オレの幼馴染が嫁候補!?
オレは不器用なんですが…
GWの1日目
素晴らしいほどの晴天だ。
早朝、実家へ戻ったオレに、両親は美咲と一緒じゃない事にへんな勘ぐりを見せていたが、2人が下衆に成り下がる前に、オレは荷物を置くとすぐに水沢との待ち合わせの場所へ向かった。
今日から10日間は大学の講義も休みとなる。
他の大学も似たようなもので、オレと同じぐらいの歳の男女が早朝にも関わらず、駅周辺に溢れている。
改札を出て、少し開けた待ち合わせの所に移動する。
周りを見ても水沢の姿はまだ見えない。
空はスカッと晴れはたり、遊びに行くにはもってこいだ。
時計を見ると9:30と、待ち合わせの時間になっていた。
水沢を待っている間、オレは彼女とのカラオケデートでのの水沢の格好を思い出していた。
と、背後からトントンと肩を軽く叩れ、オレはくるりと振り返るとそこに水沢がいた。
「おはようさん、小鳥遊くん。今日はよろしゅに〜。」
「いや別に、京都に来たゆうてめ、無理に京都弁を使わんでも……」
「ええ!?そんなん気分やん、気分!」
「………」
オレは水沢の今日の格好をさらりと眺めて見る。
黄色のVネックTシャツに薄手の青いシャツ、そして下はスカート…ではなくはタイトなコットンパンツだった。
心の中でガックリとなるオレ。
「どしたん小鳥遊くん?難しい顔して。」
「今日はスカートとちゃうんやな…」
「……小鳥遊くん、スカートが好きなん?」
「い、いやそう言うわけやないけど…」
「ふーん…、でも残念。今日みたいにいろんなとこ回るんやったら、こう言う格好の方が良いんよ。」
水沢はクルッと回るとオレに今日の格好を印象付けた。
普段のボーイッシュな格好とは違う水沢を期待していたオレは、その仕草に可愛さを感じつつも、釈然としない気持ちがあった。
「とりあえず行こか水沢?」
「うん!ほな、よろしゅうに。」
オレ達は駅を出発し、東福寺に足を向けた。
創建よりおよそ800年の歴史を持つ東福寺は、臨済宗東福寺派大本山であり、京都五山の一つとして国内外から多くの人が訪れる。
境内の建物は文化を色濃く示し、特に秋の紅葉時には人気のある、本堂と普門院とを結ぶ通天橋と呼ばれる渡り廊下から見る景色は絶景である。
「紅葉の時ならもっと綺麗なんやろうけどな…」
「そうやね。でも、この緑一色の庭園も私的には好きやで。ああ…美的好奇心が刺激される〜。」
水沢はとても気に入っている様で、体をクネクネさせて、喜びを表現している。
「あ、そうや!」
「な、なんやねん、いきなり。」
「写真、写真撮ろ!小鳥遊くん!」
「さっきからようさん撮ってるやん。」
「そうやなくて…記念写真、というか、思い出というか……」
さっきまでの勢いがシオシオと小さくなり、水沢は急にモジモジしだした。
「なんやねん、はっきりいいよし。」
「わ、私とツーショットを撮りましょう!」
「………」
「………あかん?」
「ぷっ!あははは!」
「な!なんやさ!なにがそんなにおもろいん?私、そんな変なこと言った?」
「ああ、すまんすまん。いきなり、英語の翻訳を聞いたみたいで、おもろかってん。」
オレが余韻でまだ笑っていると、水沢は頬を膨らませ不満を露わにした。
「もう!そんなに笑わんといて!」
「はいはい。そしたらどうする?誰かに撮ってもらうか?」
「……じ、自撮りでええやん。」
「??まあ、水沢がそれでええ言うんなら。」
オレと水沢は通天橋を背景に並び、水沢がスマホを構える。
「小鳥遊くん、もうちょい寄って。」
「はいはい。」
さっきはツーショットを撮りたがる水沢に特に何も気にしていなかったが、こうして頭が触れ合うほど近くになることは今までに無かった。
風がサワッと吹き、水沢の髪が揺れ微かにシャンプーの香りがオレの鼻をかすめる。
オレは不意に水沢の方を見る。
水沢より頭一つ分背が高いオレの直ぐ横に、水沢の小さな顔があり、少し緊張している様にも見える。
そして、反射的に視線を少し下に向けるとVネックのシャツの隙間から、薄緑のブラジャーの一端が見えていた。
「小鳥遊くん、カメラの方見て。」
水沢の言葉にオレはすぐに視線をカメラを戻し、その瞬間水沢はシャッターを切る。
時間にして、コンマ数秒の一コマ。
「…オッケー!綺麗に撮れた!」
水沢は写真を確かめながらニコニコしている。
オレはと言うとそのコンマ数秒の僅かな時間に起きた、さまざまなミラクルの余韻に浸っていた。
「どしたん小鳥遊くん?」
水沢が怪訝そうにこちらを覗く。
「い、いや。何もない。」
「ふーん…それよかお昼にせいへん?私ここに来る途中、近くにおいそうなお店見つけてん。」
よかったバレてない…
水沢は警戒心よりも空腹感の方が優った様で、オレはほっとしていた。
「あ、それとな小鳥遊くん。」
「なんや?」
「女の子の下着を覗くのとか、あんまりせん方がええよ。」
バレてました…
「べ、別に見てへんし。」
「ふーん……」
いいえ、見てました。
水沢の疑いの視線を掻い潜り、オレ達はお寺を後にした。
昼食を食べた後、オレ達は祇園の方にまで足を運び、周辺の寺や神社を巡ると休憩の為、落ち着いた喫茶店に入った。
「ああ、楽しかった!」
「喜んでるようで何よりや。」
「そらそうや小鳥遊くん。こんなにお寺や神社を巡る機会なんてそう無いもん。ほんま小鳥遊くんが、京都の地理に詳しくて良かったわ。」
水沢は、ホクホクな笑顔で撮った写真を目返している。
「私、今回撮った写真の中から、写真展に応募すんねん。」
「ええんか、スマホで撮った写真やろ?」
「え!?ああ、まあ一眼レフとかで撮る写真展とかもあるけど、そんな大掛かりなものやなくて、SNSとかネットの中で開催される比較的お手軽なやつやで。」
「ふーん。」
「まあ、そこでもし入賞とかしたら話題にもなるし、すごい人やとカメラマンとして採用されたり、世界的に評価されたりすることもあるねん。」
「それは凄いな。さすが美術部。」
「………」
「水沢?」
「私……美術部…辞めよう思てるんよ。」
水沢の笑顔が遠のき、彼女は視線を下に向けてスマホを見つめている。
「なんかあったんか?」
アイスティーを一口飲むと、水沢は悩みを吐露し始めた。
「小鳥遊くん、……不破先輩のこと覚えてる?」
「不破……ああ、歓迎会を手伝った時に、みさ……葛籠屋を皮肉ったやつやろ?」
「うん。その不破先輩から、この間告白されてん。」
「へえ…。」
「でも、私どうしたらええかわからんで、少し考えさせて下さいって言うたんよ。」
確かに水沢は、親しみやすく、明るく、なによりも美人の類になるため、学科の内外から人気がある。
あの不破とか言う奴が好きになるのもうなづける。
ゆっくりと話す水沢の話に、オレは紅茶を飲みながら、耳を傾けていた。
「そんで私…断ろう思てんのやけど、どう断ったらええかわからんで。」
「それが部活辞める……理由なん?」
水沢はフルフルと首を横に振る。
「……まあ、小鳥遊くんはあの時の印象が強いから、あんまし良い感情は持ってへんとは思うんやけど。不破先輩、ああ見えて結構女子から人気あんねん。」
「まあ、確かに女子受けの良さそうな顔をしてるわな。」
「それもやけど、あの人芸術の方でも凄くて、色んな展覧会で入賞してて、家も中々裕福らしいから女子達からしたら有料物件らしいねん。」
男を物件扱いするのもどうかと思うが、今はそこには突っ込まないことにした。
「それで、その有料物件に告白されて嫌と言うわけやないやろ?ほんならなんで断ること考えてんねん。」
「……いつの間にか、私の周りに不破先輩から告白された事が広まってしもて、同じ部活の先輩後輩女子から……その…凄く嫌な……」
「ああ、もうそれ以上は言わんでええって水沢。」
恐らく水沢は不破との事ではなく、不破の告白による周りの心無い行いに嫌気がさし、部活に居辛くなったのだろう。
「でも、芸術とか好きやから、辞める決心が中々できんで悩んでるんよ。」
「別にええやん。」
「え!?」
オレの即答に驚いたのか、水沢は目を丸くしてこちらを見た。
「別に芸術好きやから美術部に居らないかんわけやないやろ?部活に行くのが嫌なら辞めたええねん。」
「でも、私、唯一の2年生やし…」
「そんなん理由にならんて。芸術好きなんやったら、部活に入らんでもこうして写真撮ったり、絵描いたりしたらええやん。」
オレの率直な言葉に、ただ呆然とする水沢だが、次の瞬間水沢はクスクスと笑った。
「な、なにがおもろいねん。こっちは相談に乗ってやってんのに!?」
「ご、ごめんごめん。小鳥遊くん、案外不器用やね。」
「うるさいわ。」
クスクス笑う水沢に、明るさが戻る。
「そっか……そうやね…部活に入ってなくても芸術は出来るね。」
水沢は紅茶をくいっと飲み干すと、笑顔でお礼を言った。
喫茶店を出る頃には、時計は夕方の4時を指していた。
「小鳥遊くん、今日は1日付き合ってくれてありがとう!」
「どう致しまして。」
まあ、これで水沢との約定は果たされたことになり、オレにはまた平穏な日々が戻ってくる。
「ところで小鳥遊くん、葛籠屋さんとはどんな関係なん?」
平穏な日々が戻ってくる……
「どんなって、幼馴染み…やけど。」
「2人は付き合ってんの?」
戻ってくる…………
「べ、別に付き合ってるわけやないけど…」
「そうなんや………、ねえ、小鳥遊くん。」
「な、なんや?」
「私、小鳥遊くんのこと好きやねん。」
「は?」
「私と付き合わん?」
戻ってこない………かも。
素晴らしいほどの晴天だ。
早朝、実家へ戻ったオレに、両親は美咲と一緒じゃない事にへんな勘ぐりを見せていたが、2人が下衆に成り下がる前に、オレは荷物を置くとすぐに水沢との待ち合わせの場所へ向かった。
今日から10日間は大学の講義も休みとなる。
他の大学も似たようなもので、オレと同じぐらいの歳の男女が早朝にも関わらず、駅周辺に溢れている。
改札を出て、少し開けた待ち合わせの所に移動する。
周りを見ても水沢の姿はまだ見えない。
空はスカッと晴れはたり、遊びに行くにはもってこいだ。
時計を見ると9:30と、待ち合わせの時間になっていた。
水沢を待っている間、オレは彼女とのカラオケデートでのの水沢の格好を思い出していた。
と、背後からトントンと肩を軽く叩れ、オレはくるりと振り返るとそこに水沢がいた。
「おはようさん、小鳥遊くん。今日はよろしゅに〜。」
「いや別に、京都に来たゆうてめ、無理に京都弁を使わんでも……」
「ええ!?そんなん気分やん、気分!」
「………」
オレは水沢の今日の格好をさらりと眺めて見る。
黄色のVネックTシャツに薄手の青いシャツ、そして下はスカート…ではなくはタイトなコットンパンツだった。
心の中でガックリとなるオレ。
「どしたん小鳥遊くん?難しい顔して。」
「今日はスカートとちゃうんやな…」
「……小鳥遊くん、スカートが好きなん?」
「い、いやそう言うわけやないけど…」
「ふーん…、でも残念。今日みたいにいろんなとこ回るんやったら、こう言う格好の方が良いんよ。」
水沢はクルッと回るとオレに今日の格好を印象付けた。
普段のボーイッシュな格好とは違う水沢を期待していたオレは、その仕草に可愛さを感じつつも、釈然としない気持ちがあった。
「とりあえず行こか水沢?」
「うん!ほな、よろしゅうに。」
オレ達は駅を出発し、東福寺に足を向けた。
創建よりおよそ800年の歴史を持つ東福寺は、臨済宗東福寺派大本山であり、京都五山の一つとして国内外から多くの人が訪れる。
境内の建物は文化を色濃く示し、特に秋の紅葉時には人気のある、本堂と普門院とを結ぶ通天橋と呼ばれる渡り廊下から見る景色は絶景である。
「紅葉の時ならもっと綺麗なんやろうけどな…」
「そうやね。でも、この緑一色の庭園も私的には好きやで。ああ…美的好奇心が刺激される〜。」
水沢はとても気に入っている様で、体をクネクネさせて、喜びを表現している。
「あ、そうや!」
「な、なんやねん、いきなり。」
「写真、写真撮ろ!小鳥遊くん!」
「さっきからようさん撮ってるやん。」
「そうやなくて…記念写真、というか、思い出というか……」
さっきまでの勢いがシオシオと小さくなり、水沢は急にモジモジしだした。
「なんやねん、はっきりいいよし。」
「わ、私とツーショットを撮りましょう!」
「………」
「………あかん?」
「ぷっ!あははは!」
「な!なんやさ!なにがそんなにおもろいん?私、そんな変なこと言った?」
「ああ、すまんすまん。いきなり、英語の翻訳を聞いたみたいで、おもろかってん。」
オレが余韻でまだ笑っていると、水沢は頬を膨らませ不満を露わにした。
「もう!そんなに笑わんといて!」
「はいはい。そしたらどうする?誰かに撮ってもらうか?」
「……じ、自撮りでええやん。」
「??まあ、水沢がそれでええ言うんなら。」
オレと水沢は通天橋を背景に並び、水沢がスマホを構える。
「小鳥遊くん、もうちょい寄って。」
「はいはい。」
さっきはツーショットを撮りたがる水沢に特に何も気にしていなかったが、こうして頭が触れ合うほど近くになることは今までに無かった。
風がサワッと吹き、水沢の髪が揺れ微かにシャンプーの香りがオレの鼻をかすめる。
オレは不意に水沢の方を見る。
水沢より頭一つ分背が高いオレの直ぐ横に、水沢の小さな顔があり、少し緊張している様にも見える。
そして、反射的に視線を少し下に向けるとVネックのシャツの隙間から、薄緑のブラジャーの一端が見えていた。
「小鳥遊くん、カメラの方見て。」
水沢の言葉にオレはすぐに視線をカメラを戻し、その瞬間水沢はシャッターを切る。
時間にして、コンマ数秒の一コマ。
「…オッケー!綺麗に撮れた!」
水沢は写真を確かめながらニコニコしている。
オレはと言うとそのコンマ数秒の僅かな時間に起きた、さまざまなミラクルの余韻に浸っていた。
「どしたん小鳥遊くん?」
水沢が怪訝そうにこちらを覗く。
「い、いや。何もない。」
「ふーん…それよかお昼にせいへん?私ここに来る途中、近くにおいそうなお店見つけてん。」
よかったバレてない…
水沢は警戒心よりも空腹感の方が優った様で、オレはほっとしていた。
「あ、それとな小鳥遊くん。」
「なんや?」
「女の子の下着を覗くのとか、あんまりせん方がええよ。」
バレてました…
「べ、別に見てへんし。」
「ふーん……」
いいえ、見てました。
水沢の疑いの視線を掻い潜り、オレ達はお寺を後にした。
昼食を食べた後、オレ達は祇園の方にまで足を運び、周辺の寺や神社を巡ると休憩の為、落ち着いた喫茶店に入った。
「ああ、楽しかった!」
「喜んでるようで何よりや。」
「そらそうや小鳥遊くん。こんなにお寺や神社を巡る機会なんてそう無いもん。ほんま小鳥遊くんが、京都の地理に詳しくて良かったわ。」
水沢は、ホクホクな笑顔で撮った写真を目返している。
「私、今回撮った写真の中から、写真展に応募すんねん。」
「ええんか、スマホで撮った写真やろ?」
「え!?ああ、まあ一眼レフとかで撮る写真展とかもあるけど、そんな大掛かりなものやなくて、SNSとかネットの中で開催される比較的お手軽なやつやで。」
「ふーん。」
「まあ、そこでもし入賞とかしたら話題にもなるし、すごい人やとカメラマンとして採用されたり、世界的に評価されたりすることもあるねん。」
「それは凄いな。さすが美術部。」
「………」
「水沢?」
「私……美術部…辞めよう思てるんよ。」
水沢の笑顔が遠のき、彼女は視線を下に向けてスマホを見つめている。
「なんかあったんか?」
アイスティーを一口飲むと、水沢は悩みを吐露し始めた。
「小鳥遊くん、……不破先輩のこと覚えてる?」
「不破……ああ、歓迎会を手伝った時に、みさ……葛籠屋を皮肉ったやつやろ?」
「うん。その不破先輩から、この間告白されてん。」
「へえ…。」
「でも、私どうしたらええかわからんで、少し考えさせて下さいって言うたんよ。」
確かに水沢は、親しみやすく、明るく、なによりも美人の類になるため、学科の内外から人気がある。
あの不破とか言う奴が好きになるのもうなづける。
ゆっくりと話す水沢の話に、オレは紅茶を飲みながら、耳を傾けていた。
「そんで私…断ろう思てんのやけど、どう断ったらええかわからんで。」
「それが部活辞める……理由なん?」
水沢はフルフルと首を横に振る。
「……まあ、小鳥遊くんはあの時の印象が強いから、あんまし良い感情は持ってへんとは思うんやけど。不破先輩、ああ見えて結構女子から人気あんねん。」
「まあ、確かに女子受けの良さそうな顔をしてるわな。」
「それもやけど、あの人芸術の方でも凄くて、色んな展覧会で入賞してて、家も中々裕福らしいから女子達からしたら有料物件らしいねん。」
男を物件扱いするのもどうかと思うが、今はそこには突っ込まないことにした。
「それで、その有料物件に告白されて嫌と言うわけやないやろ?ほんならなんで断ること考えてんねん。」
「……いつの間にか、私の周りに不破先輩から告白された事が広まってしもて、同じ部活の先輩後輩女子から……その…凄く嫌な……」
「ああ、もうそれ以上は言わんでええって水沢。」
恐らく水沢は不破との事ではなく、不破の告白による周りの心無い行いに嫌気がさし、部活に居辛くなったのだろう。
「でも、芸術とか好きやから、辞める決心が中々できんで悩んでるんよ。」
「別にええやん。」
「え!?」
オレの即答に驚いたのか、水沢は目を丸くしてこちらを見た。
「別に芸術好きやから美術部に居らないかんわけやないやろ?部活に行くのが嫌なら辞めたええねん。」
「でも、私、唯一の2年生やし…」
「そんなん理由にならんて。芸術好きなんやったら、部活に入らんでもこうして写真撮ったり、絵描いたりしたらええやん。」
オレの率直な言葉に、ただ呆然とする水沢だが、次の瞬間水沢はクスクスと笑った。
「な、なにがおもろいねん。こっちは相談に乗ってやってんのに!?」
「ご、ごめんごめん。小鳥遊くん、案外不器用やね。」
「うるさいわ。」
クスクス笑う水沢に、明るさが戻る。
「そっか……そうやね…部活に入ってなくても芸術は出来るね。」
水沢は紅茶をくいっと飲み干すと、笑顔でお礼を言った。
喫茶店を出る頃には、時計は夕方の4時を指していた。
「小鳥遊くん、今日は1日付き合ってくれてありがとう!」
「どう致しまして。」
まあ、これで水沢との約定は果たされたことになり、オレにはまた平穏な日々が戻ってくる。
「ところで小鳥遊くん、葛籠屋さんとはどんな関係なん?」
平穏な日々が戻ってくる……
「どんなって、幼馴染み…やけど。」
「2人は付き合ってんの?」
戻ってくる…………
「べ、別に付き合ってるわけやないけど…」
「そうなんや………、ねえ、小鳥遊くん。」
「な、なんや?」
「私、小鳥遊くんのこと好きやねん。」
「は?」
「私と付き合わん?」
戻ってこない………かも。
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