冷寧である俺は戦争に行かないし、救護手当てもしない。~完結済み~

青篝

的である俺は

東雲からコラボの
話をされた後の数学の授業。
変な話の次は
面倒臭い数学か、
厳しい世の中である。
がしかし、昴の脳は
数学などそっちのけで
中学時代からの
仲間達との過去を
思い出さずにいられなかった。


──────────


あれは中学二年の9月のこと

国語の授業で、
『山月記』をやった時、
この後主人公は一体
どうなったと思いますか。
という内容があり、
担当教師は
『山月記』のその後を
予想して書いてみろと
生徒達に書かせた。
そして、生徒達の中から
特に良かった物を
生徒の前で読み上げた。
その紹介された物の中に
俺が書いた物があり、
一人の男子生徒が
それに心を撃たれた。

「赤岩先生が紹介した
二つ目のやつって桝北君が
書いたんだよね」

授業が終わり
休み時間になった途端に
そうやって俺に
話しかけてきた男子生徒は
朱空しゅそらがくといった。
朱空は赤みがかった髪を
目にかかるまで伸ばし、
その前髪越しに
淡い期待の眼差しを
俺に向けてきた。

「あぁ、そうだが。
それがどうかしたか?」

今まで全く人と
話してこなかった俺は
突然話しかけてきた
朱空に驚いた。

「すごいね!」

朱空が声を上げたのに
俺はもちろんのこと、
クラスのほとんどが
一斉にこちらを向いた。
それに構わず、朱空は続けた。

「なんていうか、すごい!
李徴りちょうが完全に虎になるまでの
心理的な描写もそうだし、
まさか最後に袁傪えんさん
トドメを指すなんて!
特に心話文と会話文を
リンクさせているところ!
思わず山月記の世界に
引き込まれそうだった!
とにかくすごすぎる!」

朱空は自分が感動した
事柄を並べて
一方的に俺を称えた。
俺はこんなにも人に
褒められたことが
経験として無いので
とても驚いたが、
朱空に驚いているのは
俺だけではなかった。

「朱空ってあんなだったか?」

周囲で囁かれたのが
俺には聞こえた。

「いや、違うだろ」
「少しでも自分への
イジメを軽くしようと
引き釣りこんでんだろ」

そういう風なことが
あちこちで囁かれているが、
実際俺もそう思っている。
朱空は理由は知らないが
クラスの男子数人から
イジメを受けていて、
それを毎日のように見ている。
だから、朱空がイジメの
標的を俺に向けようと
しているのかと思った。

「朱空、いい肌してるな。
あれは盗作だ。
ネットで俺が気に入ったのを
そのまま書いただけだ。
俺に何か求めてるなら、
それは無駄なだけだ」

だから俺は朱空を拒絶させる。
盗作した、なんて嘘だが、
俺への朱空の評価を
一気に下げるには、
作品自体が嘘だと
朱空を失望させるに限る。

「…え?」

そうだ。困惑しろ。
そして、失望しろ。
俺はお前みたいに
明るみの失敗はしない。

「話が終わったなら、
早く消えろ。読書の邪魔だ」

俺は机から一冊の
本を取り出し、
朱空に見せつける。
おまけに精一杯の
睨みの眼光を効かせて。

「…うん。ごめんね。
読書の邪魔して」

朱空は一度周囲を
チラりと見てから
ボソッと俺に謝罪して
逃げるように
教室から出ていった。


━━━━━━━━━━━━━━━
あとがき



どうも、夢八です。
読んで頂き、感謝します。



文中に登場した
『山月記』はですね。
中島敦さんっていう人の
デビュー作となった短編小説で、
一流の詩人を目指している
主人公の李徴りちょうが、
突然虎に変身してしまい、
自分の運命を友人の
袁傪えんさんに語るという変身譚です。

面白いので是非読んでね。

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