この声が届くまで、いつまでも叫び続けたい

@tsushi

34.白息の鳴く頃

講義の後に坂本講師に聞いてみると、彼女から体調不良で休むという連絡があったらしい。


大学の講義を休むのにいちいち連絡を入れる人なんていやしない。
きっと、俺との約束を気にしてくれたのだろう。


来週会えるかどうかもわからない。
それならば、ここは先生を経由して渡す方が賢明なのかもしれない。
そう思った俺は、持ってきた論文二つと手紙を先生に渡した。




「お手数ですが、これを矢田さんに渡していただけないでしょうか?」


「いいですよ、引き受けました。でもその代わり、私も目を通していいかしら?」




どうぞ、と俺は軽く答えた。
大事なのは俺の恥らいの念ではなく、彼女の手に渡るかどうかという事実だ。


何してたの?と、総ちゃんが教室を出たところで聞いてきた。
他人に興味のない彼が人の詮索をするなど珍しいなと思ったが、よくよく考えればそれだけ不自然な行動を自分がしているだけだということに気付く。


この講義を一緒に受けているのが、彼でよかったと思った。






「なぁ、総ちゃん」


「んー?」




学校からの帰り道。
俺の呼びかけに、彼は振り向かずに声だけで反応する。




「俺って、ウザイかなぁ?」


「あぁ、透はウザイねぇ」




少しも考える素振りもなく即答されたので、ガーンという効果音が俺の背後に表れた。
そんなにハッキリ言わなくてもいいじゃないか、と自分で聞いておいてショックを受ける。




「でも、前ほどウザくなくなった」




なんで?と、疑問に思って聞き返す。
彼はおもむろに俺の顔を見てこう答えた。




「ダルイって言わなくなったから」








こいつは実は、凄い奴なのかもしれない。








◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇












十二月九日。


彼女と会ってから、ちょうど二週間が経った。
少し遅れて教室に入ったので、彼女のことを探すヒマがなかった。
さらには後期のテストが近づいているからか、人がやたらと多い。
席に座れずに立っている人が何人もいるほどだ。
それが余計に彼女を探しにくくさせた。


ふと、窓の外を眺めてみる。
曇りがちな空は、ガタガタと震える心をスッポリと覆ってしまった。
吹き抜ける風を見ていると、この室内の暖かさに違和感を覚える。
外の息は白い。
だけどここでは窓が白い。


そういえばあのコメントが掲載されてから、もう一ヶ月も経過していたことに気付いた。
時が経つのは早いなぁ、とは誰もが言っていることだったが、今回の場合はまた別だ。


この一ヶ月、彼女のことばかり考えていた気がする。


不思議だな。
恋でもなく、友情でもなく、俺達はお互いを必要とした。


出会うことすら困難だった二人。
だけど、出会った。
たった一つの方法にすがることで、俺達は出会ってしまった。


それは永遠に忘れることのできない瞬間だった。












































君は今も、あの日のことを覚えているか?

「この声が届くまで、いつまでも叫び続けたい」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「現代ドラマ」の人気作品

コメント

コメントを書く