この声が届くまで、いつまでも叫び続けたい
31.それこそが、君だけの物語。
その日、家に着くやいなや俺は机に向かった。
彼女に対する、手紙が書きたかったのだ。
彼女は俺の文章を求めてくれた。
認めてくれた。
今日、実際に会って話してみたが、言いたいことの半分も言えなかった気がする。
だから、手紙を書こうと思った。
口で直接伝えられなかったありったけの想いを、文章という形で表現したかった。
気持ちが溢れ出しそうだった。
俺はその衝動を指先に投影し、目の前に置かれた紙にぶつけた。
焦って字が汚くなってしまったので、とりあえず下書きを書いてから清書しようと思った。
よくよく見たら、文体もメチャクチャだった気がする。
それでも決して手は止まらなかった。
君に伝えたい言葉が、こんなにも溢れている。
『矢田様へ
この様な紙でお手紙を綴らせていただく事をお許しください。私が今貴女へのお手紙を窘めたのには理由があります。それは、私は口ベタな方なので、言いたい事がうまく言えなかったこと。そして、言いたい事がまだまだたくさんあったことから、私は発作的に筆を取りました。もしこれが貴女にとって余計なお世話となるものでしたら、読み流していただいても結構です。しかし、少なくとも私にとっては真実の言葉であることをご理解いただければ幸いです。
まず最初に、貴女は決して一人じゃないことを知ってください。
私のみならず、性暴力による被害者は日本全国、果ては世界まで何千何万人といます。もしかしたら、貴女にとって私よりもさらに身近にそういう経験がある人がいる可能性も否定はできません。ただ、この問題はやはり表に出にくいという理由から、なかなか私達は身近にそういう事実がある事に気付けません。貴女が書いたコメントを見て、私も改めて気付かされたぐらいですから。
そして次に、決して焦らないでください。焦って間違った治療を施せば、傷は化膿して余計ひどくなってしまうかもしれません。長い年月はかかりますが、「時間」が一番副作用のない薬だと思います。
また、自分が受けた傷を、否定してはいけません。今は辛い時期ですのですぐには無理かもしれませんが、否定ではなく、むしろこれを肯定的に受け止めることが大事なのです。
私はこの世の中で起きている全ての出来事に、ちゃんとした意味があるものなのだと思っています。実際、私の傷は貴女と出会った事で意味を持つことができました。「私は誰もしたことのないような大事な経験をしたんだ」ぐらいの気持ちでいいのです。
だから、信じてください。
自分が受けた傷にはきっと意味があるのだと、信じてください。もちろんこんなことは決して経験しなくていいことです。だけど、この傷を受けたことによって私にしかできなかった役割ができたように、貴女には貴女にしかできない役割が必ずあります。それを信じて、待ち続けてください。それは私の切なる願いでもあります。
そして月並みの言葉ですが、傷つくことを恐れてはいけません。傷つくことは辛いことです。ですが、傷ついた分だけ人は強くなれるのです。「この辛さを乗り越えれば強くなれる」「この経験は私を成長させてくれる」と思えば、傷ついた心を前向きに捉えることができると思います。実際、もちろん百パーセントではありませんが、私は傷つくことを恐れてはいません。それは、この世の中には「しなくていい経験」はあっても「してはいけない経験」はないと思っているからです。そしてこの「経験」こそが、人の人間性を形成するものなのではないでしょうか。
ですから極端な話、傷つくことも「損」と考えるのではなく、むしろ「得」なのだと思うことが重要なのです。もちろん、この文章は性暴力を肯定するものではなく、否定を前提とした上での考え方であることをご理解ください。
長くなってしまいましたが、もう一度だけ言わせてください。
決して焦らないでください。
時間は誰にでも平等に与えられます。無理に傷をふさごうとすれば、傷は開くばかりです。ゆっくり、ゆっくり、時間をかけて、傷が癒されるのを待ってください。待っていれば、その内また私の様に同じ傷を持った人が現れるかもしれません。また、カウンセリングや、そういった性暴力の被害者の会などに参加されるのも一つの手かもしれません。
そして、貴女を励まされたご友人達のことを、どうか許してあげてください。「同じ傷を持っていない人の言葉は上辺だけ」と感じてしまうのは仕方のないことです。ですが、彼等には彼等なりの必死の励ましであったことをどうかご理解ください。人が傷つくことに、上も下もありません。私達は私達なりの、彼等は彼等なりの傷を抱えて人は生きているのです。
ですから、決して彼等を敬遠してはいけません。私が自分の体験を親友に語った時は、彼は「そんな大事なことを話してくれてありがとう」と言ってくれました。そして、それ以降はその話について一切触れてきません。きっとそれが、彼なりの優しさなんだと私は理解しています。
最後になりますが、貴女に伝えたい言葉を詩に乗せて贈りたいと思います。
明日、もしも晴れたなら
どんな服を着ていこう
明日、もしも泣いたなら
どんな本を手に取ろう
明日、もしも死んだなら
どんな言葉を残しておこう
不幸は背負うもんじゃない
全ては君の中にある
たった一つのコントローラー
魔王を倒す勇者は君だ
傷ついたなら種を蒔こう
きっと綺麗な花が咲く
例え散っても恐くない
次の花が咲くだけさ
幸福は訪れるものじゃない
全ては君の中にある
たった一つのコントローラー
この世界を救うのは君だ
昨日、君に会ったなら
どんな言葉を言えただろう
今日、僕に会ったなら
どんな言葉を聞けただろう
明日、涙を拭ったら
どんな扉を開けるだろう
少し先で待ってるよ
それこそが、君だけの物語。
※追伸
貴女の心から笑顔を見れる日を待っています。そしてその笑顔を、いの一番に貴女にとって最も大切な人に見せてあげてくださいね。
最後の最後まで勝手したたる文章、並びに衝動的な書き込み故の乱筆乱文お許しください。
雨宮 透 』
彼女に対する、手紙が書きたかったのだ。
彼女は俺の文章を求めてくれた。
認めてくれた。
今日、実際に会って話してみたが、言いたいことの半分も言えなかった気がする。
だから、手紙を書こうと思った。
口で直接伝えられなかったありったけの想いを、文章という形で表現したかった。
気持ちが溢れ出しそうだった。
俺はその衝動を指先に投影し、目の前に置かれた紙にぶつけた。
焦って字が汚くなってしまったので、とりあえず下書きを書いてから清書しようと思った。
よくよく見たら、文体もメチャクチャだった気がする。
それでも決して手は止まらなかった。
君に伝えたい言葉が、こんなにも溢れている。
『矢田様へ
この様な紙でお手紙を綴らせていただく事をお許しください。私が今貴女へのお手紙を窘めたのには理由があります。それは、私は口ベタな方なので、言いたい事がうまく言えなかったこと。そして、言いたい事がまだまだたくさんあったことから、私は発作的に筆を取りました。もしこれが貴女にとって余計なお世話となるものでしたら、読み流していただいても結構です。しかし、少なくとも私にとっては真実の言葉であることをご理解いただければ幸いです。
まず最初に、貴女は決して一人じゃないことを知ってください。
私のみならず、性暴力による被害者は日本全国、果ては世界まで何千何万人といます。もしかしたら、貴女にとって私よりもさらに身近にそういう経験がある人がいる可能性も否定はできません。ただ、この問題はやはり表に出にくいという理由から、なかなか私達は身近にそういう事実がある事に気付けません。貴女が書いたコメントを見て、私も改めて気付かされたぐらいですから。
そして次に、決して焦らないでください。焦って間違った治療を施せば、傷は化膿して余計ひどくなってしまうかもしれません。長い年月はかかりますが、「時間」が一番副作用のない薬だと思います。
また、自分が受けた傷を、否定してはいけません。今は辛い時期ですのですぐには無理かもしれませんが、否定ではなく、むしろこれを肯定的に受け止めることが大事なのです。
私はこの世の中で起きている全ての出来事に、ちゃんとした意味があるものなのだと思っています。実際、私の傷は貴女と出会った事で意味を持つことができました。「私は誰もしたことのないような大事な経験をしたんだ」ぐらいの気持ちでいいのです。
だから、信じてください。
自分が受けた傷にはきっと意味があるのだと、信じてください。もちろんこんなことは決して経験しなくていいことです。だけど、この傷を受けたことによって私にしかできなかった役割ができたように、貴女には貴女にしかできない役割が必ずあります。それを信じて、待ち続けてください。それは私の切なる願いでもあります。
そして月並みの言葉ですが、傷つくことを恐れてはいけません。傷つくことは辛いことです。ですが、傷ついた分だけ人は強くなれるのです。「この辛さを乗り越えれば強くなれる」「この経験は私を成長させてくれる」と思えば、傷ついた心を前向きに捉えることができると思います。実際、もちろん百パーセントではありませんが、私は傷つくことを恐れてはいません。それは、この世の中には「しなくていい経験」はあっても「してはいけない経験」はないと思っているからです。そしてこの「経験」こそが、人の人間性を形成するものなのではないでしょうか。
ですから極端な話、傷つくことも「損」と考えるのではなく、むしろ「得」なのだと思うことが重要なのです。もちろん、この文章は性暴力を肯定するものではなく、否定を前提とした上での考え方であることをご理解ください。
長くなってしまいましたが、もう一度だけ言わせてください。
決して焦らないでください。
時間は誰にでも平等に与えられます。無理に傷をふさごうとすれば、傷は開くばかりです。ゆっくり、ゆっくり、時間をかけて、傷が癒されるのを待ってください。待っていれば、その内また私の様に同じ傷を持った人が現れるかもしれません。また、カウンセリングや、そういった性暴力の被害者の会などに参加されるのも一つの手かもしれません。
そして、貴女を励まされたご友人達のことを、どうか許してあげてください。「同じ傷を持っていない人の言葉は上辺だけ」と感じてしまうのは仕方のないことです。ですが、彼等には彼等なりの必死の励ましであったことをどうかご理解ください。人が傷つくことに、上も下もありません。私達は私達なりの、彼等は彼等なりの傷を抱えて人は生きているのです。
ですから、決して彼等を敬遠してはいけません。私が自分の体験を親友に語った時は、彼は「そんな大事なことを話してくれてありがとう」と言ってくれました。そして、それ以降はその話について一切触れてきません。きっとそれが、彼なりの優しさなんだと私は理解しています。
最後になりますが、貴女に伝えたい言葉を詩に乗せて贈りたいと思います。
明日、もしも晴れたなら
どんな服を着ていこう
明日、もしも泣いたなら
どんな本を手に取ろう
明日、もしも死んだなら
どんな言葉を残しておこう
不幸は背負うもんじゃない
全ては君の中にある
たった一つのコントローラー
魔王を倒す勇者は君だ
傷ついたなら種を蒔こう
きっと綺麗な花が咲く
例え散っても恐くない
次の花が咲くだけさ
幸福は訪れるものじゃない
全ては君の中にある
たった一つのコントローラー
この世界を救うのは君だ
昨日、君に会ったなら
どんな言葉を言えただろう
今日、僕に会ったなら
どんな言葉を聞けただろう
明日、涙を拭ったら
どんな扉を開けるだろう
少し先で待ってるよ
それこそが、君だけの物語。
※追伸
貴女の心から笑顔を見れる日を待っています。そしてその笑顔を、いの一番に貴女にとって最も大切な人に見せてあげてくださいね。
最後の最後まで勝手したたる文章、並びに衝動的な書き込み故の乱筆乱文お許しください。
雨宮 透 』
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