冷寧である俺は戦争に行かないし、救護手当てもしない。~完結済み~

青篝

持ち掛けられた俺は

「話ってなんだ」

値踏みをするように
パッチリ目を睨みつけ、
マスクの下を窺う。
普段とは一層低い声で
俺はその先を促した。
…普段からあまり
学校では話さないので
自分が学校でどんな
声だったのか
自分でも覚えていないが。

「…えっと……その…」

マスクの下で口を
もごもごさせて、
女は俺を苛立たせる。

「用件があるから
俺を呼んだんだろう?
さっさと教えてくれ」

言いながら俺は
弁当の包みを広げ、
蓋を開ける。
今日のおかずは
鶏の唐揚げに玉子焼き、
一口サイズのハンバーグ、
プチトマト、塩揉みキャベツ、
ほうれん草の和え物。
部活をしているので
たんぱく質多めだ。
それでも栄養バランスや
色合いを考えて
見た目にもこだわっている。

「…わぁ……美味しそう」

テーブルの向こうから
感嘆な声が聞こえてきた。
チラッと見ると、
パッチリとした目が
一層見開かれており、
星を放するが如く
とても輝いていた。

「感動してねぇで早く
用件を教えてくれよ。
一体何なんだ?」

人を呼びつけておいて
用件を言わないし、
挙句の果てには
人様の弁当に感動?
笑わせるな。
俺は貴様のような奴に
構ってやるほど、
優しさを持ってない。

「…っ…ごめん」

謝るくらいならさっさと
用を話せと思ったが、
女の次の言葉を聞いて
その気は失せてしまった。

「…あの、桝北さん…その…
私と、組んで、くれませんか?」

箸で玉子焼きを摘んだ
俺の動きが止まった。
一瞬、俺の脳は
女が何を言ったのか
理解できなかった。
組む?俺が?
こんな訳のわからん女と?
一体全体分からない。

「ちゃんと説明してくれ。
いきなり組めなんて
言われても、俺には
俺の都合ってもんがある」

そこまで言って俺は
玉子焼きを口に運ぶ。
うむ、美味い。
ちゃんとダシが利いてる。

「…えと…その、私は、
歌手を、していて、
それで、最近話題の、
北極うさぎさんと、
コラボを、その、
お願い、したくて…
それで、あの…えと……」

なるほど、そういうことか。
俺はそれから10分程かけて
女から話を聞いた。
女は『東雲小町』という名前で
音楽活動をしており、若者から
かなりの支持を受けている。
しかし、最近では
本人がピンとくる新曲が
見つからず、
このままではヤバいと
事務所の社長兼東雲の父親が
判断して、巷で話題に
なりつつある俺に
協力を仰げと、
そういうことらしい。

「一つ目の質問については
よく分かった。
だが、問題は二つ目、
…なぜ俺が『北極うさぎ』
だということを知っている?」

恐らくはこちらの
質問の方が重要だろう。
なぜ、『北極うさぎ』の
正体が俺だと知っているのか。
俺は、いや俺達は
できるだけメディアへの
出演は控えていた。
別に有名人になりたくて
曲を書いている訳でもないし、
メディアに出ると
学校生活が色々と
面倒なことになるからだ。
そこに関しては俺以外の
メンバーと話し合った結果、
そう決まったことなので
俺を含め他のメンバーも
ラジオ以外のメディアには
出ないようにしている。
空の弁当箱を片付けながら、
俺は後半の声色を先程より一層
低くして、東雲の顔色を伺う。
更に、少しでもボロが出るように
東雲の目に鋭い眼光を向ける。

「…それは……その……
企業…秘密と…いう……ことで…」

東雲は口を割る気はないらしい。
逃げるように俺から目を背けた。
こうなればいくら俺が
問いただしても
時間の無駄であるだろう。
もうすぐ昼休みも終わるし、
今はこれくらいで
終わりにしておこう。
本当は一秒でも早く
理由を知りたいが、
授業には遅れられない。

「コラボの件については、
その企業秘密とやらを
聞かせてもらわないと
検討することは出来ない」

俺が椅子から立つと、
涙袋に涙を溜めている
東雲が俺を見上げる。

「一日やるから今日中に
父親と結論を出せ。
明日の放課後に
その答えを聞かせてもらう」

一方的に話を押し付け、
俺は出口に向かう。
しかし、ドアの前で
一度立ち止まった。

「…言っておくが、
お前なんぞとコラボしなくても
俺達は十分やっていける。
コラボがそっちにとって
どれだけ重要か知らんが、
それなりの物は
最低限用意しろ」

ドアに向いたまま、
東雲の方を一瞥も
することなく、
俺は図書室から出た。
東雲しかいない図書室に
無情にもドアの
閉まる音だけが響いた。



━━━━━━━━━━━━━━━
あとがき



どうも、夢八です。
読んで頂き、感謝します。



ここまで主人公について
詳しく書いてないので、
主人公が何者なのか
この段階ではよく分かりません。
でも、すぐに明らかに
したいと思いますので、
それまで辛抱願います。



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