この声が届くまで、いつまでも叫び続けたい

@tsushi

37.君がくれたものは、こんなにも俺の中で輝いている。

「矢田さん」




「はい?」




「お願いがあるんです」




「なんでしょうか?」




「矢田さんのことを、書きたいんです。矢田さんに起こった出来事、今回の出会い、全てをひっくるめて、小説にしたいんです」




「…はい」




「そして伝えたい」


これが君と話した最後の言葉。






「…だから、もし、その小説が世に出た時のために、今の内に矢田さんに許可を取っておこうと思って」




「光栄です。是非、書いてください」
























本当は、気付いているんだろう?


俺は彼女を苦しめることしかできないことに。
俺は彼女の傷を思い出させてしまう存在でしかないことに。
























家に帰ると同時に、彼女の手紙を開いた。










『雨宮様へ




お手紙ありがとうございました。文章の書き方、とても上手ですね。論文も何度も読ませて頂きましたが、本当に読みやすくて、理解もしやすいので感心しました。返すのが遅くなってしまって、申し訳ないです。
話は変わりますが、私が事件にあってから、もうすぐ四ヶ月が経とうとしています。もちろん一日も忘れた事はありませんが、今はテストやレポートに追われ、さらにはバイトも忙しいので、嘆き悲しんでいる暇はないというのが正直な気持ちです。たまに夜、一人で部屋にいる時に発作的に全身の激しい震えに襲われる事はありますが、その回数は日を追って確実に減ってきています。雨宮さんのおっしゃった通り、時間が副作用をもたらさずに、徐々に私の身体を回復してくれているのかもしれませんね。


でもそれだけではなく、最大の理由は、周囲の人々の支えによるものだと思います。家族、友人、先生方、そして彼氏…私はこういう経験をすることで、身近な人々の存在の大切さを改めて実感することができました。そういった意味では「良い経験」とも言えるかもしれません。もっとも、今はまだそんな風に考えることはできませんけどね。




でも、とにかく前向きに考えようとする気持ちは持てるようになり、それは他ならぬ雨宮さんのお手紙にあった数多くの励ましの言葉によるものだと思います。感謝の気持ちでいっぱいです。これからも、様々な後遺症に悩まされるとは思いますが、その都度雨宮さんの言葉を思い出し、前向きに取り組んで行くつもりです。


ありがとうございました。






            矢田祥子   』














何度も何度も、読み返した。


決して見逃す言葉がないように。


ほんの少しの読み間違えもないように。






この気持ちを伝えよう。
この事実を伝えよう。
この言葉を伝えよう。






君がくれたものは、こんなにも俺の中で輝いている。




だから伝えよう。
まだ、最後の仕事が残っている。












握り締めたその拳の先には、たくさんの未来が詰まっていた。

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