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冷寧である俺は戦争に行かないし、救護手当てもしない。~完結済み~

青篝

勘づいた俺は

「「「え?」」」

当然のことながら、
昴達は呆気にとられていた。
あれだけの歌を歌っておいて、
それを何の躊躇もなく
消してしまうなんて。

「あの~星奈、さん?
何故に消してしまわれたのですか?」

あまりの驚愕のせいで
言語能力がおかしくなっている南関は、
恐れ多くも東真にその真意を問う。

「ん~?」

その東真はというと、
涼しい顔で伸びをしていた。

「だってイマイチだったんだもん」

東真の答えは
内容こそ曖昧ではあるが、
はっきりとした言い方であった。
イマイチ。
特に明確な理由はないが、
気持ちや気分の問題で
気に入らなかった場合等に
よく使われている用語で、
今の東真はまさにそれだった。

「イマイチって…
俺はさっきの歌、好きだったのに…」

「へ?」

昴が先程の東真の歌を
惜しむように呟くと、
それに反応してか、
東真の間の抜けた返事が聞こえた。

「そんなこと言われても…
もう消しちゃったし…
そういうことはもっと早く…」

頬を紅潮させ、
顔全体を手で覆い隠した東真は、
昴に背を向けて
ごにょごにょ言い始める。
昴は頭に『?』マークを浮かべて
何だと首を傾げているが、
その様子を見た西難と南関は
やれやれと肩をすくめた。

「星奈、早く取り直さないと
遊ぶ時間なくなっちゃうよ?」

「愛花の言う通りだ。
取り直しをするなら早くしないと。
はっきり言って、俺達には
星奈の歌の善し悪しは分からないから、
そこは星奈に任せるし、
俺達は星奈に付き合う義務がある。
だから、さ。星奈が納得するまで、
思う存分歌ってくれよ」

西難が現実に戻し、
南関が力説するという、
見事なまでの連携プレーは、
東真の心を動かすには十分だった。
東真は火照った顔を
両手でペチペチと叩き、
歌う際に見せた
真剣の面持ちを再び宿す。

「うん。大丈夫。
それじゃあ行ってくるね」

東真がモニター室から出る際、
それぞれの言い方で
頑張って、と口にする。
それに応えるように
東真はグーサインを見せ、
モニター室のモニターに姿を映す。
それから東真が納得する
歌を歌えたのは、
ここに来てから約3時間後。
お昼を迎えた頃だった。



「そういえばさ、星奈が歌うのに
何で私がイラスト書くの?
ボカロとは違うし、
人が歌ってるんだから
映像とかそのまま使えばよくない?」

スタジオでの目的を終えた昴達は、
近くのファミレスに来ていた。
西難は、ハンバーグにフォークを
突き刺したまま、
思い出したかのように言った。

「お前な、話聞いてたのか?
東真も俺達と同じで、
顔出しは極力避けてるんだ。
YouTubeの動画だって
東真本人の顔は一切出してない。
その為のイラストだって
ちゃんと伝えたはずだが?」

ため息混じりに、
昴は西難にちゃんと教えてやる。
西難の疑問は昴も思ったことで、
昴の家で説明を受けた時、
東真に聞いておいてあった。

「ふ~ん…。そうだっけ?
和斗、ご飯おかわり」

「愛花、もう四杯目だぞ?」

「いいのいいの。
私、太っても可愛いから」

西難は三度目のご飯を平らげ、
お椀を南関に差し出す。
恐らく、昴の話の7割を聞いていない。
南関は何かをブツブツ言いながら
おかわり無料の
ご飯をよそいに行った。

「二人も、もっと食べなよ。
おかわり無料なんだよ?
もったいないよ?」

南関を待っている間、
これまた実質無料の水で
口を整えている西難が
昴と東真に話を振る。

「いや、もう十分食ったし、
西難が食い過ぎなだけだ」

相変わらず、
西難は人の話を聞かない。
自分から話を振っておきながら
メニュー表を見て
このパフェ美味しそー、と
目をキラキラさせていた。

「ほらよ。行ってやったぜ。
今度こそこれが最後だからな」

「分かってる分かってる」

本当によく食うやつだなと、
昴はそう思わざるを得ない。
西難が食べているのは、
既に四杯目のご飯。
これをよく食うやつと言わず、
何と呼べというのか。
そんな中、急にある考えが浮かぶ。
なぜ、無料のご飯と水しか
大量にとらないのか。
もちろん、無料であるが故に
たくさん食べないと
もったいない気がしないこともない。
しかし、普段昴の家で
ご飯を食べる時、
昴や葉月とそう変わらない量を
いつも食べていた。
それに今回は全て東真の
奢りということになっている。
遠慮を知らない西難のことだ。
食べたい物があれば
何の迷いも無く注文するはず。
――何か理由があるのだろうか。

「ふぅ!美味しかった。
星奈、ご馳走様でした」

昴が独り思考にふけっていると、
満足気な西難はもう
フォークとナイフを
鉄板の右手前に並べていた。

「ん?西難、パフェはいいのか?」

先程、メニュー表を見ながら
目を輝かせていた西難。
食べたい訳じゃないはずない。

「いいのいいの。
もうお腹いっぱいだから」

そう言って、西難は
細いお腹をさする。
確かにあれだけご飯を食べれば、
フードファイターでない限りは
相当にお腹に溜まるだろう。
だが、昴には引っかかる。

「西難、お前――」

「大丈夫!大丈夫だから!
ほら、早くしないと
日が暮れちゃうよ!」

昴の言葉を強引に遮り、
西難はイスから立ち上がった。
そのままの勢いで
昴達を立ち上がらせ、
会計の東真を残して
そそくさと店を出た。

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