凄い悲鳴を上げ、何故かタクマの足を持ってハンマー投げのように振り回した。
 そして、それを見ていた王は少々ドン引きする。

「ただの冗談じゃよ」
「からかわないでくださいよ!もう!」

 ノエルは、持っているタクマの事を忘れて肩を落とした。
 そして、案の定タクマの「グエッ!」と言う断末魔に気付き、ノエルはハッ!と我に帰る。

「ご、ごめんなさい!」
「いいんだ……俺は大丈

 フラついたタクマの前に、大きな「しばらくお待ちください」の札が現れ、タクマの身に起きた事を隠す。
 ここで何が起こったから読者の想像にお任せする。


 さて話を戻して、タクマ達は例の文字があると言うヴァルガンナ城の玉座の間へ向かった。
 道中の亡骸などは、タクマ達には刺激が強いとして、兵士達が全て責任を持って全て埋葬していたらしい。その証拠に、酷いモノは一つも無かった。

「嘘だろ、何でこの世界に……」

 タクマは玉座の間の壁を見て驚いた。
 何故ならそこの壁には、デカデカと血で書かれた「救」の字があったからである。

「タクマさん、この文字の意味って何ですか……?」

 ノエルはそのデルガンダルでは見ない漢字を見ながら訊く。

「きゅう、すくう。他にも言い方はあるが、少なくともこれは、デルガンダルの民じゃない奴の仕業だな」

 そう二人で話していると、メアが辺りを見渡しながら「むむむ……」と何かを念じた。

「むむむ、この辺りから何か感じるぞ……」

 そう言った後、メアはあの時二人の霊を見せた歌を歌い始めた。
 いつ聞いても素晴らしい美声だが、やはり何語の歌なのか全然分からない。

「メアさん、歌もお上手なんですね~」

 ノエルはその美声に聴き入り、まるでさっきまでタクマを振り回していたとは思えない顔でそうコメントする。
 すると、玉座の間の辺りにゲームに出てくるような、いかにも悪そうな王が現れた。

『お主ら、私が見えるのかね?』
「ぎゃぁぁぁ!!出たぁぁぁ!!」

 ノエルは急に現れた霊に驚き、近くにあった石を弾丸のようなスピードで投げまくる。

「よせノエル、そんな事しても効かない。そんな事よりおじさん、ヴァルガンナで何が起こったんだよ」
『無礼者!呆気なく殺されたとはいえ、私はこれでも王だぞ』

 ヴァルガンナ王は少しキレていたが、その後に一息ついてタクマ達に深い礼をした。

『ええい!この際、無礼者だろうが何だろうが、事の顛末を語れる者ならば誰でも良い!ついて来たまえ』
「ついて来るって、どうするんです?」
「そうじゃ。こんな酷い世界に変えられたのじゃ。今更どうやって……」


 するとヴァルガンナ王は、ため息を吐きつつ、玉座の前に大きなゲートを出現させた。
 その先には、廃れた国が嘘のような綺麗な世界が広がっていた。

『これは私の記憶へと続く道、我が国がこんな姿になる前の世界だ。入るが良い』

 タクマ達は、王に言われた通りに入ろうとした時だった。
 バチッ!と電流が流れるような大きな音が鳴り、後ろにいたメアとノエルが跳ね返される。

『言い忘れておった、定員は私を除いて一人だけだ。最後の魔力ではこれが限界だからな』
「それを早く言ってください!」

 ノエルはキレた。そして、1人しか入れないと言う事を訊いたタクマは、二人の方を向く。本当に俺でいいのか、そう目で訴えて。
 すると、その心の問いを読み取ったのかメア達は黙って頷いた。

『では、ゲートを閉じるぞ』

 ヴァルガンナ王はそう言って、記憶の中のヴァルガンナへと続くゲートを閉じた。


【記憶の中のヴァルガンナ】
 そこはタクマ達が着いてすぐに見た光景とは程遠く、綺麗で栄えた街の景色が広がっていた。
 ただ、アルゴと違うところがあると言えば、馬車の荷台に乗った、首輪や手錠を付けた子供達や、重労働をしている大人が居る事くらい。

「あの子供達の乗った馬車って……」
『我が国で取り寄せている奴隷商人だ、ヴァルガンナの民は基本位が上のため、大体の仕事は奴隷に任せているんだよ』

 その王が放った言葉を聞き、タクマは目を鋭くさせてヴァルガンナ王に顔を向ける。
 だが、振り返ると王は、まるでさっきの発言を反省するかのような悲しい顔で、小さく頷いた。

『すまない。そんな事を考えていたから私達には天罰が下ったんだよ』
「天罰……?」

 タクマが王の言っていた事を訊こうとした時、どこからともなく声がしてきた。

『ヴァルガンナの民よ、貴様らは大罪を犯した!』

 すんなり話しているが、機械の合成音声のような声が聞こえてくる。
 すると、その声の主を見つけた人々が、中央にそびえ立つ時計塔を指差して口々に何かを言っていた。

「何だアイツ」
「偉そうな口聞いてんじゃねぇぞ!」
「危ないから降りてきなさい!」

 しかし、黒い鎧の男は飛び降りることもなく、騒ぐ人々を笑っていた。

『これよりこの私、アナザーが貴様らに天罰を下す!』

 タクマもその人々が集まる時計塔を見上げる。すると、その時計塔の上には、全身真っ黒のパワードスーツを着た人型の何か、アナザーが立っていた。
 すると、そのアナザーと名乗った者は、馬車で王が見せた通り、右腕から魔法を唱えずに大地魔法と炎魔法を利用した大規模な粉塵爆発を起こし、周りの人々を消し去った。
 すると、その爆発する音を聞きつけ、数名の冒険家達が、粉々になった時計塔跡に集まった。

『部外者よ、そのおもちゃで私と戦うつもりか?』

 アナザーの挑発に乗り、剣使いの冒険家は飛びかかる。
 しかしアナザーは、当たり前のように空中を浮遊し、しかも目に見えぬ速さで攻撃を避けた。
 そして、時間差で周りの冒険家が一斉に倒れると同時に、その持っていた武器が塵になる。

「ちょこまかちょこまかと……そこだっ!」

 見切った剣士が剣を振る。
 だが、その剣は左手で受け止められ、剣は噂通り塵になってしまった。

『私の神速を見切ったか。素晴らしい、褒美を受け取れ!』

 そう言ってアナザーは、右手で冒険家を掴み、左脚で横蹴りを入れた。
 その男は、まるでワープしたかのように、距離のある街の城壁に吹き飛ばされる。

「俺も加勢するしか……」

 タクマはそう呟き、剣を抜いてアナザーの方へと走った。
 しかし、アナザーを斬っているつもりが、斬った感触がない。それに、そもそもタクマの事が眼中にないように見える。

『これはが見た記憶の世界。君が戦っても意味はない』

 無駄な行いをするタクマに、王は言う。
 そんな事を話しているうちに、アナザーは右脚の気砲や大地魔法で建造物を破壊し、辺りには気絶した他国の冒険家と奴隷達、そして崩壊した建造物だけが残った。

『そしてここで虐殺を行った後、奴は最後、私の城へと攻め込んだ』

 王は記憶の座標を動かしたのか、いつの間にかヴァルガンナ城に飛ぶ。
 周りの兵士達はアナザーにやられたのか、皆無残な死を遂げており、玉座の間以外は良い子には見せられないほど赤く染まっていた。

「うっぷ」

 タクマが不覚にもそれを見て吐きそうになっていた時、生前の方のヴァルガンナ王が、アナザーに追い詰められていた。

「わ、我々が何をしたと言うのだ……」
『それくらい自分の胸に聞くが良いわ!』

 アナザーはそう王に怒鳴り、玉座の間の壁に押しつけ、黒い鉄の槍を突き刺した。

『そうしてこの後、ここの血を集めて奴は隣にアレを書いたと言う感じだ』
「あの、アナザーって奴の目的って……」

 タクマが王にその話を訊こうとした時、王の体がより一層透けている事に気付いた。

『ここまでか。ならば最後に私が感じた事だけを伝える』
「な、なんです?」
『奴の目的はきっと……』

 しかし、王の最後の言葉を言わせる暇も与えず、その霊体は消えてしまった。
 更に、辺りがグラグラと揺れ始め、タクマはゲームのバグのように硬いはずの地面へと吸い込まれてしまった。

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