この声が届くまで、いつまでも叫び続けたい

@tsushi

6.コメント集

「今日もつまんねぇなぁ…」


総ちゃんが眠気眼でそうつぶやく。
そう、確かにつまらない。
あれだけ期待して履修したはずなのに、蓋を空けてみればディスカッションなんて試験前だけだし、講師自体も好きなタイプではなかったので全くと言っていいほど聞く耳を持てなかった。


「坂本の婆さん、生真面目だからなぁ~。すぐキレるし」


坂本、というのはこの講師の名前だ。
俺がそう返答した頃には総ちゃんは既に仮眠状態に入っていた。
気持ち良さそうに夢への扉を開こうとしている彼の顔を見ていると、落書きでもしたくなってくる。


「おい、一人で勝手に寝るなよ。俺がつまんねぇーだろ」


「うぅ~ん…コメント集でも見てればいいじゃん。お願い、寝かせて」


「しょうがねぇなぁ…。」


総ちゃんを起こすのを諦めて、配られたコメント集に目を通す。


このコメント集というのが、唯一この無駄な時間の手助けとなるアイテムなのだ。
毎回講義の最初に小さいメモ用紙みたいなものが配られて、その日の内容に沿った感想やもしくはそれぞれの自由な意見を書く。
それを終了時に提出し、講師が次回の講義に一人一人の意見をまとめた資料を配るのがコメント集だ。
自分から実名を挙げることを要望しない限り匿名で記載されることになっているので、言いたい放題の部分もあるが、他人の主張や悩みが垣間見られるのでこれがなかなか面白い。


坂本講師の耳障りな声を聞き流しながら読んでいると、気になるコメントが目についた。






『私は最近、彼氏とのエッチに悩んでいます。一人暮らしなのでよく家に来るのですが、来る度にエッチを求められるのが嫌で仕方ありません。彼のことは好きなのですが、体目的で付き合っているのじゃないかと不安になります。でも断ったら彼に嫌われそうで恐いんです…。私はいったいどうすればいいのでしょうか?(史学科三年・女)』

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